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覚悟を決めるのは尚早な話

「で、イラ。この状況なに?」

 

 時間が経って酒精の抜けたカレンは間抜けな問いを己の精霊に尋ねる。

 イラは事細かく経緯を説明するのだが。


「ええ、嘘でしょ? だって私、初対面の人にいきなり容姿の事なんて」


 一部始終を影の中から観察していたのだが、カレンは一向に信じてくれない。

 カレンに酒を飲ませるときは慎重にと心に誓う。


「でも、それくらいで決闘なんて大げさな」


 歓楽街から離れた場所にある空き地は、野次馬で賑わっている。

 女性もいなくはないがほとんどが男性で、酒瓶片手に今か今かと期待する目をカレンに向けていた。

 それは美しい娘の肌が惨たらしく蹂躙されることへの期待。

 刺激に飢えた人の皮被った獣ばかり。


 憐れな少女を救うため、役人に通報しようなどという者は一人もいないらしい。


 カレンは諦めた表情で空き地の反対側を見る。


「へっへぇ! 今さら後悔しても遅いんだよ! どうしても許して欲しいんなら、全裸になってここで観客の皆さんに股を開きやがれ」


「フ、フゴー!」

 

 頭に包帯を巻いた醜男と、顎に包帯を巻いた不細工が何やら吠えている。


「ねえ、イラ。なんで人間の男ってこう、死んだほうが、いいえ、殺したほうが良い馬鹿ばかりなのかしら?」



イラも男なのだが、それには同意してしまう。

 この世界に来て以来、イラの見た男といえば、下着ドロに人買いにこの下品な男達と、まわりの観客。

 

『ヨノナカ、ハ、屑バカリ?』


「そうじゃないと良いんだけど」


カレンは冷たい視線で男どもを睥睨した後、改めてイラを見た。




「いまさら、こんなことを聞くのも何だけど――勝てそう?」


『――ワカラナイ』


 本当に今さらな質問だった。

 精霊種といえば、竜などに並ぶ強者の一角。

 伝説の中にある氷精霊の契約士は、英雄として縦横無尽の活躍を語られている。


 それでも向き不向きはあるし、個体差はある。

 もしかしたらとんでもない大外れだってありえるのだ。

 無表情な相棒に、不安がないといえば嘘になる。

 イラの実力を確かめるために、軽い依頼からこなすつもりだったのだが、流されて今の今まで、わからずじまい。

 

 ――でも、悪いやつじゃない。

 精霊なのにカレンを見下したりしないし、暇つぶしの話し相手にもなってくれた。

 初めての契約だった。

 魔導院を放逐されたりと不幸なこともあった。

 ――でも、嬉しかった。

 偶然だろうがなんだろうが、自分は相棒を手に入れたのだ。

 自分を一人前の契約士にしてくれた。


 それはカレンの夢の一つ。


 ――だから。


「だから、まあ、一緒に死ぬのも悪くない、か」


 強がりだったが、少しだけ恐怖がやわらぐ。

 まだ影の中にいる相棒が困った気配を感じる。


『一緒ニ、生キル方ガ、楽シイ』


 それは励ましの言葉だったのだろう。

 くすりと笑ってしまった。

 だって永い命を生きる精霊にしては俗っぽい。


「じゃあ、頑張って私を守ってね!」


『承知!』

 

 少女は笑って戦場に向かう。

 相棒は無表情だけどきっと笑っている。

 新しい赤いローブに身を包み、自信に満ちた足どりで。

 

 少女は精霊に捧げる唄を胸に刻む。



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