参
「…んんん……っは!」
意識が戻った瞬間と同時に体を起こした。
どうやら未だに東雲神社の境内にいるようだった。すぐ近くにはあの立派な大きな木があり、あの後ここに横たわっていた事が分かった。縛られたような感覚は無く、体は動かせるようになっていた。
しかし、一難去ってまた一難なのか、目の前の光景に驚愕した。
「………ど…どど…どうなってるの!?」
東雲神社の境内ど真ん中に、キャンプファイヤーで見るような大きな焚き火があり、その周りを五歳児ぐらいの子供達十人ぐらいが踊っていたのだ。
それも、その子供達全員が同じように、白くて丸い仮面のようなものを顔につけ、白い着物を着ていたのだ。
恐怖というよりも、何か変な夢を見ているのではないか、そういった不思議な感覚に陥っていた。
「あ、起きた」
「……っ!?」
しかし、それは夢なんかではないことを、突如現れた男への苛立ちで目を覚ます。
何処からか突如やって来る彼、木島君は座ったままの私を上から覗き込んでいた。
「おはよう」
「……おはよう……って…」
内藤未菜の怒りのバロメーターが上がっていく。
「どうして、こんなことしたの…」
「……話すと長いし面倒だから省略するけど、要は、木霊が見えるようになったんだよ」
「…は…はい!?」
(何を言ってるんだ、こいつは!聞きたいことすっ飛ばして、結果を言ったな!あぁ、はい、そうですかぁ…って素直に納得出来るか!…それに何の悪びれる様子もない同じ声の調子に腹が立つ)
これが、内藤未菜の怒りのバロメーターが振り切れた時だった。
「あのね!!私はさ、そういう事を聞きたいんじゃなくて、何でこんなことし……ん?」
勢いよく立ち上がり熱弁しようとしていた私の体が何かに引っ張られたことに気づく。
「んんん?んんんん?」
足元の方を見てみると、先ほどの、木島君…いや、木島が言う、木霊達が私の制服の裾を引っ張っていたのだ。
「一緒に踊りたいんだって、ほら」
木島は、口元を歪め木霊達に目を向けた。
(この表情は、笑っている…のか…!?それも、人を小馬鹿にするような笑い方だな、おい!?…ちっ…嫌な奴め!)
心の中で悪態をつく間も、私の周りにいた五人ぐらいの木霊達は左右二、三に分かれて手を引っ張り焚き火の方へ連れていこうとしていた。
「ちょっ…ちょっ…ちょっとと!」
引っ張られた方向とは真逆に数歩下がる。
かなりの力で引っ張られるのかと、思いきや、いきなり立ち止まり、木霊達が一斉にこちらを見てきた。白いお面なのだから、表情も何も無いのだが、何処か遊んでもらえない子供の寂しげな表情が見えた気がして、仕方が無く足を進めた。
「しょ、しょうがないなぁ…ちょっとだけね、」
(なんだかなぁ…小さい子の手は振りほどけないなぁ…それも、一緒に踊りたいって……なんて…いい子達なの!お姉さん、頑張っちゃう!)
そのまま、ずるずる焚き火の方へ連れていかれた、というよりも、率先して歩いて行った。
静かだったはずの境内は真ん中に近づいていくほど、太鼓や笛の音が良く聞こえてきて、木霊達の輪の中に入る頃には、大きな音がこの焚き火を中心に響き渡っている事が分かった。
何処か、祭りの音頭を思い出すようなそんな音楽だった。
手を引っ張っていた木霊達が制服から離し手を上下に動かしてちらちらと私の方を見てきた。
どうやら、踊りを教えてくれているようだ。
(なんだかなぁ…逆らえないもんだよ…子供にはさ……よし、やってやるか!!)
よく分からない母星本能をくすぐられ、真剣に踊りを覚えていく。
盆踊りのような、そんな踊りだった。
木霊達と踊る時間は案外楽しく、この状況を忘れるぐらいに夢中になっていた。
「はぁ…疲れた…ちょっとだけ休憩させて〜」
そう目を焚き火から移した先だった。
木島が社の裏の方へ歩いていくのが見えた。
(いやいや、忘れる所でした…このままだと、踊って楽しかった!ちゃんちゃん♪で終わってた…あぁ、恐ろしっ!アニメ的展開じゃないわね、教育アニメなら有り得るが、そんな甘っちょろい結末は求めてないぜ…)
「ちょっとごめん、外すね」
心の内とは裏腹に笑顔で木霊達に一言声をかけると、木島の後を追った。
こくりと頷いた木霊達はまた、仲良く踊りを続けていた。