episode 1-7 身体の極地
えー、今回は予約投稿をせず寝落ちしてしまった事を深く反省しております。
すいませんでした。
塩風が強く吹く港の近くで、昼間から大盛況の酒場があった。
「ハッハッハ!!!東洋の女もおっかねーな!!!!」
「あんたらが弱すぎんのよ」
流暢な英語を話す陽気なバーテンダーに返事を返すのは、東洋が出身とは思えないほど流暢な英語を話す女性だった。
紅白の服を着たモデル体型で童顔なその女性は、顔くらい大きい木のジョッキを片手で持って、中に入ってた酒を全て飲み干す。
すると今度は椅子に片足をかけ、
「まだやりたい奴はおらんのかー!!私がまとめて相手してやるわ!!ワーハッハッハ!!!」
木のジョッキを掲げてそう叫ぶ。もう既に泥酔しているようだ。
彼女の隣には腕を抑え悶絶してる若い男達が3人ほどいた。それを見て、挑もうと思って来た群衆はひるむ。
「ただの!!東洋の!!若くて綺麗でか細い愛でたくなるような!!女と!!腕相撲して!!勝てば!!なんでも言うこと聞いてやるっていう特大チャンスよ!!??挑まないバカがどこにいるってんのよ!!」
そう叫んでも、挑戦者たちは一向に態度を変えない。観衆が大きな声を上げて笑うだけだ。
マスター!もう一杯!と女性は叫ぶと、赤いロングスカートの裾を摘まれる。
「ママ、飲みすぎ」
裾を掴んだのは白髪の小さな女の子だった。生まれつきのジト目は、アホみたいに酔っている母に呆れてるようにも見える。
「ハッハー我が娘よ!!何を言ってるんだ!!こっからが本番じゃあないか!!!」
だがしかし、それを気にするような母親でもなく。
それを見たバーテンダーは、それでも母親か、と言って小さいコップにぶどう酒を入れる。
「おい嬢ちゃん、弱いぶどう酒あげるから、くれぐれもあんな大人になっちゃあいけないぞ?」
小さい女の子は、英語で言われた事にコクリと頷いて、小さい手で小さいコップを受け取る。
バーテンダーはよしよし、いい子だと言って、頭を乱暴気味に撫でる。
「ちょっと待てい!!それじゃまるで私が品がないみたいじゃない!!」
「今更気づいたか?」
「ええい!!おっさんの言うことはよく分からん!!とにかく、私とやるやつはおらんのか!!」
頬を真っ赤に染め、しゃっくりをついてる女性はそう叫ぶ。
「よし、俺がやろう」
そう言って立ち上がったのは、今までやりあった中でもしっかりと筋肉がついた男性だった。元兵士だと予測するにはそう難しくはなかった。
「おいおい、華蓮、あいつは元兵士でここらじゃ一番強いぞ。いけんのか?」
「ママ、負けちゃう?」
バーテンダーと、女性の娘は聞いてくる。
が、女性はキョトンとして逆に聞いてくる。
「私に勝てるやつとかいんの?」
Foooo!!と歓声が上がる中、ガタイのいい男性と紅白の女性、華蓮は、テーブルに肘をつけて、両手を握り合う。
「因みにアンタ、何してほしいの?」
「そうだな、夜に少し付き合ってもらおうか」
「だよね~私のような美人とやりたいよね~わかるわかる~」
自分の股の危機にあるというのに華蓮は余裕綽々だった。
普通なら華蓮に勝ち目はない。血管が浮き上がった太い腕と、白く華奢な腕で腕相撲など結果は火を見るより明らかだ。
お互い準備ができると、両者は睨み合う。
それでも華蓮は口角を上げ、後ろにいる愛娘に話しかける。
「麗。私に勝てる人は、誰もいない。安心しなさい」
それだけ言うと、華蓮は握る手に力を込める。
男も負けじと手を握りつぶす勢いで力を込める。
「3!2!1!ファイッ!!」
バーテンダーの掛け声で、勝負は始まる。
男は歯を食いしばって顔を真っ赤にしながら、文字通り全力を尽くす。だがしかし、華蓮の腕はピクとも動かない。
それどころか、華蓮は笑っているのだ。
「アンタ、強いねぇ」
小さく、透き通って綺麗な声は男の耳だけに聞こえる。
華蓮の声は、たった一言だけで男を振り向かせるほどに妖艶で、綺麗なのだ。
そしてさっきまで泥酔していたせいか、観衆のせいかは分からないが、華蓮の顔は改めて見るとそこらの女性が嫉妬を通り越して、心が折れそうなほど整った顔をしている。
男は勿論、東洋の顔に惚れる事ができるほど守備範囲は広くはない。しかし、華蓮の容姿はその好き嫌いを踏み倒す程だ。
結果として、男は華蓮に魅入った。
「でも、私より弱い」
だがしかし、少し油断しすぎた。
華蓮の雰囲気は一瞬にして変わる。ただそれに観衆が気づくことはない。
木のテーブルに肘をついた者のみが感じる事ができる、華蓮の覇気。それは、魅入っていた男を一瞬怯ませるには十分だった。
「どりゃっさーー!!!!」
女性とは思えない掛け声とともに、華蓮は腕を振り切る。
男の手の甲は一瞬でテーブルにつくどころか、そのまま木のテーブルを貫いた。
男の体は宙に浮き、横に一回転して大きな音と共に倒れた。
観衆は静まり返る。
ただ、自分よりかけ離れた体格男性を腕相撲で投げた、人間とは思えない女は、バーテンダーに白い歯を見せ笑う。
「___華蓮の、勝利!!!」
バーテンダーは静寂に包まれた空間に、勝者の名前を挙げる。
するとスイッチが入ったように、酒場は歓声で包まれる。
耳をつんざくような歓声の中、華蓮は麗の元へ歩いて屈む。
「いい?神楽家に無理はないのよ」
そう言って白い歯を見せる母に、麗は少しだけ微笑んだ。
それを見ると、華蓮は立ち上がる。
「さーて!!もっともっと飲むわよ!!!」
この後、日が沈むまで飲み続けた母を介抱する6歳の娘という図は、とても不思議な光景だった。
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ここから寺院の中に上がるまではおよそ5mほどの壁を登らなければならない。
今にもあの学者の笑い声が聞こえてきそうだが、上からは違う声が聞こえてきた。
「おかしいなぁ、ハッチがねえぞ。あれを閉めたら生き埋めだってのに...。あ、でもはしごが落とされてるな。一応報告しておくか」
野太い声はおそらく兵士のものだと思うが、それ以上に生き埋めという言葉が気になる。
閉めたら生き埋め、それは内からは開けられないという事だろうか。なんにせよ、そのハッチはレイが蹴り落として、レイの足元にあるので、最悪のパターンは避けられたようだ。
レイの身長の3倍ほどあるその壁には起伏が一切付いておらず、登ることは不可能。
一見すればもう既に最悪の状況なのだが、レイはある方法を思いつく。
すると踵を返して、2人の兵士の元へと歩く。
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「そうか。まあ梯子が落ちているなら良い。ヴェルナー氏を保護して撤退するぞ」
マイトはそう言って荷をまとめるよう指示を出す。
学者がヴェルナー氏1人になった今、ここにいても仕方が無いという事だろう。
「ただ、その前に黙祷だ」
エヴァンは気にしている暇がなかったが、寺院の中はとても鉄臭い。それに、寺院の外でも1人死んでいる。
黙祷して数十秒、キビキビと兵士たちは荷物をまとめ始める。エヴァンはこのまま連行されるらしい。
暫くして、全員が撤退を開始する。馬の手網を引いたり、大きい荷物を担いで隊列を組んだ時だった。
寺院の中から、足音がしたのだ。
誰もいない筈の寺院。最後に生き残りがいないか確かめもした。いるのは3人分の深さがある地下で、はしごを落とされて実質生き埋めされたあの殺人鬼1人。
知る人は知っているが、あの地下ははしごがない限り降りれない。というのも、掴める程の凹凸がなく、登ることは不可能。壁は勿論堅い石でできているため、斧のような頑丈な刃でないと刺して登るのも不可能。そしてあの少女が持っているのは刀だ。
ならば、あれは誰だ?
その質問に答えるように、寺院からはある人物の腕が出てくる。
するとみんな一斉に歓喜の声を挙げる。
「バラン先輩!!!」
エヴァンですらそう叫んだ。あの太い腕は、バランが誇る最強の腕。そんなものを見間違えるはずがなかった。あの脱出不可能な穴からどうやって脱出したのかを問う前に、全員はあの殺人鬼を討伐したことに賞賛の声を挙げる。
だが、出てきたのはバランの腕だけであって。
バランが出てきた訳ではなかった。
その者はバランの巨大な腕を持って、兵士たちの前へ出る。
「こんにちは」
街でするように、軽快に挨拶をしたのは、白髪の少女レイだった。
今回の前半は本編に関わるので気にしなくてもいいです。
どうも、笹垣麗花です。
最近パルクールというものをチラリと見ました。その感想を一文で伝えます。
あれ人間なんですかね?
レイやエヴァンには人間をやめてる身体能力をつけてるのですが、その創作キャラクターと同じ事を現実でされたら目ん玉ひっくり返りますよ。ええ。
...もうちょっとやべーことさせても良いかな...(小声
今回は中途半端な時間でしたがお許しください。
それでは次の話で会いましょう。
They are perfect human