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5.初めての依頼

 翌朝です。アンとカレンは冒険者ギルドに来ています。アンとカレンが冒険者ギルドの扉を開けると一斉に2人を見ました。笑いとともに口々に言い合っています。


「あいつらだぜ。『はじまりの荒野』で、ホーンラビットで死にかけたウサギコンビだ。」

「なかなか、かわいいじゃねぇか。非力な女のくせに、碌な装備もなく、『はじまりの荒野』に挑戦するからだよ。」

「毎年、年端もいかねぇガキが挑戦して、亡くなっているからな。」

「でも、初見で20羽のホーンラビットを葬ったらしいぜ。」

「おれは、50羽と聞いたぞ。」

「それは運が良いな。そんな数はなかなか出会えねぇよ。」

「なめてかかるととんでもない目に遭うぜ。雑魚だけど50匹をナイフ1本で倒すなんてできねぇからな。」

「でも、ホーンラビットだろ。剣と防具があればなんのことない。数が増えるほど自ら向かってくると言うおいしい魔物だ。未熟なウサギコンビにはちょうど良い遊び相手だろうけどな。」


(くそー。その場にいなかったくせに・・ナイフとガラス槍2本で立ち向かってみてよ。)と小声で言うカレンでした。周りの男が騒ぐのを後に、アンとカレンは、コリンナさんのいる受付に行きます。


「すみません。依頼を受けたいのですが・・」

「あら、アンとカレンじゃないですか。依頼ですか?依頼は掲示版にありますが、ランクと同じか一つ上のランク仕事しか受けられません。あなた達は、最低、ランクですから、町での作業、魔草の採取、ホーンラビットですかね。今日は、常時依頼の魔草の採取かホーンラビット狩りしか無いと思います。」

「じゃあ、それを受けます。」

「うーん、ただ、魔草の採取もホーンラビットは『はじまりの荒野』が絶好場所なんですが、ご存じのようにホーンウルフが目撃されていまして、初心者はいけません。そうすると、南の草原になりますがなかなか難しいですよ。まあ、常時依頼なのでどちらも失敗してもペナルティーはありません。失敗しても元々のくらいで、気楽に受けてください。」

「じゃあ、ホーンラビットを受けます。」

「はい、これにサインをお願いします。ホーンラビット10羽分で、銀貨2枚です。それ以外の魔物はドロップアイテム1個から値段が付いていますので、ギルドで買い取ります。しかし、命が大事ですから、他の魔物に出会ったら無理しないで逃げてください。お金があったら、装備を充実させて、堅実なステップアップを心がけてくださいね。」

「はあい。」


 アンとカレンは装備については何の心配もしていませんでした。それは、ある程度はアンが作り出せたからでした。昨日の水晶の槍に加えて、盾を作ることができたのです。アンの【魔素生成】で作ると無尽蔵に装備を作り出せるのでした。アン!すごいぞ。


その頃、宿屋でアリスン・ウィンストンは、ドアを開けて呆然としていました。アリスン・ウィンストンは、アンとカレンが泊まった宿屋の娘です。昨晩は部屋の掃除でクレームをつけられ、一緒に掃除をしたのです。今日は完璧にしてやると沢山の雑巾をもってドアを開けたのでした。


「何・・これは!」


 アリスンの仕事は、掃除とベットメイキングです。普通、野郎達がとまる部屋は、密かに持ち込まれた酒や食い物でぐちゃぐちゃになっているです。ひどいときには酒臭い嘔吐物まみれのこともあるのです。さらには、女が連れこまれて、寝ていることすら・・

 この部屋は、普通に掃除していて、文句を付けられた潔癖症の女の部屋でした。恐らく、数倍の時間をかけて丁寧に掃除をしないとまた文句を言われて、夜遅くに掃除をさされるに決まっています。アリスン・ウィンストンは、憂鬱な気分で扉を開けたのでした。


「どう、なっているの。ホントにここで寝たのかしら・・。何、使用済みシーツのこのたたみ方は!ゴミ一つ墜ちてない。私のやること無いわ。何なのアンとかいうちっちゃい小娘は!」


 完璧に片付けられた綺麗な部屋を見て、へなへなと座り込むアリスン・ウィンストンでした。


 ここはブロフの町の東門の出入り口です。今日は来町者で大賑わいでした。王都のような大都会ではありませんので、ほとんどは顔見知りです。知らない人間だけを捕まえて手続きをさせるのです。門の端では大熊のような男がじっと立ってにらみつけて立っています。レスリー・ニッシュです。威圧感が半端じゃありません。出入りする人は自然とレスリーを避けて受付に向かっています。その威圧感が突然消えました。


「お早うございます。レスリーさん。」

「おお、アンとカレンじゃないか。どこへいくんだ。」


 ニコニコ顔のレスリー・ニッシュです。まるで、孫娘を愛でるような柔和な笑顔でアンに声をかけています。


「南の草原です。とりあえず、ホーンラビット狩りと魔草採取に行きます。」

「おお、そうか。『始まりの荒野』には近づくなよ。ホーンウルフが南の草原にも進出している可能性がある。1匹でも見かけたら、ともかく、帰ってきて報告してくれ。偵察依頼の出してあるからな。報告だけでもお金がでるぞ。」

「わかりました。」

「気をつけます。じゃあ、行ってきます!」

「くれぐれも、ホーンウルフには気をつけろよ!無理するんじゃないぞ。」


 昨日は20羽以上の群れに出会い、30羽のホーンラビットを仕留めたのです。10羽のホーンビットぐらいは軽いものだと考えていました。昨日は群れに囲まれて死にかけましたが、今日は盾と槍があり完璧です。アンとカレンは楽勝だと考えていました。鼻歌気分でみなみの草原に向かったのでした。


 もともと、ホーンラビットは臆病な動物です。人間を見たら逃げるのが普通なのです。さらに、南の草原は魔物森から離れており、魔粒子の薄い地域です。ホーンラビットは少ないのです。ホーンラビットと遭遇することも難しく、逃げるホーンラビットに対する狩りも困難を極めました。アンとカレンは、3時間かかって1羽しか得られなかったのです。さらに、これは2人が知らないことでしたが、ホーンウルフは実は南から侵入していたのです。結果、南の草原のホーンラビットは、ホーンウルフ達によって刈り尽くされていたのです。

 さらに、難しくすることは、ここは荒野では無く、草原だということでした。そう、草原だったのです。荒野と違い灌木や茂みが無いのです。いくら、背を低くしても、遠くからアン達を見つけ、ホーンラビットは素早く移動してしまうのでした。


「どうなっているの。狩りにならないわ。」

「だめだな。そもそも、ホーンラビットがいない。」

「もう、昼だけど。まだ、1羽よ。遭遇したのは3羽のみ。」

「そいつらを走って追いかけて、やっと1羽だものな。」

「いい加減、疲れたわ。昨日のあれは何なの。」

「あれは、ゲームの仕組みとしてそうなっているんだ。ああしないと攻略できないだろう。町の人は神の加護だとか言っていたけどな。」

「でも、南の草原でもこんなことは無かったはずよね。狩りが格段に難しくなるだけでさあ。」

「ああ、そのはずなんだよ。遭遇できないことはないはずなんだよ。」

「ゲームとは違うと言うことかしら。」

「そうだな。」


 ガラスの槍を地面に突き立てて、座り込むアンとカレンでした。


「腹減った。アン、メシ!」

「わかった。」


 アンは水晶の柱を作り出し、それを並べて即席のかまどを作ります。そして、その上に銀色の魔方陣を刻んだ水晶の板をのせました。それは、イベントリから取り出したものです。魔方陣が美しい幾何学模様のようになっていおり綺麗な物でした。


「何?それは・・綺麗な板ね。」

「これか?『魔動コンロ』だそうだ。宿の調理場で見かけたのでまねして作ってみた。魔方陣は銀だ。ミスリルがいいらしいがミスリル元素はよくわからん。本物は石版に魔石の粉で魔方陣を刻んだ黒い板なんだが、僕は水晶と銀しかできないからな。まあ、IHコンロみたいなものだ。」

「きれいね。貴族に売れるんじゃないの。」

「考えて見よう。さて、サンドイッチでいいか。」


アンはその上にフライパンをのせ、ベーコンのような塩漬け肉を取り出して、水に浸します。しばらく水に浸漬した後、水を捨てて緑の葉っぱふりかけます。そして、少しの油を垂らして肉を焼きます。手際がいいです。そして、トングで焼いた肉を黒パンにレタスのような葉っぱと一緒に挟んでカレンに差し出しました。


「おお、ホットサンドなのね。すごい。」

「なあ、この『魔動コンロ』はすごいだろ。ファイヤーボールとMPの消費量が違う。宿の女将さんは魔動石を使うらしい。」

「こっちの感心しているのは、塩漬け肉をわざわざ塩抜きして、焼いて挟んだことよ。普通、そのまま挟むでしょ。」

「そんなことするか。塩辛いし、塩分の取り過ぎになるぞ。それに、脂身焼いて油を溶かして食うもんだ。そのほうがおいしいだろう。」

「おお、そこまでこだわるんだ。その上、このハーブの香りは何!おいしいけど・・」

「ローズマリーだけど。このベーコン、いや、何の肉かわからん塩漬け肉にあうんだ。」

「うう・・・そんな知識だけはあるだから、普通の男の子は知らないわよ。」


 コンロとフライパンは水魔法で水をかけ、布で綺麗に拭き、最後に浄化魔法で布を綺麗にします。そして、コンロとフライパンをイベントリにしまいました。水晶のかまどは一瞬で光の粒になって消えました。くれぐれも言いますが手際が良いです。


「ああ、食った。食った。アン、どうするの。このままでは宿賃もないわよ。アンがあそこで働くというならいいけど。」

「それをし始めると冒険者から宿の女将におさまってしまいそうな自分が怖い。『カレン行ってらっしゃい!』とか言ってさ。」

「あり得るわね。それでも良いけど。」

「良いのかい!」

「まあまあ・・じゃあ、どうするの。」

「・・・・うーん。やっぱり、行くか?」

「行きましょうか。背に腹は代えられないわ。」


 こうして2人は、『始まりの荒野』に向かうのでした。


(ウサギ発見!)

(5羽の群れね。オオカミはいる?)

(大丈夫そうだな。)

(私は白いの。アンは茶色ヤツを・・)


 透明な水晶の盾と透明な長槍を持って2人はウサギに近づきます。万が一ホールラビットが突進してきても、ガラスの盾があれば安心です。あまり、大きくはないですが厚みがあり防弾ガラスように強力です。長槍も六角形から円形に変えたのでちょっと見づらい長槍になりました。アンも進化しています。エライです。カレンの影に隠れ・・もとい、カレンの背中を守っていたアンとは違います。自信をもってホーンラビットに近づいています。

 2人同時に、槍を突き出しました。カレンは一撃で急所の首を射貫き、アンは腹の端を射貫きます。どちらも赤い血を吹き出して絶命しました。残ったウサギは藪に消えてしまいました。アンはウサギを回収します。


「やっぱり、楽勝だな。50匹はいくじゃないか。」

「50羽でしょ。しかし、この盾と槍はいいわねぇ。鎧とか他の防具はできないの。」

「無茶言うなよ。でも、これで稼げたら、買えるぜ。僕は念願のズボンだ!」

「スカートの方がかわいいのになあ。」

 私もそう思います。


さて、ホーンラビットは、臆病な魔物ですが、集団になると一転して攻撃的になる不思議な魔物です。それ故、危険な魔物と言われているのですが、十分な防具と武器さえあれば仕留めることは可能でした。やがて、アンとカレンは巨大な大群と出合うのでした。


「ん、こりゃなんだ。」

「ん、20羽じゃないわね。」

「50羽・・・それ以上いるじゃないか。」

「でも、やらない手はないわね。」

「ああ、盾が壊れたら、槍が折れたら言ってくれ。また、作るよ。」

「頼りにしているわよ。レッツゴー!」


 カレンはウサギの群れに飛び込みます。そして、槍を振り回すと、次々とホーンラビットが絶命してゆくのです。盾を押しつけ、突進をはねのけ、足で蹴ります。アンも負けてはいません。飛びかかってくるウサギに槍を突き出し、次々と仕留めてゆきます。カレンがウサギの塊の中、槍を振り回し、ついにやりが折れます。


「アン!」

「ほい!」


 アンは自分の槍をカレンに渡します。そして、開いたその手の中にまたガラスの槍を作り出すのです。こうして、格闘すること十数分、逃げたウサギもありましたが、そこには狩りの激しい成果がありました。心地よい汗でした。ちょっと、残酷ですが・・

 でも、2人は気がつきませんでした。ウサギ達は自分たちに向かうだけでなく、脇を抜けて逃げていったことに! そう、ウサギ達は何かに追いかけられていたのです。


「やったな。ひい、ふう、みぃ、いつ・・」

「えーと、とおあまりひとつか?」

「もう、はたちあまりみっつだよ。さて、いくつでしょう?」

「わかるか!」

「痛ぇなあ。また、殴った。23だよ。」


 喜んでイベントリに収納していくアンでした。ニコニコ顔でそれを眺めていたカレンの顔色が変わります。


「アン!早く仕舞って!あれを見て。」


 カレンが指し示すその先にいたのは、角を生やした犬、いえ、狼でした。


「ホーンウルフだ!やばい。」

「ウサギはいいから、アン、こっちへ!」


 アンはカレンの後ろにつきます。もとい、背中を守ります。ホーンウルフは、3匹います。どうやら、血の匂いに誘われてきたようです。低くうなりながら、近づいて来ています。そして、ジャンプして、腕にかみついてきますが、カレンはその口にガラスの盾をぶつけます。「キャイン」と鳴いて怯んだところを、槍が貫きます。残りのウルフは、草藪に逃げ込みました。その隙にウサギを回収します。

 しかし、ホーンウルフは3匹ではありませんでした。うなり声がとともに、草藪の中からさらに数匹のホーンウルフ出てきました。そして、ウサギの死体に食らいつきます。


「あっ、それは・・まだ、回収していないのに!」

「それどころじゃないでしょ!逃げるわよ。」

「そうだな・・・また、おんぶかい!」

「文句は、私より速く走れるようになったら言ってもいいわよ。」

「ウサギ肉を捨てながら・・だよな。」


 その頃です。ここはブロフの町の東門の出入り口です。受付では、ジェィクとマシューの門番コンビが仕事をし、その奥の部屋で、レスリー・ニッシュがイビキを搔いて寝ています。受付の立て札をみて、小物商のシルヴェスター・グルーバーが言いました。


「あちぁ、『始まりの荒野』は危険か。何があったんだ。」

「2、3日と言ったところらしいぞ。ホーンウルフが目撃されたらしい。」というジェィクです。

「いま、調査中だとよ。冒険者ギルドに調査依頼を出したばかりなので、その結果では通行禁止になるかもな。」とマシューが言います。

「そうか。東の村に行くには、ちょっと、遠回りになるけど。南の草原を通ってゆくか。」

「そのほうがいいぞ。低レベルの初心者冒険者は、通行禁止だからな。商人は護衛無し通れない。」

「そうなのか。そう言えば、ここへくるとき、遠目にウサギコンビを見たな。」と言うシルヴェスターです。

「ウサギコンビって、ボスのお気に入りのアンとカレンか。」とジェィクが言いました。

「ああ、あのでこぼこコンビか。あいつらには関わりたくねぇ。ひどい目にあわされた。もう、こりごりだ。」と嘆きくマシューです。

「ならばいいか。あいつら、『始まりの荒野』に向かっているように見えたんでな。」

「何?・・本当か!」

「うーん・・・・ボスに言うかあ? ホントにあいつらは、疫病神だ!」


 マシューがレスリー・ニッシュを起こしに行きます。レスリー・ニッシュの寝起きは機嫌が悪いので恐る恐るですが・・


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