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しかし、少女漫画的展開でも、いきなり好きでも無い人から抱きつかれるのは、かなり抵抗があった。それも、顔が見えないため、恐怖でもあった。

「…っちょ…離してくれるかなっ!?」

離れようとするものの、抱きしめられている力は強く意味が無かった。

(諦めるな…こんなの…こんなの……っ!?)

内藤未菜の脳内には、これから起きるであろう想像がとっさに警報とともに流れ込んできた。

情報元であるのは少女漫画のシーン。ごく普通の男子高校生が、振り向いてくれない幼なじみに後ろから抱つき無理矢理キスするというシーン。

(……ということは…この後、キスっ…!?…こんなの…こんなの…好きな人との初めてのキスじゃないと…嫌だああ!!)

体の中にある全ての力を振り絞って暴れる。

それは、初めての甘いキスに対しての執着心だった。

しかしそんな、暴れる私にお構い無く木島はゆっくりと首元に顔を埋めてきた。

かかる吐息、初めて密着する異性の体。すべてが羞恥心と嫌悪感で満たされていた。

「早く、退いてよ!!…こんなことして良いと思ってるの!?このまま続ければ、先生に家族に…警察に言ってやるからな!そんなの嫌でしょ!!だから、早く退いてよ!!直ぐに退いてくれるなら言わないでおいてあげるから!……というか、あのさっ!!聞いてますっ!?」

小学生みたいな言葉しか出てこない脳内で必死に訴えながら暴れるものの、木島は一向に返事をしなかった。

「はぁ…あのさ……っ!?」

「…ま……ふう…わ…めい…る」

大声で叫んでいたから気づかなかったが、木島が私の首元で何か言っていることに気が付いた。

「えっ?何、言っ………!?」

小さすぎて聞き取れなかった言葉に聞き返そうとした時だった。

「………っ!?」

肩を掴まれ、強い力で体を反転させられ、木島と対面した形にさせられた。問題のシーンに近づくことに対し、逃げられない現実。(もう、本当に嫌だぁあ!!)

そんな私にお構い無く近づいてくる木島の顔は、教室で見かけるいつものままだった。

「……っ」

ぐっと近づいた途端反射的に目を瞑った。

「………………………」

しかし、予期していた感覚は来なかった。

(…へ?)目を開けた時だった。

「…………ったぁあああああ!?」

首元に痛みが走った。

全身の血が沸き立ち、今にも倒れそうだった。しかし、こんなことされれば、より一層恐怖に陥り力強く突き放した。

「…っやめろぉおお!!……っとと!?」

力強く突き放した拳は目的に当たらず、そのまま行き場のない力に連れられて体が前のめりに倒れていった。全身に走る鈍い痛み。

しかし、痛がっている暇はなく、すぐさまに逃げ出す方法を考え出す。

(そうだ!!倒れている自分に近づいた瞬間、弱い所に蹴りでも入れれば…逃げる隙は作れるんじゃ…よし。………っ!?)

しかし、意を決して見上げた先に見えたのは…

赤い色に淡く光る木島の瞳だった。

一気に血の気が引いた。


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