八話~薔薇~
財布が無い。それは現世の人にとってはクレジットカードや通帳、全財産を入れている人にとってはかなりの大打撃だが、逆にあまり金を入れず通帳や財布もないここの世界の平民にとってはあまり大きなダメージにはなり得ない。しかし、この世界ではまだ財布自体の存在があまり慣れられて無く、財布自体が高価であり、王族や貴族といった一度に多くの金を持ち出す人からしてみれば結構な失費である。しかも、エリュの場合、
「あれは6歳のころの誕生日にもらった母上の形見なんです、、、」
涙を目に溜めてエリュは呟いた。
「なら探しに行こうよ!」
「でも、何処に有るか判りませんし、、、」
「どんな財布なの?」
「これと言って特徴は、、、でも、革製でチャックがついていて結構な金額が入っていたから重たいと思います、、、。」
その特徴を聞いた穂村はすぐさま反応して
「その財布、月兎亭で見た。」
「良かったです、、、もし、姫様の財布が『黒薔薇』手に渡っていたとしたら、この国を滅ぼされていたかもしれません。」
「黒薔薇って何ですか?花の?」
「いいえ、違います。黒薔薇とは、ギルド『薔薇の箱庭 』のメンバーの一人、『憎しみを司る者』です。このギルド『薔薇の箱庭』は、おそらくこの国一番の犯罪ギルドで、殺人に強盗、誘拐に強姦、痛ましい事ですがあらゆる犯罪を逮捕されずにこなしています。その個人個人の強さゆえ、この国も手出しが出来ない状態なのです。メンバーは5人で、一人目が『情熱を司る者』の『赤薔薇』、二人目が『奇跡を司る者』の『青薔薇』、三人目は『嫉妬を司る者』の『黄薔薇』、四人目は『魅力を司る者』の『橙薔薇』そして最後に黒薔薇が来ます。」
穂村は2つ気になった事があったので、アルバートに聞くことにした。
「2つ聞きたい事があります。良いですか?」
「?なんですか?」
「まず1つ目はなんで『薔薇の箱庭』の人の誰かでは無くて『黒薔薇』個人に取られていると不味いんですか?」
「それはですね、、、非常に言いにくいんですが、、、」
「勿体振らないで早く教えて下さいよ。」
「昔、国からの命令で黒薔薇を捕まえに行ったんですが、その時に、、、やっぱりこの話は止めにしましょう。結論だけ言うとその時のいざこざでこの国ごと反感を買われてしまってですね、、、」
(((一体何があった)))
「黒薔薇がこの国を潰そうとしているのは貴方のせいだったのですね、アルバート、、、」
「じ、じゃあ、二つ目の質問です。家一軒分のお金でこの国を滅ぼす事が可能なんですね?」
「ええ。出来ます。この国最高峰のアーティファクト、『原子操作の杖』を使えば。」
(『原子操作の杖』か、、、名前から察するに原子を操るんだろうな。)
「厄介だ。」と言わんばかりに顔をしかめた。穂村は『科学の力で異世界無双~塩素ガスは偉大だった~』というライトノベルを読んだ事があり、塩から塩素だけを取り出す事で塩素ガスを作れるという事を知っており、それがどのぐらいの猛威を振るうかを(小説で)はっきり目に焼き付けたのだから。
「ヤバいですね。まぁ、その『黒薔薇』さんって人に取られなければ滅ぼされないんでしょ?その人にとられるなんて、きっと物凄く低確率だと思うしとられるはずないよー!」
と、吹雪は能天気に見解を述べる。筋は通っているけど、お前それフラグだぞ
「それでは善は急げ、月兎亭へ向かいましょう。」
「よぉ、兄ちゃん達。また食いに来たのか?」
「いえ。それより、姫様の財布を見ませんでしたか?」
「それよりって、、、いや、見てないが?」
「っ!探させて貰います!」
それから、30分が経過したが、一向に見つかる気配が無い。
「どうしよう、、、あ、そうだ!私の魔法で!」
「そうか、その手があったか!」
「『召喚』!」
吹雪がその呪文を唱えると辺り一面を光が包み込み、財布と、女の子が召喚され、6人は驚愕した。(店主と女の子含む)
「ふぇ?」
と、同様した様子の女の子。だが、状況を把握した瞬間、腰に携えていた漆黒のショートソードを抜いてアルバートに襲い掛かって来た。
「アルバートぉ!ここで会ったが百年目ぇ!死ねぇ!」
「甘いっ!」
穂村の咄嗟の判断でアルバートは死を免れた。
「お前は、、、黒薔薇!」