弐
案外段数があるものなのか、体力がないだけなのか、ようやく登りきった頃には息が上がっていた。
「……はぁ…はぁ……着ぎましだ…」
辿りついた先に見えたのは大きく構える門と奥の方にある社だった。かなりここからでも広いことが伺えた。
門前には、墨の文字で東雲神社と書かれた板が掲げられていた。
「すぅーーはぁー…っとよし、入ろう」
一呼吸置き気を引き締めたのはいいものの、こういった礼儀の事に疎いため、数秒立ち往生した。しかし、初めと終わりが肝心!!という考えのもと、一礼してから門をくぐった。
一歩入れば先程の見えた客観的な感覚とは打って変わり、目の前に広がる境内はかなり広々としており、その横脇に立ち並ぶ木は立派だった。
初めて入る東雲神社は、怪しい雰囲気でありながらも何処か美しさを感じた。
しかし、この光景に魅了されていては、目当ての木島君は見つかるわけもなく、しっかり探す事に決めたのだが、そもそもどこに家があるのかもさっぱり分からなかった。
あまり歩き回ってもいいものなのか、そう迷いながらも、一歩石畳で出来た道の外に出ては辺りを伺っていた。
すると、いきなり強い風が吹き、何か寒気を感じた。そして、途端に大きな不安に駆られ始める。
(…ちょっ…怖っ!!なんか、今通った感じだったよ、これ!!意外と霊感あるのか!?自分!…って……あぁ…本当に帰りたい、アニメも見たいし、お菓子も食べたいし、こんなとこ早「………ねぇ」
「っぎゃぁあああああ!!」
勢いよく振り返ると、黒髪垂らした……さだ…子……ではなく北高校の制服を着た男子生徒が立っていた。それも、目元を覆い隠す前髪は彼そのものだった。
「…木島君…?」
「……そうだけど、そんなに驚くかな」
「いやいや!!いきなり現れるから!!」
数歩下がり、手を左右に降る。
しかし、こんな身振り手振りが大きい私の行動とは対照的に、冷静なまま木島くんは立っていた。
「…おかしいな、階段の下から声かけてたんだけど」
「嘘でしょ!?そんな前から!?……って…ごめん、全然気付きませんでした」
(なんということでしょう!大声で叫んだなんていう女の品性の欠けらも無い醜態をさらけ出したところか、ずっと声をかけられていたにも関わらず気が付かなかったなんて…人として有るまじき行為!
内藤未菜、一生の不覚!!※こういう人は大袈裟に一生を使いたがる傾向があります)
「別にいいよ、それより、何の用?」
「え、あぁ、これ」
顔を背け、背負っていた黄色のリュックサックから、無地のファイルを取り出す。中には3、4枚のプリントが入っていた。
「あぁ、プリントか、ありがとう」
「あぁ、いいよ、いいよ!!」
顔は見えないものの、しっかりと初めて聞いた声は何処か穏やかだった。
(なんか、見た目かなり怪しいけど意外と良い人なのかも、それに、さっきのこと気にしていない……だろう…まぁ、そういうことにしておいて…よし、任務終了!!)
「それじゃ、私はこれで!!お大事に………っぐ……」
素早く立ち去ろうとした時だった。
いきなり全身に鋭い痛みが走った。
だけど声を出すことが出来ない。
体が何かに縛られたように全て動かないのだ。ゆっくりと閉ざされていく視界に見えたのは目の前にいる木島君の無表情な顔だった。