-プロローグ-
初投稿です。
多くの人に読んでもらった経験が無いので、読みづらい書き方になっている部分もあるかも知れません。
そういった場合は、ご指摘下さい。改善すべき点として受け止め、出来る限り対応します。
また、誤字脱字や描写の矛盾等も極力気を付けていますが、もし発見された場合は遠慮無くご指摘下さい。
ただ、表現の都合上敢えてそうなっている部分等は、改善出来ない場合もありますので、ご了承ください。
基本的に月1章ずつを目途に執筆・投稿するつもりでいますが、諸事情で早くなったり遅くなったりがあり得ます。ご容赦下さい。
出来る限り、多くの読者の方に楽しんでもらえる作品を書いていきたいと思っております。
応援、宜しくお願いします。
英雄…、歴史の中で多くの英雄が生まれ、歴史の波の中に消えて行った。
戦争や革命、事件、事故、災害など、人々が苦難に包まれた時、彼らは現れる。
家族、恋人、友人、他人、誰かの為に自らを捧げる事が出来る人々。
そんな彼らを人々は英雄と呼ぶ。
誰かを守りたい、誰かを助けたい、そんな思いを内に秘め、英雄は人々の前に姿を現す。
苦難に抗い、運命に抗い、闘う彼らの瞳には、何が写るのだろうか?
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西暦2219年12月19日
惑星[エルディーナ]
シルヴィアシティ近郊第一次防衛ライン
「アンカー2-1よりアクチュアル、応答せよ」
『こちらアクチュアル、2-1どうぞ』
「敵集団、ポイントチャーリー北北東方位028から接近中、
距離およそ6千、師団クラス、到達までおよそ15分、砲兵大隊による大規模砲撃支援を要請する」
『了解、評定射撃を実施する、目標諸元を伝達せよ』
「了解、敵座標をデータリンクにて送信する」
『目標諸元確認、60秒後評定射撃、弾着時刻マルフタヨンゴサンフタ、復唱せよ』
「弾着評定用意良し、弾着時刻マルフタヨンゴサンフタ、了解した」
『復唱確認、射撃を開始する、待機せよ』
「了解、待機する」
『射撃に備え、3、2、1、撃っ!』射撃開始の号令だ。
双眼鏡のダイヤルを左に回し、倍率を20倍から4倍に下げ、視界を広く取れるようにする。
ちらりと右腕にはめた腕時計をに目をやり、闇夜でぼんやりと光る蛍光の文字盤をすばやく読み取る。
現在時刻はマルフタヨンサンヨンヒト、すなわち午前2時43分41秒。
弾着時刻はマルフタヨンゴサンフタ、午前2時45分32秒となっているので、着弾まで1分51秒だ。
無線に耳を傾けながら、腕時計を見てリズムを合わせ、カウントを取ると同時に双眼鏡を覗き込む。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」
その合図と同時に双眼鏡から覗いている視界の真ん中あたりに明るいオレンジに煌く爆炎と、もうもうと立ち込める黒煙が現れた。砲兵隊による評定射撃だ。
敵集団の進行方向やや前方、集団のほぼ中心線上の位置。
理想的な着弾位置だ。
この位置を基準として大規模に砲撃を行えば、敵集団を無力化出来る。
「弾着確認、弾着誤差問題なし。大隊効力射、続けて撃て!」
『了解、大隊効力射を実施する、弾着に備えよ』
「弾着に備え、了解。敵さんに鉄の雨をお見舞いしてやれ」
『敵さんが傘を用意してないことを祈るよ。アクチュアルアウト』
戦場ならではのブラックジョークを交えながら、司令部との交信を終了する。
「砲撃が来るぞ!衝撃に備えろ!」
そう号令して身を屈める。彼らが居るのは腰までの深さがある穴の中。
タコツボと言われる掩体壕で、規模は大人の男二人が身を隠せる程度のサイズだ。
周囲には偽装の為にカモフラージュネットや盛り土がしてある。
ジョセフ達アンカー2-1は、防衛ラインから北に約5kmの地点に居た。
空を見上げると、満点の星空が見える。
街も、民家も、人工物と言えるものが近くに何も無い。
荒野の真っただ中では、弱い星の光でも充分に届く。
しかしそこには、月となる衛星が無い。
人類にとって、その星空が母なる地球とは違う異星の地だと実感させるものであった。
そんな星空を見上げると、煌めく光がいくつも流れていく。砲兵隊の発射した砲弾だ。
弾道を確認する為の曳光弾を含む大量の砲弾は、音も無く空を翔け、流星群のように星空を流れる。
彼らが見据える遠方の大地に吸い込まれるかのように消えて行った砲弾は、夜空を煌めく時よりも遥かに眩い光を放つ爆炎と化す。
戦場の女神と揶揄される鉄の雨は、途切れることなく奴らの頭上に降り注いだ。
大隊規模、40門もの大口径砲から放たれるその雨は、敵に衝撃と畏怖を味わわせる。
数kmの距離を置いているジョセフ達の場所にも、ズンと体に響くような衝撃と音が届いてくる。
それほどに大規模な破壊をもたらしているのだ。
まあ、着弾地点に居れば衝撃と畏怖を味わう前に天国に召されることになるだろうが。
「凄い!まるで地獄じゃないですか!」と隣にいるライルが叫ぶ。
新兵という奴は、砲兵の火力支援に妙にテンションが上がるのが常らしい。
金髪の髪に青色の瞳、端正な顔立ちのこの新兵は、制服を品良く着こなし、基地の外では女にしょっちゅう言い寄られる。俗に言う色男だ。部隊に配属されて半年だが、休暇で基地の外に出た時は毎度女の方から寄ってくる。
同じ部隊の奴らなど見向きもされず、彼に一直線だ。兵士というよりホストの方が断然しっくりくる。
なんでこいつは軍隊になんか入ったんだ?そう思わざるを得ない。
だが他の奴らが恨めしい顔つきで睨んだその色男も、今は全身に防弾スーツを着込んだ機動歩兵だ。
興奮して息が荒くなっているライルの姿を見て、自分も新兵の頃はこうだったなと思いだす。
戦場に初めて投入され、砲火の爆音を体で感じるとどうしても気が昂ぶってしまう。
クライマーズ・ハイならぬバトルフィールド・ハイとでも言うべきものだろうか。
「分かったから、少し落ち着け」と軽く諌める。
監視ポイントチャーリー、自分たちの持ち場はゆるやかな丘の中腹にあり、遠くまで見渡しやすい場所にある。眼前には広大な平地が広がっているが、8km先に深い渓谷が存在する。
そして、この星には樹木というものが存在しない。
目にしている平地も、うっすらコケや草が生い茂る程度で、本当に平地である。
ジョセフ達の任務は、防衛線の前哨として周辺を監視し、状況に応じて支援を要請すること。ここでの監視任務を交代してから二日、風呂になど入れる筈もなく、ただ体に汚れが蓄積していくのを我慢するしかなかった。
そんな過酷な状況下、あと数時間で交代の時間だというところで、奴らは来た。
新兵と二人、交代前、敵の大群…。
まったく、やっぱりツイてない。そうジョセフは思っていた。
ここから見える彼方の爆炎は、とてつもない轟音を立て、数km以上離れた彼らにも届くくらいに空気を震わせる。5分間にも及ぶその雨は、何の前触れも無く唐突に止んだ。
1200発の鉄の雨、先程までの爆炎も、圧倒的な轟音も、嵐の後の静けさのようにピタリと止んだ。辺りには天高く昇る黒煙と、硝煙の匂いが立ち込める。
『アンカー2-1、こちらアクチュアル、目標の損害報告を送れ』
「アンカー2-1よりアクチュアル、砲撃で発生した黒煙により、目標の視認は困難、現状では確認出来ず」
『了解、そのまま監視を続けよ』
「了解、アンカー2-1アウト」
無線が切れ、辺りは静寂に包まれる。
「あれだけ喰らわせたんだ、奴らも無事じゃ済まないでしょう?」ライルが笑う。
圧倒的な攻撃を前にして興奮し、息を荒くしながら話しかけてくるライルとは対照的に、ジョセフはとても冷めていた。
幾度もの戦場を潜り抜けてきたジョセフの兵士としての五感が、違和感を感じている。
これが杞憂であればと何度思ったか知れないが、生憎とそうであった試しは一度も無い。
「だと良いんだがな」
その違和感の正体を知るのに、そう時間はかからなかった。
辺りを包んでいた黒煙が晴れ始め、視界が広がる。
そこに広がっていたのは、砲撃で破壊され、クレーターが穿たれて焦土と化した辺り一帯に散らばる死骸を弾き飛ばしながら進軍してくる敵の群れの光景だった。
「軍曹、あれって…」とライルが唖然とする。
「ライル、俺たちは貧乏くじを引かされたらしい。それも特賞だ」
最悪だ、と心の中で目一杯の悪態をつきながら双眼鏡を覗く。
先程の砲撃で幅3km、奥行き2kmは黒煙の立ち昇る焦土と化しているが、敵は減っていなかった。いや、正確には砲撃で吹き飛ばした分は減っているのだが、それを上回る速度と物量で敵が湧いてきている。奴らが湧いてきているのは断崖絶壁の渓谷の下からで、こちらからでは死角になっている。どうやらあの渓谷には数万の規模の敵が居るらしい。
奴らはそこから崖をよじ登り、こちらへ向かってくる。
ジョセフは無線機を掴むと、防衛戦司令部への通信チャンネルを呼び出した。
「アンカー2-1より、アクチュアル応答せよ」
『アクチュアルよりアンカー2-1、どうぞ』
「敵前衛への着弾を確認、損害評定はA+、師団規模の撃滅を確認したが、それ以上の敵が湧いてきている」
『くそ、こっちもか!規模と位置は?』
「撃滅した敵集団後方、距離7千5百、総数不明、複数個師団規模」
『複数個師団規模、了解。IFFを作動させ、ポイントデルタへ後退、本隊と合流せよ』
「IFFの起動、ポイントデルタへ後退し本隊と合流、了解」
『急いでくれ、時間が無い。アクチュアルアウト』
プツッと一方的に通信が切れた。
「こっちも」その表現が不安を駆り立てる。
ということは別の場所にも大群が現れたのだろうか?
頭の片隅に不安がよぎるも、それを掻き消すほどに目の前の光景は壮絶だ。
眼前の平地を波のように蠢く敵の大集団。
このままここにいては奴らにやられる。
ジョセフは、ライルの肩を掴み、顔を見る。
ライルはまだ新兵だ。興奮と恐怖に満ちた顔をしている。
アドレナリンが出ている興奮の形跡が随所に見てとれるが、目だけは怯えていて光が無い。
いかに多くの訓練を積んでいようとも、初陣での兵士とはこういうものだ。
古来より、初陣で生き残れた者はその後も生き残れるだろうと言われる。
それはいつの時代からも変わっていない。
肩を強く掴み、目を真っ直ぐ見据えて話しかける。
「いいかライル、スーツのIFFを作動させろ。ポイントデルタへ後退し、本隊と合流して奴らを迎え撃つ!いいな!」
口調を強くし、はっきりと言い聞かせる。
「返事は!」
帰ってきたのは沈黙だった。目の焦点が定まらない。かなり動揺している。
掴んでいるライルの肩を強く揺さぶり怒鳴りつける。
「ライル、放心状態になるのは勝手だが、命令にはちゃんと従え!メリッサ宛ての戦死報告送らせるつもりか!」
メリッサという単語を聞いて我に返ったのか、ライルの目の焦点が定まった。
「すいません軍曹、少しぼーっとしてました。ビーコンの起動と後退、了解です」
そう答えてスーツの肩に付いたIFFを起動させる。
IFF・敵味方識別装置は、昔の合言葉による味方の確認のように、電波による応答で敵味方を識別する。
その性質上、敵に鹵獲された場合に備えて個人携帯用IFFの起動には使用者本人の認証が必要になる。
「よし、それで良い。俺はお前を死なせるつもりはない。メリッサに連邦旗を手渡すのは嫌だからな」
「はい、軍曹」
覚悟が決まったのかは知らないが、ライルの声が落ち着きを取り戻した低い声に戻る。
「準備はいいな?行くぞ!」
「了解」
先ほどのポイントチャーリーから南に5.1kmのポイントデルタへ向けて走り出す。
そこには彼らの本隊が居る。
北部方面第一次防衛ライン主力歩兵大隊として配備されている第603戦術機甲強襲歩兵大隊だ。
「2-1よりアンカーリード、応答してください」
『2-1、こちらリード。感度良好、どうぞ』
「現在ポイントチャーリーよりデルタへ向け後退中、そちらから確認出来るか?」
『視認している2-1、突撃破砕射撃の準備が完了している。奴らに追いつかれるなよ? お前らを巻き添えにして撃たねばならん。そんなことはやりたくない』
「分かってます、リード。ただ、必要なら構わずやってください」
『分かった。急げよ』
「了解、2-1アウト」
突撃破砕射撃。第一次世界大戦の頃に発明されたこの戦術は、防御戦の基本だ。
突撃してくる敵集団を、機関銃や機関砲の射線上におびき寄せて薙ぎ払う。
文字通り突撃を破砕する射撃だ。
もし味方の突撃破砕射撃が始まってしまえば、俺達も巻き添えにされる。
いくら防弾スーツを着ていようとも、何千発という弾丸の嵐のなかを潜り抜けられる程頑丈ではない。
それに最近では、敵のリニアライフル等にも貫通されるようになってきた。
当たればアウト、それは昔から変わらない。
まったく、何のための防弾スーツなんだか分かったもんじゃない。
何度めか分からない程つきまくった悪態がまたしても頭に蘇る。
後ろからは奴らの大群、前には待ち構える味方の銃口、そんな戦場でただ走るだけしか無い男二人。
こんな状況はとても心細い。
スーツのパワーアシストのおかげで生身よりは速く走ることが出来るが、それでも5.1kmの道のりは遠い。
しかも、緩やかとはいえ丘を登る上り坂。
5分程走ってもまだ半分程だが、前方に数mはあるかという防壁が見えてくる。
第一次防衛ラインの防御陣地だ。
多くの機関銃や機関砲が備え付けられ、睨みを効かせている。
そんな時、ジョセフの視界の左端の方で、一筋の光が煌めいた。
気付いた時には、二人の左前方50mくらいの地面に小さな穴が穿たれていた。
地面が焼け、穿たれたその穴を見て、二人はすぐに銃撃だと悟った。
「撃ってきた!」
ライルが今にも発狂しそうな声色で叫ぶ。
「分かってる!いいから走れ!」
そう応えながら、腰のベルトに手を伸ばす。
それはもはや条件反射的な行動だった。
スモークグレネードを掴み、慣れた動作でピンを抜き、後ろに向かって放り投げる。
ただの煙幕による目くらましだが、無いよりはマシだ。
これで敵はあてずっぽうに撃つしか無くなり、当たる確率も低くなる。
それと同時に本隊を呼び出す。
「2-1よりリード!応答してください!」
『こちらリード、どうした?』
「奴らが撃ってきました!援護射撃を要請します!」
『了解、援護射撃を開始する。流れ弾に当たるなよ!』
数秒の後、ジョセフ達が目指すポイントデルタの防壁の上で、カメラのフラッシュのように光が輝く。
銃が発射された時の発射炎だ。
そこから放たれた曳光弾が流星群のごとく頭上を通り過ぎていく。
大半はさっき張った煙幕に吸い込まれていき、視界から消えて行く。
後退する二人を援護し、照準を合わせずに敵を牽制するための射撃なので、広範囲に弾をばら撒くように撃つからだ。
ここが戦場でなければ、輝きながら宙を切り裂くその火線を綺麗だと思ったに違いないが、
そんな悠長な思考は一切湧いてこない。
時折煙幕を落として奴らに目くらましをかけながら必死に走り続ける。
背後からは敵のライフルの光の筋が、空間を切り裂いてやってくる。
ヒュンと空間を切り裂き、空気を焦がす。
リニアライフルの火線だ。膨大な熱を帯びたその弾丸は、触れた空気を焦がし、鼻につくツンとした臭いを漂わせる。
どれだけ長く感じただろう。たった5分そこそこの筈の時間は、30分にも、1時間にも感じられた。
ようやく防壁のゲートの輪郭がはっきりと見える位置まで近付いてきた。
「あと400mだ!ゲートを開けてくれ!」無線でそう呼びかける。
『了解!(おい、急いでゲートを開けろ!!)』応答した無線の奥で、別の兵に指示している声が聞こえてくる。
あと100m程に迫った時、防壁のゲートが開く。
重厚感のある鋼鉄の扉は、数人が横一列で通り抜けられる程度の隙間を開けて中を晒し、彼ら二人を迎え入れる。
ゲートの左右の壁には歩兵が数名張り付いて、ジョセフ達が入るための援護射撃をしてくれる。
その猛烈な火線の間を目指し、ただひたすらに走り続ける。
『急いでください!!奴らが来ます!!』
『軍曹!!』
無線でゲートの兵士が叫ぶ。
その声を聞きながら、あと20mくらいにまで近付いたその時だった。
一筋の火線がジョセフの右側の空間に迸る。
ジョセフにとってその瞬間は、スローモーションのようだった。
その光がゆっくりと、ライルの背中に迫っていく。
警告を発そうとしたが、間に合わなかった・・・。
その光は、ジョセフの斜め右前方を走っていたライルの胸を、いともたやすく貫いた。