episode 1-3 騎士は剣を掲げ、歴戦者は拳を掲げる
What is the quification to receive of the knight?
レイは素早く抜刀すると兵士の一人の四肢を切り落とし、そのまま寺院の中へと入っていった。直後、学者達からの悲鳴が響く。
兵士たちは瞬く間に崩れ落ちた仲間が、もう息をしていないことを脳で受理するには少々無理があった。数人の兵士はその場で剣を落とし、脚を崩し、嗚咽を漏らす。そして認める。あの少女は最強の殺人鬼なのだと。
これで寺院の入口前に立っているのはエヴァンと守備の兵士5人となる。エヴァンは心の内でガッツポーズをし、5人の兵士と向き合う。数が減ったのは嬉しい誤算だ。
そして、残った騎士はどれも見た事のある顔だ。名前だって覚えてる。人1倍正義心の強いアレン、連携力の高いサムとライン、体格が大きいラム、そしてエヴァンが指導をした事があるマイト。どれも一等兵であり、レイの斬殺の恐怖に耐えた一流騎士である。
「先輩......どうして、俺たちを裏切ったのですか?」
マイトは震える声でそう尋ねる。その声からは悲しみや失望、憤怒を感じ取ることができ、エヴァンは返事に言葉を詰まらせる。
「...国の敵ならば、たとえ先輩だろうと討ち取らさせていただきます」
「ちょっと待て!話合お...」
話合おう、とエヴァンが言いきるより先にマイトとアレンの両刃の剣が振り下ろされる。
エヴァンは体を上手くいなして避けると、持っていた片手剣でアレンの剣を手から弾く。そして地面を蹴って5人との距離を離し、片手剣を構える。
この場をどうするか、エヴァンは考えようとするが、そのような余裕を与えるほど5人の騎士は甘くない。
巨体を持つラムはエヴァンめがけて大きな斧を投擲するが、それはエヴァンの片手剣により撃ち落とされる。だがそうしている内に、アレンは自分の武器を回収し、マイトは他の兵士へ鼓舞を、サムとラインは距離を詰めてくる。
とても現場慣れしているなとエヴァンは感心するが、同時に焦燥感も襲ってくる。
「さて、どうするか」
エヴァンは小声で悩みながら、5人の騎士との戦いを強いられた。
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コツ、コツ、と音を立てながらレイは寺院の中を歩く。油断をしている訳ではなく、むしろ誘っているのだった。中にいた騎士と学者は軒並み殺してしまったが、あと2,3人の気配を感じる。だが、見つけられずに、狭い寺院の中をグルグルと巡るハメになってしまっていた。
レイは無言で歩き続ける。外からは金属と金属が触れ合う音が鳴り響き続けており、騎士達の生存を知らせていた。
歩き続けていると、中央の部屋の角にある壺に足をぶつけ、初めて存在を確認する。
あまり気にしていなかったのだが、壺は5センチほどの小さい段差の上に置かれており、レイは半ば無心でその壺をそこからどかす。そこにはなにか書かれていた訳では無いが、中央の部屋の四隅で段差があるのはここだけだった。
レイは試しに段差を動かそうとするが、縦横にスライドさせても動かないので力一杯の踵落としをすると段差が削れるどころか、その場でストンッ!と下へ落ちていった。
どうやらこの段差は上に引くものだったらしい。
壊してしまったものは仕方ないので、台座が落ちていった穴を覗く。底には松明の灯りがあり、下へ梯子もかけられていた。つまり、人の気配がしたのは地下に人が居たということだ。
レイは地下までの距離を確認すると、梯子を使わず、飛び降りる。砂埃を巻き上げ、片膝立ちで無事着地する。
地下は、穴の大きさには見合わない、三人が横に手を広げれる幅の回廊があり、奥には木で作られた大きな両扉があった。
よくある物語ならば、その扉を開ければ悪のボスとの対決なのだが、そんなことはお構い無しに二人の兵士が、槍を持って構えていた。恐らく梯子を降りてきたレイを仕留めるために出待ちをしていたのだろう。
成程、この空間で二人で剣を振るうことはあまり得策ではないから、槍を持たせたのか。と、レイは納得するも、残念ながら鎧の軋む音で気づいていた為、わざと飛び降りた。そのため、唖然とした兵士の脇を抜け、レイは二本の刀でそれぞれの首を切り落とす。
さて、と軽く深呼吸をし、刀に付着した血を払うと大きな扉へと歩いていき、刀を持ったまま蹴って扉を開けた。
「掛かったな!」
「やあぁ!」
と、開けた途端、兵士二人が飛びかかってくる。片方は槍を、片方は斧を持っており、鎧のデザインは先程いた兵とは違って、少し装飾が施されていた。恐らくさっきの兵士とは階級が違うのだろう。
しかしレイは単純だな、と感想を心の中でつぶやくと、右にいた斧持ちの方の懐へ飛び込み、斧が振り下ろされる前に二本の刀で両腕を切り落とす。そして、槍持ちは目を見開きながらも、腕を切り落としたレイを狙って槍を突き出す。が、レイは左の刀で矛先を無理やり弾き、次に右腕でその首を刎ねる。
「あと2人」
と言って見たのは斧を持っていた兵士ではなく、寺院よりも広く思える部屋の中央でこちらの様子を伺っていたガタイのいい老兵と、細い学者服を着た男だった。
部屋はアリーナのようになっており、3,4段の階段で囲まれていた。特に何かが置いてる訳でもなく、階段があるだけの空間だった。
そしてそこに立っている人物だが、老兵といっても鎧は着ていなく、布のベストを着ていて、武将髭と顔のシワから読み取れる年齢とはかけ離れた筋肉と、歴戦を語る傷跡は経験の豊富さを思わせた。
学者の方は厚着と珍しく眼鏡を着けており、老兵の陰に隠れていた。体つきからして戦闘経験は無さそうだ。
「そんなあっさり二等兵を殺されるとこっちも面目が立たないんだがな...」
と、頭をかいて困ったように老兵は言う。
「よう、嬢ちゃん。アンタが例の大量殺人鬼かい?」
今度はニッと口角を釣り上げ、こちらに微笑みかけるが、レイは地を蹴り、左の刀で老兵の首を飛ばすため、飛びかかる。
が、レイが刀を振る前に、老兵は右手でレイの左手首を掴む。レイは少し驚くも、飛んだ勢いと老兵の腕の力を利用して、両足で老兵の右頭を狙う。
しかし、老兵は「うおっと」と声を出すも、手を離して、体を後ろに仰け反り、レイのキックを避ける。
レイはキックの力で横へ飛び、膝を地につけながらも着地する。
「おうおう嬢ちゃん、そんな怖い目をするな。可愛い顔が台無しだぞ?あと、名も名乗らず切りかかるのは礼儀知らずってもんだよ」
「...名乗っても意味が無いわ」
「意味ならあるさ。名乗ったやつは誠意ってもんが根付く。誠意は重要だからな」
またもやニィと笑えるのは事前情報と肝の太さによるものだろうか。仲間が目の前で斬り殺されているというのに、老兵は余裕綽々だった。
「...そうね。では、カグラ、と名乗ろうかしら」
「ほう。俺の知る限り嬢ちゃんの名前はレイだった筈だが?」
「ファーストネームで呼ばれるのは嫌なのよ。それよりも、貴方の名前は?」
「バラン、っていう一等兵さ。長らくこの仕事やってるが、まさか今までで一番強いのが嬢ちゃんだとは思いもしなかったよ。エヴァンの野郎も強いんだがねぇ...」
また自分との戦闘で生き残った人の名前リストに書き加えなきゃいけない、とレイは内心少し悲しくなる。17年間敵、というか相手になった人なんて今日が来るまでは2人しかいなかったのに今日だけで倍になってしまった。と、自分の価値観が少しずつ下がっていく。
「...武器は?」
と、レイは尋ねる。今まで出会った兵士とは違って、老兵バランは武器を持っていない。素手なのだ。
「今の今までこの拳だけさ。どうだ?俺の自慢の腕だ」
と、老兵は太い上腕二頭筋を披露してくるが、レイにとってはかなりどうでも良かった。
「そうね...、それじゃあただ普通に戦っても面白くはないわね」
「...アンタは今のうちに逃げろ。アイツは強い」
レイの雰囲気に少し負の感情を抱いたバランは、後に隠していた学者に逃げるよう勧め、学者も頷いて、出口へ走る。
が、扉に矢のようにナイフが突き刺さり、恐る恐る飛んできた方へと首を回す。
すると、レイはナイフをもう1本取り出し、冷たい瞳で
「逃げたらそこに転がってる奴みたいになるわよ」
と学者に告げる。斧を持っていた兵士は腕を失ったダメージと出血により、もう意識はなかった。学者は恐怖を覚えたのか後ずさりはするも、肝は座っているのか茫然自失になる事は無く、レイの方をじっと見つめ返した。
「さて、老兵さん。私は良いことを考えたわ。普通にやっても私が殺してしまうからね」
そう言うやいなやレイは鞘に刀を収め、壁へ立て掛けた。
そして、細く、綺麗な肌をした腕で構えた。
「ほう...嬢ちゃん。幾らなんでも舐めすぎやしないかい?」
「いいえ、そんな事はないわ。...ただ、希望を持たせてあげてるだけよ」
暗に希望が叶うことは無いとレイは告げるが、バランは楽しそうに笑う。
「久しぶりだな。素手勝負を挑まれるのは。しかもこんな可憐な嬢ちゃんにとは、夢にも思わなかったさ」
「それは良かったわ。私も腕を掴まれるとは夢にも思わなかったから一発返せて。...でも、貴方は私に負けて、もう一発余分に貰うわね」
「言ってくれるぜ」
そう言ってバランは、腕をゆっくり動かし、構える。
さっきまでは愉快に笑っていたが、今はもうその笑顔はない。その目は狩人の如く鋭く、相手を捉える。
「「いざ、尋常に」」
そう言って、二人は地を蹴り、拳を交わす___
Nothing knows meaning...
読了ありがとうございます。
今回は1:2でエヴァンとレイの話でした。
新キャラの名前考えるのとても辛いです。今のご時世、名前が他の方の被ってしまうのは仕方がないのですが、できるだけ被せないようにと考えてしまうとなかなか出てこないものです。
ところでですが、実はこれ書いてるの2/19/2:00です。とてつもなくギリギリです。早速締め切りに追い詰められています。まるで夏休みの課題のよう。
そういえば第2回書き出し祭りやるそうですね。第1回でこの作品は産まれたので第2回も参加しますが...
作者「お、やるのか。参加しよ〜って1時間で90人埋まってる!?危ない危ない...」
と、軽い気持ちで入ろうとしたらもう7割は枠が埋まっててビックリしたのですが、それ以上に驚いたのが面子ですね。ええ。120人のうち、約30人の人が書籍化経験あり。しかもうち1人は僕も知っているアニメ化も成功させた人も...。
本当に技量上げというだけの軽い気持ちで参加したのに、いつの間にか戦場へ入れられてました。恐ろしや...。
与太話もこれくらいにしましょう。
まだまだ続きます。締切を破らないよう、頑張りマッスル。
ではまた次の話で会いましょう。
Enjoy fighting!!