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7.装具屋

 朝です。ここは、冒険者ギルドです。掲示版をみて悩むものがいます。噂話を交換し、情報を集めるものがいます。毎日、いろんな噂話が飛び交っていますが、今日の話題は、なんと言っても、『始まりの荒野』でのホーンウルフの大群の話です。

 地獄の門番のレスリー・ニッシュの声におびえたわけではないでしょうが、かわいいウサギコンビを助けるために、昨日は『始まりの荒野』にむかったのでした。ところが、あのウサギコンビが無謀にもデスブラックウルフと対峙しており、褐色の女、カレン・ターラントが仕留めてしまったのです。昨晩はレスリー・ニッシュのおごりで大いに盛り上がったのでした。


「いやあ、昨日の『始まりの荒野』は、すごかったな。」

「100匹を超えるホーンウルフの大群だったそうだ。」

「あんなの滅多にねぇぞ。」

「そのホーンウルフの大群をウサギコンビが殲滅したらしいな。」

「ほんとかよ。ウサギ相手に死にかけたあのウサギコンビがぁ?」

「おれ、見たんだよ。」

「どうだった。俺たちは現場みてねぇんだよ。『始まりの荒野』にきたときは、ホーンウルフの死体片付けている最中だったからな。」

「群れのボスとあの褐色の女・・えーと」

「カレン・ターラント?」

「そうそう、透明な槍と小盾で殺るところをみたんだよ。」

「あいつか!ちょっとみると、かわいいヤツなのにな。意外と槍術がうまかったんだ。」

「それがすげえんだよ。盾であいつの角を流すように受け、すれ違い際に透明な槍で喉をかっ切るんだ。ボスのホーンウルフは足を払われて頭が地面に突っ込んでいた。」

「ひぇーすげぇな。」

「その後、槍を投げて生き残ったホーンウルフを次々と仕留めていくんだ。それも、1投必中でよう。すごかったぜ」

「すげえな。殲滅のウルフキラーたぜ。もう、ウサギコンビじゃねぇな。」

「しかもだよ。そのボスというのが、デスブラックウルフとブラッドレッドウルフだったんだ。」

「えーーー!おいおい、Fランクの柄じゃねぇぞ。黒い死神とも呼ばれるBランクの災害獣だろ。それに、ブラッドレッドウルフもかよ。どうなっているんだ。」

「さすが、コリンナさんが絶賛していた勇者候補だ。将来、末恐ろしいぜ。」

「おい、噂をすれば影がさす、あいつらが来たぞ。」


 そこに入ってきたのは、アンとカレンのウサギコンビです。かわいいのでそれが定着しつつあるようです。


「お早うございます。コリンナさん!」と言うアンです。

「あーん!ウサギちゃん。今日もかわいいわ。」

「わぉ、やめてよ。あ、こら、舐めないで・」


 受付から飛び出し、アンに爆乳を押しつけ頬ずりし、顔を舐めるコリンナさんです。初めは冷徹な知性派でしたが、アンの可愛さに毒されキャラが壊れつつあるようです。大丈夫かい?


カレンが間に入って、コリンナさんを引き離します。


「はい、ホーンラビットです。」と言って、イベントリからカレンはウサギを取り出しました。


「ホーンラビット、10匹? 昨日は、毒餌に使い切ったと言ってなかった?」

「今朝、2人で4匹狩って来たんですよ。これで依頼達成でしょ。」というアンです。

「まあ、エライのね。でも、そんな必要なかったわよ。」

「え?」

「デスブラックウルフとブラッドレッドウルフ、ホーンルフの討伐報償と買い取り代金がでているのよ。」

「ホントですか。」

「やったあ。」

「金貨50枚よ。」

「え?!」

「す、すごいわね。」

「それってどういう計算なんですか。」

「ホーンウルフが1匹で銀貨5枚、デスブラックが金貨8枚、ブラッドレッドが金貨6枚、報奨金が金貨12枚です。」

「えーと、金貨1枚は銀貨10枚として・・・なんだ、ホーンウルフは,100匹いってないじゃん。」

「早い!どうしてホーンウルフの数がわかるのよ。」と驚くカレンです。

「鶴亀算だろう。小学生の計算だから簡単だよ。」

「ショガクセイと言うのがよくわからないけど。100匹を超えてる群れだったのはまちがいないわ。まあ、他の冒険者が仕留めていたし、逃げたのもいるからそんなものなんです。」

「こんな大金初めてだ。」

「但し、お金はギルドに預けておきなさい。強盗にあうから・・あんた達がもっと強くなるとだれも襲わなくなるけどね。」

「なるほど。」

「まずは、これで防具と剣を買いなさい。お金はギルドに請求してもらえばいいわ。預かり金から払うから。」

「おお、それならばお金を持ち歩くことなく買い物ができる。」

「でも、預かり金があるというのはどうしてわかるの?」と聞くカレンです。

「大丈夫よ。冒険者ギルドは、キルドカードに預かり金額が記録するのよ。そして、商人はカードに請求額を記載するの。これで、限度額一杯まで使える訳よ。」

「すごい、まるでキャッシュカードだ。」

「何、それは?確かに、現金カードともいうけど。」

「いえ、なんでもありません。」

「ああ、それと、貴方たちは、Dランクにクラスアップよ。カードをDランクのものに交換してあげるわ。」

「わーい。」


 ちょっと、上等なギルドガードを持って、装具屋に向かうウサギコンビです。あっ、殲滅のウルフキラーでしょうかねぇ。二人はまず、この臨時収入で装備を調えることにしました。


 装備屋と武具屋は、鍛冶を職業とするドワーフが多い商業区画の1画にあります。ここは、いろんな商品を専門に作る工房が並び、同時にその商品を販売する店舗も多く集積しています。そこは、コリンナさんのお勧めの装備屋は、ウィザーズというお店でした。地獄の門番のレスリーもそこなら妥当だろうと進めてくれました。但し、ちょっと、気むずかしいので話をつけておくと言ってくれました。


「すみません。防具と剣がほしいですが・・ギルさんいますか。」

「俺だが、おまえはだれだ!」


 背の低いひげもじゃの筋肉ダルマの男が出できました。身長はアンよりも低いです。


「なんだ。ガキか。ここはガキの遊び場じゃねぇ。とっと帰んな。」

「ガキ・・ちょっと、あんたねぇ」

「まった。まった。」


 おこり始めたカレンを止めたアンがにっこりと笑っていいました。


「僕は、アン・ノーベルといいます。こちらがカレン・ターラントです。」

「何?!アンとカレンだと!おお、噂のウサギコンビか。なんでも、デスブラックとブラッドレッドをしとめたと聞いたぞ。」

「その通りです。」とドヤ顔のカレンです。

「どんな武器をつかったんだ。防具と剣をみせてみろ。」

「その・・」


 そんなことを言われてもカレンがクリスタルランスを見せることはできません。アンをちらりと見てとまどっていると、アンが瞬時にクリスタルランスとクリスタルバックラーを取り出しました。正確には作成したのですが・・


「ガラスの盾と槍か。えらく透明だな。これならば、切っ先が見えにくいだろう。盾はなあ。」


 ひげもじゃの筋肉ダルマのギルは、盾と槍をコンコンと叩いて堅さを確かめています。


「これで、ホーンラビットの突進をしのいだ訳か。しかし、精々、ホーンウルフまでだな。デスブラックなら1回で終わりだろう。どうやったんだ。」

「その通りです。実は、アンが毒餌を食べさせて弱ったところをやったんです。こんな手段がそう通じるわけはないんで、まともな、武器と防具を揃えに来ました。」

「賢明だな。しかし、装備は自分の命の代償だ。安くねぇぞ。」

「へへ、大丈夫ですよ。ホーンウルフの賞金がたんまりははいったんですよ。これで2人分の装備を見繕ってください。」

 そう言って、ギルドカードを渡します。ギルはギルドカードを水晶玉にあてています。

「ほう、結構、あるじゃねぇか。これなら・・」


 そう言ってカレンの体をじっとにらんでいます。そして、いきなりカレンの太ももをぺたぺたと触るのです。これにはカレンもびっくりです。


「きゃあ??何をするの!」

「太股の筋肉を調べただけだよ。女みたいな声出すなよ。」

「女です!」

「え?・・・そう言えば、チチがあるなあ。女だったのか。すまなかった。あんまりいい体つきをしているんでな。」


「う・・・」と言うカレンです。笑うアンです。


「すまん。すまん。ちゃんとやるから、まずはこれを振って見ろ。」


 無骨な鉄のロングソードを取り出しました。カレンはそれを振ります。びゅんという風きり音がしました。


「あっ、これはいいです。」

「そうだろ。魔力補正が使えるならばもっと少し重いのでもいけるぞ。でも、常時、魔力補正で体を動かすのも大変だからな。次は、防具はだな。えーと、騎士のやつがあったはずだか・・」


 ガラン、ゴロンという音がして黒い金属の塊を出してきました。黒鉄でできた質実剛健、無骨な丈夫そうな鎧でした。しかも、胸のふくらみがありません。


「これは、男性用じゃないの。」

「いやまて、ちょっと改造すれば問題無いさ。どうせ、そんなに胸はないだろう。」

「失礼な。あるわよ。もう、ちょっと、かわいいやつはないの。」

「図体がでかいんだから文句をいうな。女性騎士は小柄なのが多いんだ。男性用のそいつでがまんしろ。」

「わかった。」とブスっとした顔で頷くカレンです。


「次は、そっちの嬢ちゃんだな。おまえのはいろいろあるぞ。」


 そう言って、ニコニコしながら次々といろんなデザインの鎧を出します。ところが、どれもビキニアーマーで色ぽいです。


「これなんかどうだ。ここにこんな布をつけるんだ。可愛いだろう。」

「はあ・・」とため息をつくアンです。

「だめか。これなんかは自信作なんだ。」

「あっ、これいい。この飾りがこっているわ。」と喜ぶカレンです。

「そうだろう。」

「わたしの鎧に付けて!」というカレンです。

 しかし、ギルはカレンを不機嫌そうににらんで言いました。

「魔法彫金なんだ。すぐには無理だ。」

「いやあ・・ははは、ちょっと。」とすまなそうに言うアンです。

「だめか。こっちなんかどうだ。」

「・・・・あのう、僕は男なんだけど。」


 ガラン、ガラガランと激しい音ともにギル・ウィザーズは並べたビキニアーマーの山に突っ伏しました。バカです。


「なあにー!男なのか。そんなに、かわいくて・・スカート履いているじゃねぇか。」

「事情があって、これしかないもんで・・男物ないですか。」

「うーん。その身長のでかあ。ドワーフ用でないとなあ。横幅があるんだ。そのほっそりした体だとだぶだぶになるぞ。うーん、もったいねぇな。これを試しに着てみないか。安くしておくぞ。」

「いやです!中古でもいいから男性用はないですか。」

「いや、さっきも言ったように、その身長と腰回りだと女性用になるんだよ。」

「いやですよ。大体、僕は剣士じゃ無くて、錬金術師なんです。魔道士の服はないんですか。」

「仕方がないなあ。じゃあ。こいつはどうだ。魔道士の服だが、裏地にミスリルの細線が縫い込んである。魔力防御力に優れた一品だ。しかも、動きやすい。」

「ほう、いいですね・・・てか、これはスカートじゃないですか。どうして、こうなるんです。」

「これもだめか。まあ、ちょっと、待て、他にもあるんだ。絶対、気に入るものがあるはずだ。」


 そう言って、次から次へとかわいい魔道士用の服を出すのですが・・どれも女性用です。カレンは興奮して「ぜひ私に!」と叫ぶのですが、サイズか合わないと言って、全く取り合ってくれませんでした。うなだれるギル・ウィザーズさんです。

そこへ、ギルさんと同じやや小柄で恰幅のいい女性がでてきました。髭はないものの体毛がみるからに濃いです。


「あんた!一体、何を騒いでいるんだよ。」

「痛ぇ!うぁ、ベラだ。お、おれは、何もしてねぇぞ。」

「何もしてないはないでしょう。また、綺麗なお嬢さんを見つけて、自作鎧を売りつけようとしていたくせに!」

「お嬢さんじゃありません。お、男です。」と言うアンです。

「お・・・男!?ホントなの。」

「そうらしいんだ。俺が男にこんな鎧を売るわけ無いだろう。」

「ウソをつくんじゃないよ。バカだから勘違いしていただけだろう。」


「ごんなさいね。私が女の子を産めなかったばかりに、この人は娘にあこがれてねぇ。こんなかわいい鎧ばかり作っているのさ。」

「なるほど。」

(まさか・・コリンナさんの差し金?)

「まあ、ともかく、どんな武器がほしんだい?」

「棍棒代わりに使える体力あったスタッフと軽装の防具かな。」

「ちょっと、体をさわっていいかい?」

「ええ・・」

「あ、なるほど・・筋力は女並みだね。魔力強化はできるかい?持続時間は?・・・うーん。」


「こんなところでどうだい。もともと、魔術師は遠距離攻撃が主体の後衛職だから近接戦はあり得ない。いざと言うときのために、鎖帷子を仕込んだ防刃マントを着るぐらいかね。このマントはミスリス製で魔力を通すといかなる物理攻撃や魔法攻撃も防げる。金貨200枚でどうだい。」

「ふぇ・・とても出せません。2人で金貨50枚でお願いします。」

「え?そうなの。あんたの相棒の持っている剣だけで金貨50枚だよ。始めにそれをいいなさいよ。そうだね、それだけで、揃えるとなると剣の質を落とさないと・・」

「え?さっきは黒鉄の鎧の上に僕の装備も変えたのに・」

「それはこのバカが女性用の鎧を売りつけようとしたからさ。そんなことをすると大赤字だよ。」

「そうなんですか。すみません。この剣に僕のズボンをつけて、金貨50枚にしてもらえませんか。剣士は剣が命です。相棒には、精一杯、良いモノを持ってもらいたいです。僕は男物の服がどうしてもほしいんで・・」

「いいよ。でも、服は古着屋に行けばもっといいのがあるよ。金貨1枚引いとくからそっちで買いな。」

「ありがとうございます。」

「アン・・ありがとう。」とうれしそうに言うカレンでした。


 古着屋でもかわいいスカートやワンピースを勧められ、「どうして女ものばかりなんだ!」と憤るアンでした。


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