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22.中央神殿の聖女サラ・エリオット

 今から1年ほど前のことです。ここは王都の最大の神殿です。聖女サラ・エリオットがいつものように、女神ミトラス様にお祈りを捧げています。齢50才を超え、体力の衰えを感じるようになって来ました。昔のように聖魔法を使って奇跡を起こし、信仰を集めることが難しくなってきていたのです。それどころか、ろくに聖魔法が使えないばかり血筋と金の力で聖職者をしているという輩が増えてきていたのです。

「近頃はさっぱり神託を降ろして下さらないわ。お陰で困った人達が幅をきかせるようになった。」

 そう嘆いていたときでした。目の前の祭壇が突然光に包まれて、1人の少女が現れたのです。その少女は、なんと巫女服を着ているではありませんか。聖女サラは、歓喜に打ち震えました。ついに、神が我が願いに応え、新しい聖女を使わしたのだと!


「あ、痛てぇ。ここはどこだ。」

「ここは、ミトラス中央大神殿でございます。」

「ふーん。あんたは誰?」

「女神ミトラスの巫女、サラ・エリオットでございます。あなたは?」

「あたい?林奈怜だよ。だりぃから学校の授業をバックレてよ。ヤニを補充していたらここに飛ばされちまった。ここは神殿と言ったな。おばさんは巫女だっけ。するとおまえ、ここのボスか?」

「一応そうですが・・・」


 聖女サラ・エリオットは、理解しました。こいつは成長途中のガキだと。神が遣わしたからと言って、成長した成人君主のような立派な人物が来るわけがなかったのです。次世代の聖女として鍛え上げて本物になるんだと・・そう、考えると聖女サラ・エリオットはつかつかと林奈怜の傍に歩み寄りました。


「あなたは、聖魔法は使えますか?」

「ふぇ・・聖魔法?何それ・・」

「ちょっと待ちなさい。えーと・・これね。」


 聖女サラは、神殿に飾られていた。水晶の玉を持ってきました。


「これを持ちなさい。」

「は、はい・・」

「□※∞£$&▽☆★」


 そう呪文を唱えると、水晶の玉は白く光りました。それも激しく!聖女サラが唖然とするほどに・・


「才能はあるわね。うむ・・」

「なんだ。ババア、これはなんだ?」


 聖女サラは拳を振り上げ、振り落とした。


「ふぎゃ!」

「正しい言葉を使いなさい!『聖女さま、これは何ですか?』と言うものです!」

「はあい・・」

「まず、聞きます。あなたはどこから来たのですか。」

「どこからって・・まずは、ここがどこか教えてくれよ。」

「ここは、ローディア王国のミトラス中央神殿です。どこか異国から転移してきたようですね。」

「ローディア王国?こりゃ、ラベノの定番の勇者召喚か異世界転移か?」

「何をいっているのですか?」

「こっちのことだ・・えーと、その通り、異国の日本という国から飛ばされてきたんだ。無理矢理だけどな。」

「なるほど。恐らく、その日本という国から神が私達のために使わしたのでしょう。しかし、まずは、その言葉遣いから直さないといけないようですね。」

「ひぇー、ここでもかぁ!」


 林奈怜の母親は、怜を厳しく育てました。母親は小さな怜を殴り寒空に放り出すこともいとわなかったのです。こうして、母親に対する恐怖を植え付けられたのです。

その結果、怜は表向きの顔としては、上品で知的な娘を演じることを覚えました。しかし、それは彼女の魂にとって大変窮屈な物でした。学校という初めて母親の目の届かない時間を得た彼女は解放することができたのです。しかし、先生を通じて、その行動をフィードバックされ、ひどく叱られることとなりました。その後、彼女は先生の前では本性を隠すことを覚えました。

 持ち前の賢さもあって、その技術は、成長するにつれて洗練されていきます。高校生になる頃には、女品な言葉使いで風紀委員をやりつつ、陰では県下の不良女子高生を束ねるほどになっていました。いくら不良女子高生を力で押さえることができても、相手が女子高生だからでした。『三つ子の魂百まで。』と言います。そうなっても、怜は母親頭が上がらなかったのです。


 聖女サラは、いままで、多くの聖職者を育ててきました。聖職者を目指す者には、金持ちの子弟もいましたが、才能は別です。貧しい家庭で育った札付きの子女の方が、掘り出し物が多く、その後の成長が良かったのです。そこで、聖女サラは、好んでスラム街の孤児に人材をもとめ、矯正することが得意でした。下賤の身の者達に、理屈で教育しても始まりません。力でねじ伏せることが、効果がありました。それは、母親が小さな怜にしたことと同じでした。


 怜は、聖女サラを母親と同じと思い、表向きは服従することにしました。聖女サラは、厳しく怜を鍛え上げました。その結果、怜はめきめきと聖魔法の腕を上げていったのです。


 ここは、マルド大墳墓です。ここは、ダンジョンとなっており、階を下がるほど強力な悪霊系の魔物があらわれる場所です。このダンジョンは、聖魔法系を鍛えるにふさわしい場所でした。神の作りダンジョンと呼ばれ、死ぬことがなく経験値と宝物をえることができるレベル上げの有名な場所でした。


ここは、マルド大墳墓の5階層です。たくさんのゾンビの山です。聖火で焼き払うのが最高の方法なんです。しかし、もう100体以上のゾンビを焼き払い、怜の魔力が尽きかけていました。

「サラ様、もうだめです。魔力が尽きました~~」

「何を言うのです!知力を振り絞りなさい。やるのです。」

「ひえーー、ホーリーフレスム!ホーリーフレーム!フォーフレェ・・・」

「気にすることはありません。死んだら、裸で入り口に帰るだけですから・・」

「それは、いやです!」


 怜は、毎日のように魔力枯渇を起こしながら、魔力容量を増やし、実力を増していきました。それは、むしろ、聖女サラが驚くほどでした。結果、次第に、聖職者レーニ・リンナとして人々の賞賛を受けるようになったのです。


今日もシスター達が怜のウワサをしています。

「レーニ様が7階層を突破されたそうよ。」

「え?ちょっと、まって!大墳墓に入ってまだ3週間よ。それって、Cクラスの階層ボスを倒したということなの。」

「そう、冒険者ならば、単独でCクラス相当まで達したということよ。」

「ひぇー、信じられない。このペースは100年ぶりじゃない?」

「さすが、次の聖女のことはあるわね。」

「まさか、聖女サラ様が次の聖女に育てようとしているのは事実ですけど。」


聖職者のクラスの系統には、僧侶、司祭、聖騎士、白魔道士など多々ありますが、聖女はありません。聖女は教団内の役職であって、クラス・職業ではないのです。怜が成長し力をつけると、聖女サラは悩ましい問題に直面することになりました。


 神殿の中をシスターが小走りでやってきました。

「サラ様、レーニ様をご存じありませんか。」

「寝ているんじゃないの。」

「それが、寝床か空っぽなんです。」

「一体、どこへ・・」

「まさか、だれかに誘拐されたとかでは・・」


 手分けをして心当たりを探しましたがどこにもいませんでした。昼を過ぎた頃帰ってきたのです。それも、僅かな布を巻き付けて、ほぼ裸と言う姿でした。


「あなた!マルド大墳墓に行っていたのね!」

「は?いえ、その・・・」

「隠してもだめよ。そんな裸同然の姿で・・死に戻りしたのね。」

「バレたか。実は8階層を突破して、9階層まで行ったんだけど。ここのラスボスが強くって、やっは、こんな剣じゃ無理だわ。」

 その手にはぼろぼろになった聖剣がありました。

「きゅ・・9階層!?最下層まで行ったのですか!それに、その聖剣は神殿に飾っていた聖パラスの剣!ああ、なんということを!」

「すごい!歴代の聖職者でそこまで行ったのは聖者グレオス様だけですよ。」

「解りました。もういいです。早く、治療院へ行きなさい。」

「へ?シスター達に治癒魔法をかけてもらったから別にその必要はないです。」

「何を行っているの!治療してもらうのではありません。治療するのです!患者は溢れかえっています。あなたがやらなくてだれがやるのです。」

「ふぁーい。」

「本日は、罰として200人がノルマです!」

「ふぁ・そんなあ。」

「返事はハイです。」

「はい、解りました。」


 困った問題とは、レーニが聖職者として攻撃魔法ばかり長けたことでした。治癒系とか癒し系の魔法はさっぱりだったのです。それを補うために、治療院で治癒魔法の訓練をしたのですが、嫌いなのか素質がないのかなかなか伸びなかったのです。それでも、彼女は医療知識を駆使して、治療をしていました。やがて、それはさらに悩ましい問題に発展するのでした。


 怜がノルマの200人の治療を行って、魔力を使い果たしヘトヘトになって治療院から出てくると、太った男が待ち構えていました。その男は、ジェラルド・エイマーズ大司教でした。大司教は、聖布にくるまれた何かをシスターにも持たせていました。


「聖レーニ様、マルド大墳墓を制覇して見ませんか?」

「いや、無理です。ラスボスが強くって!」

「ラスボス?・・ガーティアンの事ですか。」

「ああ、こちらでは、あのスケルトン竜をそう言うのですね。あれは、反則です。」

「大丈夫です。秘宝、聖剣マルチーズと聖鎧があれば!」

「ふぇ?!ホントですか。それがあればダンジョンを攻略できます。」


 喜び勇んで聖女サラの元に帰ったのですが、ひどくしかられる怜さんでした。


「ホントにもう。なんということしたのですか!ジェラルド・エイマーズ大司教の力を借りるとは!」

「あの人は、レーニ様がマルド大墳墓を制覇したら、自分の功績だと宣伝するつもりですよ。えらいことになりましたね。」

「レーニ、あなた、失敗しなさい。」

「そんなあ。どうしてなんですか。」

「あの方は、信仰心は薄いくせに権力志向ばかり高い方なんですよ。」

「これを返してきましょうか?!」

「今更、そんなことできますか!もう、レーニ、あなたが挑戦すると吹聴しまくっているに決まっています。もう、引くに引けないところに追い込まれたよ。」


 聖女サラには心配は的中しました。ここは、マルド大墳墓の10階層です。剣も鎧もぼろぼろになったレーニが呆然とたっています。すると、漆黒に闇に一筋の光が射し、そこを中心に光の筋が次々立ち上がりました。それは、次第に広がり黒い地面が白く輝き、一面の花畑に変わったのです。


「あれ?」


そして、女神のような綺麗な女性が現れこう言ったのです。


「お疲れ様です。よく頑張りましたね。あなたには、ミトラスの加護を授けます。スキル【絶対天昇】が使えるようになります。それでは、お帰りなさい!」

「え?」


こうして、伶はマルド大墳墓の入口に帰されました。死に戻りではないので、聖剣と鎧はもとにもどっていました。制覇した特典です。

そこにあらわれたのは、聖騎士を連れたジェラルド・エイマーズ大司教でした。


「おめでとうございます。これで聖女の資格が得られました。いえ、私が聖女につけさせてみせます。」

「え?何それ・・」

(何、こいつ、安全な入り口で待って居やがったか!おまえはトンビか。)


こうして、聖騎士達に囲まれて、王都の中央神殿に戻ったレーニは聖女サラに会うことなく、神殿内に閉じ込められました。そして、エイマーズ大司教によって、怜の成果が大々的に宣伝されたのです。国王もそれを褒め称え、報償を与えることにしました。それに乗じて、エイマーズ大司教は、聖女サラを廃して、レーニを聖女とすることを画策したのです。

負けず嫌いの伶としては、大墳墓のラスボスに負けたままでいることが嫌だっただけでした。それが聖女サラ様を追い落とすことになるとは思いにも寄らない結果となったのです。

エイマーズ大司教は、聖女サラが最近は大した成果も貢献もしていない事を訴えたのですが、王妃が強く反対したのでなりませんでした。大きな理由は同じ聖魔法でも、攻撃魔法ばかり長けており、治癒とか癒し系の魔法が足りないと言うものでした。

それでも、大司教はレーニを次聖女とすることに成功しました。聖女の公務に常に2人を並び立たせることに成功したのです。そして、大司教はレーニを奉ることで権力を振るうができるようになったのです。


エイマーズ大司教は、レーニを神格化するたに外界との接触を極力断ちました。一方、治癒院に通うことは王命となったので、仮面を着用するという形で許されましたがそのほかはほとんど自由がなくなったのです。その中で唯一楽しみとなったのが、王女との面談でした。少しでもレーニの格を上げたいと思っていたエイマーズ大司教はこの面談を断れなかったようです。


「レーニ、また、来たわよ。」

「わーい。ヴェロニカ、待っていたわよ。例のもの持って来てくれた?」

「これ・・?体によくないんでしょ。」

「うるさい。ヤニが無いとイライラすんだよ。」

「それと、こっちもできたわよ。」

「メスと鉗子だな。待っていたんだ。」

「これで助かる人が増えるの。」

「あとは、抗生物質があるといいんだが、そっちは医者と薬師に研究させている。ああ、治療院にいきてぇな。」

「あんたが治療院にいきたいなんて、変わったわね。」

「うるさい。これは王命なんだろ。」

「王命は治癒魔法の訓練でしょ。こんな道具を使っては魔法力が上がらないのじゃないかしら。」

「うるさいなあ。人の命が助かりゃあいいんだ。」

(それがホンネかしら、いや、外出したいだけか。)

「また、仮面をつけていくの。」

「仕方が無いだろう。次聖女が治癒魔法下手だなんて醜聞がひろがるとまずいらしい。」

「下手ということは無いと思うけどなあ。」

「聖女は奇跡のように欠損部分が復元されるくらいでないとていけないのさ。さあ、行こうか。」


 レーニは聖女のような奇跡的な治療を行うことができませんでしたが、現代医学知識を利用した治療ができました。特にビタミン欠乏症のような栄養学的な病気の治療や感染症予防などに知識が役立ちました。典型的な例としては、脚気という病気を完全治癒することは治癒魔法では出来なかったのです。


「先日、ブロフで売り出し中の女性クランがあってね。勇者じゃないかと思ってあいに行ったのよ。」

「ふーん。どうだった?」

「どーも、4人ともプレイヤー?・・らしいんだけど。」

「へえー、異世界からの転移者がそんなにいるのか。女ばかりというのがいいな。」

「そうそう、なかなか、美人揃いのクランでね。その中にケイモクというかわいい三眼種の魔族の子がいるのよ。」

「ぜひ、会いに行きたいな。聖地巡礼という名目で会うか!」

「ぜひ、そうしましょう。来週でいい?」


 こうして、次聖女レーニは、アン達に会いにいくことにしたのでした。アンは完全に女性扱いでした。



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