episode1-4 武を極めし者
Do you enjoy fighting?
武術というのは、相手の攻撃に合わせて型で返すのが基板である。
これは常識中の常識なのだが、では武術の達人というのは何をもってして達人と言われるのだろうか。
相手の攻撃をいち早く理解する反射神経?相手の攻撃に合わせるための型の知識量?いち早く攻撃する為の瞬発力?相手を落とすための根本的な力?
なるほど、それらは全て重要だ。だが、そんな物は上級者で習得できている。
なら上級者から、達人への昇級には何が必要なのだろうか。
バンッ!と鈍器で岩を殴ったような音が響くと、レイは瞬間移動をしたようにバランの顔の目の前に移動したかと思えば、その勢いで膝を顔面に突き出す。
まともに喰らえば無事にはいられない一撃を、バランは首を左に傾けて避ける。
理解し難いスピードの膝蹴りは、既に予測されていたのである。だからこそ、反撃もできる。
バランは右腕を上に回し、右手と左手を繋げば、腕の輪の中には勢いをつけていたレイが膝から入ってしまう。
そしてレイの体が丁度半分入った刹那の時間、一瞬にしてバランの腕は風を切る音とともに振り下ろされる。バランの両手は地面を穿ち、空間をも振動させる。
しかし、砂埃が晴れたそこにはレイの姿は無く、ただバランの手が岩にめり込んでいただけで、少女はバランの背後に立っており、傷は1つとしてありはしなかった。
「...空中で姿勢を変えたってのか」
バランは微かにではあるが、腕を振り下ろす寸前に、レイは体を反らせていたのを見た。
まるで瞬間移動の様なスピードに、敵の攻撃を瞬時に判断する冷静さ、そして空中でさえ姿勢を変える驚異的な身体能力。バランはこの少女が今まで一度として傷を付けられなかった理由をやっと理解した。
彼女は、まるで命を殺める為だけに生まれてきた、殺戮機なのである。
レイは手が埋まり、身動きをとるのに一瞬の隙が生じるバランの後頭部に容赦ない踵落としを食らわせ、踵落としの反動でバランの正面へ跳ぶ。
レイは靴を履いているので、その踵で後頭部を強打したというならば骨が折れて絶命するのが普通。
しかし、バランは身体をぴくりと動かし、その手を岩から抜き出す。
「貴方も大概ね」
「これくらいはお遊戯のひとつだ。素手ならエヴァン坊の方が強いな」
バランはゆっくりと膝を伸ばし、首や肩の関節を和らげるため鳴らす。
レイの踵落としは、避けられたり、何かトリックを使われ防がれたのではない。ただ、単純に威力が足りなかったのである。
「嬢ちゃんの実力のおおよそはわかった。さて、嬢ちゃんの首を差し出したらどれくらいの歓声が湧き上がるだろうな?」
「あなたの首を差し出した方が面白そうだわ」
バランはレイに手を差し出し、かかってこいと言わんばかりに指をクイクイっと曲げ、挑発をする。
バランは大柄でレイはどちらかといえば小柄。バランが攻撃をしようものなら軽々と避けられカウンターを食らうのがオチだということは容易に想像できる。
ならば、レイの攻撃を予想して、カウンターを仕掛ければいい。カウンターは回避が難しい攻撃。さっきのはレイも焦っていたはず。ならば、続けていればいつかは食らうはずだ。
レイは不敵に笑い、再び地面を蹴る。
今度は低い姿勢で、バランの足元に入り込む。レイはバランの右膝を内側から蹴り、バランスを崩すのを狙うが、バランはビクともしない。不意を突いたはずなのだが、どうやらその攻撃はバランの予想の範囲内だったらしい。
バランはバランスを崩すどころか、そのまま右膝を曲げ、太腿と脹ら脛でレイの足を潰そうとする。
しかし馴れない攻撃方法でもあり、膝を曲げきるよりもレイが足を引く方が速い。
レイは足を抜き次第、早急に後退する。できるだけ速く、予測しにくい場所を蹴ったつもりだったのだが、バランの表情は一切変わらない。少し丈夫そうな兵だったのでサンドバッグ代わりにでもしようかと考えていたが、どうやら手加減をして戦う相手を間違えたようだ。
再びレイはバランの元へと走る。だがさっきと違い、その動きは遅く見える。
レイは跳び、右の拳をバランのこめかみへと伸ばすが、先程よりもゆっくりとしたパンチはバランに手のひらで受け止められてしまう。
そのままレイの手を掴み、あとは下に投げるだけで、か細い少女は戦闘不能になるのだろうが、レイは薄気味悪く、微笑んでいた。
バランはレイの拳を受け止めたので、右手は使えない筈。だが、親指程度なら扱える。
バランの人差し指と親指の間にあるエラを親指の爪で刺して、握る。これでレイの右手とバランの左手が離れることはない。
バランの左手をポールのように扱い、足でバランの顎を狙う。
右手の正拳突きを囮にした、フェイント。上級者にも難しい、難易度の高い技をレイはバランへの攻撃手段として選んだ。
小柄だからこそできるアクロバティックな蹴りは、バランが右手で防ぐよりも速く、顎を強打する。
レイは立て続けにバランの腕に巻き付き、折ろうとするが、バランに振りほどかれてしまう。
バランは口から出る血を手で拭い、レイを見据える。
バランはレイがフェイントという武術でも高等な技術を使えるとは考えていなかった。寧ろ、武術に関しては、サッパリ知らないと踏んでいた。その油断の結果がこれだ。予測をひとつでも誤れば、攻撃が1発飛んでくる。
「嬢ちゃんは、どこかで格闘技術でも学んだのかい?」
バランは立ち上がりながら、目の前の仇敵に問う。
「...ただの勘よ」
そう、バランの予測通り、レイは武術に関してはサッパリだった。ただ、相手を潰そうと考え、直感で体を動かしてるに過ぎない。
「素人に1発入れられるとは、俺も衰えたな」
悔しそうにバランは言うが、まだ戦えるぞと、首の関節を鳴らす。
「もう一度だ、嬢ちゃん。今度はこっちがくれてやる」
そしてまた、拳は交わされる。
______
一方、地上で剣を交えていた騎士達は、拮抗していた。エヴァン1人で、5人ものベテラン騎士を相手にしていて、だ。
しかし、見る人が見れば、これからどちらが勝つかを予測するのは容易い。
エヴァンの鎧には幾つもの傷がある。しかしどれも浅い傷でしかなく、彼が回避する際に少し掠った程度だろう。
対して5人の騎士は、傷こそ付いてはいないが、全員息を切らしていた。
そう、この勝負は、エヴァンに部があったのだ。
「一等兵5人が本気になって一人を相手にしてもこれか。ヘルン公国騎士団の名が廃るぞ」
エヴァンは、稽古の時のような叱り方をする。怒りっぽいラムは、声をあげ、巨大な斧を振り下ろすが、動きは先程よりも鈍い。エヴァンは体を軽く傾けて回避し、ラムの斧の柄に剣を降る。柄は見事に折れ、ラムは素手の状態で後退をする。
続いてサムとラインが左右両方から襲いかかってくるが、どちらも動きは単純だ。軽く後にジャンプすれば回避はできる。エヴァンはサムの方へ近寄り、軽く腕を捻りあげて武器を奪うと、サムの胴を蹴り飛ばす。ラインは追撃はせず、マイトの方へ下がるが、隙だらけだ。剣を投げればその命を狩り取れただろう。
今度はアレンが、やけになって我武者羅に剣を振ってくるが、適当に振られた剣は、単純に振られたものよりも劣る。エヴァンが剣を一振りすれば、アレンの剣は手から離れ、明後日の方向へと飛んでいく。それでも一発は殴ってやると言わんばかりに、果敢に攻めてくる心の強さは賞賛するものだが、狙いが甘い。ひらりと回避して、顔面に肘打ちを食らわせ、怯んだところで先程と同じように胴を蹴り飛ばす。
「流石ですね、先輩」
そう言いながらマイトはラインの持っていた剣を投擲するのと同時に走り出す。エヴァンは飛んできた剣を避ける。マイトはそれに驚くこともなく、エヴァンに切りかかる。斜めにおろされた剣は、エヴァンに軽くいなされ、空を切る。
その姿は隙だらけなので、武器を叩き落とし、蹴り飛ばそうとするが、マイトは蹴り飛ばそうとしてきた右足を掴む。
そして、エヴァンの左足の、鎧がつけられていない膝裏に激痛が走る。矢が、膝裏に刺さっていたのだ。
マイトは不敵に笑う。
「ですが先輩、詰めが甘いです」
誠に申し訳ありませんでした。何でもはしませんが許してください。
前回締切守らなきゃとか言ってたくせして一週間後にはもう破っております。本当に申し訳ありません。
お詫びでもう1話投稿どっかで織り交ぜるとかしたいんですけどね。原稿すら出来上がっておりません。
どうも、麗花です。
執筆してたら急に首元痛くなったので病院いったら寝違えと言われました。寝ているわけでもないのに、寝違えでした。病名の改善を要求します。
今回ちょっと文字数少ないです。戦闘シーンって難しいね。
次回こそは月曜日に投稿するので、引き続き、美しき御神楽を見ていただけたらなと。
...御神楽要素無いですね。仕方ありませんが。
書き出し祭りの原稿は完成したので、是非そちらの方でも見ていただけたらなと。今回こそは上位目指したるけんね
それでは次回、また会いましょう。
Go for the next!