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3.ブロフの町

ここはブロフの町です。西門の警備隊長のレスリー・ニッシュは剛胆なことで知られていました。彼は貧乏貴族の三男坊、無職で食い詰めていましたが、武闘大会で名を上げ、騎士に取り立てられて大活躍をして出世しました。しかし、戦争で片足を失い軍隊を引退することになりました。今では、部下が数名しかいない警備隊長ですが、誇りをもってこの仕事を全うしようとしていました。


ブロフは豊かな町です。いつも入町を要望する商人、冒険者や農民が多くいましたが、その中には審査を早く済ませようとして賄賂を渡そうする商人や威張って審査そのものを飛ばそうとする貴族がいました。そんな者は、レスリー・ニッシュがひとにらみすれば十分でした。みんな、恐れをなして順番を守っていたのです。レスリー・ニッシュは真面目で公平な運営を心がけていました。しかし、部下はそうでもなかったようです。本日の当番は、同じ冒険者上がりのジェィクとマシューでした。今日は何故か町に来る者が少なく、隊長のレスリーは夕刻より暇をもてあまして、どこかに出かけていました。


「さあて、ジェイク、今日はもう終わりだな。」

「マシュー、門を閉めて、一杯引っかけようぜ。」

「早く閉めねぇと夜の魔物はやばいのがいるからな。」

「あーあ、今日は入町が少なかったな。チップもしけているぜ。」

「あんまり暇なんで隊長も狩りに出掛けてしまったからな。」

「全くいい加減な隊長だぜ。最後にだれか来ねぇかな。」

「ん?あれは・・」


夕闇が迫る中、街道をひた走る少女2人がいました。本当は男女ですが・・ホーンウルフは何故か城壁が近づくと追いかけるのをやめてしまったようです。


「アン、門よ。締めかけているわ。」

「なんとか間に合ったみたいだ。オオカミも来ないみたいだ。ウサギ肉も無くなったし、もう降りても大丈夫だろう。」

「あちゃあ。使い切ったのね。ギルド登録は大丈夫なの。」

「まだ、毛皮がたんまりあるからな。なんとかなるだろう。」


 締めかけた門に2人は慌てて通り抜けようとしますが、その前に長槍がバツの字を作り通せんぼをします。ゲームでは門番はただ立っているだけで何もしないはずです。驚く杏と華蓮でした。


「おっと、おまえら通行書があるか?」と門番の男の一人ジェイクが言いました。

「え?そんなものある訳が・・」と言う華蓮です。

「じゃあ。身分を示すものはないか?」ともう一人の門番マシューが言います。

「すみません。僕らは冒険者です。これからギルドに行くんですよ。」

「冒険者か。じゃあ、ギルドカードをみせろ。」

「これから登録に行くのよ。ある訳ないわ。」

「ははあ。こいつら食い詰めた農家の娘だな。どうせ、身売りされそうになって逃げてきたってところか。」

「やめとけ。やめとけ。ちょっと、腕っ節が強いとか、山で狩猟をやっていたという子供がこの町に良く来るんだよ。冒険者になりたいといってな。でも、冒険者になったほとんどは森に向かった帰ってこない。」

「おまえらほどの器量ならば、商家の後家か妾になれるぜ。そっちの方向に進んだ方が確実だ。やめとけ・・」


 この2人のいうことはもっともです。華蓮も杏も見目麗しく可愛いです。一人は男ですが・・。華蓮はにやりと笑って、長槍をつかみます。そして、ぐいと持ち上げました。ジェイクとマシューは、華蓮の思わぬ力に驚きます。


「やかましい。アン、通るわよ。」

「こらこら、通すわけにはいかないと言ったろう。」


 マシューは、槍を投げ捨て、片手のロングソードを抜いて構えます。さすがは、元冒険者です。その切っ先を華蓮ののど元に向けます。


「なかなかの怪力だな。その手を離すんだ。」


華蓮が手を離すとジェイクは距離を取って槍を構えました。杏は思わず腰のナイフを抜きました。


「ほう、ナイフか。嬢ちゃん。この槍とどっちが長いかわかるよな。」

「アン、やめときなさい。こいつら伊達に門番をしていないわ。」

「賢明だな。俺たちは元冒険者だ。修羅場を潜ってきているんだ。」

「う・・・・」

「そうだ。良い子だ。その方が賢いぜ。おとなしくしてな。手配書がでてなけりゃ。仮通行書を出してやるよ。でも、ただじゃあなあ。」

「そうだな。こっちの茶色いのは、なかなかのおっぱいだな。そいつをもませたら、仮通行書を出してやるぜ。そっちの白いのは口づけさせろ。」

「そんなのできるか!」

「じゃあ。金だな。銀貨1枚でどうだ。」


 2人はイベントリを捜しますが一枚の硬貨もありませんでした。


「・・・銀貨か。ない・・・」

(装備はいろいろあるけど。こいつを出すわけにはいけないなあ。みんな銀貨ではすまない物ばかりだ。)


 困っている2人の様子をみてにやりと笑うジェイクとマシューでした。


「じゃあ。門の外で野宿だな。」

「それとも、胸を触らせて口づけをしてくれるのか?」


 金が無いとみたジェイクはにやにやしながら言いました。おやおや、要求が胸だけから増えています。さっきは口づけはなかったはず。


「奥でしっぽりとサービスしてくれもいいぞ。」


 それはだめです。18禁になっちゃいます。もちろん、杏はそっち方面の趣味は持ち合わせていません。その時、杏が言いました。


「ホーンラビットはどうだ。僕達は『始まりの荒野』でウサギ狩りをしてきたんだ。」

「え?それは・・だめよ。」と止める華蓮です。

「カレン、仕方が無いだろう。ゲームじゃないんだ。ウサギはまた狩れば良い。」

「話がわかるじゃねぇか。ホーンラビットか。今の相場は5羽で銀貨1枚だ。2人分、10羽で手を打とう。」

「ちょっとまってくれ。イベントリから出すから。」


 杏がウサギ毛皮の山を作ります。


「ほう、確かに10羽だな。まだ、あるだろう。全部だせよ。」

「え?」

「10羽は入町税だ。仮通行証はいらねぇのか。」

「そんなのいるんですか。」

「身分証がなけりゃ。仕方がねぇだろ。」

「わかりました。」


 さらに、杏がウサギの死体の山を作ります。


「すげぇな。おまえの空間魔法は、どんだけ入るんだ。」

「これで全部です。」

「ほう、すげぇな。」とホクホク顔です。

「こっちへ来い。仮通行証の手続きをしてやる。」


2人は小さな小屋に行きます。そこは受付窓口のように大きく空いた木製小屋でした。小屋の中からジェイクがソフトボール大の白い玉を取り出しました。


「これに手をのせな。」と白い玉を指さすマシューです。


 2人は何事かとキョトンとした顔で見合わせます。


「何を調べるんだ?」

「手配書が出ていないか調べるんだよ。」

「顔をみれば十分だろ。」

「仮面を着けているヤツやら変装しているヤツとかいろいろいるからな。魔法で惑わすヤツもいる。これは罪を犯したヤツの個人の固有の魔法パターンを記録しているんだ。まあ、判別できるのは、どっかのギルドに登録している冒険者と商人だけだがな。」

「それ以外はこいつで調べるんだ。こいつは、まあ、手配書さ。」


そう言って分厚い本を出しました。挿絵がいっぱいの本です。今は亡き電話帳のようです。すごい枚数です。ジェイクはぱらぱらとそれを見ながら、白い玉に手を乗せる杏と華蓮の顔をみています。玉は何の反応もしませんでした。


「よおし、合格だ。仮通行証を作るから、名前と出身地を言え。」

「草化・・いえ、アン・ノーベルです。出身は、に・・東の国のとある村です。」

「えーと、名前は、アン・ノーベル、出身は、東の国・・と、そっちは?」

(え?『東の国』でいいか?結構いい加減だな。)と内心驚く杏です。

「あっ、こいつは同じく、東の国のカレン・ターラントです。」

「カレン・ターラントと・・よし、これが仮通行証だ。首にかけとけ。これは、犯罪者じゃねぇと言う証拠だ。正式にはどこかのギルドで身分証を発行してもらうんだな。」


 不思議な文様が書かれた羊皮紙とヒモが渡されました。


「この文様は魔方陣だ。」

「偽造防止の魔方陣が書いてあるんだ。」

「そうですか。いやあ、ご迷惑をかけました。」と愛想笑いをする杏。

「・・・」と黙ってにらむ華蓮でした。

「これからは時間通りに帰って来いよ。」


 こうして、杏と華蓮は無事に門を通過できました。


「アン、私は怒っている。どうして、あんなヤツに・・」

「そう、言うなよ。ここは魔法と剣がまかり通るの暴力世界だ。日本のような法治国家じゃ無い。自分ことは自分で守れるように、早くレベルを上げようぜ。」

「アンがそう言うなら・・しかし、ホーンラビットを全部取られたのは痛いわね。」

「参ったなあ。残りはカレンの持っている4羽だ。」

「そうね。野宿はいやよ。」

「ともかく、冒険者ギルドへ行こうか。」

「この通りをまっすぐ行けばいいはず。でっかい看板があったわね。」

「急ごう。ゲームと違って、見えなくなりそうだ。」


夕闇が濃くなりあたりはますます暗くなっています。街灯なぞあるわけも無く。窓から漏れる明かりが目立つようになってきました。暗闇に紛れて看板なんて読めなくなるはずでした。光るアクリル看板やネオンサインなんてありませんからね。


「おっ、あれだな。」


そこには2本の剣をバツの字に合わせた印章がありました。冒険者ギルドの印です。2人はその扉をくぐりました。


「思ったよりデカいなあ。」

「うぁ・・何なの。混沌の坩堝ね。」


 中に入ると、むさ苦しい男どもがたむろしていました。厳つい鎧で身を固めた男、フードかぶったいかにも怪しげな魔術師、ビキニファーマーの魅惑的な女がいます。その中を陶器のジョッキと料理を持ったメイドが行き交いしています。


「あのう・・冒険者の登録をしたいのですが受付はどこですか。」

「あん? ほう、なかなかの美人じゃねぇか。俺と飲まねぇか?」

「いえ、それは後で・・どこなんですか。」

「そうか。あそこだ。」


 その男はあごで奥を指し示します。そこには金属製の鉄格子に囲まれたカウンターらしきものが見えました。近づいて見ると1メートル四方の大きなテーブルの上に呼び鈴がおいてあります。それを鳴らすと・・。


「はあぃ。何のご用ですか。」


 出てきたのは眼鏡をかけた聡明そうな女性でした。なかなかの美形のエルフです。しかも、なんとエルフなのに巨乳でした。たぶん、ハーフエルフなのでしょうか。


(お、さすが、ゲームキャラだ。巨乳美人の受付嬢だ。これでなくっちゃ。)と唾をのむ杏です。こういうとこに反応するのはさすがに男の子です。


「冒険者登録をしたいのですけど。」

「了解しました。発行手数料、お一人銀貨2枚となります。この申込書記入して頂けば結構です。字は書けますか?できなければ代筆しましすが・・」

「物納は可能ですか。」

「できます。何をお持ちですか?」

「ホーンラビットです。」


 華蓮はイベントリから4羽のウサギを取り出します。


「今の相場では、5枚で1銀貨です。1人分にもたりませんね。どうしますか?」

「え?まいったな。これ以上は無いんだ。」

「そうですか。ならば、しかたありませんね。それだと今夜の宿代ぐらいにはなるでしょう。頼めば物納で泊めてくれるところがあるかもしれません。だれかに借りるか。『始まりの荒野』でもう一度狩りを行うかしてください。何か疑問点がありましたら、お申し出ください。以上です。」

 そう言って、エルフのお姉さんは消えてしまいました。

「え?」

「そ、そんなあ。」

「あの、ちょっと、まって・・」

「やめとけ、鉄壁の女、コリンナ・レインは取り合わないよ。」


 見れば先ほど受付を教えてくれた冒険者でした。


「どうしたんだ?」という冒険者です。

「あなたは?」

「俺か。

「まいったなあ。登録料にも足りないとは・・金が無い。」と答える杏です。

「冒険者の登録料が無いのか?」

「そうなのよ。門番に渡したのが痛いわね。」と言う華蓮です。

「門番に渡した?なんだそれは!」

「閉門間際に通してもらおうとして、通行料と仮通行証の代わりにだしたんだよ。」

「通行料?そんなのあるものか。仮通行証だって只だぜ。ジェィクとマシューだな。おまえらだまされたんだよ。」

「くそ!アン、私があいつらぶっ飛ばしてくる。」

 そう言って駆け出そうとする華蓮を冒険者が止めました。

「やめとけ。あいつらあれでも凄腕だ。ときどき、小金ほしさに、悪さをするんだ。また、狩りをすればいいさ。登録料かあ。誰かに借りたらどうだ。俺は今は飲んじまってスッカラカンだが・」

「借りるか。」とつぶやく杏でした。

「そうだよ。そこら辺の小金持ちの商人に借りるんだ。おまえらほどの器量ならコロリだぜ。」

「そうだな。華蓮、おまえの女の魅力で男に媚を売ったらなんとかならないか。」

「仕方が無いわね。やってみましょう。」


 華蓮は女の魅力と言われて、うれしくなってやる気になりました。華蓮も女です。しかし・・


「うーん。だめか。カレンだものな。」

「うるさい!」

「痛ぇな。また、殴られた。」

「あつら、しみったれているわね。あっちの商人にしてみようかしら・」

「ちょっと待て、僕がついて行くから、今度は銀貨を見せてくれと言うんだ。」

「何をする気なの。」

「【魔素生成】で銀貨を作れないかと思ってね。純銀になちまうが・・。」

「なるほど。やってみましょう。あの商人でいい?」


 見れば良い身なりをした商人らしきひとがエールを飲んでいます。


「こんちわ。銀貨を見せてください。」という華蓮です。

「え?」と驚く商人さんです。

「こらこら、いきなり何を言うんだ。僕はアン・ノーベルと言います。駆け出しの魔術師なんですよ。なかなか景気が良さそうですね。何の商売をやっているんですか。」

「いろいろと雑貨を運んでいるのさ。おまえ達は何者だ。」

「田舎から冒険者になろうと思って出てきた者です。こいつはカレン・ターラントです。幼なじみで剣士です。」

「ふーん。それで何の用だ。雇ってくれというのか。生憎だな。足りている。」

「いや、違いますよ。僕達は貧乏の家のうまれでね。銀貨や金貨なんてなかなかお目かからない。金貨ともなると王様の姿が彫られているだとか。いっぺん、見てみたいと思ってね。商人のアナタならお持ちかと思って。」

「金貨だろ。みたことないのか。」

「いつもは賤貨ばかりですからね。精々、銅貨どまりなんです。」

「ふーん。見るだけならかまわんぞ。ちょっと待て。」


 その商人は懐から袋をだし、金貨と銀貨を1枚ずつ取り出してみせました。


「わあ、さすが豪商ですね。その袋には金貨や銀貨がぎっしりですか。お金儲けが上手だな。モテるでしょ。」

「そうかあ。ほれ、これが銀貨だ。こっちが金貨だ。」

「へぇー。女の人の絵ですね。これってお后様?金貨は王様ですか。」

「知らんのか。金貨が王様、銀貨が女王様だよ。」

「どれどれ、見せて!」


 杏はじっくりとそれを眺めて、何かを小声でつぶやきます。そして、華蓮に渡します。


「へぇー、女王様って、綺麗な人ですね。王様も素敵だ。」

「ありがとうございました。勉強なりました。僕達もおじさんみたいに金貨や銀貨をざくざく持てるように頑張ります。」

「おお、頑張れよ。何か掘り出し物があれば買い上げてやるぞ。」

「もちろんです。その時はよろしくお願いします。失礼ですがお名前は?」

「シルヴェスター・グルーバーという。しがない小物商さ。がんばれよ。」


(アンはさすがにくちがうまいわね。うまくいった?)

(ばっちりさ、ほら!)


アンの手の中には金貨と銀貨がありました。


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