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英雄の称号 ~Title of Hero~  作者: 橘花 疾風
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-第8章 第442連隊戦闘団 442nd Regimental Combat Team-

西暦2220年5月15日

惑星「アルシャディール」

統合連邦軍 先進兵器開発技術(しょう) 歩兵戦訓練開発センター


アンドリューは、講壇の中央にある演台の前に立っていた。

そこに据え付けられたマイクの向こうには、1000人の兵士達が真剣な眼差(まなざ)しをこちらに向けている。

訓練課程を突破した精鋭達だ。

今日ここで、彼らは宙間(ちゅうかん)機動歩兵となる。


「諸君、今日ここに集っている君達は、18週間に渡る過酷な選抜過程を耐え抜き、選び抜かれた精鋭だ。諸君らを(ひき)いる立場として、心より誇りに思う。諸君達はこれより、第442連隊戦闘団として編成されることとなる」


と、声を張って語りかける。

マイクを通して増幅された声が、講堂に隅々まで響き渡る。

若干の反響音が残る以外は、静寂(せいじゃく)がその場を支配していた。


「君たちは宙間機動歩兵として、この戦争を終わらせる切り札として、戦地に赴くこととなる。私が君たちに下命(かめい)する作戦は、困難極まりないものだ。多くのものが傷付き、命を落とすだろう。たとえそうだと分かっていても、私は君たちに命令しなければならない。人類の為に。諸君らの帰りを待つ、守るべき人々の為に、死地(しち)(おもむ)けと命令しなければならない。指揮官として、私が戦地に(おもむ)くことは出来ない。諸君らと共に行けないのが、非常に残念だ。だが忘れないで欲しい。どんなに離れていようとも、心は常に諸君らと共にあることを。」


ゆっくりと、力強く、言葉の一つ一つを届けるために。

アンドリューは語る。彼を見つめる二千の瞳に向かって。


「君たちが(かん)する部隊番号、第442連隊戦闘団。そして、その中核たる第442歩兵連隊。君たちは、その歴史を学んだことがあるだろう。今から278年前、第二次世界大戦の事だ。敵性国家の血を引く者として、アメリカで迫害(はくがい)されていた日系人を集めてこの部隊は編成された。スローガンは『Go For Broke。当たって砕けろ』。彼らは国家への忠誠(ちゅうせい)と国民としての誇りを示す為、過酷極まりない戦場に身を投じた。その過酷さは、()べ死傷率314%という数字が物語っている。彼らは、甚大(じんだい)なる犠牲を出しながらも戦い続け、時の大統領であるトルーマンが、『諸君らは、敵のみならず偏見とも戦い勝利した』と(たた)える程の功績を挙げるまでになった。」


ここで一度、言葉を切り、こちらに眼差(まなざ)しを向ける兵士達をぐるりと見回す。


「私は、今回の作戦を行うにあたり、彼らの精神に(なら)うことにした。自らの尊厳(そんげん)と誇りの為に、困難な闘いに(おもむ)いた彼らを、我々も見習おうではないか!二世紀以上も前に(あらが)った彼らのように、どれほど困難な(たたか)いになろうとも、守るべき人々の為、人類の尊厳(そんげん)と誇りを奴らに示す為、我々は立ち上がる!たかが数字かも知れない。だが、我々の冠する442の数字は、どれだけ苦境に(おちい)ろうとも、立ち上がり抗い続ける不屈(ふくつ)闘志(とうし)の象徴だ!人類を蹂躙(じゅうりん)し続けるアルテリアン共に、人類の底力(そこぢから)を見せ付けるのだ!」


演台を握る手に力を込め、息を大きく吸い込みながら、(なお)も続ける。


「精鋭たる海兵の諸君!人類は決して屈しない!立ち向かい続けるのだという事を奴らに(しめ)すのだ!彼らと同じスローガンの下に!死力(しりょく)を尽くせ!Go For Broke!諸君らの精強さを見せてやれ!いいな!」


最後の言葉を(つむ)ぐと同時に、天高く握った拳を突き上げる。

その言葉に呼応するかのように、アンドリューに視線を集めていた兵士達から力強い雄叫(おたけ)びが放たれる。


「センパーファイ!常に忠誠を!」

『センパーファイ!常に忠誠を!』

「Go For Broke!当たって砕けろ!」

『Go For Broke!当たって砕けろ!』

「やってやれ!ウーラー!?」

『ウーラー!』


そのフレーズ(ごと)に力を込めて、拳を振りかざす。

熱の(こも)った演説で、アンドリューの(ひたい)からは一筋の汗が流れ落ちた。

彼に向けられたスポットライトに照らされながら、彼は最後のフレーズを(つむ)いだ。


「以上、諸君の健闘(けんとう)に期待する!」


握っていた拳を(ほど)き、敬礼する。

講堂には、力強く打ち付けられる(かかと)同士のザッという音が人数の分だけ響き渡る。

先ほどまでの喧騒(けんそう)から一転、張り詰めた静寂が辺りを支配する。

乱れの無い敬礼を返す兵士達をゆっくりと見回す。

左から右へ。

その精悍(せいかん)な顔付きが精鋭の風格を(ただよ)わせている。

そんな中、中央からやや左、前列から3~4列奥の位置に居る一人の兵士に目が止まった。

周囲と相違(そうい)無い程にきっちりとした敬礼を返しているものの、彼の瞳は周りに居る兵士達とは違った。

周りの兵士よりも深く、暗く見えるその瞳は、何度も死地(しち)(くぐ)り抜けてきた者の目だった。

彼の顔を見てすぐに、アンドリューの記憶が掘り起こされる。

選抜を通過した兵士のファイルに目を通した時、気になる兵士が居た。

不幸な死神と呼ばれているその兵士は、数々の戦いに参加し、部隊が壊滅に近い損害を(こうむ)りながらもしぶとく生き残っている歴戦の兵士だった。

彼の瞳は、力強く、静かにアンドリューを見据(みす)えていた。

どうしても気になってしまう彼の瞳から視線を外し、講堂の兵士達を再び見渡す。

端から端まで見回した後、敬礼を()き、(きびす)を返して舞台(そで)へと向かう。

講壇の床にカツンカツンと響くアンドリューの靴音だけが、響き渡った。

舞台袖に下がると、暗闇がアンドリューを包み込む。

熱と眩しさを感じるスポットライトから開放されたが、急に暗くなったことで一時的に視界が奪われる。


「大佐、お疲れ様です。良い演説でした」


ボトルを差し出しながら声をかけてきたのは、連隊戦闘団司令(つき)上級曹長のイアン・クレイパーだ。


「ありがとう」


と、受け取りながらキャップを(ひね)り、乾いた(のど)へ水を流し込む。

乾ききった咽が潤いに満たされ、染み渡るように体内へと水が消えていく。

イアンにボトルを返すと、代わりにハンカチが差し出される。

暑く感じるスポットライト、熱の(こも)った演説、アンドリューの身体はランニングをした後のように火照り、額からはじわりと汗が(にじ)み出ていた。

その用意の良さに、この男の凄さの片鱗(へんりん)が伺える。

彼の未来を見通すかのような先読み能力は、感心を通り越して不気味だと感じたこともある程に凄い。

まるでこちらの思考が全て読まれているかのような振る舞いをするのだ。

一度だけ彼に、「どうしてそこまで分かるんだ?」と尋ねた事がある。

その時彼は、「観察です。相手の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそく全てに気を払う。それだけです」と言った。

赤みがかった茶髪を軍人らしく短く刈り上げ、銀色のフレームが光る眼鏡を掛ける彼は、知的な雰囲気を(かも)し出す27歳の好青年。

4年前、アンドリューの指揮する大隊に配属されてきた彼は、周囲とは一線を(かく)す程の秀才だった。

彼の先読み能力を見て、アンドリューはイアンを隊長(つき)参謀(さんぼう)抜擢(ばってき)した。

442連隊の団司令に任命される時も、イアンの司令付参謀としての転属を条件にした程だ。

彼から受け取ったハンカチで額を流れる汗を拭う。

眼鏡の山を人差し指で押し上げ、ズレを直した彼は、爽やかな声で呟いた。


「いよいよ一週間後ですね。あの話を最初に聞いた時は、眉唾物(まゆつばもの)のように思いましたが、今の我々にはこれに賭けるしかありませんから。彼らに託しましょう。命運を」

「ああ、そうだな。彼らに」


ちょうど一年程前、アンドリュー達が聞かされた話は、あまりに突拍子も無い話だった。

しかし、そこから人類史上最大の反攻作戦、「ブレイブソード作戦」が計画され、今から一週間後の5月22日、決行に移される。アンドリューの率いる第442連隊戦闘団は、その中核戦力であり、作戦の(かなめ)を担う部隊となる。7日後、そこで全てが決する。

人類が滅ぶのか、生き延びるのか。

アンドリューの脳裏(のうり)には、一年前のあの時の話が鮮明に焼き付いていた。


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[一年前]

西暦2219年5月4日

惑星「地球」

統合連邦政府ビル 防衛総省統合参謀本部 情報部作戦計画局


そこは、窓の無い密室だった。

その場には、陸海空海兵隊の様々な部隊の指揮官とその副官や参謀(さんぼう)が集められていた。

春も終わりに近付き、外は日に日に気温が上がりつつあったが、アンドリューが呼び出されたその部屋は、冷房が効きひんやりとしていた。


「皆さん、お集まり頂き、ありがとうございます。情報部作戦計画局のフランク・エプシュタインです。本日お集まり頂いたのは、上層部にて決定された一大反攻作戦であるブレイブソード作戦についてご説明するためです」


と、眼前(がんぜん)の学者のような男は語った。

統合参謀本部情報部作戦計画局は、統合連邦軍における情報機関の最上位組織であり、戦略級の作戦要綱(ようこう)策定(さくてい)なども行う部署で、言ってみれば統合連邦軍全体の頭脳とも言える部署だ。


「反攻作戦?勝機があるってのか?艦隊戦や航空戦ならまだしも、陸上戦は劣勢なんだぞ?技術レベルではまだ拮抗(きっこう)出来ても、物量差はどうにもならん。今までも、奴らの物量に押されて負けるケースが多いだろう」


と、真っ先に疑問をぶつけたのは海軍第2艦隊司令官であるケニス・ウォーデン大将。

それに対し、フランクの述べた回答はこうだった。


「分かりません。正直言って、厳しいでしょう。しかしながら、人類はこれに賭けるしか無いのです」


作戦を提示する側ですら、望みが薄いと言わざるを得ない作戦。

その言葉に、アンドリューは息を()んだ。


「なるほど、一か(ばち)かの大博打(おおばくち)って訳だ。やってやろうじゃねえか」


と豪快に言ってのけたのは陸軍第4軍司令官ニック・ホールデン大将だ。

この会議に呼び出された面子は錚々(そうそう)たる顔ぶればかり。

軒並(のきな)み将官クラスが集まっており、佐官であるアンドリューは思い切り場違いのような違和感があった。


「ではまず、作戦の説明に移る前に、作戦の基礎情報となるアルテリアンの研究成果からご説明します」


そういってフランクは、プロジェクターのスイッチを入れ、部屋の照明を落とす。


「我々の敵であるアルテリアン帝国。彼らの生態に、我々の常識は通用しません。彼らは、帝国と名乗っているものの、肝心の社会構造を持たないのです」


フランクの説明は、単刀直入(たんとうちょくにゅう)かつ簡潔(かんけつ)に述べられ始めた。


「彼らは、個という概念を持たない種族なのです。言ってみれば、個にして全であり、全にして個ということ。彼らは個性というものを持ちません。末端(まったん)の兵に至るまで全てが、全体の一部として動いている。すなわち、彼らはアルテリアン帝国という集合体ではなく、アルテリアンという一つの生物なのです」


彼の始めた説明は、あまりに突飛(とっぴ)なものだった。


「一つの生物?どういうことだ?」


当然、そのような質問が出る。このときは、ケニス司令がその声を上げた。


「我々は、奴らの戦闘時の挙動(きょどう)をずっと解析してきました。その結果、一つの不可解な事実に辿(たど)り着きました。それは、奴らを各個体の集団として考えた場合、その反応速度が説明出来ないということです。戦場において奴らの軍勢はその全てが、ほぼ瞬間的に反応を見せます。集団全体の反応速度の波及(はきゅう)を見ると、光速よりも速いことすらあるのです」

「それは確かに、不可解だな」

「そうです。奴らが個体の集合体であり、我々のように個々に連絡手段を持った群体(ぐんたい)であると仮定した場合、その反応速度が不自然なのです。そこで、我々は考えを変えることにしました」

「それが、奴らは全体で一つの種だという答えか」


ケニス司令は今の説明で納得したようだが、ニック大将はそうではなかったようだ。

正直なところ、アンドリューもまだ理解が完璧とは言えなかった。


「なんだ?どういうこった?」


と、ニック大将が聞き直す。

フランクはこうなることも予期していたかのように淡々と続けた。


「先ほど話したように、奴らが個体の集合体であると仮定した場合、その群体(ぐんたい)の戦闘時の反応プロセスは、我々と同様になる可能性が高いと思われます。つまり、いずれかの個体が得た情報を別の個体に反映(はんえい)させる為には、なんらかの連絡手段を用いての伝送(でんそう)が必要となります。我々のように、無線などの波長(はちょう)通信を用いている場合、その波及(はきゅう)速度は光速を超える事はありません。また、量子(りょうし)もつれ状態の通信機と仮定しても、携帯可能なサイズであれだけの規模の意思伝達を維持することも不可能です」


と、フランクは説明した。確かにその理論は理に適っている。

光速は、宇宙において最高速とされる速度であり、その速度を超えて反応が波及(はきゅう)するのは理論上不可能と言える。厳密(げんみつ)には不可能ではない事も無いのだが、超光速での情報伝達は一対多では行えない。それは、量子もつれ状態を利用した伝送であるからだ。

量子もつれとは、量子同士が相互にもつれ合った状態のことで、どれだけの距離を(へだ)てようとも(つい)になった量子の状態がもう一対(いっつい)に反映される。つまり、片方の量子に意図的(いとてき)に変化を加えれば、何光年何十光年離れていようとほぼ瞬間的にペアとなったもう片方も変化する。

量子もつれ通信機はこの仕組みを利用した通信装置だ。

しかし、この状態を利用した通信の弊害(へいがい)は、一対一でしか行えないということ。

十の相手と通信したいのならば十の量子もつれ状態の量子ペアが必要になり、それぞれに別個の通信装置が必要となるのだ。

数千数万の個体同士で相互通信が可能なレベルの量子もつれ通信網を構築すれば、それはとても持ち運べるサイズでは無くなってしまう。

だからこそ、アルテリアンの挙動(きょどう)が不可解だと言える。

人類と同じように個の集合体であるならば、光速を超えた意思伝達をあれだけ大規模に行うのは物理的に不可能だ。

そう考えると、フランクの一つの種であるという説もあながち的外(まとはず)れとも見えなくなってくる。

アンドリューにはようやくフランクの言いたい事が見え始めた。

前列では、未だにちんぷんかんぷんなのかニック大将が首を(ひね)っているのが見えた。

しかし、再び説明の追撃(ついげき)を始めようとしたフランクの動きをニック大将は片手を挙げて制した。


「もういい。分からんことは分かったから、先に進めてくれ」

「分かりました。では、進めさせて頂きます。今言ったように、奴らが個体であるとする考えは不自然です。しかし、個体ではなく全体として一つの集合体であるとすれば、全ての個体が同じ思考と経験を共有しているのだとしたら、全てがなんらかの方法でリンクされたものであるとすれば、説明が付くのです。そこで我々が立てた仮説は、全ての個体はただの端末でしかなく、全体をコントロールする脳の役割を果たす集合体がいるのではないかというものです」


さっきまで見えそうだった話が、急激に彼方(かなた)へと遠ざかって行くのをアンドリューは感じた。

あまりにも壮大(そうだい)な話だったからだ。

すぐ後ろからメモを取るカリカリという音が聞こえ続けている。

音の近さから、イアンのメモだと分かった。

これは、帰ったらイアンに授業を受けなければなと思いつつ、アンドリューは話を追うことにした。


「我々は、この仮説に基づいてアルテリアンの個体の捕獲と分析を実施しました。その結果、今の仮説が(おおむね)ね正しいという確証を()るに(いた)りました。今からお話するのは、奴らの社会構造です」


そう言うと、フランクはポインタを使ってプロジェクターから映し出されるスライドを進めた。

そこには樹木のような相関図(そうかんず)が描かれていた。

フランクは、中央下に描かれているイラストをポインタで指し示す。

地上で戦う兵士が最も多く相対(あいたい)する奴らの姿。

昆虫のような見た目をした個体だ。


「アルテリアン陸上戦力の主力たるこちらの個体、これを以後インディα(アルファ)と呼称します」


そう言うと、そのイラストの下にインディαという吹き出しが現れる。


「これらインディαの個体を捕獲し調査した結果、体内から量子もつれ通信機と同様の機能をもつ生体器官が発見されました。また、インディαの解剖結果から、各個体には視覚や聴覚のような感覚器官は存在するものの、脳にあたる中枢神経系は確認出来ませんでした。インディαの神経系は先の量子もつれ通信を行う生体器官に直結しており、そこからの伝達情報によって身体が動くのです」


フランクの説明に合わせ、眼前(がんぜん)のスライドがインディαの生体解剖(かいぼう)図に移り変わる。

ここまで行くと、もう分からなくなってくる。

ニック大将始め、この場に集まっている指揮官達の多くが(うな)りを上げ、

彼らの副官や参謀達が必死になって理解しようとペンを走らせる音が聞こえてくる。

幸いなことに、アンドリューの後ろから聞こえる音は単調にカリカリと聞こえており、イアンの持つ余裕さが感じられた。こういう場面こそ、イアンの真価が発揮される場だ。

いかに難解な話であろうが、分かりやすい話に()み砕いて説明出来る。

まさしく秀才という言葉が似合う男だろう。

部屋の中の大多数が首を(かし)げる中、ケニス司令は付いていくことが出来たようだ。


「ふむ。要はラジコンのような生物だと言う事だな」

「その通りです」


理解されたことに安堵(あんど)したのか、フランクの声が少し低くなる。

ケニス司令の言葉で急に身近な例えに引き戻されたことで、多くの指揮官達の理解が追いついたようだ。


「なんだ、だったら最初からそう言えよ」


と、ニック大将が大らかに笑う。


極力(きょくりょく)分かり易いように努力はしたのですが・・・」

「んなもん分かるかよ。俺らは戦争屋だぞ?学者じゃねえんだ」


ニック大将の返しに周囲が頷く。

周囲の指揮官は口を開いていないので分からないが、ニック大将は現場タイプの指揮官であるようだ。

彼の豪快な口調は場の雰囲気を硬くせず、適度に緊張感を和らげるのに一役買っている。

先ほどまで硬い話が続いていたが、彼の言葉でリセットされてしまった。


「まあまあ。で、続きは?」


と、ケニス司令が本筋に戻す助け舟を出す。


「はい。複数の個体の分析結果を総合した結果、インディαの持つ量子もつれ通信機構のペアとなる量子ユニットは、一つの地点に集約される事が判明しました。この集約地点が、全ての個体への情報送信と指令を司る脳の役割を果たすのです。そのため、全ての個体が時間的な差も無く瞬間的に反応する。言ってみれば、我々が相対する個体は細胞です。脳からの命令伝達によって動くユニットでしかありません」

「俺らはロボット野郎と戦争してたってのか?そりゃ撃っても撃っても居なくならねえ訳だ」

「いえ、ロボットではありません。奴らの個体は生体ですので、あくまで生体端末の一部に」

「んなこたぁどうでもいい。要はその脳みそをぶっ叩いちまえば奴らは全滅するんだろ?」

「早い話がそうなります」

「なら最初からそう言えよ。回りくどい話せずにそれでいいじゃねえか」

「しかし、順序というものが・・・」

「俺たちに必要なのはどうやったら勝てるのか?だ。奴らがロボットだろうが細胞だろうがどうでもいい」

「ニック、それはいくらなんでも端折(はしょ)りすぎだろう」

「んだよ、ケニス。俺は回り道は苦手なんだよ」

「それは指揮官としてはどうなんだ?」

「んなこたぁ、部下のもっと賢い奴らが考えるこった。俺は最前線で戦う奴らが思う存分暴れられるようにするのが仕事だ」

「まったく、お前って奴は・・・」


と、話が盛大に()れ始める。

ニック大将が今の話を要約し、上手く(まと)めたのにも驚きだが、ケニス司令とニック大将の掛け合いに周囲が目を点にしている。

まあ、大将クラスともなれば軍種の垣根(かきね)を越えた場で知り合う事も多いから、知り合いでも不思議ではないが、正反対と思われた二人がこのような会話をするとは思わなかった。

この会話に話が逸れ、空気が()まれる中、フランクが咳払いをしてなんとか元に戻そうとする。

何度目かの咳払いでようやく落ち着きが戻り、話が再開された。


「先ほども述べたように、奴らの中枢である脳にあたるもの。これをブレインと呼称します。我々が勝利するには、このブレインをなんとしてでも破壊しなければなりません。我々はその為の作戦を立案し、統合参謀本部による承認を二日前受けました」


長い前置きであったが、ようやく本題が始まろうとしていた。


「それではこれより、ブレイン破壊作戦。『ブレイブソード作戦』の説明に移らせて頂きます」


フランクは気合いを入れなおすかのように眼鏡の山を押し上げる。

その場に居る全ての指揮官の目が、退屈な授業を聞く生徒の目から軍人の目へと移り変わった。


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