episode 2-1 拷問
汝、人間が最も耐えらざる物は知っているか
あの化け物の事だ。拷問に何されても仕方がないだろう。
正直強くなってからは、捕縛されるという状況に覚悟というものをしなかった。が、捕縛されたのは自分の弱さからの結果。ならば仕方がない、覚悟をするしかない。
指を切られようと、腕を切られようと、息子を切られようと、自分の意思を貫く覚悟はできた。
筈なのに。
「幸之助さん、胡椒取って」
「あいよ」
あの化け物はいきなり割烹着とか言われる白い服に身を包むと料理をし始めた。
胡椒を手に取った爺さんは家の中にあった鍋で主食、東洋でいうお米を炊いてる。
テキパキと作業を進めていく2人は皿に食べ物を盛り、食卓の上に3人分と思われる皿を置き、2人は椅子に座って食事をし始める。
...エヴァンに見せつけるように。
気づけば最後に飯を食ったのは何時間も前に軽食を摂った程度。当然いい匂いが鼻につき、エヴァンの腹がギュルルル、と音を立てるも、2人は気にせず食事を済ませていく。
確かに、息子を切られる覚悟はしていた。だからこそ誰か好きになった人を抱きたかったなとも考えていた。
ただ、あの殺人鬼が腹の空腹に訴えかけてくるとは誰が思えようか。
「...あの...」
エヴァンは小さな声で尋ねるが、2人が握っている二本の棒は止まらない。
「...目の前に置いてる皿は誰のものなのでしょうか?」
「...あなたのよ。食べないの?」
「食べるも何も腕も脚も縛られて立てないんですけど」
やっと相手をしてくれたと思えば、無表情で無理難題を押し付けるレイに少し反論を試みた。
「信用しろと言ってから数十分後に裏切った罰だと思えば軽いものだと思うけれど?」
だがあっさりと論破され、エヴァンは黙るしかなかった。
数分で食事を済ませたレイは、食器を持って立ち上がり、バケツに汲んであった水で洗い始める。
爺さんの方も、少し遅れて食べ終わり、レイと代わって洗い始める。
その間いい匂いを嗅がせ続けられ、空腹も限界になり始めたエヴァンにレイは歩み寄る。
しゃがんで、エヴァンと目線を合わせる。
エヴァンは紅い目に一瞬気後れするが、なんとかポーカーフェイスを保つ。
見つめ合って数秒、レイは口を開いた。
「どうして最後裏切ったのか、理由は?」
その問いに、エヴァンは少し考え、答えを口に出す。
「...いけると思いました」
小学生のような言い訳だが、実際そう思ったのだ。
よく考えれば、レイはエヴァンと逃げたのだ。その気になれば殺せる相手を、だ。
しかし、逃がしたのは手に負えないかもしれないからだとしたら、エヴァンを含めた軍隊でかかれば勝てるのでは、とレイに剣を投げ渡された時に気づいた。
が、そんな空想も虚しく散ったわけだが。
「そう。なら、今後からは命令に従うことを肝に銘じなさい。命に関わることよ」
そう言ってレイは立ち上がる。
「待ってくれ。何であの時、一緒に逃げたんだ?」
普通なら答える必要もない質問だが、レイはこちらを伺い、その問いに答えた。
「時間が無かっただけよ」
それだけ言うと、レイはエヴァンの背後へ周り、腕の紐を解くと、エヴァンの目の前に皿を持ってきた。
「皿は後で洗いなさい」
そして、スプーンを投げ渡した後、レイは奥の部屋へと消えていった。
目の前には、ふにゃふにゃになった米のスープと、野菜の漬けたものと、肉の炒め物が置いてある。どれも見たことない料理の上、全て冷めているが、文句も言ってられない。ありがたく頂くとする。
が、食べ終わったあと、代わりに今度は洗い物を終えた爺さんの方がこちらに歩み寄ってくる。
白く長い顎髭を生やしていて、身体といえば身長はレイより小さく、細身で、身なりも質素だ。老いぼれ、といえばこの人のことを言うのだろうと思う容姿だ。
そんな爺さんは椅子をエヴァンの近くに寄せて腰を掛け、腕を組んでエヴァンを睨んだ。
重い空気の中、老人は口を開いた。
「名前は?」
「...エヴァンです」
「職業は?」
「この国で副騎士団長を」
「恋愛経験は?」
「...ないです」
短い質問に、簡単に答えるが、途中で重い空気とは似ても似つかない質問にエヴァンは困惑しながらも答える。
「好みは?」
「えっと...牛肉とか好きです」
「違う、儂が聞いとるのは人の好みじゃ」
「はあ...。クールな方がいいですね」
一喝入れられ、感嘆の声が出てしまうも取り敢えず答える。
「家柄は?」
「父母、両方とも平民です」
「ほう...。お主はどうやって騎士になった?」
「我武者羅に頑張って、ですかね」
エヴァンがそう答えると、爺さんは頬杖をつきながら深く考える。
悩むこと数分、足が少し痺れ、身じろぎをしていると、老人は口を開く。
「いや、すまんな。考えすぎた。儂は、神楽幸太郎という者じゃ。あの娘とは血縁じゃ」
そう言うと、老人は脚に括られた紐を解き始める。
「見て聞いたところ、お主はそう悪くは無い男じゃな。職に就くための努力や、食事を摂る時の姿勢なんか見ても、そう悪いとは思わん」
「はあ...」
「好みで、身体的特徴を言わず、性格だけを挙げるのも良し。あの娘が認め、あの娘とやり合える程の実力があるなら申し分無しじゃ」
エヴァンはそれを否定し、やり合うとは程遠い一方的なものだと話そうとしたが、言葉を続ける幸太郎に話すタイミングが無く、口を噤む。
「さっきはいつも通り悪い男だと思っておったが、訂正させてもらおう」
言い終わると同時に、紐が解ける。
ようやっと立ち上がれる、と思った矢先、老人はこんな事を口走る。
「お主はいい男じゃ。じゃから、どうかの?あの娘、レイを嫁にとらんか?」
エヴァンはその言葉に固まって立ち上がれはしなかった。
_____
一方レイは、奥の部屋で持ち帰った、青い勾玉を綺麗に磨き上げていた。
あの寺院の地下の奥に隠されていたコレを回収するため、あの寺院にエヴァンを送り付けたのだ。
本当ならば、寺院へ向かっていたあの軍隊を森の外で殲滅し、そのまま寺院に向かいあの調査団も殲滅するつもりだったのだが、あのエヴァンとかいう男によって時間が食われたのだ。
時間が無い、というのは、あの調査団にこの勾玉を奪われる可能性があるからだった。
この勾玉は母が残した遺産のひとつであるため、必ず回収しておきたかった。
レイは勾玉を磨き終えると、部屋にある机の引き出しへとしまう。
母が残した遺産はあと2つ。その内1つは城内にあるので、国を潰すついでに持って帰る算段だ。
そう、あくまで本命は国を潰すことだ。
「私は必ず許さない。必ず。必ず潰す」
自己暗示をかけるように呟くレイの瞳には、ただ、純粋で、強烈な殺意が篭っていた。
全ては、母さんの仇のために。
そう思い、レイはあの男を利用しながら国を元から潰す計画を考え始める。
が、レイの鋭い聴覚は隣の部屋から聞こえる声を捉える。
『じゃから、どうかの?あの娘、レイを嫁にとらんか?』
ああ、面倒くさくなるな、これは。
今まで表情を出さなかったレイだが、今は誰が見てもわかるくらい呆れていた。
それは、空腹なのに目の前でご飯を食べられる事よ__
(個人差あります)
どうも、笹垣麗花です。
この前、夜中にラーメンの画像を見てしまいました。久々に人を呪い殺そうと思いました。
...まあ僕も夜中に焼き鳥の画像を送り付けたりするんすけどね...
バチが当たりましたかね。
今回は文字数少なめ、内容浅めですが、episode2はだいたいこんな感じになりそうです。
で す が、読み飛ばすと訳分からない設定がいつの間にあったりします。お気をつけを。
小説書く時って、気をつけている点がいくつかあります。
まず1つ目に、誤字脱字。これは言わずもがな、ですね。
そして2つ目に、セリフが多くならないようにする事、です。言い方が失礼な上ブーメランのような気がしますが、執筆が下手くそな人というのはナレーションの部分がかなり少ないような気がします。というか僕がそうでした。なので過ちを繰り返さないよう、ナレーションに気を使うのです。
そして3つ目に、言葉選びです。今回ありました、ふにゃふにゃになった米のスープですが、3文字でいえばおかゆです。2文字で言えばお粥です。
正直外国人がお粥を知ってるわけがないんですよ。だからそこら辺の気遣いと、時代は現代ではありません故、いきなりジャーマンスープレックスとか言ってもアウトです。その分、描写力が試されるので、筆者は毎回困っております。まあ仕方ないですね。
他にもいろいろありますが、今回はこの辺で。
では、また次回で会いましょう。
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