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2.ウサギ狩りSIO2

「さて、杏、これからどうするの?」

「ここが、ニューワールドファンタジーだとすれば、定石としては、兎狩りだね。狩りをして、レベル上げだろう。レベルが上がれば、MPの回復速度が上がるから、いろんな装備が使えるようになる。また、瞬発力が上がるから狩りも楽になる。」


「なるほど。何羽狩るんだったかしら。」


「最低、2人で20匹だったはずだ。ブロフの町にウサギの肉と毛皮を持っていってギルドで金に換えるんだ。次は、冒険者の登録と今夜の宿の手配だ。」


「ああ、早くやらないと日が暮れるわ。」


『始まりの荒野』の最弱の魔物は、ホーンラビットです。ホーンラビット(角兎)は、額に角をもつウサギで臆病な魔物ですが、相手が弱いと知ると突進してくるウサギです。ホーンラビットに対するプレイヤーの武器は、ジャックナイフ1本でした。

レベルは低いが舐めていると、死に戻り似合うのです。1対1なら、どうということない相手だが、初期レベルで囲まれると終わりでした。


こいつが、ニューワールドファンタジーでの最初の試練でした。草原をかき分けて進むと、杏と華蓮は1匹のホーンラビットを見つけました。幸い、こちらにお尻を向けています。


(いたぞ!)


(私がやるわ。)


 ゲームでは、『攻撃する』とか『捕まえる』で終わりなんですが、3Dの世界ではそうはいきません。華蓮は、風向きを確認してそっと近づきます。そして、ぱっとつかまえて,首をしめました。キューと言う声ともにホーンラビットは絶命しました。


「やったな。さすがに、華蓮はうまいな。」

「ゲームでは、『ウサギ皮が残りました。』なんだけど。リアルだと・・・なんだか。」

「まあまあ、さすがに、ゲームではなくて、ゲーム世界なんだからな。これって、解体するのかな。めんどくせぇな。」

「ウサギの解体って小さいから大変なのよ。なめすのも結構手間がかかるし・・」

「よく知っているな。経験があるのか?」

「祖父がやるのをみていたことがあるの。」

「さすが野生のゴリラ女。」

「ぐだぐだ言ってないで、イベントリに収納して!」

「痛ぇな。わかった。」


 華蓮が空中をにらんでいます。イベントリの中を探しているようです。


「大剣は使えないし・・あった。これね。」


 華蓮の手の平が光ったと思ったら、黒革の指ぬきグローブが現れました。手の甲には石突きの鋲が埋め込まれたやつです。


「ひょー、かっこいいな。それで殴るのか。」

「今のHPとMPじゃあ大剣は使えないし、肉弾戦しかないらね。蹴る場合はこっちよ。」


 それは、鎧とセットの金属製のブーツでした。そして、ナイフを手に持ちます。


「あんたも何か。出しなさいよ。」

「『創造の杖』がある。これでぶん殴ることができたけどな。・・・うっ、重も!僕って、腕力無いなあ。」

「他に無いの!」

「あった。『賢人のロッド』。これなら持てる。」


ミスリル製の青みがかった菜箸ほどのロッドでした。魔力通りのよいミスリス製で魔法を使用するときに使うものですが、とても武器にはなりません。バットかすりこぎ棒くらいあれば別ですが・・


「まるで、箸よね。もういいわ、ナイフの方がましよ。箸より重たいモノをもったことが無いなんでどこの貴族だ。使えないやつ!」

「華蓮の背中を守るよ。」とドヤ顔でいう杏です。

「隠れるでしょ・・・さあ、いくわよ。」


 草原をうろうろして、ホーンラビットを探します。今度は黒いヤツでした。まるまると太って、少し大きいです。華蓮は気がついていません。杏とじっとにらみ合います。そして、角をこちらに向けて飛びかかってきました。


「わお!」

「危ない!」


杏が思わず後ずさりすると、ウサギは杏の脇腹に突っ込んで来ました。ウサギの角には鋭さはありませんが、石で殴られたような痛みが走ります。


「ウグ・・」

「杏!大丈夫?」

「痛ぇな・・効くなあ。」

「また、来るわ。下がってて!」


華蓮が杏とウサギとの間に入ってきました。ウサギは突進が効果あったと知り、再び突進をやろうとしゃがみ込んでいます。華蓮は、低く構えてウサギの突進に備えます。杏はその背中に隠れます。


ウサギがジャンプしたそのとき、華蓮は拳を頭に打ち込みます。足下にドサリと落ちました。額が割れて出血し口から吐血しています。


「うぁあ、血が・・額が割れたわ。」

「うまいなあ。」

「うぁ、リアルだと、グロい!早く、しまって!」

「わかったよ。おっ、もう一匹!」

「一羽よ。」


 今度は灰色のヤツが今にも飛びかかりそうにしています。さらに、茶色のウサギがもう一羽が反対側に現れました。


灰色がジャンプした時、華蓮は足を蹴り上げます。灰色は頭を蹴られて絶命しました。


「杏、そっちを頼むわ。」

「え?そんなことを言ったて・・」


続いて、茶色は杏に向かってジャンプしました。杏はウサギに向かって闇雲にナイフを突き出します。キンという音がし、その切っ先とウサギの角がぶつかります。

ウサギはナイフで顔を大きく切り開らかれてどさりと地面におちました。華蓮はすぐにそいつの首にナイフを差し込み絶命させます。


「ひぃー、早くしまって!」

「やっていること・・言うことが違うんだけど。」

「だまってやる!」

「痛ぇな。しまえばいいんだろう。」


 華蓮が血を怖がっているのに対し、杏は平気な顔でウサギの死体に触れ、イベントリに収納してゆきます。華蓮はひと息ついて座り込みました。すると、体が熱くなる感覚やってきました。


「何!これは??体が熱くなった。」

「僕もだ。レベルアップじゃないか?」

「あんたも?ゲームと同じように、クランのメンバーも上がるのね。」

「そうらしいな。スカウターで確認してみるか。」


 確かにレベルアップはしていました。華蓮は体力が、杏は魔力が少し増えたようです。


「体が少し軽くなった気がするわ。レベルアップのおかげね。」

「狩りの効率が良くなるはずだ。なんとかなりそうだな。」


 荒野での探索が続きます。日が少し傾いてきました。少し涼しくなってきたようです。杏は初めてのスカートでした。


「まったく、スカートは涼しすぎるな。」

「すぐなれるわよ。」

「はやく、ズホンを買いたい。」


 さらに探索が続きます。日はさらに傾き、影が長くなってきました。お腹も減ってきました。


「やばいな。まだ、2人で4匹だろ。」

「ゲームと同じならば、10羽までは順調に遭遇できるはずよね。」

「ああ、逆に、一人10羽以上狩らないと、ゲームが進められなくなる。」


 『始まりの荒野』では無一文です。そのため、ここでウサギを狩りギルドに行って納品して、お金を得ないことには、宿に泊まることもできず、野宿することになるのです。但し、ゲームでは必ず10羽以上と遭遇するようになっていました。さらに、藪を抜けたところで、5羽のウサギの集団を見つけました。そいつらが、草むらに逃げるのを追いかけます。


「5匹か。こりゃいいや。」

「5羽よ。ちゃっちゃっとやってしまいましょう。」

「オーケイ」


 ウサギの後を追いかけるとウサギの集団は6羽になっていました。華蓮はその場で2羽をしとめますが、取り逃がしてしまいます。後を追いかけると今度は7羽に増えていました。その場で、1羽をしとめますが、また、残りを取り逃がしてしまいます。杏はなんとなく嫌な予感がしました。


「おっ、また、増えたわ。」

「いやまて、後ろにもいるぞ。」

「え・・右にもいるわ。」

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よう、いつ、むう、・・・」

「へぇ・・今時、そんな数え方できる人初めて見た。11以上はどういうの。」

「『じゅういち』だ。昔は『とおあまりひとつ』と言ったらしい。」

「へぇ、アンは無駄な雑学は豊富なんだから・・」

「それより、ちょっと、やばいぞ。20匹を超えている。しかも、完全に取り囲まれた。」


 ジャンプしてくるウサギにナイフを振るいます。しかし、数が数です。足、腕、脇腹と攻めてきます。足元にはウサギの死体も積み重なりますが、体への負担も少なくありません。特に杏は、あっという間にもう2羽の攻撃を受けていました。華蓮は巧みに避け、「殴る」、「蹴る」、「切る」の繰り返しです。華蓮も無傷ではいられません。


「やばいなあ。」


しかし、一度に2、3羽がくると手が足りません。華蓮は1羽を避け、正面にはナイフを投げ、横からにはヤツを殴っていました。


「アン、ナイフを貸して。」

「ほい。」


 代わりにアンは「賢者のロッド」を装備します。


「足りないわね。もう、ナイフはないの?」

「さっきの鉄ナイフなら作れるけど。」

「あの粘土でどうしろというのよ。石でもいいわよ。」

「石? 石かあ・・ほれ、これはどう。」


 杏の作り出したのは、透明な水晶の結晶でした。太さ3センチ、長さ10センチほどの水晶でした。


「何これ、綺麗だけど。」

「酸化ケイ素の結晶、いわゆる、水晶だね。石は石だろ。」

「あんたの魔術って、微妙ね。これは・・投げたらおわりねぇ。」

「はぁ、疲れた。MPの消費がはげしいな。」

「もっと、槍みたいに長くできないの。」

「わかった。」


 杏の手が淡く光、そこに現れたのは、六角形の水晶の棒でした。長さは2メートルほど、完全な澄明で、先がとんがっています。


「おお、これはいいな。」

「予備も作るぞ。但し・・後はまかした。」

「任された。」


 杏はもう一本作りだし、その場に倒れました。


「MP切れかあ。仕方が無いわね。さて、やりますかね。」


華蓮は舌なめずりをして、にやりと笑って、ウサギに対峙します。


 ここは『始まりの荒野』です。広い草原に高さが1メートルほどの草藪が点在しています。いくつかの丘もあり、そこには灌木もあります。時折吹く風がさわやかでした。草は光を反射して揺れていいます。


 ここは『始まりの荒野』です。力なき冒険者が夢を追って初めてたどり着くとこです。そして、ある者は、ここで命を失い、ある者は戦いに勝って町に戻るのです。陽はかなり傾いており、影が長くなっていました。


その草藪の中で2人がへたり込んでいました。一人は褐色のやや大柄な少女、もう一人は雪のように白い儚げな少女・・もとい、少年でした。累々たるホールラビットの死体です。地面に刺さる2本ナイフ、折れたガラス棒が激しい戦いの後を示しています。


「あ・・・・、華蓮!」

「アン、大丈夫か?MP切れをおこすと気を失うのね。」

「ごめんな。ゲームだとただ動けなくなるだけだけど。」

「いや、倒れてくれた方がいい。ウサギの攻撃をうけないから・・」

「そうなのか。なるほど。オオカミと違うな。」

「ああ、杏に突進するヤツはいなかったわ。」

「ふふふ、頼りねぇな。また、華蓮に守ってもらったか。」

「いや、こいつが無かったら死んでかもしれないわ。杏のおかげよ。」


 華蓮はそう言って折れた水晶の棒を見せました。


「ナイフと違って、こいつは役に立ったか。クリスタルランスと名付けよう。」

「何それ?」

「カッコいいだろう。」

「それは、魔力切れ無く量産できるようになってから言うことね。早く、あれを片付けて頂戴。私がやっても5羽が限界みたいなの。」

「わかった。」


 杏はホーンラビットの死体を片付け始めました。杏のイベントリにはどんどん入ります。クリスタルランスは、魔法のコーティングをしてあらゆる物を貫く槍としてカレン・ターラントの得意技となるのですがそれは後の話です。もっとも、杏は無限の数のクリタルランスを高速で生み出すだけで、それを投げるのは華蓮でしたが・・


「ねぇ、アン。」

「何だ。」

「お腹すいた。」

「そんなことを言ってもなあ。ここには何も無いぞ。」

「こいつは食べられないの」と言って、華蓮は自分のイベントリからウサギを取り出しました。

「ホーンラビットか。たぶん、食べられると思うが、解体がねぇ・・やってみるか。」

「ゲーム世界だし、スキルとかないの。」

「そんなのあるわけが・・・あるぞ!ウソだろう。【解体】!」


 ゲームだとウサギの死体に向かって叫ぶだけでいいのですがリアルはそうは行きません。


「変わらないなあ。・・でも、なんとなく、できそうな気がする。やり方が頭に浮かんでくるな。ナイフを貸してくれ。」

「ほい。」

「まずは、足に切り込みを入れて・・腹を裂いて、そこに、水魔法で・・」

「おお、水鉄砲が血を洗うのにちょうど良いな。あっち、向いてていい?」

「そうだな。グロいからな。」


 カレンが背を向けると、一面は草むらでした。長い草が風に揺れていました。それを眺めてボウとしていると声がかかりました。


「もう、いいぞ。肉の塊になったら大丈夫だろ。」

「おお、見事ね。頼りになるわ。皮と内蔵は?」

「イベントリに仕舞ったぞ。」

「さあ、料理して!」

「もう、よだれか。ちょっとまてよ。料理するには、水と火がなあ。うーん。ちょっと、待て。水と火は、調理用ぐらいなら魔法でできるか。たしか、ゲーム中の宴会イベントで料理したことがあったな。酒と塩こしょう、わずかだけど野菜もあるぞ。」


 そう言って、杏は空中を眺めつつブヅブツと言い始めました。そして、何もない空中から、次々と調理道具を取り出しました。石で組んだ簡単なかまどに枯れ草を集め、火魔法でそれに火を付けます。そして、フライパンに油を引き塩とこしょうをかけて肉を焼き始めました。一緒に野菜のかけらをいれ、水魔法で水を注ぎ込みスープとします。それを小さな片手鍋に小分けしました。スプーンとフォークもついています。


「こんなんでどうだ。ウサギ肉は鳥に似ているからきっとうまいぞ。」

「こんな装備まで持っているのか。そう言えば、ゲームでも料理をやっていたな。アンはすごいなあ。」

「味はわかんねえけどな。これをすると、HPが回復するからな。戦闘後の時間つぶしのちょっとしたイベントみたいなもんだ。さあ、食べろよ。」

「おお、流石はアンね。うまいなあ。ごはんがほしいところだわ。」

「まあ、当分食えねぇな。ラノベじゃみんな苦労している。」

「確かにそうよね。」

「食ったら、ブロフ町へいくか。」


 日がどんどん傾いています。スープの良い香りを杏が楽しんでいると、華蓮が立ち上がりました。


「さて、いきましょうか。」

「もう、食ったのか。相変わらず早ぇな。ん?まてよ。この水は魔体だな。飲んでも大丈夫なのかな。」

「え・・今更言わないで。おいしく飲んじゃったじゃない。」

「痛てぇな。殴るなよ。まあ、大丈夫だってば!そんなに、大量じゃない。消えたところで喉が渇くぐらいだろう。」


2人はブロフの町に向かって歩き始めました。夕闇が迫ってます。ゲームでは10分ほどなのですが、リアルでは時間がかかります。1時間ほど街道を歩き、遠くに町の城壁が見えてきました。


「あれ、アン。へんな音がしなかった。」

「脅かすなよ。何もしないけど・・・あれ?」


 がさこそという音ともともに、黒い四つ足動物が草むら頭を出しました。それは3匹の茶色い犬でした。


「犬かあ。町近くだと野良犬もいるのね。」

「いや、違うぞ。ホーンウルフだ。」


確かに普通の犬とは違います。額に鋭い角がありました。角ウサギと違い牙もあります。


「はは、この世界はオオカミも凶悪だな。」

「笑い事じゃないわよ。どうするの。」

「逃げる。」

「え?」

「これから、ウサギを投げる。やつらはそれに飛びつくだろう。その隙にひたすら走るんだ。」

「わかった。」


そう言って華蓮は杏に背を向けてしゃがみ込みます。唖然とする杏です。


「・・・カレン、おまえなにをやっているだ。」

「あんたの足が遅いからよ。」

「え?」

「なんなら、私をおぶってくれてもいいわよ。」

「それは遠慮しておく。大丈夫だよ。自分の足で走れるよ。」


実際のところ華蓮は身長が高くたくましくて大柄です。杏は小柄で華奢です。体育でも女子のトップと男子のどん尻の脚力でした。


「早く、この世界では死に戻りは無いわよ。肉はあんたが持っているし、走りながら投げるより、背中にのったまま投げたほうが的確でしょ。」

「確かにそうだけど。もう、16だぜ。おんぶされるなんて・・・」

「早くしなさい!」

「痛てぇ。わかったよ。乗るから。ああ、男としてのプライドが・・」

「ははは、あんたにそんなものあったの。行くわよ。」

「わお!落とさないで・・・」


 杏がウサギを投げるとオオカミ達がそれに食らいつきます。取り合いになります。その隙に走るのです。女子トップの脚力と言っても、オオカミは早いです。追いつかれそうになるとまたウサギを投げます。そして、また・・・果たしてブロフの町にたどり着けるでしょうか?


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