episode 1-8 不可能は無い
Who is she?
『神楽家に不可能は無い』
いつか聞いた言葉をレイは何回も何回も頭の中で唱える。
高いところに見える小さい穴を見据え、レイは計画を実行する。
まず兵士から斧と槍を取り上げ、廊下に何も無いよう、邪魔なものを全て奥の部屋に詰める。
そして助走ができる距離になると、槍の柄が何でできているかを確認する。
それは金属でできており、毎日丁寧な手入れがされていると伺える。そして端には名前が掘られており、レイも聞いたことがある有名な貴族の名前だということに気づく。貴族から騎士になるとは、随分と正義感が強かったのだろうと予想できる。
しかし、今回必要なのは柄が金属でできていること。それが確認できると、サプライズの物をはしごから取った紐で体に括りつける。
そしてレイは斧と槍を持ち、廊下の端から走り出す。途中で勢いよく槍を地面に刺し、それを台替りにして宙を舞う。
レイが正面を向く頃には反対側の壁が迫っており、レイは持っていた斧を壁に向け振りかぶる。
勢いよく振りかぶった斧は壁にしっかり刺さり、レイはその勢いを使って上に飛ぶ。
だが、穴の縁に手が届くまでは微かに届かない。しかしそれを分かっていた少女は壁に刺さった斧を足場にして再度上に飛ぶ。
普通の人の垂直跳びならば、絶対に届かない高さは、普通ではない脚力を持った少女によれば少し高い程度であり、手は穴から出てその縁を掴む。
普通では越えられない壁は、普通でなければ超えれる壁になる。
代々より普通ではない家系のレイは、穴から這い出ながら、自分の身体能力に感謝するのだった。
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「お前、なんで...」
エヴァンは唖然として沈黙した空気を破るように、白い少女に尋ねる。
「なんでも何も、跳んだだけよ」
平然と言ってのけるが、到底飛べる高さではないはずだ。
いや、そんな事よりも、と。レイの右手に握られた、木のように太い腕を見る。
するとレイはその視線に気づいたのか、こちら側にまるでゴミのように軽々と投げてくる。
ズシリと、地面に刺さった腕に兵士は叫喚し、それぞれ荷物を捨て、武器を握る。
エヴァンが横目で見たマイトは歯を軋ませ、汗をかいており、苦渋の決断を下す。
「馬に乗った者は早く撤退し、この事を伝えよ!乗っていないものは荷物を捨てて武器を持て!逃げたければ逃げていいが、相手はあのレイだ!」
暗に、逃げるくらいなら少しくらいは貢献しろと命令するマイトも両刃の剣を抜いて、どう攻めるかを必死に思考する。
馬に乗った学者と一等兵は逃げ始めようとするが、赤い髪をした一等兵のアレンは馬から降りてマイトの横に立つ。
しかし、マイトは早く逃げろとは言わず、むしろ宜しくなと呼びかけていた。
「エヴァン先輩も逃げてください。縄は解きますので。あの事はただの事故だと信じますよ」
そう言ってエヴァンの手を縛っていた縄を切ったマイトは逃げろと指示をするが、待ってという声に2人は振り向く。
「副団長さん、チャンスをあげる。今すぐ横にいる兵士を殺すなら、貴方の命は見逃しましょう」
そう言ったレイは近くにいた兵士の首を斬り、手に持っていた剣を奪ってエヴァンに投げる。
剣を受け取ったエヴァンは少し考えるように、顔をうつむける。
マイトは後ずさりながら彼を見るが、やがて顔を上げる。
「マイト、武器を俺に渡せ。...そして馬に乗って逃げろ」
思わずマイトは目を見開いた。
「良いんですか、先輩、確実に殺されますよ」
「俺にはあと一本必要だ。あと、帰ったらアイツを頼れ。そうすればなんとかなる」
エヴァンは早くしろ、と急かすように言ってくる。
もし、エヴァンの言ってることが嘘であっても、どうせ勝てないのでマイトは武器を投げ渡し、馬に乗って撤退をする。
そうしている間に、レイは逃げ出そうとする兵士に、服に仕込んでいたナイフで足を穿ち、機動性が落ちたところで首に刃を落とす。
次々と逃げ出す兵士に、落ちていた武器を投擲してはトドメを刺しとやっていると、徐々に逃げ出す兵は減っていった。残った兵士は、1人の元へと集まっていたのだ。
「...それが答えなの?」
血染めの刀の切っ先をこちらに向け、白髪の少女は問うた。
「次は負けねえぞ」
そう啖呵をきった青年に、呆れたようにため息をついた。
アレンは怯えきった兵士たちの士気を上げ、エヴァンの後ろからは野太い歓声が一斉に上がる。
「今度はお前でも、無理かもしれないな」
エヴァンは挑発を兼ねてそう言った。
たしかに、1度踵を返して逃げた。
ただ、今なら時間がある。
だからレイは相変わらずの無表情で、こう答えた。
__神楽家に不可能は無い、と
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自分よりも数倍高い炎に周囲を阻まれ、周りからは悲鳴と叫びだけが木霊する。
周りにいた何十人という人に、紅白の人物はあの白髪の少女と同等か、それ以上の速さで刀を持って舞っていた。
自慢ではないが、動体視力ならば普通より高いと自負していたが、あの人物の振るう刃は全くとして見えない。ただ、突如として首が飛んでいるのだ。
悲鳴も徐々になくなっていき、終いには木が焼かれる音だけになる。
煙を吸って意識が朦朧とした中、目の前に黒髪の少女が現れる。
黒髪の少女はこちらの首に剣先を向け、顔を上げられる。
体が動かないので、抵抗のひとつもできない。視界がボヤけ、目の前の少女の顔すら確かめられない。
ただ、少女が笑ったように見えたのは気のせいだろうか。
意識はそこで途絶える。
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「お、起きたようじゃの」
目を覚ましたと同時に、老人の声が聞こえてきた。
「麗、さっさと済ませるのじゃ。こんな小汚い野郎を年頃の女の子の家に置いとけん」
誰が小汚いだ、と言おうとした時に、エヴァンは自分が鎧を外され、
縛られている事にやっと気づく。
気づけば、周りは薄暗い森ではなく、カーペットとレンガの暖炉、大きい本棚にテーブルと椅子という、どこかの裕福な家庭のような家に座らせられていた。奥の椅子には背の低い老人が居座っており、イライラしたようにこちらを伺っている。
すると、奥にあった扉からある人物が出てくる。
「あら、起きたのね。早速だけど質問に答えてもらいましょう」
前に着ていた黒と赤の和服ではなく、特に露出もない紅白の服に着替えていたレイだった。
「...お前、なんで」
「...?これは普段着よ」
「いやそうじゃなくて!何でお前がここに?」
天然ボケをスルーしつつ、状況整理をする。
たしか戦っていた時、レイの圧倒的な力によって、まず士気の根源であるアレンが真っ先に殺され、その後周りにいた兵士を全て斬り殺し、一騎打ちになったものの意識を失った事までしか覚えていない。
「そうね...ようこそ奴隷さん、私の家へ。とでも言えば良いかしら?」
「...嘘だろ」
自分が生きてる事に少し嬉しくもあったが、悪魔の巣で縛られてることに、生きた心地がしないエヴァンは血相を変えて事実を受け止めるしかなかった。
Who is she with black hair?
久しぶりに時間守りました。...2900字でしたが。
どうも笹垣です。
今回は場面がコロコロ変わり、読みずらいと思われます。
文章力がないので、簡潔に書いてしまうことが多いせいで、約3000字で場面が4つもあるのです。
最近、作品書く時に気になったことを書こうとするとネタバレになってしまう事が多く、言葉選びに慎重になってしまうと同時に話す話題もなく困っています。
あ、そういえばネタ回の方ですが、まあまあ順調にできあがってます。シリアスさ?んなもんねーよと言わんばかりのものができあがってます。...登場人物一緒の筈なのになぁ。
あと、今回でepisode1は終了でございます。次episode2です。
なにかと至らぬ点しかないような作品ですが、なんとか一区切りできました。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
尚、一区切りと言ってもこれからも毎週月曜日に投稿する事には変わりありません。
それでは、次も締切やぶらない事を願って、次のepisodeで会いましょう。
Do you think she is very perfect?