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近世風異世界+ロボット物:東部戦線異聞

作者: 銅大

 ロシアの冬は冷える。私の故郷であるプロシアの冬も寒かったが、ここの寒さときたら尋常ではない。私は宿としていた農家を出た。重い木の扉をあけると途端に冷風が吹き寄せる。むきだしになっている顔が強張る。父の毛皮の外套は私には大きすぎたが暖かいのだけはありがたい。


「おはようございます、若様」


 ヨハンが白い息をはきながらあいさつをした。もう戦場に出るような年ではないのだが、いつものように強引についてきた。さすがに冷えると関節が痛いらしく腰が曲がっている。


「おはようヨハン。軍馬の調子はどうだ?」

「ディガールもさすがにこの寒さにはまいっとるようです。血液が半分凍ってました。今下でたき火をたいて溶かしているところです」

「そうか」


 私は雪を踏みしめて納屋に入った。そこには3騎の軍馬が並んでいた。私のディガールはその中でも最も長い戦歴を数えている。祖父の時代から戦場に出ているので、私で3代目だ。軍馬は騎士の証である。大事に使うのは当然であるが、何よりも我が家には軍馬を買い換えるための金がない。村一つの領地しか持たない辺境の領主としては頭の痛い問題だ。

 私はディガールに近づき、その表面に触れた。ひんやりとしている。キチン質の装甲は軽いが丈夫だ。おかげで、多くの軍馬がロシアの泥濘に足を取られて難儀していた時も、ディカールは前進を続ける事ができた。

 それを幸いと呼べるかどうか。私には自信がない。剽悍な騎馬民族の血をひくロシアの騎士たちは泥濘をものともせずに戦いを挑んできた。ロシアの奥深くに進むにつれ、仲間は一人、また一人と倒れていった。12騎で編成されていた我が中隊も、今はこの納屋にある3騎のみ。

 皇帝は秋までにこの戦いは終わる、とおっしゃったという。秋はあっという間に終わり、泥濘の時期を過ぎて全てが凍てつく冬が来た。だが、戦いは終わる気配もない。

 この戦いはいつまで続くのか。終わりはあるのか。


「お前は、どう思うの?」


 私はディカールに問いかけた。ディカールは答えない。膝をついた駐機姿勢のまま、私を見下ろしている。


「腹減ったなー。おい、飯はまだか、飯は」


 納屋の外から男の声が聞こえた。確認しなくても分かる。あの騒々しい声はグスター・シュタイケルだ。私はディカールの隣に座すグスターの軍馬を見た。ダーナ。女性型のフォルムをした、美しき死神。戦場では、幾度となくこのダーナがふるう両手斧に助けられた。

 だが、戦場以外では話は別だ。私はできるだけいかめしい顔を作り、納屋の外に出た。

 黙々と薪を割るヨハンにまとわりついて、グスターが何やかやと言っている。いつも大げさな身振りで、芝居がかった口調で話す軽佻浮薄けいちょうふはくな男だ。私がもっとも嫌いな種類の男である。騎士というものは、我が父のように、女性には誠実で、結婚の誓いを破らない存在でなくてはならない。


「グスター・シュタイケル!」


 私はできるだけ声を低くしてグスターに話しかけた。


「おう、フェリックス」

「今日の食事当番は貴公のはずだ」

「そうだっけ?」

「そうだ。それにヨハンは軍馬の整備で忙しい」

「まあいいじゃんか。おれが作るより、爺さんが作った飯の方がうまいし。軍馬よりもまずは人間の腹を満たすのが先だぜ」

「そうはいかない。ここは最前線だ。いつ戦いとなるかわからないのだぞ」

「真面目だねぇ、フェリックスちゃんはー」


 なでなで。グスターが私の頭をなでる。


「こら! やめろ!」

「いいじゃないか。んー、いい匂いがするねー。フェリックスは」


 がこんっ。

 ヨハンが割った薪の片方が、グスターの後頭部に激突した。


「何しやがる、じじいっ!」

「おお、手がすべってしまったわい」

「わざとだな。わざとやったな」

「何事も、神の御心のままじゃよ」

「ははぁん。じじい。お前、妬いてやがるな。大事な『若様』が得体の知れない盗賊騎士と仲良くしてるもんだから」

「誰が仲良くしたっ! いつっ!」


 つい声が高くなる。

 その時、農家の扉が開いた。


「朝餉の支度ができたでござるよ」


 スケサブロウがお玉を持って言った。


 ヨハンはまだいろいろとやる事があるので、食事は騎士三人だけで食べた。かちかちに硬くなった黒パンに、腐りかけの豚肉。これでも、まだ最近ではましな方である。何も支給されないという日も、冬になってからは増えてきた。騎士ですらこうなのだから、兵士への糧食はどうなっているのだろうか。

 いつものように、グスターはやかましく。

 いつものように、スケサブロウは静かだった。

 考えてみれば奇妙な三人組であると思う。

 グスター・シュタイケルは本人も言うようにいわゆる「盗賊騎士」だ。我がタービナル家のように領地を持つわけでもなく、代々、特定の王侯貴族に仕えているわけでもない。戦乱のあるところに現れては、その腕を高く売る。ふだんは自由都市とかで守備隊の仕事をしている。らしい。別に私から聞き出したわけではない。とにかく良く喋る男なので、自然とそのくらいは耳に入ってくるだけだ。それに、言っている事もしばしば矛盾していたり、明らかにホラであると分かる内容もある。たとえば、親の代まではホーエンツォレルン家の傍流であったが、母親が旅芸人と駆け落ちしたなどと。

 スケサブロウ・ホンダははるか東洋にある国、ジパングからやって来た「巡礼騎士」である。かの地でキリスト教の洗礼を受け、はるばるヨーロッパまで巡礼の旅にやってきた。グスターなどよりよほど敬虔なキリスト教徒で、暇さえあれば聖書を読んでいる。朝晩の祈りも欠かしたことはない。寡黙な男で、あまり自分の事は喋らないが、安心して背中を任せられる男である。

 いや、グスターが背中を任せられないという意味ではない。何かと胡乱な男であるが、戦場においてグスターが卑怯な振る舞いをした事は一度もない。腕も立つ。ほら吹きで、女にだらしなくて、酒を飲むと放歌高吟する癖はあるが、悪い男ではない。

 そして、私は――


「敵襲! 敵――」


 叫び声があがり、唐突に途切れた。私たち3人は食事を放り出し、立ち上がった。すぐさま、納屋へと駆け込む。すでにヨハンがいて、私たちの軍馬を起動させていた。私のディガール。グスターのダーナ。スケサブロウのキメラ。

 軍馬の背中に駆け上がり、ハッチを開く。狭い操縦席の中に滑り込み、連結環を頭にはめる。操縦桿を握る。駆動ペダルを踏み込む。


「ディガール、出る!」


 駐機姿勢でうずくまっていたディガールが、傍らに置かれたランスをつかみ、ゆっくりと上体を起こす。天井に注意しながら背をかがめて歩き、納屋を出る。

 納屋を出て、背をのばす。軍馬の頭は4メートルの高さにある。視界が一気に開けた。


 敵が、見えた。


 ロシアの軍馬が、白い装束を朱に染めて警戒線の歩兵を蹂躙していた。手にした曲刀は軍馬の身体と比較すると短いものだが、それでも2メートル近くある。算を乱して逃げまどう歩兵を、背中からなで切りにしている。

 私は伝声管に声を吹き込んだ。


「目標、前方のロシア軍馬。突撃隊形で前進。味方を援護する!」

「待てフェリックス」


 ふてぶてしいまでに落ち着いた声でグスターが言った。


「一騎だけというのが臭い。おそらくあれは誘いだ」

「それでも!」


 私は叫んだ。


「味方を見殺しにはできん! ディガール、吶喊する!」


 私はぐっと、駆動ペダルを一杯に踏み込んだ。軍馬が前傾姿勢になり、雪と氷の大地を蹴立てて走る。グスターが何かわめいているようだが、聞こえない。

 軍馬としては軽量級に入るディガールの突進は、ロシア騎士にとって予想外だったようだ。あわてて盾を持ち、構える。私は速度を殺すことなく突進し、腰に構えたランスをその盾にぶつけた。


 ずどん。


 盾がへしゃげ、二つに割れた。盾を持つ腕もまた同様。ディガールのランスはそのまま、ロシア騎士の軍馬の脇腹を抉った。軍馬の青い血が蒸気と共に噴き出し、凍てついた大地に降り注ぐ。

 我がプロシアの騎士が相手であればこれで片が付く。後は騎士と軍馬を捕虜として、幾ばくかの金品と身柄を交換するだけだ。いや、父の代ではロシアにおいてもそうであったと聞く。だが今は、

 ロシアの軍馬が曲刀を投げ捨て、腕に仕込んだ刺突用の短剣をディガールの装甲の隙間に突き立てようとした。私はロシア軍馬の足を払い転倒させた。ランスが引き抜かれる。私はためらうことなく、軍馬の背後からランスを操縦席へと貫き通す。青い血に混じって、赤い血が白い雪を染める。


「ウラー!!」


 伝声管で増幅した雄叫びが、右手にある森の中から聞こえてきた。3騎の軍馬が槍を手に突進してくる。1騎が立ち止まり、びょう、と槍を投擲してきた。姿勢を低くしてかわし、残りの2騎を迎え撃つ。ヨーロッパ諸国ではロシアの騎士をただ突進してくるだけの単純で粗野な武人と見なす者が大勢いる。恥ずかしながらこの戦争に出陣する前の私もそうだった。だが、目の前にいるロシアの騎士はどうだ。わずかな時間差で左右から槍を繰り出してくる。

 まず私から見て右の軍馬。踏み込みが浅く手だけで槍を突きかけてくる。私はこれを右手のランスではらう。それが敵の狙いと知りつつ。

 この隙に、私の左の側の軍馬が槍をくりだす。こちらが本命。装甲が薄いディガールでは、この攻撃を受けきる事はできない。

 だが。


 ドスッ!


 太い鋼鉄の矢が、今まさに私を槍にかけんとした軍馬の首を貫く。おそるべき弓勢。見なくとも分かる。スケサブロウのキメラだ。かの国に行った宣教師によるとジパングの騎士は驚くほど手先が器用だと言うが、スケサブロウほどの弓の手練れはそうはいまい。しかも速い。よろめいた軍馬の胸に、立て続けに2本の矢が刺さる。

 残った二人のロシア騎士はすぐにきびすを返し、逃走を始めた。この思い切りのよさも西方では見られないものだ。わざと雪を蹴立て、白い煙幕をはって2騎の軍馬が駆ける。


「逃がすかよぉっ!」


 私の脇を追い抜いて、ダーナが奔る。

 赤き死の女神。

 ロシアの騎士から、ダーナはそう呼ばれ、恐れられていると聞いた。

 そう。確かにダーナは強い。

 けれど。


「よせ、グスター! 深追いはするな!」

「聞けねぇなぁっ!」


 ダーナが両手斧を手に跳躍した。


「その首っ、もらったぁっ!」


 ぶんっ!


 重い風切り音がした。左を走る軍馬の首がはねとんだ。残った胴体がどう、と横倒しになる。その身体に邪魔されて、ダーナがたたらを踏む。その隙に、生き残った軍馬は森の中へ逃げ込んでいった。


「ちっ。逃がしちまったか」


 木々の間に消える騎士を見やりながら、グスターがいまいましげに舌打ちした。


「なぜ追った。罠が仕掛けてなかったから良かったようなものの。何かあったら命取りになるところだぞ」


 私はグスターを叱責した。


「そうじゃねぇよ。これだから貴族のおぼっちゃまは……」

「グスターは恐れていたのでござるよ」


 弓を持ったスケサブロウが近づいてきて言った。


「何をだ?」

「ここにいる軍馬が我ら三騎しかいない事がロシア軍にばれてしまう事をでござる」


 私ははっとした。自分の迂闊さに歯がみする思いだった。

 そうだ。冬になり、すでに攻守は逆転していた。

 冬になる寸前、我が軍はロシアの首都、モスクワを陥落させた。しかし、ロシア皇帝はモスクワに火を放ち、さらに東へと逃走した。だが、補給線ののびきった我が軍にそれを追撃する力は残されていなかった。

 そして今なお戦争は終わるきっかけを失い、ずるずると続いている。


「さてと」


 グスターがダーナから降りた。雪を蹴立てて己が首をはねた軍馬へと駆け寄る。ふだんは横の物を縦にするのもおっくうがる男だが、戦場では驚くほどに機敏に動く。


「おい、生きてるんだろう。出てきやがれ」


 グスターが軍馬に向かって大声で怒鳴る。もちろんロシア語だ。グスターは自分の名前の綴り以外は読み書きもできない男だが、しゃべり言葉にはやけに堪能である。あちこちを放浪している間に自然に覚えたのだという。

 反応はなかった。だが、ロシアの騎士が中で息をひそめている様子なのは、気配で分かった。


「ち、しかたねぇ。フェリックス。ハッチをひっぺがしてくれ」

「わかった」


 私はディガールのランスを背中に掛け、倒れた軍馬を足で踏んだ。ハッチをつかみ、引き剥がそうとする。

 その時、発条仕掛けのハッチがばん、と開いた。中から小柄な騎士が飛び出してくる。小刀を持ち、腰だめにして頭上からグスターへと飛びかかった。


「なめるなあっ!」


 グスターの長い足がぶん、と弧を描いた。雪をはねとばし、重いブーツが横からナイフを持った手を蹴る。ナイフが弾き飛ばされる。体勢を崩したロシア騎士の胸ぐらをつかむと、背中と腰をつかって背負い投げを打つ。ばすん、地面に叩きつけられたロシア騎士が雪煙に覆われる。スケサブロウ直伝のジュウジュツだ。いかに下が雪でも、受け身を取らなかったのだからかなりきいているはずだ。


「グスター、殺すな!」


 血の気の多いグスターは、自分に刃を向けた者に容赦がない。

 けれどもグスターは、私の危惧をよそに奇妙な表情で地面に大の字になって呻いているロシア騎士を見つめていた。


「まいったな……」


 グスターはロシア騎士がかぶっている毛皮の帽子をひっつかんだ。ぐい、と抜き取る。

 ばさり。

 帽子の下に詰めてあった金色の髪の毛がこぼれ落ちた。


「女かよ」


 グスターは途方にくれた声で言った。

 農家に戻った我々は、椅子に縛り付けた捕虜の女騎士を前に顔を見合わせた。年の頃は17、8であろうか。頑固そうに口をへの字に曲げていなければ、それなりに可愛い顔立ちである。


「私はフェリックス・タービナル騎長だ。貴公の名前は?」


 先ほどから何度となく口にした台詞をもう一度繰り返す。


「……」


 女騎士は歯をくいしばって私を睨みつけるだけであった。捕虜となってから、彼女は一言も口をきかなかった。


「フェリックス、諦めろ。この女はしゃべりゃあしないよ」

「そうはいかない」


 そう言ってから、私はグスターがロシア語でしゃべっているのに気づいた。


「どうせだ。歩兵の連中にこの女をくれてやろうぜ。あいつら、女に飢えてるから喜ぶぞ」


 女騎士の瞳に軽蔑の色が浮かんだ。私は心苦しいがグスターの芝居に付き合う事にした。


「そうだな。そうするか」

「その前に俺達で味見をするのも悪くないな。こいつはなかなかのべっぴんさんだ」


 きししと笑いながらグスターが女騎士の顎をつかんで値踏みをするような目で見た。わきわきと動く指が彼女の胸に近づく。

 むかむかむかむか。

 私の胸の中に黒いもやもやがわき上がった。


「やめろ、グスター!」


 私は思わず叫んでいた。グスターがびっくりした顔になる。


「は? こら馬鹿っ、これは──」

「よすでござるよグスター」


 スケサブロウが落ち着いた声で言った。いつの間にか三人ともドイツ語に戻っている。


「お前まで何言ってるんだ」

「この女性にょしょう、辱めを受けたら死ぬ気でござる」

「いや、だからだな」

「脅すだけというのでござろう? やめておくでござるよ。脅しがきかなかった場合、引っ込みがつかなくなるのは目に見えているでござる」

「じゃあどうしろってんだ」

「この娘は死兵でござる。生き恥をかかせるべきではござらん。すみやかに首をはね、主の御許に送るのが武士もののふの道というものでござる」

「待て。なんかそれって間違ってるぞ」


 グスターが眉間に指をあてて言う。


「その異人の言う通りだ」


 それまで黙りをきめこんでいた女騎士が初めて口を開いた。きれいなドイツ語だった。


「殺すがいい。あの人を殺したように」


 憎悪をこめた視線が私たちに向けられた。『あの人』というのが彼女にとって特別な人間である事は、容易に想像がついた。


「はっ。なるほどね」


 グスターが腰の短剣を抜いた。


「待てっ」


 止める暇もあればこそ。

 グスターの短剣が女騎士の服を切り裂き、白い豊かな胸を露わにした。

 ぶちり。

 胸の谷間に揺れていたペンダントをグスターが引きちぎった。女騎士の顔色が変わる。


「返せっ!」

「やだね。お前さんが死ぬっていうなら舌をかむなりなんなり勝手にしろ。だがこいつは俺がもらう」

「返せ。それは、そのペンダントはっ──」

「ふん。安物だな。こいつをお前にプレゼントしたのはよほどのケチだな。それとも他に女がいてそいつに貢いでいたか」

「あの人を侮辱するなっ!」

「うるさいメス豚だな。もうお前に用はないからさっさと死ね」


 グスターは再び短剣を振るい、女騎士を縛ったロープを断ち切った。女騎士に短剣を突きつける。


「死体を片づけるのも面倒だ。どっかへ行って死ね。それともこの短剣に身を投げて死ぬか」

「ペンダントを返せ」

「そんなに返して欲しかったら戦場で俺を殺せ。俺はロシアにいる限り、このペンダントをこうして持っている」

「……その言葉、忘れるな」


 女騎士は身を翻して農家から飛び出していった。

 私は混乱したままその様子をながめているしかなかった。スケサブロウがのっぺりとした顔に柔らかい微笑みを浮かべた。


「さてもグスター殿は情が厚うござるな」

「なんの事だ」


 グスターがぶすっとした表情で言う。


「あの娘はこれで目的ができ、石にかじりついてでも生きようとするでござろう。おぬしを殺し、ペンダントを取り戻すために」

「そんな事ぁ知らないね。このくらいの戦利品がなきゃやってけねーだけだよ」

「安物のペンダント一つがでござるか?」

「うるせぇな」

「グスター、その……」

「なんだい隊長殿よ」


 ぎろりとにらまれる。

 誉めたいのだが、そうするとグスターはさらに荒れるだろう。

 私はどん、と胸をたたいた。


「まかせろ」

「へ?」

「あの女騎士が復讐の刃を向けてきたとしても、私とスケサブロウがそばにいる。お前は一人ではない」

「あ……ああ……」


 グスターは少し毒気を抜かれた表情で答えた。

 スケサブロウがぽんぽん、とグスターの肩を叩いた。


「背中はまかせるでござるよ」


 ここは東部戦線。

 生きて故郷に帰れるかわからぬ戦場に、私はいた。頼もしい戦友と、我が軍馬、ティガールと共に。

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