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英雄の称号 ~Title of Hero~  作者: 橘花 疾風
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-第13章 遥かなる地へ Far and Awey-

西暦2220年5月20日

惑星「アルシャディール」

統合連邦海軍 フラクール基地 第四埠頭 バースBR5

第2艦隊旗艦 エベレスト級戦艦4番艦「ローツェ」 艦橋


「ブートチェックリスト、セクタースキャン101から1023」

『Scanning Secter By 1023.Succeeded.(1023までセクタースキャン。成功)』

「エネルギーラインチェック、ルート1から18まで流路確認」

『Line Interception is Open.line Flow Check Succeeded.(遮断開放。流路確認成功)』

「データベース、レコードスキャン」

「Combat Manegement Data Base Record Scanning.Build Architecture Succeeded.(戦闘マネジメントデータベースレコードスキャン。アーキテクチャ構築成功)」


(あかり)の落とされた空間で、大勢のクルーの声が重なって聞こえ続ける。

スタートシークエンス。(ふね)の発進に必要な事前チェックを行っているのだ。

全長1.5km、全高172m、全幅96mの大きな艦体を(そら)へと舞い上がらせ、破壊をもたらす鋼鉄(はがね)怪物(ばけもの)へと変えるためには、膨大な数のチェックリストをこなさなければならない。大型高出力の動力炉、艦体にこれでもかと散りばめられた武装の数々、センサー等の監視機器、艦体の推進制御システム、火器管制システム、情報管理システムなど、チェックし管理しなければならない項目は数万に(およ)ぶ。

海軍の大型艦艇には、戦闘機乗りたちの相棒であるICSISより格段に性能の高いスマートPIM(ピム)が搭載されており、この(ふね)のものは「レクシー」という名称が付いている。

(ふね)の管理システムはレクシーの制御下に置かれており、秒間数兆という人間の手に(あま)る膨大過ぎる制御処理プロセスも、4ZFlops(ゼビフロップス)という演算スペックを持つレクシーが処理する事で(ふね)を運行することが出来る。

レクシーのようなスマートPIMは、AIに近いものではあるが、厳密にはAIではない。

[Pesudo Intelijence Manas:擬似知的精神体]という存在だ。

AI、いわゆる人工知能というものは自我(じが)を持ち、()から(ゆう)を創造出来る程に発達した高度な知能を有した存在だと定義されている。

PIMの定義は、高度な知能を有するが、自我を持たず()から(ゆう)を創造する事の出来ない存在と定義される。

すなわち、あくまで人間の指示に従って動作し、それらの指示をいかに少ない労力で最大の効果へと変換するかを思考する存在に過ぎないのだ。

軍隊というパワーストラクチャーである以上、そのパワーを行使する主導権(しゅどうけん)は常に人間に無ければならない。

AIという存在は軍隊には不向(ふむ)きなのだ。


「DCドライブシステム、座標演算チェック」

『Dimension Collapse Jump Drive System,Coordinate Operation Check.Result Error 0.0004 in Tolerance(DCジャンプドライブシステム座標演算チェック。演算誤差0.0004許容範囲内)』

「火器管制システム、照準スペクトラム誤差修正演算」

「Fire Control System,Alignment Spectrum Error Correct Plus 0.001.(火器管制システム、照準スペクトラム誤差修正プラス0.001)」

「ダメージコントロールシステム、区画チェック」

『Damege Control System All Section Response Confirmed.State Surveillance Start.(ダメージコントロールシステム全区画応答確認。状態監視開始)』

「データリンクシステム、トラフィックチェック」

『Tactical Information Data Link,Traffic Time Slot Check.(戦術情報データリンク、通信タイムスロットチェック)』


クレア・ベケット大佐は、チェックを進める部下達を見ながら、スケジュールを見ていた。

発進シークエンスの進捗(しんちょく)率は、彼女の座る艦長席のサイドディスプレイに表示されており、カウンターはもう既に90%を超え、100%に近付きつつある。


「司令、間もなく発進準備が(ととの)います。何か演説でもされますか?」


そう言って、彼女の右隣に座るケニス司令を見る。


「いや、(かま)わん。大統領の言葉があったばかりだ。彼の言葉には(およ)ばんよ」

「そうですか。分かりました」


彼の言う通り、つい1時間程前に艦隊司令部から通信が入り、大統領からのビデオメッセージが届いた。

彼の言葉は艦隊各艦に伝わり、艦内放送で流された。

モニターがある部署では、彼の敬礼までもが見られたことだろう。

執務室(しつむしつ)で撮影された映像は、何とも言えない荘厳(そうごん)さを(かも)し出していた。

彼の敬礼する姿を見たとき、クレアは鳥肌(とりはだ)が立った。

最高司令官が兵士達に敬意を(しめ)し、鼓舞(こぶ)する言葉を投げる。

歴史の中で、同じような事は数多く行われてきただろう。

しかし、それが(かも)し出す空気は(じか)に感じてみないと分からない。

少なくとも、作戦に(のぞ)むに当たって彼の言葉ほどカンフル剤になったものは無いだろうと思う。


「艦長、発進準備が整いました。指示を」


司令とは反対の方からそう呼ばれて振り返ると、副長のライアン・スミスが居た。


「ありがとう、スミス。エミール、ポートコントロールへ準備完了の報告を」

「了解。ローツェよりフラクール・ポートコントロールへ」

『コントロールよりローツェ、どうぞ』

「発進準備完了、許可を()う」

『了解ローツェ。大気圏、軌道上共に空域(くういき)はオールクリア。風速は東北東より3.2m、高層風(こうそうふう)は北北西より4.2m、気圧1032hPa、雲量(うんりょう)2、湿度は32%。飛行安全系、保安系共にグリーン。絶好の打ち上げ日和(びより)だ、発進を許可する』

「ローツェ了解、復唱します。空域はオールクリア。風速は東北東より3.2、高層風は北北西より4.2m、気圧1032hPa、雲量2、湿度32%。飛行安全系、保安系共にグリーン。発進を許可」

『ローツェ、復唱を確認した。貴艦(きかん)の航海の無事と、健闘(けんとう)を祈る。グッドラック』

「ローツェよりコントロール。通信終了、アウト」

「艦長、許可が降りました」


エミールからの交信の報告も受け、ケニスの方を()き直ると、彼は無言で(うなず)きを返した。

それを見て、彼女は自分の椅子に取り付けられている艦内放送用のマイクを取る。


「艦長より総員(そういん)(たっ)する、これよりロンチシークエンスを開始する。大気圏離脱に(そな)えよ」


そう言ってマイクを置き、レクシーに指示を出す。


「レクシー、ロンチシークエンスを開始」

『Roger.Launch Sequence Start.Weather Information Calculation Complete.(了解。ロンチシークエンススタート。天候情報演算完了)』

『Before Launch Countdown 5,4,3,2,1,0.Lift Off.(発射前カウントダウン5,4,3,2,1,0。リフトオフ)』


その言葉と共に、身体がシートにじわりと押し付けられると共に、カタカタと(ふね)が揺れるのを感じる。

(ふね)を高度300mまで上昇させる為の外部取り付け式の補助リフトアップブースターが作動した為だ。


『Altitude Count 20,40,Gear Up,60,80,100,150,200,250,Approaching Raunch Altitude.Reaching 300.(高度計測、20,40,ギアアップ,60,80,100,150,200,250,発射高度に接近。300に到達)』


レクシーの高度カウントが300に達すると共に、先ほどまでの加速度が(やわ)らぐ。

大気圏離脱の加速開始高度に到達すると、重力制御システムによって艦は高度300mに静止し、補助ブースターが切り離され投棄(とうき)される。


『All Rift Up Booster Dump Out.Atmosphere Withdrawal Sequence Start.Main Booster Ignition.(全リフトアップブースター投棄(とうき)。大気圏離脱シークエンススタート。メインブースター点火)』


その言葉と共に先ほどよりも強くシートに押し付けられる。

今度は、大気圏を離脱して第二軌道速度へと到達する為のメインブースターが点火される。

先ほどまでとは比べ物にならない加速度は、最大4Gにも(たっ)し、体重の4倍もの負荷が掛かる。

クレアは、今までに何度も味わったこの鋼鉄(はがね)咆哮(ほうこう)を、再び()()める。

これが最後になるかも知れないとの不安を、心の片隅(かたすみ)(かか)えながら・・・。


窓から見える空は、漆黒(しっこく)の度合いを次第(しだい)()()く。

(そら)をも()ける(つばさ)を得て、鋼鉄(はがね)(ふね)は星の海へと()()でる。


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