六
ゆっくりと流れていく雲から月が出てきたのか、木々の隙間から月明かりが差し込んできた。
そして、目の前にいる木島も照らし出され見えなかったものがはっきりと見え始めた。前髪の奥底で光る赤色の瞳。頬に浮き出ている墨で書いたような文字。それは、かなり奇妙で毒々しかった。
何処からか、先ほどの木霊達の音楽が聞こえてきた。
近づいて来る木島の一歩ずつに、太鼓の音と共に胸の鼓動が大きく波打っていった。
「…あ、あのさ…ただ夕方に起きた事について理由が知りたかっただけというか、」
真顔のままの木島に向かって立ち上がり身構える。しかし、前髪の奥底に光る赤い瞳が私の心の奥底を見抜いている気がした。
「あ…あは、あはは、いやぁ〜確かに、確かに、興味本位ありました、だけど、こんな!」
必死に真っ白になっていく頭の中で言葉を繋げていく。
実際問題、非日常的な展開を目の当たりにしたら、こんな事をしようとか、妄想していたはずなのに、現実の主人公、内藤未菜はただ後ずさりをするしか出来なかった。
しかし、逃げられるのも束の間のことで、背中に何か当たった感覚に逃げられないと悟り青ざめる。
(無理だ…逃げられない…!!…って)
勢いよく振り返った先にあったのは、木で作られた鳥居のようなものだった。どうやらこれに当たったらしい。
真上には大きな屋根があり、鳥居の間には数段ある木の階段、その先に続く重そうな木の板扉があった。簡単に言えば、小さな神社が建っていたのだ。
(…もう…あの中に、隠れるしか!!)
木島との距離は約4mぐらい、身体能力には自信が無いが、あの場所に賭けるしか無かった。
じっくりと赤い瞳を睨みつけ、木島が一歩足を踏み入れた瞬間に立ち上がる。
そのまま小さな木造階段を数段登り、大きくて分厚い木の板に手をかけた。
(……開いてくれ!!)
この思いと同時に扉が開く手応えを感じた。
そして、運がいい事に、木島に捕まることも無く、重く開かれた扉の中に入り込む事が出来た。
すぐさま扉を閉めようと手をかけた。
こちらに向かって走ってくる木島は、何処か焦りが見えた気がした。
入った中は約8畳ぐらいの広さで、1番奥には小さな木の仏壇のようなものがあった。
触ってはいけない事ぐらい、分かっていた。
むしろ、もうこれ以上関わりたくなかったのが、本音だ。
扉を抑えたまま、息をつく。
生憎、向う側から強い力は感じられなかった。
(…とりあえず…入れた事だし、とにかく朝がくるまでこうしていよう…)
そう思っていた時だった。
後方から淡い赤い光が見えた。
(…な、…何!?今度は何!?…もしかして、木島の妖術か何か!?)
その光はゆっくりと光を増し、こちらに近づいてきた。
しかし、目の前の扉から手を離すことが出来ず、ただその場に立ち尽くしていた。
そして、その光は、そんな私の首元に巻き付いた。
〝汝に…これを…〟
清らかな声が聞こえた気がしたのと同時にゆっくりと光は消えていった。
「…ん?」
何か首元に違和感を感じ、下を向くとそこには、赤色の勾玉が下げられていた。
「…え?」
扉から手を離し、勾玉に触れる。
(何、これ…)