-第9章 アルテリアンの真実 Truth of Alterian-
[一年前]
西暦2219年5月4日
惑星「地球」
統合連邦政府ビル 防衛総省統合参謀本部 情報部作戦計画局
薄暗く、窓の無い部屋の中では、ブレイブソード作戦の説明が始まろうとしていた。
「先ほども述べたように、アルテリアンに勝利する為には、ブレインの破壊が必要不可欠です。そこで、我々が立案した作戦がブレイブソード作戦です」
「ちょっと待て。ブレインの所在は判明しているのか?」
「はい、量子振動トレースによるエンタングルメント座標解析と、それに基づく偵察、ニュートリノスキャンにより、目標となるブレインの所在は、セクター2のクレメス・シグマ星系恒星ディスペール6番惑星「フロラーナ」だと判明しました。詳しい情報に関しては、こちらのスライドをご覧ください」
「冗談だろ。こんなところに奴らの本丸があるってのか?」
映し出されたスライドを見て、真っ先に声を上げたのは第3艦隊司令官のダニエル・スズキ大将だ。
確かに、そのスライドに描かれている情報は、目を疑うようなものだった。
ブレインがあるとされる惑星「フロラーナ」は、星系の恒星ディスペールから遠く離れていて、
惑星の表面は真っ白に凍て付く氷の星だったからだ。
そして、その凍て付く星の北極に当たる部分には、直径3kmを超えるような大きな穴が開いていた。
おそらく、海軍の戦略偵察艦が遠距離光学望遠で撮影したのだろう。
底が見えない程に深いその穴は、星のへそのようにも見えた。
「この星の公転軌道はハビタブルゾーンの範囲外だろう。なぜこんな星にブレインが居る?」
と疑問を唱えたのは海兵隊第6海兵遠征軍司令官のカール・エリント中将。
中将の言うとおり、このフロラーナはハビタブルゾーンの外にある。
ハビタブルゾーンとは、生命居住可能領域の事で、恒星の光度によって異なるが、星系の中心星となる恒星からの距離が生命の居住に適している領域を言う。
その領域内に惑星があれば、その惑星は生命の居住が可能な環境である確率が高く、知的生命体が存在する可能性もある。恒星からの放射エネルギーが強くも弱くもなく、生命の生存に必要な液体の水が維持出来る表面温度を保てる環境になりやすいのだ。
しかし、フロラーナはどう見てもディスペールから遠く、惑星表面に液体の水が存在する気配も無い。
データを見ると、惑星の表面温度は氷点下30度であり、生命が生存出来るとは思えない環境だった。
こんな星で、知的生命体が誕生し、星間移動を行うまでに進化を成し遂げるなんてことが出来るのか?
カール大将の疑問はごく自然なことだった。
「奴らアルテリアンの生態は我々とは大きく異なります。生命体であることは確かですが、生存に必要な条件は我々と同一とは限りません」
と、フランクの返した応えは、答えのようで答えになってはいなかった。
かといって、この場に居る誰もが、その疑問を答えるに足る程の科学的知識を持ち合わせている訳ではない。このまま問答を続けても答えは出ないだろう。
「まあいい、で、ここが奴らの本丸なんだな?」
ケニス司令が話の軸を戻しにかかる。
確かに、今ここで科学の話をしていても埒が明かない。
「はい。正確には、フロラーナの北極点から地下に46kmの地点、そこがブレインの存在が確認された座標です。我々は、ここを叩きます」
「地下46kmか」
「かなり深いな」
「今見えている穴はブレインの位置まで続いているのか?」
「いえ、観測の結果、この穴の深さは約2kmと判明しています。スキャンの結果では、その底面の位置から最低でも厚さ25kmの岩盤と重金属製の防御構造物が存在する事が確認されました。それ以上は上層の構造物が厚過ぎて特定出来ていません。」
「そりゃ厳しいな。どうやって叩く?」
「KEWを使って軌道爆撃を行うにしても、防御構造物が厚過ぎる。どれほどの物量が必要になるか・・・」
先ほどの授業然とした雰囲気とは打って変わり、皆が盛んに発言し、議論が飛び交う。
やはり、この場に居る司令官達も、根は宇宙の戦士だった。
統合連邦軍の持つ対地攻撃手段の内、最大の火力を持つのはKEWだ。
KEWとは、Kinetic Energy Warheadの略で、運動エネルギー弾頭の事を言う。
海軍の巡洋艦以上の戦闘艦に艦種同軸砲として搭載されているもので、タングステン製の弾頭を電磁加速砲によって高速で射出し、その運動エネルギーで目標を破壊する兵器だ。
戦艦に搭載される最大のもので弾頭直径は400mmにもなり、直径400mm×長さ5000mmのタングステン弾頭は、12tを超える質量を持つ。
その弾頭を高度250kmの投射軌道から97.4km/sで射出すると、大気摩擦の影響もあり、地表に到達する終端速度は85.1km/s程になる。その速度で地表に激突した弾頭は、その強大な運動エネルギーを破壊力に転換させる。
その威力は最大でTNT換算10キロトンに達する程だ。
その速度とタングステン製の弾頭が生みだす貫徹力は凄まじく、大概の防御構造物や岩盤ならブチ抜いて破壊することが出来る程の兵器だが、これだけの威力をもってしても25kmの厚さの岩盤と重金属による防御構造物を破壊するには遠く及ばず、破壊するには膨大な物量が必要となってしまう。
敵の勢力圏下において、それだけの物量を集中的に叩き込める状況を作れるほど連邦軍は優勢ではない。
最大の威力を持つKEWでもそうなのだから、他の弾頭ではなお難しいだろう。
フランク達はどうやってブレインを破壊するというのだろうか?
誰もが、フランクが発する言葉を待った。
そして、視線の先に居るその男は、静かに、しかし簡潔に言い放った。
「KEWは用いません。今回我々は、核を使います」
短く、しかしはっきりとしたその言葉に、皆が衝撃を受ける。
「核って、まさかそんな」
「本気なのか?」
皆が口々に驚嘆の声を漏らす。
こういった反応が生ずるのも無理は無い。
21世紀ならともかく、23世紀のこの時代に、「核」兵器は存在しないからだ。
人類が20世紀半ばに手にした禁忌の炎、核。
それは、ウランやプルトニウムといった重原子の核分裂反応を利用した核分裂型と、
重水素のような軽原子の核融合反応を利用した核融合型に大別される。
厳密には、核融合反応を誘発させるには高温・高圧の状態を生む必要があり、核分裂型の起爆による高温・高圧を利用して核融合を誘発させる為、構造こそ別のものではあるが、核兵器という兵器の根幹技術は核分裂型だといえる。
21世紀においても核兵器は各国家の威信と存亡を掛けた戦略兵器であり、それが国を滅ぼす力を持ち、禁忌の物であると分かっていてもなお、大国は核を保有し続けた。
相互確証破壊、MADと呼ばれる抑止力に基づいて、自国の安全を保持する為に持っておかなければならなかった為だ。
しかし、西暦2076年のpB型核融合発電の実用化と、西暦2084年の統合連邦政府発足が契機となって、状況は大きく一変する。
それまで、安定的かつ大規模なエネルギー供給を核分裂式の原子力発電に依存する形になっていた人類に、核融合発電という新たなエネルギー源がもたらされた。
pB型核融合発電は、ホウ素を利用した核融合発電で、核分裂型発電のデメリットとも言える臨界や暴走の危険も無く、放射能も発生せず、コストも安いという夢のような発電方法だった。
民生利用の原子力が核分裂から核融合へと一斉に切り替わる中、当時の世界情勢も大きな変革を迎える事となる。
各国で人口・食糧・エネルギーなどのバランスが崩れ始め、国家という枠組みでは社会の維持が困難になり始めたのを皮切りに、国際連合主導で、全世界規模の統一政府構築へと動き始めたのだ。
政治面、軍事面で統一された人類に、国家間対立の為の核兵器という負の遺産は必要無く、廃絶される事が決定する。
そして、2088年8月6日。
人類が核の業火に焼かれてから143年の月日を経て、人類から核は消し去られた。
それ以来、核弾頭に必要な高濃縮状態のウランやプルトニウムの精製技術は完全に失われ、
ロストテクノロジーとなっている。
つまり、統合連邦軍には核の製造技術は残っておらず、使う以前の問題の筈なのだ。
「みなさん御存じの通り、核弾頭の生成技術はロストテクノロジーになっています。しかし、FATRDIの研究チームが、濃縮プルトニウムの精製技術の再現に成功し、45キロトン級弾頭を製造しました」
と、フランクは後で問われるであろう質問の答えを先に述べた。
FATRDIはFederal Advanced Technological Research and Development Instituteの略であり、連邦高等技術研究本部を指す略語だ。
ここでは、軍用民用問わず、先進技術の研究が行われており、優秀な技術者や科学者が集まる研究所で、フランクは、このFATRDIの技術者達が核弾頭の製造に成功したという。
FATRDIが成し遂げたと言われれば、そうなのだろうと納得してしまうような有無を言わさぬレベルの科学技術力を有する事でも有名だ。
おそらく今回も、本当に成し遂げたのだろう。
「しかしながら、リソースの関係なども相まって、総生産数は20発しかありません。よって、これを持ってしても外部からの攻撃でブレインを破壊する事は極めて困難でしょう」
フランクが続けた言葉は、場の空気を一気に暗礁に乗り上げさせるのに充分な威力を持っていた。
45キロトンの核。KEWのおよそ5倍のエネルギー量を持つ兵器。
これなら行けるかもしれない。そう皆が思い始めた矢先の言葉だったからだ。
「なら、その核をどう使うというんだ?」
「外部が駄目なら、内部で使えば良いんです」
「ちょっとまて、ブレインの傍で起爆すると?」
「その通りです」
「どうやってそこまで行くんだ」
「先ほど、縦穴の深さは約2kmで、そこから防御構造物が覆っていると言いましたが、これは上空からの攻撃に対応した防御であり、縦穴の部分のみを重点的に防御しているようです。スキャンの結果から、縦穴の底に水平方向へと延びる通路があり、そこから防御構造物の外周を取り巻くように作られた螺旋状の通路がある事が分かっています。これを下って行けば、ブレインに辿り着けるでしょう」
「でもそいつは、いわゆる・・・」
「巣穴です」
「奴らの巣穴を地下深く、46kmまで下る…。出来るのか?すんなり通してくれる訳が無い」
「はい。確実に接敵し、戦闘になるでしょう。絶対に出来るとは言えません。しかし、我々はこれに賭けるしか無いのもまた事実です」
無茶苦茶だ。アンドリューは瞬時にそれを悟る。
ブレインが居る奴らの巣穴は、当然のことながら幾重にも防衛線が張られているだろう。
それを46kmも下る。
いや、螺旋状なので実際の距離は100kmを優に超すことだろう。
そんな敵だらけのトンネルを下るのは無謀過ぎるとしか言いようがない。
誰もが成功する確率はかなり低いと一瞬で悟る程に無謀だ。
だが、フランクの言う通り、他に方法が無いのも事実だ。
「惑星フロラーナ北極点に突入し、敵の巣穴に侵入。ブレイン到達後、核をセットしこれを破壊する。これが我々が立案したブレイブソード作戦です」
「毎度の事ながら、オフィス勤務の戦争屋は簡単に言ってくれるもんだ」
「無謀なのは重々承知しています。しかし、これに賭けるしか無いのです」
「んなこたぁ分かってるよ。やらなきゃ人類が負ける。だったらやるしかねえだろう」
「大博打だが、乗るしかなさそうだな」
「他に手があるとも思えんからなぁ」
と、皆口々に同じようなニュアンスの言葉を紡ぎ出す。
大勢の将兵を部下に持つ彼ら指揮官としては、部下を死地に飛びこませるような作戦は命じたくないのが本心だ。しかし、それが勝つために必要なことならば、心を鬼にしてやらなければならないと心得ているのもまた同じ。規模は違えど、アンドリューも同じ指揮官なので、彼らの気持ちはよく分かる。
やらなければならない事、これ以外に方法が無い事は誰もが分かっている。
それでもやはり、文句無しに賛同出来る物では無かった。
そんな場の空気を無視し、フランクは続ける。
「我々はこの作戦に、残存する稼動戦力のうち、遠征可能な部隊の7割を投入します。海軍からは第2、第3、第5、第6、第8、第11、第13、第17艦隊を。空軍からは第1、第3、第4、第6、第9、第14、第15、第18戦闘航空団を。陸軍からは第2軍、第3軍、第6軍、第8軍を。海兵隊からは第2、第3、第4、第6、第9、第14海兵遠征軍を投入します」
フランクが続けて放った言葉は、その場に居るほぼ全員が息を呑むのに充分だった。
残存稼働戦力の7割。
それはまさしく、捨て身の作戦に等しい陣容だ。
海軍の艦隊番号一桁の艦隊は戦艦を中心にした打撃艦隊で、二桁の艦隊は空母中心の航空艦隊だ。
打撃艦隊は戦艦2隻と巡洋艦4隻、駆逐艦12隻の18隻編成。
航空艦隊は空母2隻と巡洋艦2隻、駆逐艦16隻の20隻編成で構成される。
五個打撃艦隊と三個航空艦隊なら、戦艦10隻、空母6隻、巡洋艦26隻、駆逐艦138隻の大艦隊だ。
また、各空母には二個空母航空団が配備されており、総数は96機なので、合計で576機。
空軍の戦闘航空団は隷下に二個飛行隊を有し、総数は64機。
8個戦闘航空団を投入するのならば、総数は512機となる。
陸軍の一個軍は二個師団を隷下に持ち、兵の総数は5万4千人にも及ぶ。
四個軍の投入となると、兵力総数は21万人強。
海兵隊の一個海兵遠征軍は一個海兵師団と一個海兵航空団を隷下に持ち、9千6百人の兵員と52機の航空機を有し、6個海兵遠征軍ならば約5万7千人の兵員と312機の航空機となる。
つまり、フランクの示した陣容ならば、艦艇180隻、航空機1千4百機、兵員32万人超というとてつもない規模となる。
もちろんこれは、直接戦闘に関する要員数であるから、これらを支援する輸送艦やその他諸々を含めると、その陣容はまさしく圧巻と言えるだろう。
これほどの戦力を動員するという事は、なんとしてでも成功させるという上層部の思いが見て取れる。
人類に存亡を掛けた一戦。誰もがそう感じるだろう。
しかし、アンドリューには、一点だけ腑に落ちない事があった。
最初から抱いていた疑問が、この話を聞かされる事でますます強くなっていく。
それは、何故アンドリューがこの会議に呼ばれたのかという疑問だった。
周囲に居る各司令官は、ついさっき列挙された艦隊や航空団などのトップだが、アンドリューはそのいずれでも無い。本来ならこんな会議に呼ばれる等あり得ないのだ。
その疑問を呈しようとしたが、言葉を発する前にフランクの声が追撃を掛ける。
「また、本作戦において、もっとも困難を極める突入部隊に関しては海兵隊の機動強襲歩兵の上級職種となる宙間機動歩兵を新設し、連隊規模での部隊編成を実施、この歩兵部隊を中核に、海兵隊中央即応作戦群隷下に、第206連隊を新設することになりました。その指揮官の筆頭候補がここにいるアンドリュー・セルフリッジ大佐です。今回の会議に彼を呼んだのは、本作戦に参加する各部隊の指揮官である皆さんに、承認を得る為です」
「なるほど、だからこの場に彼が居るのか」
「戦場の奇術師を指揮官に据えるとは、粋な事をするもんだ」
「いいじゃないか、彼以外に適任な人物を私は知らん。兵の士気も高まるだろう」
尋ねるまでもなく、疑問が氷解し、アンドリューの信任投票が始まった。
唐突な展開に、アンドリューの頭は置いてけぼりにされる。
「えっ」と素っ頓狂な驚きの声を挙げる程アンドリューは驚いていた。
なにしろ、そのような辞令の打診など一寸たりとも聞いていないのだから。
まさしく寝耳に水だった。
しかし、アンドリューが異議を唱える以前に決議は終わったようで、皆が賛同の意を示していた。
ふと気付くと、すぐ後ろでイアンがふっと笑うのが聞こえた。
「大佐?」
とフランクが不思議がっている。
そこでようやく、理解が追い付く。
イアンに謀られたのだ。
「イアン、お前知ってたな?」
「ええ、もちろん。そのような打診があり、大佐が筆頭であると聞いていましたとも」
「何故黙ってた?」
「そんな話をしたら、大佐は謙遜して辞退するでしょう。説得する労力も時間も惜しいですし、大佐以外に適任が居るとも思えません。ですので、既成事実を作って退路を塞ぐのが最適と判断しました」
と、イアンは飄飄と答える。
確かに、イアンの言う通り、そのような打診が来れば、アンドリューは断っていただろう。
突入部隊の指揮官の責はアンドリューには重すぎると感じるからだ。
事実、ついさっきも異議を唱えて辞退しようとしていた。
しかし、この切れ者の部下の謀略で外堀は埋められ、退路は断たれた。
「どうやら謀られたようだな、大佐。諦めたまえ。ここに居る全員が君が適任だと思っている。君のその優秀な参謀が言うようにね」
そしてケニス司令からの止めの一撃だ。
アンドリューが返せる言葉は、これしか残っていなかった。
「分かりました。司令の任、引き受けさせて頂きます」
「頼みますよ、大佐」
とフランクが笑顔になる。
予想外の反応をアンドリューが示したので、大いに動揺したのだろう。
その動揺を覆い隠そうとするかのように、声が若干大きくなっていた。
「引き受けるにあたって、お願いが二つ程あります」
「なんでしょう?」
「一つ目は、ここに居るイアンを参謀として配属する事。二つ目は、部隊名を変えて頂きたいという事」
「参謀の人事に付いては、大佐に一任します。部隊名の変更というのは何故ですか?」
「第206連隊では味気無い。これほどの重い任務を背負い、死地へ繰り出す隊員達を鼓舞出来るような部隊名が欲しいのです」
「具体的には?」
と首を捻るフランクに対し、語気をやや強めてはっきりと伝える。
「第442連隊戦闘団」
「なるほど、パープルハート連隊か、良いんじゃねえのか」
と、ニック大将が賛同する。
司令の任を引き受ける覚悟をした時、真っ先に思い浮かんだのが死地に赴く隊員達だった。
彼らの士気を鼓舞し、精一杯の後押しをしてやりたい。
その為には、部隊名の形から験を担ぎたいと思ったのだ。
「分かりました。部隊名の件、手配します」
そういってフランクは、手元のメモに走り書きをした。
視線を上げて咳払いをしたフランクは、再び説明を始める。
「それでは、作戦の具体的なタイムスケジュールと、部隊の配置等についてご説明します」
アンドリューの信任云々で和やかになっていた空気が再び引き締まり、空気がピンと張り詰める。
時計も、窓も無い穴倉のような部屋で、会議は続いた。
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西暦2220年5月15日
惑星「アルシャディール」
統合連邦軍 先進兵器開発技術廠 歩兵戦訓練開発センター
式典が終わり、舞台袖であのときの会議を思い出していたアンドリューの意識は、現実へと引き戻される。
今思い出しても、あのときの会議は衝撃的なものだった。
「にしても、あの会議では、お前に一杯食わされたな」
「まだ根に持ってるんですか?」
「そりゃ多少はな」
「もう忘れてください、大佐」
「そうはいかないさ、こんだけ大きなもんを背負わされたんだからな」
「片方担ぎましょうか?」
「いや、担ぐ覚悟を決めたのは俺だ。俺一人で背負うさ」
「それでこそ大佐です。さあ、次の仕事が残ってます。休んでる暇はありませんよ」
そういってイアンは、つかつかと歩き出す。
もう一度、今降りてきた舞台を振り返る。
「ああ、背負うさ。彼らの想いを」
そこはまだ、煌々と光に照らされていた。