表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/26

1. 始まりの荒野FE

長らく放置して申し訳ありませんでした。いよいよはじまります。

ローディア国は、緑豊かな国でした。大きな穀倉地帯と豊かな海を持っていました。しかし、鉱山資源の豊富な北のスドゥ帝国や南の蛮族に国境を侵され、東の魔物の森からの魔物達の侵攻の脅威に晒されていました。最近、魔王が現れ魔族や魔物達の動きが組織されるようになったのです。魔王は侵攻の手始めとして、東の魔物の森にほど近いミトラスを奉るコーラス分神殿をダンジョン化してしまったのでした。魔王の侵攻が始まったと人々は恐怖に打ち震えました。


天地創造の地と言われる『始まりの荒野』はローディア王国の北東に位置する草原です。近くにはブブロフ言う町がありました。『始まりの荒野』は、あまり強い魔物がいませんでしたが、魔物の森から時々強力な魔物が迷い出てくるためブロフの町は常に魔物の脅威に晒されていました。それは同時に、冒険者の活躍の場であり、ブロフには多くの冒険者が集まる町となっていました。冒険者が集まると武器商人が集まり、さらに魔物素材を求めて多くの商人がやって来るようになりブロフの町は発展していたのです。


ここは、ブロフの町の郊外、『始まりの荒野』です。やや背の高い草が時折生い茂るなだらかな丘陵地帯でした。ところどころに緑の濃いところがあり低い灌木が茂っていました。放牧に適した良い土地となんですが魔物の森に近く誰も住む人はいません。しかし、そこに現れる魔物はそれほど強くなく、魔草も豊富なため初心者冒険者に適した場所でした。そのため、地方で食い詰めた農民が冒険者となって、まずここで経験を積み次第に森の奥深く狩り場を移して行くのが通例でした。それ故、ここは冒険者にとっても『始まりの荒野』だったのです。


ここ『始まりの荒野』にはある伝承がありました。それは、『魔が競い立つとき始まりの荒野に白き勇者が降り立ち、人々を率いて魔王を打ち倒す』とうものでした。今、とある丘の頂が突然白い光に包まれました。そして、その輝きが収まったとき、そこに白い装束を着た2人の少女が立っていました。背の高い少女は大きな大剣を持ち、背の低い少女は大きな宝玉のついた杖を持っていました。それは、旧い伝承通りの姿でしたがそれを見た物はいませんでした。だって、人の住まない荒野ですからね!


「あれ?ここはどこだ。」

「草原みたいね。」

「確か、屋上にいたよな。」

「ああ、弁当を食べていたはずよ。」


そこに現れたのは、草化杏と棚元華蓮の2人でした。ガチャンとした音がして杖と大剣が倒れました。


「わぁ、重てぇ。これは『創造の杖』だ。なんでこんなの持っているんだ?これって・・」

「え?これは『魔滅の聖剣』よ。」


杏の服は、ゲーム世界で着ていた白い礼服でした。金線の入った白い袖無しにミニスカート、さらにロングコートというデザインでした。もちろん、足は白のニーソックスとロングブーツです。う、かわいい。銀髪に、スレンダー肉体がたまりません。服装も優美です。特にあのスカートが・・

 

「うぁー、アン・ノーベルだ。この服は、ミトラスの巫女服だ。」


「じゃ、私は・・」


華蓮は白い鎧です。華蓮の装備はミスリルに白い塗装をしたものでした。股当てや無く白い膝当てのある金属靴みたいです。下半身はタセットで覆われているのでスカートのように見えます。胸当ては華蓮の大きな双丘に応じた膨らみがありました。これもまた褐色の肌が映えて凜々しいです。華蓮は意外と筋肉がありたくましいです。守護騎士にふさわしい体つきです。


「ウォー、カレン・ターラントだ。ミトラスの守護鎧だ。」


 気がつくと、2人はゲーム世界のキャラクターの格好でいたのです。


「どうなっているんだ。」と杏が叫びます。

「どうって言っても・・」

「詰め襟の制服がなんでこんな格好にかわっているんだ。おまえだって・・こんなのありえないだろ!」

「確か、『ニューワールドファンタジーの世界にようこそ!』と言っていたわね。ゲームの世界に来たんじゃない?」

「僕にも聞こえたな。じゃあ、ここは『ニューワールドファンタジーの世界』なのか?」

「そう言うことね。」

「ならばここは・・『始まりの荒野』か? じゃあ、何か。ゲームの世界に転生したというのか。」

「たぶん・・・」

「おお、ホントか。あのライトノベルのように、異世界へ転生したのか。そして、チート魔法とゲーム知識を駆使して、魔物をバッタバッタと消し去り、ついには魔王を倒して王女様に求婚されるのか!」

「王女様に求婚?それは無理かも・・だって、その恰好は・・ミトラスの巫女服でしょ。かわいいいわ。」

「うぐ・・・ん、まさか!」


 杏はスカートまくり上げて、股間を調べます。そこには、女性もののパンティーがありました。その中をまさぐると・・確かにありました!


「よかった。ちゃんとある。男だった。」

「え?まさか。私は・・」


華蓮も自分の体を調べます。胸はあります。股間には・・


「ん。私は・・・あ、ないわ。」

「よかったな。華蓮は男でやっていたからな。」

「うるさい!」

「痛ぇな、この暴力女!」


「しかし、なんでこんな服着ているんだろ。普通は初期装備のはずだろ。」

「それもそうね。ミトラスの守護鎧はミスリス製で半端じゃない防御力があったはずよ。」


 『始まりの荒野』は、ニューワールドファンタジーに初めてログインしたとき、降り立つ場所なのです。小高い丘のある草原地帯で、初心者向けの雑魚モンスターが出没する場所でした。まずは、ここに初心者装備のナイフと初心者装備の革鎧をきて降り立つのです。しかし、2人は何故かカンストしていたと同じ最新装備でした。


「しかし、なんで鎧は女性向けに変わっているんだ。」

「それは、体型にあわせて変化する男女兼用の装備だったからじゃないの。守護騎士は男女あり得るけど、巫女は女性だけだしね。」

「そうか。守護導師ならばズホンだったのか。僕もあっちにしとけば良かった。これはスースーするぞ。まさか、3次元でスカートを履くはめになるとは。」

「ははは。でも、あの可憐なアン・ノーベルが導師様というのはちょっとねぇ。」

「はずかしい。他のプレイヤーに見られでもしたら・・・まてよ。他にもプレイヤーはいるのかな。」

「さあね。クランのフレンド募集でもやってみる?その恥ずかしい格好をさらすチャンスよ。」

「うう・・いいよ。」


「さてと、現状確認だ。ゲームならば、スカウターがあるよな。キーボードも無いし、どうやって、呼び出すのだろう。」

「さあねぇ。これがライトノベルなら・・念じるか叫ぶとでるんだけど。」

「スカウター!・・わぉ、出た!」


 目の前に半透明のウィンドウが見えました。そこには自分ステータスが見えました。しかし、周りの人にはみえないようです。ちょっと、他人には見えない文字に反応しているですから、危ない人に見えます。


「どうしたの!何があったの。」

「スカウターと叫んだらステータスが見えた。やってみて!」

「スカウター!・・おっと、出たわ!」


 華蓮もまねをします。スカウターと呼ぶウィンドウが現れました。そこには、MP、HPと言ったステータスポイントが数字として見えるのです。


「げっ、MP、少ねぇ。初期状態にもどっているな。加護もなくなっているし、スキルもない。【魔素生成】と【魔素崩壊】という見たことが無いスキルがあるぞ。」


「ほんとだわ。もともと、MPは少なかったけどこれじゃ。魔力加速できないわね。HPもしれている。スキルも【惨撃】だけよ。大剣が持てない訳よね。」


「げっ?性別が女!おいおい、間違うなよ。スカウター!」


 杏のスカウターが再起動されて、表示が変わりました。かわいいから女でいいと思うのに、残念です。


「あっ、変わった。女(男)って何だ!」

「ふふふ、まるでオカマね。アン・ノーベルは少女だからじゃないの。」

「おまえは大丈夫か?カレン・ターラントは男だったろう。」

「私は・・男?何、これは!」


 にやりと笑う杏と渋顔の華蓮でした。


「スカウターを再起動すると正しくなるぞ。」

「スカウター!・・男(女)に変わったわ。これって何? 変な表現ねえ。」

「キャラクターの性別と本当の性別がちがうからだろう。」


 どうも、システム的には女であるが中身は男という変な状態みたいです。華蓮はその逆のようです。


「さて、イベントリの中身はどうなっているかな。装備はほとんどあるみたいだな・・『賢者のロッド』を【装着】と」


 そう言いうと小さな金属製の棒が出てきました。


「私のものもあるみたい。どうれ、これかな・・【装着】」


 そう言うと、華蓮の手に黒い剣が出現しました。地面に倒れている大剣は身長と変わらぬ大きさに対し、これは身長の半分程度の長さです。それでもデカイです。


「うぁ・重い!とても、振れないわ。この程度の魔剣でも魔力の補助無いと持てないなんて・・【装脱】」


 大剣は消えて、華蓮のイベントリにもどりました。杏は小声で何かをつぶやきながら杖を消したり出したりしています。


「なるほど。体の一部が触れておればいいわけか。」

「ライトノベルでは、アイテムボックスがとか言うのがあったわね。」

「無限に近い収納能力が、主人公のチートな能力として、活躍するんだけど・・イベントリがそれに当たるじゃないか。」

「そうね。そこら辺の石ころでやってみたら?」

「【収納】!おっ、消えた。」

「入った?」


「『石:1』となったよ。どうやって取り出すんだ?」

「【取出】か。いや、【格納】と【搬出】、【放出】かな。」

「ノベルじゃ念じるだけでいいんだけど。」

「あっ!出た。」

「どうやったの。」

「『石:1』をにらみつけたら出た。」


 この動作もはたから見れば危ないです。杏、注意してね。


「なるほどね。触った状態で、収納コマンドを念じると・・消えたわね。」

「念じるだけでいけるんだな。こりゃ、便利だ。あとは容積の問題だな。」

「試してみましょう。」


何をしようかと考えながら、杏がステータスを眺めていると、MPがひとつ減りました。


「わあ、大変だ。急いで着替えないと!」


 そう言って、杏は装備を【装脱】で取り外し、裸になります。おいおい、この子ったら何をしているかしら、露出狂に育てた覚えはないぞう!


「あんた。どうしたの。急に裸になって・・」


華蓮が驚いているうちに、【装着】で初期装備に変えてしまいました。


「華蓮も早く装備を交換しろ!初期のものに戻すんだ!」

「え?どうして。」

「後で説明するから早くしろ!」

「わかったわ。あっち向いて!」

「あっそうか。」


杏が後ろを向くと、華蓮も裸になって、それに従います。


「ふー」と杏が一息をついていると、華蓮が訳を尋ねます。

「どうして、着替えないといけないの。」

「あの装備は魔力を食うんだよ。」

「あっ、そうだね。」と華蓮は手を打ちます。

「初めて、あの装備は喜んで探索していたら30分程で動けなくなり、ザコに囲まれて死に戻りしなかったか。」

「あっ、それをしたわ。」

「今度は、死に戻りはないからなあ。」

「MPの数値は動いてねぇな。良し!」


これは、運営側の有名な罠として知られていました。プレイヤーのキャラクターは自由にデザインができ、スタート時から課金装備も好き放題に持てるという特徴がありました。ところが、どれも装備しているだけでMPを少しずつ消費するのです。はじめは、軽快に動けているのですか、しばらくするともともと少ないMPを装備に奪われて動けなくなるのです。その結果、本来簡単に倒せるはずの、雑魚の魔物に囲まれて攻撃を受け、たちまちHPを0にしてしまう者が続出したのでした。


「ふふ、相変わらずスカートね。私はズボンだけど。」

「え?わーー、どうしてだぁ!」と頭を抱えて座り込む杏でした。


 初期装備は、女性は茶色のワンピースと革の胸当て、男性は黒いズホンと黒いシャツに革の胸当て決まっているのです。初期装備に着替えても、杏の下半身は、やっぱり、スカート、ニーソックスとロングブーツでした。


「えーと、初期装備だけは破れても燃えても復活するという不死身の装備だったよな。まさか、これって、つねに、この恰好かよ。」

「そこまではないんじゃない。現実の世界なんだから、ズホンは履けるわよ。」

「そうだといいけどな。」


「ところで、アン、ブラジャーしていたわね?」

「よく見ていたな。なぜか、胸に黒い布きれが張り付いているんだ。」


 華蓮はひと呼吸置いて、恥ずかしそうに言いました。


「それ頂戴!」

「どうしてだ?」

「その・・実は、私・・してないの。」

「何をだ?」

「さっき言ったじゃない。オトメに何度も言わせる気なの?馬鹿!」

「痛ぇなぁ。わかったよ。パンツもいるか?」

「それはいいわ。男物でもいけるから、ブラジャーの方が切実なのよ。」

「わかった。今、付けているのでいいか。・・と言ってもこれしかないけど。」

「何でも良いわ。」


 しかし、それを華蓮に渡そうとすると光なって消えてしまいました。代わりに、イベントリに予備が出現します。どうしても華蓮には渡せません。


「だめだな。体から離れると捨てたと見なされるみたいだ。」

「なんとかならない?」

「うーん。そうだな。」


 しばし、考え込む杏でした。そして手を打っていいました。


「そうだ。【譲渡】というのがあったな。あれならイベントリからイベントリへ移せるはずだ。」

「なるほどやってみましょう。」

「ちょっと待てよ。まずは、ブラジャーの【譲渡】だ。」


 杏は華蓮の手を握って、イベントリのブラジャーにタッチし、譲渡コマンドにタッチします。すると、杏のイベントリからブラジャーが消えました。代わりに、杏のイベントリに新しいブラジャーがセットされます。この動作も空中動作ですから何をやっているのかと不思議に思われます。


「おお、入った。ならば、これを【装着】と・・・できた。」

「おっ、イベントリに新しいのがセットされたぞ。これは便利だな。無限に何枚でも可能な訳だ。」

「パンティーもやってみましょうか。」

「今、履いているのを【譲渡】するのか?」

「だれがあんたの履いたモノなんて! そんなことをしなくてもいいわ。脱ぎ捨てて頂戴!私もするから。」

「ノーパンかよ?!」

「いいから早く!」


 杏がパンティーを脱ぎ捨てると、それは光となって消失しました。代わりに、杏のイベントリに新しいパンティーがセットされます。それを、譲渡します。華蓮が自分のパンツを脱ぎ捨てて、杏からもらったパンティー着装します。


「これでよしと!」

「まて、まて、僕はどうなるんだ。イベントリには女性用のパンティーしかないぞ。」

「うーん。私がパンティーを履いている限り、予備は出現しないのよね。あんたが、着装して、脱ぎ捨てると、また、パンティーか・・・・無理ね。」

「華蓮がそれを脱ぎ捨てて、譲渡してくれたら良いだろ。」

「いやよ。今度は私が男物を履くはめになるじゃない。男なんだから、がまんしなさい。町に行ったら、買えばいいんだから・・」


「男物の前開きのパンツなんてそうそうあるわけ無いだろう。そもそもこの世界は下着をつけるのか?」

「忠実に中世を真似ているなら、無い可能性が大きいわね。はは、ご愁傷様!」

「うう、何か手はないかな・・そうか。クランに男がいればいいんだ。男のプレイヤーから譲渡してもらえれば万事解決だ。」

「まあ、そうなるわね。・・・杏、また、裸になって、何しているの」


 見ると杏は、初期装備の服を脱ぎ捨てて、じっと見つめています。


「これは消えないなあ。下着姿は許されるのか。」


 その時です。パンツ1枚で裸だった杏の上半身に再び黒い布が現れます。


「わぁ、ブラジャーが勝手に装着された!」

「はは、たぶん、18禁ゲームの仕組みのなごりじゃないの。」

「長時間のノーパン、ノーブラは禁止か。僕は、男なんだから、ノーブラ禁止は無いだろう。ノーブラ禁止は!運営に断固として抗議する!」

「ははは、運営ねぇ。だれ?」

「くぐ・・」


 2人の履いている下着は、黒い色の謎の素材の布きれでした。まるで黒ベタのようにぴたりと張りついているのです。触ると伸縮性のある薄い素材です。それでも断熱性は抜群で結構暖かいのです。ブラジャーはワイヤーが無くてもきちんと乳房を整えてくれます。巨乳も貧乳も関係なくぴったりとフィットするのです。

 これは、確かにゲーム時代のなごりのようでした。ゲームでは一時的に裸になることは可能でした。各キャラクターは裸の状態を細かくデザインすることができたのです。そして、着替えるという作業をリアルにするために、一時的に裸を見せることができるようになっていました。しかし、長時間裸のままでいることはできませんでした。18才以下禁止ゲームとならないようにプレイヤーは強制的に黒ベタの下着を着けさされる仕組みとなっていたのです。今、それが現実の世界に持ち込まれているようです。


「さてと、アン、魔術は使えるの?」

「ゲームと同じならばな。ゲームならばコマンドを選ぶだけなんだが・・」

「代わりに、呪文を唱えるとか。」

「例えば?」

「ミトラスの女神の元に集う火の精霊よ。我の指先に集まりて、我が命に従い灼熱の業火を具現したまえ。ファイヤーボール!」


「・・・・・」と唖然とした顔をしている杏です。


「どうしたの?」

「いやあ。感心しているんだ。よくそんな厨二なのが恥ずかしくもなく言えるな。」

「ぐだぐだと言ってないで早くして!」


「痛ぇな。やるよ。ファイヤーボール!」

「・・・・」

「・・・・」


「あのな。杏、練習はいい。ここは、草原よ。思いっきり、かましても大丈夫なのよ。」

「ファイヤーボール!・・ファイヤーボール!」

「私はタバコを吸わないのよ。そんなマッチの火みたいなのを出してどうするのよ。」

「だめだ。もう、くらくらとしてきた。『スカウター』・・わぉ、MPがもうほとほんどねぇ。」

「あれっきりで・・」

「・・・・」

「もういいわ。ナイフしかないからこれを操ってみるか。」

「そんな。残念なヤツをみるような目をするなよ。もともと、属性魔法は得意じゃないんだから。」

「何なら得意なのよ。」

「錬金術とか・・」


「それは、今、役に立つの!?それだけのMPあるの?」


「痛ぇな。また殴った。はいはい、役に立ちません。MPもありません。すみませんでした!」


「ふふふ、やっぱり、アンは私が守ってやらないとね。」


(はあ-・・情けない。)


杏は小さい頃から、華蓮に守ってもらっていました。子供の頃は女の方が成長が速いです。ですから杏は身長では華蓮に追いつくことはありません。やや気の弱い杏は華蓮の影に隠れていました。しかし、杏も男の子です。いつかは前に出て自分が華蓮を守る存在になりたかったのです。杏、がんばれ!


「他に確認することない?」

「魔体、魔素、魔粒子の取り扱いだな。ニューワールドファンタジーは、変な所だけリアリティーがあるからな。あのゲームを模したのならば、魔素はあるはずだ。」


「それ何?どっかに書いてあったわね。どこだっけ?」

「あのな。ニューワールドファンタジーの世界には、魔粒子としいうものが満ちているということになっているんだ。それが、集まって魔素を形成し、魔素が集まって、魔体を形成するんだ。この魔体によって、魔法という意思の具現化をしていることになっている。すなわち、魔法で作り出した物(魔体)は魔素の塊であり、魔法とう意思を失うと魔素に分解し、さらに、魔粒子とうものに分解して消えてしまうものなんだ。こいつがこの世界の法則として成り立っているかを確かめないとな。」


「日本語で説明して?」


「日本語だよ。要するに魔法で何かを作り出して、それが自然と消えるかどうか確かめるんだ。」


「だからどうやるの?」

「それなんだよなぁ・・・・あっ、これかな。スキル【魔素生成】」

「何も起こらないわよ。」

「何かをイメージしてやってみるか。鉄・・・鉄のナイフ!」


杏の手の中に銀色のナイフが出現しました。


「うぁ、MPがごっそり減ったぞ。」

「おっ、凄いな。武器を創り出せるのね。ちょっと、貸して見せて!」


華蓮がそのナイフを振り回し、革鎧で切れ味を確かめた時おかしな顔をしました。


「こりゃダメだわ。」


そう言ってナイフを飴のように曲げて見せました。


「すごい力だな。」

「いやいや、アンでも出来るわよ。」

「え?そんな馬鹿な。鉄だぞ。」

「これは、本当に鉄なの? 鉛みたいよ。」


杏がさわっても同じでした。柔らかいのです。


「どういうことだ。鉄のナイフだろ・・・・あっ、純鉄だからか!」

「ジュンテツ?何、それは?」

「99.9999%以上の鉄のことなんだよ。たぶん、これは100%の魔素鉄だ。あーあ、忘れていた。鉄は不純物がないと硬くなくなるんだ。」


「ふうん、じゃあ、不純物入りのナイフを作って!」

「そんなに簡単にできるか!微妙な不純物の割合と分散をイメージしないといけないんだ。とても出来ない。」

「普通の魔法使いはやっているじゃない。」

「あれは、ナイフそのものをイメージしているんだ。」

「アンもそうすればいいじゃない。」

「それが・・・つい、鉄というと元素記号をイメージしてしまうんだ。結果、純粋な魔素鉄になってしまう。」

「ふーん、使えない奴!」

「ともかく、消せるかどうかやってみよう。【魔素崩壊】」


多量のMPを消費して、ナイフが消えました・・・・MPの無駄遣いでした。


それから、半年ほどたったときのことです。アンがニコニコしてカレンのところへやってきました。


「おっ、アン、うれしそうだな。」

「これを、見てくれ。【魔素生成】で作った炭素鋼のナイフだ。」

「え?ジュンテツじゃないのか。この間の粘土みたいなことは無いのよね。」

「当たり前だ。叡智の書で、炭素の分布を調べて、それを忠実に再現したぞ。」

「へぇ、すごいな。」

「炭素だけじゃないんだ。窒素、燐・・実は酸素が重要だったんだ。その分布も、表層から2ミクロンから急に多くなって・・」

「もう、いいから、見せて。」

  カレンはナイフをさわって、地面に刺したりしています。

「ほう、確かに、堅くていいな。」

「そうだろう。苦労したんんだぞ。」

 カレンも愉快そうにナイフをさわっていましが、急に真顔になり、ナイフを返してきました。

「こりゃだめだわ。」

「どうしてだ。堅くて靱性があるはずた。」

「それは確かだが・・・・刃がない。」

「あ・・・・・・」

  崩れ落ちるアンでした。

「こんななまくらナイフは、練習用だな。」

「しまった。炭素分布のコントロールに気を遣いすぎて、そんなことすっかり忘れていたよーー」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ