それぞれのコトバ
前回のあらすじ。初恋のあの子が転校してきたぞ。どうするんだこれ。
「東京から引っ越してきました。綴姫香澄です。よろしく…」
「お、お前!何でここに!?」
まって。これじゃあモブじゃなくて主人公じゃないか!!
「…えっと…言いにくいんだけど…」
ん?俺と会ったことがあるのを言うのが恥ずかしいのか?まあ告白したからなぁ…。
「どちら様?」
今年初の大爆笑が巻き起こった。
「おおい!会ったことあるだろう!10年前!その時俺が———」
———って危ねぇ!公開告白するところだったぁ!
「俺が…なに?」
そう言い放ったアイツの顔に不敵な笑みが張りついていたのを俺は見逃さなかった。
それからというもの俺はみんなからの質問から逃げることに精一杯でアイツに何も聞けないまま放課後になってしまった。
「なあ、いお。今日は先に帰っててくれないか?」
「知ってる。いいよ」
…たまに伊織が恐ろしく見えるときがあるが、気のせいだろう。
「ところで、部活決めた?」
伊織の問いに俺は首を振る。なんとこの学校、1年生の部活参加は5月からなのだ。流石田舎。
「…そう…なんだ…。わかった。頑張ってね」
ここで伊織と別れた。さあ、屋上に向かおうか。
昴にメールで遅れることを伝え、屋上に向かっていると…後ろから気配がする。
えーっと…紡原蓮華がストーキングしてるんだけど。俺がちゃんと屋上に来るかどうか見張っているのだろうか…?まあ、もうすぐ屋上に着くしいいか。
俺はいつもより重い屋上のドアを開ける。
「…!あ、よ、夜和泉くん…。来てくれたんだ…」
ええ!?い、今!う、後ろに…!?あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!後ろからつけてきていたと思っていたら、いつの間にか先を越されていた…。な…なにを言っているかわからねーと思うが、俺も何が起こったかわからなかった…。
「どうしたの…?夜和泉くん?」
「い、いや、なんでもない」
夜和泉瑞樹は考えるのをやめた。
「え、えっと…は、話なんだけど…」
いきなり本題に入ってくるんだな…。ま、まあ、誰かに何かを伝えたいとかだろう?…ハッ!まさかこいつ伊織が好きなのか!?なるほど…。くっくっく…面白くなってきたぞ!
「昔、ある人に助けてもらったの」
ほうほう。
「私、名前に『紡ぐ』っていう文字が入ってるけど、話すのが苦手だったの」
知ってる。有名だな。
「だけど、ある日ある人が私に『誰だって苦手なことがあるさ。少しずつでも克服してみよう?』って声をかけてくれたの」
な、なるほど。
「だから、勇気を出して思いを伝えます。自分のコトバで『紡』いで」
…んえ?
「夜和泉くん。貴方のことを想うと胸が苦しくなります。光り輝く太陽のような貴方の笑顔は私の心を温かく照らしてくれました。貴方のことは誰よりも知っているつもりです。絶対貴方を幸せにするので…」
思い切り息を吸い、
「私と付き合ってください!!」
彼女の中でも一番であろう大声を出した。
…ん?ちょっと待って?これってもしかして俺に言った?
「え?そ、そうだけど…」
心の中まで読まないで?
「ちょ、ちょっと考えさせてください!」
「…いい返事を期待してますよ」
彼女の顔は臆病なものでなく、自信に満ちた顔だった。
終わりだと思った?残念!まだ続くゾ!…待ってください読み終えないで。
そう。まだ終われない。詠月恵との話が終わっていない。どうせ告白なんだろう?知ってる。この流れで告白じゃないわけがないじゃないか。この告白が終わったら、俺、結婚するんだ☆
足早に体育館裏に行く。ただでさえ遅れてるのにこれ以上待たせると何が起こるかわからない。俺の身に。
体育館裏に着く。
「おーい。詠月ー。どこだー」
いないんだけど。帰っちゃったかな…。
「しょうがない。俺も帰るか———」
世界が反転した。吐きそう。
「遅かったわね。ヨミ君」
ろくに話したこともないのにその呼び方か。あとさ———
「いい加減羽交い絞め解いてくれません?」
「苦しかったかしら?」
柔道有段者の羽交い絞めで苦しくない奴なんてスーパー○イヤ人くらいじゃないか?
「まあいいわ。伝えたいことがあるのよ」
「なんだ?」
「そうね…。私らしく『詠』みましょうか」
何のことだろう?
「『思いつつ 寝ればや人の みえつらん 夢と知りせば さめざらましを』って知ってるかしら?」
知りませぬ。
「愚かね。これは小野小町の短歌なの」
意味は『恋しい人を夢で見たけど、夢と知っていれば覚めなかっただろう』という意味らしい。…で?
「鈍いのね。私がずっとこうだと言いたいのだけれど」
なるほどわからん。
「…貴方を夢で見て、覚めて夢だとわかると寂しくなるの」
なるほど…ん?
「もうこんな想いはしたくない。そう思い続けてやっと決心したわ」
ふ、フラグ先輩?まだ帰っちゃダメですよ?生きてます?
「貴方を幸せにするために、私は貴方に尽くします」
フラグせんぱあああああああい!帰ってきてぇ!せっかくあんなにフラグ立てたのに!
「好きです。私を貴方の一番にしてください」
【悲報】フラグ先輩の霊圧、消える。
「ま、待ってくれ。もう一人俺に告白した人が———」
「紡原蓮華ちゃん———でしょう?」
———は?
「知ってるわ。私たちは3人で約束したから」
「約束?」
「まあいいわ。考えといてね」
軽い感じで行ったと思ったが…
「どうせあなたは私のモノになるんだから…♡」
その顔はとても大人びていて、魅力的だった。