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21.エイマーズ大司教 O2 ,C6H12O6

ここは、ブロフの町の冒険者ギルドです。いつもように、エールを酌み交わしながらウワサ話に興じています。

ブロフは田舎町ですが、魔物の森に近く冒険者の稼ぎどころです。それ故、冒険者がたくさんあつまり賑わっていました。一方、ミトラス教の聖地『始まりの丘』があり、たまに、その聖地をミトラス教の聖者が巡礼にくることがありましたが、それ以外に王都の教会から尋ねてくるもの無かったのです。

 

「おい、聞いたか。アン達のクランに王女様が入ったそうだ。」

「とうとう、王族の胃袋までつかんだのか?」

「へぇ、どっかで、アンの野営メシを召しやがった?」

「はは、『召し上がった』と言いたいんだろ。学のあるふりして、無理して敬語を使うからだ。」

「やかましい!ともかく、野営メシの虜になったのだろう。あれが毎日食えるんなら俺でも入るぜ。奴隷でも良い!足でもなめるぜ。」

「変態かよ。あぶねぇやつだな。どうもそうではないらしい。王女様の言うには、アンは勇者らしい。」

「そんな訳ねぇだろう。『殲滅の槍使い』のカレンや『蒼炎の魔弓士』のアイリーならいざ知らず。『野営メシと癒しの女神』のアンだぞ。」

「いやそれが、どうも、譲らないらしい。神託があったらしいぞ。」

「神託?まさか・・そんなことはねぇよな。ないない!」

「そう言えば、今朝はなんだか、教会があわただしいな。」

「ああ、あれか。なんでも、聖女様がお見えになるそうだ。」

「聖女様?そりゃ、司祭様も大変だな。聖地巡礼かな。」

「それがよう。聖女様だけじゃなく、大司教様もいらっしゃるそうだ。」

「こんな田舎町の教会に大司教様までかよ。えらいことになったな。シスターがやたらいるのはそれか。」

「ああ、近隣の教会に応援をたのんだらしいぜ。」

「なるほどなあ。あれ? 教団の馬車が、こっちへ来るぞ。」

「聖地巡礼じゃなかったのか!」

「本当かよ。何でこんなところに来るんだ。」

 教団の馬車が冒険者ギルドにやってきたので大騒ぎです。


 副ギルドマスターは大慌てです。つい先日は王女の来訪がありました。今回は教会です。しかも、聖女様が尋ねてきたのです!

「あわわ、ギルマス!聖女様がいらっしゃいました!」

「何!なんでウチに来るんだ。また、アン達か?」

「図星です。アン・ノーベルのクランに会いに来たそうです。ここには入れないので、教会にくるように言っています。そこで待つそうです。」

「おい、だれか。アン達に知らせてこい!」

「わ、私が行きます!」と言って、副ギルドマスターは飛び出しました。

 受付嬢のコリンナさんは、ギルドマスターのエドガーさんに押さえられています。

「うぐぐく・・」と唸るコリンナさんです。


 ここはアン達の定宿です。アン達の部屋に副ギルドマスターが聖女の話をしました。

「え?教会に来てくれ?」とアンは首をひねります。

「聖女様なのでこのような不浄なところへ入れないそうです。」

「僕達に会いにきたんじゃないのか。宿にも入れないとはどういうことだ。」とアンがききます。

「ここかのどこが不浄だというの!」と怒るカレンです。

「はあ・・昔は、スラム街の孤児院や治療院へもどこでもでかける方でしたね。エイマーズ様が大司教になられてから皆目なくなりました。」

「ははあ、そいつが元凶なのね。なんとなくいやな予感がするわ。」というアイリーです。

「そのエイマーズ大司教もきているのか。」とアンが聞きます。

「その通りです。聖騎士団の方が20人も居ます。」

「うぁああ・・テンプレだな。もめそうだな。」

「てんぷれ?」

「まあ、こっちの話だ。ともかく、みんなで行こうか。僕のクランのメンバーに会いに来たんだったな。」

「服はどうしよう。」というアイリーです。

「そのままで、いいんじゃないの。」と

「いや、できるだけ良いものを着た方が良いぞ。」

「そんなのないわよ。」

「ならば、汚れていないやつを・・浄化してやろう。」

「たのむわ。」

 こうして、教会にいくことになったのです。


 教会に行くと、ずらりと白い鎧の騎士がならんでいます。教会は白く光っています。掃除のレベルを超えています。まるで新築したかのようでした。

「すげえな。光っているぞ。」

「浄化の魔法だけじゃないわね。」

メンバーは、アン、カレン、アイリーとケイモクです。アイリー、アンとカレンは、服装で悩んで取っておきの装備を装着することにしました。装備しているだけで魔力を消費しますが、初心者のときと魔力量が違うので大丈夫です。但し、スカートだという大問題がアンにとってはありましたが・・

「アン・ノーベルとそのクランです。聖女様の呼び出しに応じて参りました。」

「おまえが、アン・ノーベルか。」と髭づらの聖騎士さんが言いました。

「はい、そうです。」とアンが答えます。

「近頃、売り出し中の冒険者だそうだな。冒険者風情に会うために聖女様がお召しになった。ありがたく思え!」

「では、入らせて頂きます。」とアンは答えますが、カレンは怒っています。

 教会の扉を塞ぐように立ち並んでいた聖騎士達が左右に開きます。その中をアン達は進みますが、髭づらの聖騎士さんが突然立ちはだかりました。

「ちょっと待て!」

「はい?!」と言うアンです。

「そのフードを被ったものは、魔族ではないのか?」と言う聖騎士さんです。

「え?」と驚いて立ち止まるアンです。

「何故、青い肌をしている。魔族だろう。そのようなものを教会に入れるわけにはいかない!」

「三眼族の子供ですがだめなんですか?」とアンが聞きます。

「三眼族?!魔族ではないか!」

「アイリー、ケイモクは魔族なのか?」とアンは振り返って聞きます。

「一応、三眼族は、そうなっているわね。エルフすら魔族と分類されることもあるわ。」と答えるアイリーです。

「ケイモクはだめなの。」と言って、ケイモクは泣き出しました。

「よしよし、違うよ。困ったな。この子もクランに一員なのだが、入れないとなるとどうしよう。」と言うアンです。

「かまわないわよ。入りましょう。こんななのにかまっていられないわ。」と言うカレンです。

「だめだ!魔族を会わすわけにはいかない。どこかに預けてこい。それとも成敗してやろうか!」と聖騎士さんが言います。

「何をいうんだ。ケイモクは大事な仲間だ!そんなことできるか。」と言ってケイモクを強く抱きかかえます。

 とうとう押し問答になりました。その時です。まばゆい光りが発生したかと思うとそれが人型になり、女の姿となりました。ヴェロニカ姫とアリエルでした。

「わあ、カレン先輩!来ましたよ。」と言ってカレンに飛びつくアリエルでした。

「あら、勇者様、こんなところで何していらっしゃるの。私が聖女様を宿まで連れて行く手筈なのに。」とヴェロニカ姫は不思議そうな顔です。

「そんな馬鹿な、宿には入れないから教会まで来いと言われたんだぞ。」と言うアンです。

「それは失礼しました。また、あいつの仕業ね!まあ、ここまで来たのならば一緒に行きましょうか。」

「ヴェロニカとアリエルも呼ばれていたの。」と聞くカレンです。

「ええ、私達もアンのクランの一員ですから!」と胸をはるヴェロニカ姫です。

「なるほど。でも、困ったことになっていてね。ケイモクは魔族だから入っちゃいけないというんだ。」というアンてす。

「そんなあ。関係ないでしょ。私はアンのクラン全員を聖女様にご紹介したのよ。とくに、ケイモクちゃんは可愛いから是非にと!そうしたら、喜んで会いに行くと言っていたのよ。」

「でも、宿にギルドから連絡が来て教会に来るように言われたんだよ。ところが、ケイモクを抱えたまま入ろうとするとだめだというんだよ。」

「なんでそういうことになるのかしら。そこのものどきなさい。レーニとは話がついているのよ。私がこの者達を紹介したのよ。どこにあなたがそれを妨げる権利があると言うのよ!」

「は、申し訳ありません。だが、しかし、・・」

「王女の私が良いとといっているよ。下がりなさい!」

 こうして、なんとか教会内に入ることができました。

「聖女か現れてから、教会の増長ぶりにはほとほと困ったものだわ。」

「はあ、そうなんですか。」というアンです。

(王権と教会の対立か。確か、中世はひどかったよな。なんだか、ややこしいことにならねばいいけど。)


 教会の中の礼拝堂の祭壇前には、さらに御簾で囲まれた部屋が作られていました。その中に聖女がいるようです。その中にヴェロニカ姫を先頭に入っていきます。


「レーニ!勇者さんを連れてきたわ。」

 ヴェロニカが御簾に近づこうとすると、立ちはだかるものがいました。太った聖職者のジェラルド・エイマーズ大司教です。

「これは、これはヴェロニカ王女様、ご清祥で。」

「あなたは、ジェラルド、なんであんなたがここにいるの!これは、私的な訪問でしょ。あなたは関係ないはずよ。」

「公的とか私的とかは関係ございません。聖女様いくところ、お守りするためについて行くのは当然でございます。それから、ヴェロニカ様、聖女様をお名前でお呼びするのは不敬でございます。」

「ご不敬!な、なんと、レーニは、レーニよ。あなたこそ、たかが聖職者分際で、私のことを名前で呼ばないで頂けるかしら!」

「大司教さま、ここで言い争ってもしかたありません。それより、我々の目的は聖女様にお目通り頂くことです。お取り次ぎ頂けませんか。」

「そうであったな。おい、おぬしら頭が高いぞ。」

「はい、はい。」

 アン達は、立て膝をついて頭をたれますが、ヴェロニカ姫は立ったままでした。大司教は苦々しい顔つきで、王女をじろりと一瞥してから、御簾に向かって振り返り、声をかけました。

「聖女様、アン・ノーベルの一行がまかり来ました。」

「ご苦労様です。こっちへ!」

「はは・」と言ってケイモクを抱えたままアンは御簾に近づいたのです

 ところが、エイマーズ大司教によって止められます。

「ちょっと、まて!その娘は魔族ではないか。」と言うエイマーズ大司教です。

「はい、三眼族のケイモクです。魔眼の使い手で、我がクランの大きな戦力です。」と言って胸を張るアンです。

「だれが、そのような不浄なものをここに入れて良いと言ったのだ!ここは、聖女様を守る聖域の中ぞ!」とエイマーズ大司教は反論します。

「何が不浄なのですか!獣人だって魔族だって同じ生命体です。神の元に平等をうたうミトラス教のどこにそんな亜人を排斥する根拠があるというのですか。」というヴェロニカ姫です。

 ヴェロニカ姫とエイマーズ大司教の言い争いになってきました。

「何をいうか。魔族は、ミトラス様を嫌い、邪神を奉る不敬の輩である。ここで抹殺すべきものだ。」

「人間の間で育ったケイモクは、邪神を知りません。立派な信者です。どこに抹殺されるほどの罪があるというのです!」

「ええい、ともかく、魔族はだめだ。聖女様に近づける訳にはいかない!」

「関係ありません。レーニはケイモクにも会いたいと言っていたのです。」

「だめだ!例え、そうであっても、魔族はならん!ええい、穢らわしい。」

 二人の剣幕に、アン達は引くばかりです。その時でした。御簾が持ち上がり聖女がでてきたのです。

「エイマーズ大司教、もうおよしなさい。吾は神託によってこの者達をお招きしたのだ。三眼種の幼子がいることも知っております。神は、その上で会うようにいわれたのです。」

 聖女はにっこりと天使のような笑顔でそう言いました。

「は、しかし・・わ、わかりました。」

 聖女様がそう言うと何も言えません。渋々従ったのです。

(くそ、王族の輩が横車を通しよって!)と小声で言って引いたのでした。

「聖女レーニ様、ご紹介します。こちらが、クランのリーダーのアン・ノーベルです。」

「この子が、ケイモクですか。かわいいですね。」と言う聖女様です。

「そうでしょ。」とわらって


その時です。大司教がふらふらと頭をふり座り込んでしまいした。周りに居たシスター達が慌てて駆け寄ります。そして、寝ているかのようにイビキをかき始めたのです。


「え?大司教様、どうされました!」と言うシスターです。

「まさか、その魔族が!」と言う別のシスターです。

「変なことをいうな。触れてもないだろう。」というアンです。

「ちょっと、お待ちなさい。その症状は脳梗塞・・頭の病気ではありませんか。」と聖女レーニが言いました。

「あ、そうだ。この肥満体・・その可能性が高いな。」というアンです。

 聖女レーニが首筋に手を当てて脈を測っています。

「聖女様、いかがでしょう。」とシスターが心配そうに聞きます。

「やはり、脳梗塞ですね。一刻も早くオペをしないといけません。」と言う聖女様です。

「オペ・・それって、何をするのですか。」と驚くシスターです。

「頭を切って、血栓を取り除くのです。でも、それをする設備も道具もありません。」

「それでは・・」と顔を暗くするシスターさんです。

「ええ、死んでしまうでしょう。良くても全身麻痺ですね。」と言う聖女様です。

「聖女様の治癒魔法ではなんとかならないのですか。」と言うシスターです。

「患部さえ解れば、治癒魔法で血管を修復することはできますが、CTやMRIもないこの世界で患部を特定するのは不可能・・」

(このひとはプレイヤーか?しかも、医学知識がすごいな。)

「ちょっと待て、患部が解ればなんとかなるんだな!」と言うアンです。

「治癒魔法は、自然再生能力の亢進です。なんとかなるでしょう。」と言う聖女様です。

「ケイモク!頼みがある。」

「なあに?」

「実はな・・・・できるか。」

「解った!」

 アンは首筋に手を当てます。

「何をしていますの。」と不思議そうにする聖女様です。

「ケイモクは魔素が見えるんだ。今、首の血液中に魔素酸素を生成した。これで、赤血球がケイモクには光って見えるはずだ。」

「凄い。PETみたいですね。いや、血管造影かしら。」と言う聖女様です。

「ケイモク、よく見てくれ。枝分かれした筋があるだろう。それが不自然に途切れているところがないか?」

「んーん。よくわかんない。」

「しかっり、みてください。でも、急いでください。時間がたつほどひどくなり、最後は死んでしまいます。」と言う聖女様です。

「ケイモク、がんばれ。命のかかった大事な用事だ!」と言うアンです。

「うん、がんばる!」

「・・・・」

 みんなが見守る中緊張した時間が過ぎてゆきます。聖女レーニは脈をはかり死んでいないことを確かめるだけしかできないのです。そう、死んでいないことを確かめるしか・・

「ここかな。」

「どれどれ、ケイモクちゃん、よく見てくださいね。これから治癒魔法をかけるから、その先まで伸びたら正解ですわ。」と言う聖女様です。

「わかった!」

 聖女レーニが手のひらをあてるとそこが白くひかります。

「どう?」

「光りの筋が伸びた!」

「大正解です。」

「後はどうするんだ?」と言うアンです。

「薬かないから、何もできません。寝て直すしかありません。医者や薬師にみせましょう。」

「酸欠で脳神経が傷んでいるよな。直せるか?」と言うアンです。

「やってみましょう。傷とちがって見えないので難しいですが・・」と言う聖女様です。

「大丈夫だ。こんどは魔素のブドウ糖を入れる。直れば脳全体が魔素で光ってみるはずだ。」と言うアンです。

「魔素は崩壊するものなのでしょう。大丈夫ですか?」と言う聖女様です。

「PETと同じだよ。僕の魔素はひと月まで伸ばせるから。そのくらい先だと体外に放出されているんだ。」と言うアンです。

「ふふ、そうですか。では、がんばりますか。」と笑って言う聖女様です。

やがて、脳全体が光るようになりました。

「まだ、直せていないところがあると思いますが、ケイモクちゃんの映像を直接みてないのでこれ以上は無理ですね。」と言う聖女様です。

「CTじゃないからなあ。レントゲンみたいに透過して見えるだけ。これ以上は無理か。」と言うアンです。

「本物の医者や薬師も駆けつけました。あの人達に任せましょう。」


 担架に乗せて運ばれてゆく大司教を見送りつつ聖女レーニがいいました。

「ケイモクちゃん、がんばりましたね。偉いわ!」

「ほんとだよ。エライ、エライ。」と言うアンです。

「えへへ。」と喜ぶケイモクでした。


「それでは、大司教様もいなくなったことですし、ゆっくりお話をしたいわ。」

「ご心配じゃないんですか?」

「ふふふ、アン・ノーベル様、あなたの定宿はどこ?そこがいいですわ。」

「そうですね。皆様、私の周りに集まってください。転移します!」

 慌てたのは、シスター達です。

「え?聖女様、困ります!」

 止めようとしますが、光となって消えました。


 ここは、アンのクランの定宿『戦士の休息』です。

「こんにちは! また、お邪魔します。ヴェロニカです。こちらは、聖女レーニです。」

「わわわ、せ、聖女様?!」

 宿の扉を開けて、来客に慌てふためく、宿屋の娘、アリスンでした。

「ひー、もう、驚かないわよ。次は、大賢者や王様が来て、きっと、天使や神様、悪魔や魔神まで来るんだ!驚くもんか!」

 そうぶつぶつと言いながら壁に頭をぶっつけているアリスンでした。

「勇者様、この子、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ。強い子だ。」というアンです。

「そうですか。」

 そこは納得するところでは無いと思いますが・・ともかく、みんなで部屋に入りました。


「そろそろ、いいかしら・・」と聖女レーニが聞きます。

「はい、大丈夫です。」と言うヴェロニカ姫です。

 その声を聞いた途端に聖女レーニの態度が変わります。椅子にあぐらをかいて座ります。

「え?」

「あーかったりぃ。あぶねぇと思ったんだよなあ。とうとう、脳卒中ぶったおれやがった。いい気味だよ。」

「・・・・」

「あのまま、くたばっちまえばよかったのによ。アンだっけ、おめえが余計なことするから、助けることになっちまった。後遺症は残るが命は止めたぜ。まあ、じゃまだったからとはいえ、あのまま逝っちまうと目覚めがよくねぇけどなあ。」

「このひと・・」と驚くアイリーです。

「驚かれました?これがレーニの素なの。」そ

「さてと、いろいろと聞きたいことがあるわ。」と言うカレンです。

「さっきに言っとくよ。私は林奈怜、プレイヤーだよ。『血まみれメスのレイ』と言われたレイだよ。学校で影バン張っていたヤンキーだな。『○△◇』というレディースのヘッドもしていたけどよ。」

 そう言って、聖女レーニは、長い法衣をまくり上げてメスを止めた太股を見せた。

「えええ!」

「うう、ヤンキー、レディース、スケバン・・そんなのまだ残っていたんだ!」というアリエルです。

「うるせえ!」と怒る聖女レーニです。

「林奈さんの家は、お医者さんだったわね。それで医学知識がすごいんだ。」と言うアイリーです。

「ほとんどは、こいつのお陰だけどな。」

 そう言って聖女レーニが取りだしたのは『叡智の書』でした。

「あなたも持っているの?」と驚くカレンです。

「ああ、プレイヤーはみんな持っているみたいだぜ。これを見ながら医学知識をひけらかしたら、みんな目を丸くしていたぜ。」

「そりゃ、そうでしょうね。」とアイリーが頷きます。

「そのメスはどうしたの?」とアンが聞きます。

「ヴェロニカに頼んだ。こっちには針と糸、鉗子もあるぜ。」

 そう言って反対側の太股見せます。

「手術までしたの?」と太ももを見るアンです。

「ああ、縫合してから回復魔法を使うと早いからな。蒸留酒での殺菌になるから確実じゃねぇけど。そう言えば、アンはペニシリンとかは作れないのか?」

「複雑になると合成経路をシミュレートしないと難しいんだ。」

「キノロン系なら簡単だろう。」

「それならば・・今度調べてみるよ。」

「キノロン?それなに?」と首をひねるカレンです。

「大体、こんな構造だな。ちなみに、ペニシリン系はこうだ。その他にもマイクロサンクリン系は・・・」とアンは化学式をスラスラと書いてゆきます。

「もういい!」とアンの手を止めるカレンです。

「さすがだな。アンは化学者志望か?」と言う聖女レーニです。

「林奈さん、よくこいつの言葉がわかりますね。」と言うカレンです。

「薬学の知識があれば、こんなの普通だろ。」と言う聖女レーニです。

「・・・・」

「あ、痛てぇ!また、殴った。」

「それ、高校生の普通じゃないです。学年ひと桁台の林奈さんと一緒にしないでください。」と言うアイリーです。

「ところで、聖女レーニ様、神託があったと聞き及びましたが、やっぱり、アンは勇者と言うことなんでしょうか。」と言うヴェロニカ姫です。

「そんなもの、会うための方便に決まっているだろう。神託なんて嘘っぱちさ。こんな信仰心の低い聖女に神託なんて下るわけ無いだろう。」

「やっぱり・・・」

「だったら、僕たちを呼んだ理由はなんなのですか。」

「ああ、それか。われのクランにはいるためよ。聖女としての仕事もあるから、そうそう、参加出来ないけどよ。息抜きしないとたまんねぇのだわ。ヴェロニカと一緒にちょくちょく来るからたのむわ。」

「えーー」

 こうして、新しい仲間が増えたのでした。



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