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英雄の称号 ~Title of Hero~  作者: 橘花 疾風
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-第18章 翼の背負う物 Those Burdened Wings-

DCジャンプ ジャンプスペース内

目標地点 クレメス・シグマ星系恒星ディスペール6番星「フロラーナ」極周回高軌道帯戦闘宙域


狭いコクピットの中に、無線をコールする電子音が鳴る。

母艦である戦略航空輸送艦リベルテラスのブリッジからコールされた通信だ。


『ブリッジよりアレス、ヘルメス、アルテミス各隊。ジャンプアウトまで180秒。ジャンプアウト後、すぐにパージする。準備は良いか?』


聞こえてきたのは、リベルテラスのFH:ファイターハンドラーの声。

貫禄(かんろく)を感じさせる聞き心地(ここち)の良い低音が、無線機から伝わってくる。


『アレスリード、レディ』

『ヘルメスリード、レディ』

『アルテミスリード、レディ』

『こちら442アルファチーム。リードより各隊。君達が頼りだ。宜しく頼む』

『ヘルメスリードよりアルファチーム。安心しろ、俺達は空軍最強と(うた)われし、第101戦術飛行隊だぞ?』

『おいサフラン、そいつは(ほとん)どセイバーのおかげじゃないか』

『俺の部下を当てにせず、実力でそう(うた)えるようになることだな。なあ、サフラン』

『まったく、お前らは俺のオカンとオトンか。え?』

『ブリッジよりリード各機、そこまでだ。帰りの(めし)抜きにされたくなければ、お喋りは(つつし)むんだな』

『おっと、ママから雷が落ちてきたぞ』

『雷は落としたが、男の俺にママとは(ひど)いな。パパと呼んで欲しいもんだね』

『ここのボスはなかなか話せるじゃないか。それじゃ、パパからのお仕置き予告だな』

『その辺にしとけ。俺が冗談で済ましている間にな』

『はいはい、分かったよ』


ジャンプアウトを前に、ブリッジとリード達の間で軽口(かるくち)が飛び交っている。

渦中(かちゅう)のセイバーことトニー・マクダウェルは、薄暗いコクピットの中でただ無線を聞いていた。

キャノピーは、ジャンプアウト時のフラッシュアウトを避けるために遮光(しゃこう)モードとなっており、全く視界が無い状態で、非常につまらない。

第一戦闘航空団第101戦術飛行隊の各機は、輸送艦とドッキングし、戦域(せんいき)へと向かっている。

空軍の戦闘機は、単独でDCジャンプを実行する能力も無ければ、艦艇内に着艦収容(ちゃっかんしゅうよう)が出来るような機体構造になっている訳でも無い。

その為、遠く離れた戦域(せんいき)へと進出する時は、海軍や海兵隊の輸送艦に張り付くようにドッキングし、輸送艦のDCジャンプに便乗(びんじょう)するのだ。

外殻(がいかく)所狭(ところせま)しと並び、肩を寄せ合うように見えるその光景は、樹液(じゅえき)(むら)がる昆虫のようだと揶揄(やゆ)される。

見た目的には不格好(ぶかっこう)ながら、実はそれなりにメリットが多い。

惑星近傍(きんぼう)における制空制宙戦闘を主目的に設計されている空軍機は、対艦攻撃や艦隊直掩(ちょくえん)といった局所的(きょくしょてき)作戦を目的とした海軍機よりも大型で、基本スペックの全てにおいて(まさ)っている。

トニーの()る愛機である[CAF-501D/S レーヴァテイン]は、大気圏内外を問わず、敵機を撃墜することに特化した空間支配戦闘機だ。

艦艇内に収容出来ないが、大きな戦力たる空軍機を輸送するには、この方式が意外と効率が良いのである。


『リードよりアレス3、セイバーへ、感度チェック。聞こえているか?』

「セイバーよりリード、感度良好。さっきの軽口(かるくち)も全部聞こえてます」

『聞こえてるならお前も何か言えよ。相変わらずこういう会話は苦手だな』

「口で踊るのは貴方(あなた)達のステージでしょう。飛ぶことだけしか(のう)が無い俺は、空で踊るだけで十分です」

『エース様の言うことは違うねぇ。カッコイイもんだ』

「切りますよ」

『ああ、待て待て。悪かった』

「で、本題は何ですか?」

『今回の作戦、お前が(かなめ)だ。バディはいつも通り、トリガーを回す。頼りにしてるぞ』

「ラジャー」


アレスリード、TACネーム「アップル」ことクライン・シードルは、トニーにそう告げた。

パイロットにおけるバディとも呼べる僚機(ウィングマン)は、実力と思考が高度にシンクロした

存在であれば、非常に大きな戦力となる。

アレス4・トリガーことアレクサンドル・シュペールは、アレス隊の中で最も長くトニーと飛んだ経験を持つパイロットで、彼以上のウィングマンは居ないだろう。


『ブリッジより全機。まもなくジャンプアウトだ。ミッションレディ』

「チェック」

『5、4、3、2、1、ジャンプアウト』

『Jump Out Complete Confirm.All System Green.Standby.Canopy Shade Unlock.(ジャンプアウト確認。全システム正常。スタンバイ。キャノピー遮光(しゃこう)解除)』


ICSIS(イクシズ)によるコールと共に、キャノピーの視界が晴れ上がる。

視界の広いバブルキャノピーに飛び込んできたのは、()てつく白い星とその星をバックに激戦(げきせん)()り広げる艦隊の閃光(せんこう)だった。


『全機、パージを開始する。パージ後はFTCSにコンタクト、指揮下に入れ。幸運を祈る』


視界が開けてから数秒も経たない内に、FHからの指示が下る。

その直後、艦の後方から飛行隊各機のパージが開始されているのが見える。

飛行隊全48機が所狭(ところせま)しとドッキングしている状態で、相互に干渉(かんしょう)せず安全なパージを行う為には、艦後方から分離する必要があるからだ。

後部から3列目のトニーも、まもなくパージが開始されるだろう。


『アレス3、パージを開始する。グッドラック』

「アレス3、了解。ディスコネクト」


その言葉と共に、計器のコネクションパージコックを捻ると、低い重低音を響かせて艦の外殻(がいかく)に接続されていたコネクションアンカーが外れ、機体が開放される。

自由になった愛機の翼は、星の光を反射して(きらめ)き、どこか嬉しそうに見えた。

ゆっくりと操縦桿を引き、(ゆる)やかにピッチアップ。

左手に握るスロットルレバーを前方へ押し上げ、エンジン出力を上昇させる。

(かす)かな(ふる)えと共に、機体は加速を始め、視界の隅では輸送艦群が急速に遠ざかっていく。

船団としてジャンプアウトした各輸送艦から空軍の戦闘機部隊が分離し、徐々(じょじょ)に編隊を形成するその光景は、まさしく壮大(そうだい)の一言に尽きる。

数百の翼が揃い、共に飛ぶ光景は、これから激戦(げきせん)の幕が上がることを感じさせるには十分だった。


『Ares Lead To All Wings.Point 3-3-0,Speed Scale 2-0,Beacon Active.Formation Delta.(アレスリードより各機へ。ポイント3-3-0、スピード2-0、ビーコン発信。デルタ編隊)』

「アレス3、Roger(ラジャー)


リードからポイント3-3-0、速度2.0km/sでリード機のビーコンを目標にデルタ隊形で編隊を組めという指示が飛ぶ。

指示されたポイント付近に視線を振ると、右旋回しながら僚機(りょうき)の集結を待つリーダー機のビーコンが、HMD上にオーバーレイされて表示されていた。

先に離艦(りかん)したアレス2がそちらへ近付いていくのも見えている。

操縦桿をやや左に倒して(かん)旋回しながら、リード機に機首を向けると、スロットルを少し強めた。速度スケールが2.2km/sを超え、リード機との距離はぐんぐんと縮まっていく。

ビーコンは急速に強く、大きく反応を示すようになり、HMD上の表示もそれに呼応(こおう)して大きくなっていた。

右旋回するリードと、それに合流したアレス2が形作る編隊の左側をすれ違うと、スロットルを落とし、操縦桿を右手前に強く引いた。

愛機の機首は、(するど)()ね上がり()を描く。

インメルマンターンを応用した機動でリード機の後方に遷移(せんい)すると、速度を合わせて編隊に加わった。

その後、1分程度で残る11機も合流し、一個飛行隊16機全機が揃った編隊が出来上がった。

全機が揃った頃、無線の呼び出しが鳴る。

前線における戦闘機部隊の管制を行う「前進戦術管制船(Forward Tactical Control System:FTCS)」からの通信だ。


『This is FTCS DrainStorm,ATC Grim To Ares team.Read check.(こちらFTCSドレインストーム、ATCグリムよりアレス隊へ。感度チェック)』

『Ares lead To Grim,loud & clear(アレスリードよりグリム。感度良好)』

『Ares team.Bandit is too many.Let's go speedily(アレス隊。敵機は多数。スピーディーに行きましょう)』

『Roger.Request Order.(了解。指示を()う)』

『Ares 13 From 16,Heading 2-2-3,Climb 1-6,Bandit count 12,Atacker.Ares13,You're lead formation.(アレス13から16へ、針路2-2-3、1-6に上昇、敵機数12、攻撃機だ。アレス13、編隊の指揮を()れ)』

『Ares13,Roger.(アレス13、了解)』

『Ares 5 From 12,Heading 1-5-0,Climb 1-3,Bandit count 12,Fighter.Ares 5,Yor're lead formation.(アレス5から12へ、針路1-5-0、1-3に上昇、敵機数12、戦闘機だ。アレス5、編隊の指揮を()れ)』

『Ares5,Copy.(アレス5、了解)』

『Ares lead from 4,Heading 1-8-4,Climb 0-2,Bandit count 16,Fighter & Atacker package.(アレスリードから4へ、針路1-8-4、0-2に上昇、敵機数16、戦闘機と攻撃機の混成)』

『Ares lead,Roger.(アレスリード、了解)』


流れるように(なめ)らかに、(まよ)いも躊躇(ためら)いも無く、このグリムという迎撃(げいげき)管制官は指示を出した。

トニー達パイロットにとって、戦場を俯瞰(ふかん)し、指示を出す彼ら迎撃(げいげき)管制官は、命綱(いのちづな)ともいうべき存在だ。

彼らの指示一つで、戦闘機隊の戦力は0にも何倍にもなる。

トニー達は、彼らと仲間の声に命を預け、(そら)を飛ぶのだ。


『Ares team All Station.Follow data link,Masterarm on,All weapons free.(アレス隊全機。データリンクを参照、マスターアームオン、全ての火器使用を許可する)』

『Lead to All Station,Break ready,3,2,1,Now!(リードより全機、ブレイクレディ、3、2、1、今!)』


リードの掛け声と共に、指示された方向へと各機が機体を()る。

その翼を(かがや)かせながら、銀翼(ぎんよく)は舞う。

彼らパイロットの命と共に…。

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