19.ヴェロニカ王女
ブロフの冒険者ギルドです。そこには飲食エリアが有り、軒下でも飲み食いできるようになっています。そこには、簡単な机と丸木の椅子がおかれ、開放的な気分で情報交換できるようになっているのです。今日も話のネタはウサギコンビでした。
「おお、聞いたか。あのウサギコンビがロックゴーレムをしとめたらしいぜ。」
「ロックゴーレムかよ。どうやったんだ。」
「アンとか言うかわいい子が魔法を使ったらしい。」
「ああ、『野営メシと癒やしの女神』のアンが?!確か魔法が使えるんだったな。でも、良妻賢母、生活魔法の天才だろ。しょぼい魔法しか使えないはず。あいつができるのか?」
「ところが、アンの魔法でしとめたらしい。どんな魔法だと思う?」
「魔法ねぇ。ありゃ、火はきかねぇ。水もだめ、風もダメ。わかんねぇな。」
「石を溶かす魔法だとよ。」
「そんなものあるのか。溶岩のようなものか。」
「いや、石が水に放り込んだ塩のように溶けちまう魔法らしいぜ。」
「そんな魔法はあるのか。」
「錬金術にはあるらしい。」
「え?あいつ、錬金術師だったのか。メイドじゃねぇのか。」
「はは、おまえも、そう思うだろ。本職は錬金術師らしいぜ。ウルフやゴブリン退治に毒を使ってたろう。」
「そう言えばそうだな。毒は女の武器と言うからな・・怖ぇな。」
あのう、アンは男ですが・・まあいいか。
その時です。豪奢な馬車がやって来ました。白銀のプレートアーマーを付けた騎士が3名、馬上で前後に囲っています。
「おい、あの馬車はなんだ!」
「えらく豪奢な馬車が来たぜ。」
「どこの貴族だ。」
「いやまて、あの紋章をよく見ろ!」
「へぇ、国旗の紋章・・・わおお、お、王家じゃねぇか!!」
「なんで、こんな所に来るんだ。」
「ギルドの前に止まったぞ!
みんなが見守る中、馬車は冒険者ギルドの前に止まりました。一方、ギルド内は大騒ぎでした。小心な副ギルドマスターはうろたえています。ギルドマスターは、元冒険者ですが、副ギルドマスターは官吏出身なのです。ハリスン・フィリップ・グローヴといい男爵家の四男坊です。
「ギルマス!お、お、王族の馬車が・・」
しかし、エドガーは苦い顔をしてつぶやいていました。
「またか、王女の勇者捜しだろう。今度は誰なんだ。」
「大変だわ。冒険者を全員招集しないと。」
「きっと、ウサギちゃんよ。」
「アン達か。ありえるな。それより、コリンナ、どうして、まだ、ここにいるんだ。」
「はい、これを、提出しにきました。」
「人事異動の取消書か!これをどうやって手に入れんたんだ。」
「まあ、いろいろ、王都のギルド本部にはコネがあるの。」
「こいつ・・・、今は、聞かないでおこう。誰か。アン達を呼んでこい。」
「はい!私が呼んできます。」
「おいこら、おまえはいい。王女の相手を・・あっ、行っちまったか。やむえん、王女は、おれが、応対するか。」
馬車から白髪の男が出てきました。そして、振り返り降車の手助けをしています。フリルたっぷりの豪奢なドレスを着た少女でした。続いて、赤髪の白銀の鎧を着けた少女が一人降りてきました。
エドガーはひざまずいて少女を迎えます。
「これは、ヴェロニカ殿、どうされましたか?」
「エドガー殿、今度は本物です!ねぇ、アリエル。」
「はい、この活躍に、尋常なるスピードのレベルアップ、間違いなく勇者です。」
「ほら、ごらんなさい。アン・ノーベルとカレン・ターラントの二人を連れてきなさい。」
(やっぱり、アン達か。誰でもそう考えるよな。)
「しばらく、お待ちくさい。今、町の冒険者全員に招集をかけていますから、まもなくやってくるでしょう。それまで、ギルドの私の部屋でお待ち願えますか。」
「いえ、ここで待ちます。」
「それはちょっと・・まあ、いいか。」
「姫様のことでは、ご苦労をお掛けします。」という白髪の男性でした。
ここはギルドから通りをひとつ隔てた宿屋です。アン達が出かけようするとドアを叩く音がしました。
「う、コリンナさんだ。また、ギルドから呼び出しか。一体何だろう。」
アンがドアを開けると、コリンナさんが飛び込んできました。
「ウサギちゃん!・・・うぐ。」
アンはひらりとジャンプして躱し、後頭部を蹴って飛び越えて着地しました。コリンナさんは頭から床に激突して気絶しました。躱し方が段々とうまくなってきます。
「あらあら、懲りない人ね。どうするの。」
「放っておけ。」
「お姉ぇちゃん、大丈夫ぶ?」とお尻を指でツンツンするケイモクでした。
「ケイモク行くよ。」
「はあい。」
ギルドの前の通りに出るとギルド前は大層な人だかりです。豪奢な馬車が止まっています。
「姫様、きっと、あれが『ミトラス守護者』のアン・ノーベルとカレン・ターラントですよ。」
「へえ。なかなか、かわいい子ですね。」
ギルド前には、少女とドレス姿の少女が立っており、銀の鎧に包まれた赤髪の少女が片膝をついています。
「それでは、姫様、アリエル、行きます。」
そう言って、銀の鎧の少女が剣に手をかけて飛び出しました。そのスピードは弾丸のようです。あっという間にカレンに肉迫します。アンはヒョイとケイモクを抱えて、カレンの後ろに隠れて『背を守り』ます。『背中に隠れる』とも言いますが・・
「ヒュン」
「ヒュン」
「ガシ」
「ガン」
そんな音がして、鎧の少女は吹っ飛ばされて、地面転がりました。
「危ないわね。何をするの!」
「さすがですね。カレンさんは強いです。」
鎧の少女は、鎧の胸当てに凹みを作っていますが、上手に転がって受け身しておりほとんど無傷で立ち上がりました。その足下には銀の魔矢が突き刺さり燃えていました。
見ていた冒険者があっけにとられて口々に言います。
「え?一体、何があったんだ。」
「早すぎて、見えなかった!」
「あれ?カレンは小盾と短槍を持っているぞ。どこから出したんだ。」
「え?アイリーも矢を射っているぞ。」
実は、鎧の少女は、カレンに肉迫すると剣を抜いて切り上げたのです。カレンは足を開き少し反り返ってそれを避けます。すると、鎧の少女はそこから垂直にジャンプして、上から切り下ろしたのです。しかし、それは小盾に防がれ、そのまま落下途中で、短槍を胸に突き立てられてすっ飛ばれたのでした。アイリーはいつの間にかに、少女の足下に警告の第1矢を、第2の矢をつがえていました。
「エドガーさん、これはどういうことですか!」
「いやあ、すまない。何しろ突然のことで・・」
「私が、説明しますわ。初めまして、私は、ヴェロニカ・グレタ・ローディアです。そこにいるのは、私の従者でアリエル・ケイリーといいます。そして、こちらが私の爺やです。」
「お姫様のお世話をしている執事のグレック・ボルトンです。」と白髪の男がにこやかに自己紹介します
「ローディア?はて、どこかで聞いたな。」
「国の名前よ。この人は王家方よ。」
「ひぇ?王女様かよ。」
「ええ、ローディアの子女の1人で、王女にはまちがいありません。勇者様、実力を試すようなことをして、申し訳ありませんでした。広く情報を集めているですが、エセ勇者があまりにも多かったのです。しかし、あなた方は本物です。魔王を倒すために、ぜひ、私達を従者にお加えください。」
そう言って王女様は跪いたのです。それに習って、アリエルという赤毛の少女と執事のグレッグさんも跪きます。
「え?」
(こいつ何を言っているんだ。また、魔王退治のプレイヤーか?)
「アン、どうするの。」
「エドガーさん、ギルドの会議室を貸して頂けますか?ちょっと、秘密の話があるんです。」
「秘密の話?まあ、いいだろう。こっちだ。」
ヴェロニカとアリエルは喜色満面で、会議室に向かいます。続いて、執事のグレッグさんも入ろうしますがアンに止められました。
「あなたは、ちょっと、席をはずしてもらえるかな。」
「困ります。初対面の方と密室というのは何かありますと・・」
「アン、爺やには何もかも話しているの。」
「しかしなあ。」
「部屋に入ったら、遮音の障壁をかけるわ。爺やには何をしているか見えるけど何も聞こえないわ。これならいいでしょ。」
「そちらのお嬢様が良ければ結構です。そのものが危害を加えようとしたとき障壁をお解きください。」
「なるほど。口唇術というのがあるが背中をむけてりゃいいか。」
ギルドマスターは、先頭だって案内するなか、アンに小声でいいました。
(迷惑かけてすまないな。こいつをなんとかしてくれたら、どん協力でもするぞ。)
(え?王女をこいつ扱いなんてしていいのか。いやな予感がするな。)
「では、ここだ。用事があったら、呼んでくれ。」
「ありがとうございます。」
ドアを閉めて、アンがいいました。
「君たちは、プレイヤーなのか?」
そう言うとヴェロニカが答えました。
「私は、プレイヤーではありません。この世界か異世界での想像世界と似た世界だと聞いています。」
「え?NPCなのにNFWを知っているということか。」
「実は私が話しました。王女様は、幼少の頃より、勇者とともに魔王討伐するというのに憧れを持っておられます。私の話を聞いて、自分も勇者の従者に加えてほしいと言い始めたのです。」
「勇者様、私は、転移魔法と障壁魔法が使えます。危機が迫ったとき、勇者様をお守りし撤退することができます。ぜひ、お仲間にお加えください。」
「確かに、それは魅力的だが、王女がそんなことをしていいのか?!」
「かまいません。王女と言っても、血縁関係はなく、王位継承権はありません。たまたま、特殊な魔法が使える私の母を後妻に迎えられたので、その子供である私も王族に加えられているだけです。その能力は弟にも遺伝子し、目的は達しているのです。しかし、この魔法は国家にとっては脅威です。うかつに、婚姻などで他家に与えることもできません。そうはいっても、王妃が健在の今消す訳にもいかないのです。まあ、悪く言えば飼い殺し、事故で死んでしまえばめっけものと思われています。」
「ひぇ、貴族社会は、なかなか、大変だな。」
「アリエル、あなたは?」
「私は、プレイヤーの圭 安奈です。カレン・ターラントさん、あなたは、棚元華蓮さんでしょ?」
「なんで、それを知っているの!」
「お二人は、ネカマのコンビとして有名でしたからね。」
「まて、圭 安奈て・・・聞いたことがあるな。」
「はい、華蓮先輩と杏先輩、私です。同郷の中学のアンナです。こんなところで、先輩達にあえるなんて!」
「え?君はいつも華蓮にくっついていた圭 安奈か!その姿は・・」
「はい、NFWのキャラクターのアリエル・ケイリーです。」
「うぁあ。わからなかった。」
「ここまでついてくるなんて・・」
「なんですか。先輩、ひどいじゃないですか。」
「それで、王女様とアリエルさんは、どうやって知り合ったんですか。」
「私が古代神殿を探索中に、アリエルが空から降ってきたのよ。」
「え?」
「はい、転移してきたのが丸わかりだったので、正直にすべてを話しました。そうしたら、転移者であることを隠した上で、私を従者にしてくれました。この世界に来て、どうしてよいかわからなかったので大変助かりました。」
「王女様は、どうしてそこまでのことを・・」
「だって、アリエルはこの世界に来るときに『勇者ともに魔王を倒しましょう。』という言葉を聞いたのよ。これって、勇者ともに魔王を倒すべく転移してきたという事じゃありませんか。アリエルともに勇者を探せば、魔王退治に参加するという夢が叶うということなんです。さあ、アリエルも一緒にたのんで!」
「そういうことなんで、先輩、王女様もクランに加えて頂けませんか。」
「まいったなあ。しかし、僕達は勇者じゃないぞ。だって、『勇者ともに魔王を倒しましょう。』と言う言葉を聞いているからな。」
「ええ!じゃあ、本物の勇者はどこにいるんです?」
「さあね。それに、ひとつ聞きたいんだけど。魔王はどこにいる?」
「え?」
「え?」
「やっぱりな。まだ、魔王討伐イベント発生していないんだよ。明確に、魔王がここにいるとわかったら、勇者があらわれるじゃないかな。」
「我々の伝承によると、『魔が競い立つ時、始まり荒野に勇者が下り立つ』と言われています。確かに、確かに『始まりの荒野』に勇者が下り立ったという話はありません。また、
魔王はどこにいるのかはっきりしていませんから勇者は現れていないのかもしれません。」
「それに、僕達の実力はまだ魔王を倒せる程ではない。実力を上げて、仲閒を集めてないとな。魔王退治はそれからになるな。」
「かまいません。私はここにいることはできませんが、アリエルをおいておきます。時期がきたらお呼びください。アリエルは、私と連絡できる魔道具を持たせています。」
ヴェロニカはそう言って城へ帰っていきました。
その日の夜です。宿に帰ったアン達が部屋でくつろいでいます。
「しかし、やっぱり、この世界でもカレン先輩は強いですね。あの小盾はどうしたんですか。あれが防がれるとは思わなかった。私もこの世界に来てから修行したんですよ。」
「あれは、アンの魔法よ。アンは武器をつくり出せるのよ。半径1~2メートルくらいの場所に作った武器を無詠唱で出現させることができるのよ。アイリーの魔矢も同じね。盗賊退治の時もアン魔法で命拾いしたわ。」
「ひぇーすごいですね。さすが、勇者ですね。」
「ちがうってば!」
本人は自覚がありませんが、武器生成という魔法に等しく、実はすごいことなのです。何しろ、危機になれば防具があらわれ、攻撃したいと思えば武器が現れるのです。但し、カレン本人が欲しているだろうとアンが察しなければなりません。アンとカレンのコンビであればこそできる技なのですか・・
こうして、アン達のクランに新しい仲閒が加わりました。
朝です。アンが食事しに宿の食堂に降りると、ケイモクが金髪の美女と仲良く食事をしていました。
「お早う。アン兄ちゃん。」
「おはようございます。勇者様。」
「ああ、お早う。王女様じゃないか。どうしてここにいるんだ!」
「ヴェロニカとお呼びください。どうして?クラン仲閒だから当然じゃないですか。」
「昨日、馬車で城に帰ったんじゃないのか。確か、王都まで5日ほどかかるはずだ。」
「ええ、そうです。昨日も夕方にはお父様に報告をして自室ベッドに潜り込みました。朝起きて、日課の鍛錬をして、朝食をすませてここに来たのです。」
「計算が合わない。城で朝食をすませて、そこから、5日かかるここに、どうやって来れるんだ。」
「お忘れですか?私は転移魔法が使えるんです。一度、来訪したことのある場所へは一瞬でこれます。帰るのも馬車を使わず直接お城に帰りました。」
「あ・・・そうか。」
追い返しても無駄であることを悟った瞬間でした。その時、宿のドアが大きく開けられ、ギルドマスターが飛び込んできました。
「おい、アン。王女さまが・・いた!」
「どうしたんですか。」
「今、城からの緊急連絡で、そちらに王女様が向かったのでよろしくと連絡が入ったんだ。」
「なるほど。それで慌てて・・」
「アン、それではこいつの面倒を頼んだぞ。アリエル、城への連絡を忘れるな。姫様もくれぐれも、アンの言うことを聞いて、危険なことをなさらないように!」
「はあい。」
ギルドマスターはあわただしく出て行きました。
残ったヴェロニカはうれしそうに言いました。
「勇者様、本日は、何をしますか?魔物討伐ですか!ゴブリンぐらいなら私でもこの剣で!」
「まあ、金も稼がないといけないからなあ。ギルドに行って依頼を受けに行くよ。王女様、勇者はやめてくれ。アンでいいよ。」
「それならば、私をヴェロニカとお呼びください。」
「わかったよ。このクランではアリエルも王女様をヴェロニカと呼ぶんだ。」
「はい。」
「はーい」
「はいはい」
ヴェロニカは、ケイモクにべったりであり、アリエルはカレンにべったりとしています。そして、何故かアンはコリンナさんの膝の上でした。ん?コリンナ、おまえは受付の仕事はしなくてもいいのか!




