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18.ロックガーデンの戦いHF

 抜けるような青空です。アン達はグルーバー一家と川原に遊び来ていました。グルーバーさんは、仕事ですから、奥さんと娘のアリスの二人です。歳の近いアリスはケイモクのいい遊び友達でした。ケイモクは青い肌の三眼族ですが、アリスにとっては関係無いようです。そこには石かゴロゴロと転がっていました。ケイモクとアリスはそのせせらぎが面白いらしくキャッキャと言いながら、石を投げたり、転がしたりしながら遊んでいました。一方、アンとカレンはそれを眺めながら、背中合わせに岩の上にすわっていました。カレンはこうしてアンの背中にもたれているだけで楽しいのです。


アンは困っていました。奴隷商人にケイモクを買うように頼まれたおかげで一気に金欠となったのです。カレンは、自分から勧めておいたくせに、ひとが良すぎると非難していましたが・・

「うーん。何か良い儲け口はないかなあ。戦力強化の予定が単に食い扶持が増えただけだ。」

「昨日の冒険者が言っていたロックガーデンはどうなの。」とカレンが背中からいいました。

「岩に擬態した魔物がいるところか?」

「ロックタートルは肉が貴重でおいしいそうよ。その他にロックリザードの牙とか高く売れると言っていたわ。」

「それはそうなんだが、僕たちにはなかなか手強いんだ。」

「私も腕を上げたわよ。レベルも上がったし・・」

「あいつらは、剣や槍がほとんど効かない。なにせ岩だからな。特にロックタートルの甲羅は頑丈らしいよ。」

「それじゃ、どうして狩っているの。」

「強力な火力魔法で蒸し焼きにして、弱ったところに関節の隙間に剣を差し込んで仕留めるらしい。鈍器で殴って岩を壊したり脳しんとうを起こさせたりする方法もあるぞ。ともかく、そうやって動きを止めてゆっくりと料理したらなんかなるんだ。後は、岩も切る魔剣でもあれば別だけどな。」

「確かに、私達には向いていないわね。強力な火魔法が使える魔術師が居ないものね。ここに役立たずの錬金術師の端くれがいるけど・・」

「うるさいなあ。」

「あんた。鈍器はつくれないの。それで私ががんばってみよか。」

「大変だぞ。やってみるか?えーと・・いた!」

 アンは川原をじっと眺めて、石ころを拾い上げます。

「それは?」

「ストーンタートルだ。見間違いでなければ、さっきまで動いていた。」

「これが?!まるで石ころね。」

「ほれ、水晶のハンマーだ。殴ってみろ。」

 そう言って、アンは一瞬で【魔素生成】で酸化ケイ素のハンマーを作り出してみせました。

「えいっ!」

 カレンがハンマーを振り下ろすと、ガチンという音がして・・・その石は二つにわれました。

「今更ながらすごいな。石を一発で割るなんて!」

(これが僕の頭蓋骨だったら・・逆らわないようにしよう。)

「なに、これタダの石よ。」

「馬鹿な。これだったかな。」

ガチン!また、割れました。

「あれ?これだよ。」

ガチン!また、割れました。

「はは、まちがった。まちがいない。これだよ。」

ガチン!また、割れました。

「・・これかな。」

ガチン!また、割れました。

「う・・、きっと、これだ。」

ガチン!また、割れました。

 カレンとアンが二人で石を割続けていると、ケイモクとアリスが何か面白い遊びをしていると勘違いしてやって来ました。

「アン兄ちゃんとカレン姉ちゃん、何をしているの?」とアリスが聞いてきました。

「二人で石を割って、石割り遊び?ケイモクもする!」とケイモクも喜んでいます。

「ケイモクちゃんには無理よ。力がいるのよ。」と言うスザンナさんです。

「はは、ふー・・・くそ、ストーンタートルはどこだあ!」

「アン兄ちゃんの探しているのはこれ?」

「ははは、ストーンタートルは擬態がうまいんだぞ。そう簡単に見つかる訳が無い。」

「やってみるわ。」

ガチン!割れました。ハンマーが・・

「こ、これは・・」

 そう言って驚くアンです。

「ケイモク、どうしてわかったんだ!」

「どうってこの石だけ、光ってみえるから何かあると思ったの。」

「ケイモク、すごいわね。」と驚くアリスちゃんです。

「へへ、ケイモクえらい?」とニマリと笑って頭を出すケイモクです。

「えらいよ。すごいな。魔眼は・・・まてよ。ケイモクはひょっとして、魔素が見えるのか!」

「何、それは、ケイモクわかんない。」

「ストーンタートルの石の甲羅は、魔素でできるではないかと思うんだ。ケイモクはそれがみえるんじゃないかな。証拠に・・」

 アンがストーンタートルを持ち上げて【魔素崩壊】と唱えると、光の粒があらわれました。すると、丸々としたストーンタートルがすっきりした体になり普通の甲羅が現れました。しかも、ぷよぷよとした柔らかいものです。

「おお、すごいね。」と言うアリスちゃんです。

「これは亀さん??」と言うケイモクです。

「まるで、脱皮したての蟹ね。」とカレンが言います。

「おお、これはすごい!これならば僕たちで倒せるぞ。大もうけは確定だ。」と喜ぶアンです。

「よくわからないわ。どうするの?」とカレンはクビをひねっています。

「まず、ロックタートル狩の難しさは、第1は彼らの擬態だ。動かないと完全に岩と変わらなくなりどこに居るのか解らない。第2は岩の甲羅だ。岩よりも硬い甲羅で覆われているので攻撃を全く受け付けない。逆に攻撃される危険性は少ないので比較的安全な狩だけど。なかなか入手が難しいのはこれが原因なんだ。それが、僕とケイモクのお陰で解決された。」

「解った!ケイモクの魔眼で、擬態を見破り、アンの魔法で堅い岩の甲羅消しちゃうのね。」と言うアイリーです。

「なるほど。すごい、アイリーよくわかったわね。」と言うカレンです。

「カレン・・・・これは普通よ。」

「痛ぇ!なんで僕が殴られるんだ。」

「ただ、なんとなく、馬鹿にされてくやしいから・・」

「それがどうして、僕を殴ることになるんだ!」

「ともかく、行きましょう。ロックガーデンへ!」


 アン達はロックガーデンへ来ました。名前の通りほとんど植物の無い岩場です。生物はわずかに鳥ばかり、静かで暑いところです。

「まるで岩山よね。」

「ロックガーデンだからな。」

「ロックタートルはどこ?」

「どうだ。ケイモク、光る岩はあるか?」

「あっちにあるよ。」

「これか?・・違うのか。」

 岩はごろころあるのですが、どれがロックタートルか解りません。歩いてロックタートルらしき適当な岩を指し示すのですが・・

「これだろう。」

「違うよ。あっち!」

「ああ、これかあ。・・違うのか。ならば、これか。・・・え?違うのか。」

「はやくして!」

「痛ぇ。殴った。そんなことを言ってもなあ。」

「やくにたたないやつ。」

「お兄ちゃん、降ろして。」

 ケイモクがトコトコと歩いて行き、なんの変哲も岩を指し示します。

「これかあ。よしよし、【魔素崩壊】っと。」

 おおきな岩が消え去り、ぷよぷよの亀が現れます。

「カレン、たのむ。」

 カレンがサクッと剣を振るって絶命させると、アンが素早くイベントリに回収します。血もほとんどでません。簡単な作業でした。次々と移動しながら、ロックタートルを仕留めていきます。

「アン、頭の岩だけ、消せない?」

「できるよ。どうして?」

「甲羅の岩も良い素材になるらしいのよ。もったいないでしょ。」

「なるほど。」

 ロックガーデンには、岩に擬態したネズミやウサギもいます。トカゲもいます。その食物連鎖の頂点にいるのがロックタートルなのでした。彼らは同族のストーンタートルさえもパリパリと食べてしまうのでした。アン達は、ロックリザードとロックタートルのみを仕留めていました。

「ずいぶん、奥まで来たな。このくらいにしておこうか。」

「何匹なの。」

「7匹かな。」

「じゃあ、7万ゴールドは堅いわね。やったわ。」

「何よりも、楽ちんね。私はほとんどやることがないわ。」

「肉がほとんど傷んでいないからきっと高く売れるぞ。」

「ケイモクのおかげね。ケイモクが見つけてくれなければ、脚が棒になっていたよな。」

「ケイモクえらい?」

 ケイモクはアンに肩車をしてもらっています。

「えらい、えらい。」

「えへへ」と笑うケイモクでした。


 その時でした。ケイモクが急にアンに抱きつきました。

「アン兄ちゃん、あの岩、なんか変だよ。」

「どう変なんだ。」

「タダの岩なのに、なんだか薄い膜みたいなのに覆われているよ。さっきの亀さんは全部が光っていた。」

「魔素じゃないなあ。膜?強化魔法かな。しかし、なんだろう。」

 そう言っていると、大きな岩がむっくりと起き上がりました。2本の手と足のある怪物ロックゴーレムでした。

「アン!」とカレンが叫びます。

アンがガラスの短槍を取り出します。カレンはそれを投げつけますがはじかれました。

「アン!!」とアイリーが叫びます。

すると銀の魔矢が出現し、アイリーがそれを構えて打ち込みます。さすがに魔矢です。岩に突き刺さりますが、あまり効いていないようです。

「だめだわ。」

「逃げるしか無いなあ。」

しかし、そう言って振り返ると、また、岩が動き出しのです。

「え?挟まれた!」

「アン兄!」とケイモクが必死と抱きついてきました。

「どうするの?」


 場所は岩壁に挟まれた谷間です。ほぼ垂直に立つ岩壁は登れそうにありません。アン達は挟まれてしまいました。


「何か魔法はだめなの。」

「そうだな。溶岩のような高熱の火魔法とか、フォータージェットのような水魔法とか、数トンもある巨石を飛ばす土魔法とかは効くだろうな。」

「それをやって!」

「そんなチート魔法、今の魔力量で、できるか!」


ロックゴーレムは動きが遅いのですがほとんどの魔法がききません。


「魔法以外の方法はないの。」

「うーん。岩を紙のように切り裂く魔剣とか岩をかち割る神器の金槌があれば別だか。」

「作って!」

「できるか!」

「使えないヤツ!」

「普通だろう。」


 アンが【魔素生成】でできるのは、純銀製の剣や斧です。ミスリス製の魔剣や神器は作れません。それは、ミスリスがどんな元素か知らないからでした。叡智の書にも魔法元素のミスリルは載っていません。


「結局、どうするのよ。踏みつぶされるだけよ。」

「クリスタルドーム!・・・うーん、叡智の書に何かないかな。」

 突然、透明なものに囲まれたアイリーが驚いて尋ねました。

「何、これは・・」

「アンの魔法よ。これは、かなり分厚いわね。これならば殴られても大丈夫かしら。」


ロックゴーレムは、太い腕をブーンと振ってきました。その拳がアンの作り出したガラスドームにぶち当たります。ガゴンと言う音がして、ドームが転がって岩壁ぶつかって粉々になりました。瞬時に伏せたので、頭には当たらなかったようです。


「ひぇー、危ねぇな。」と言うアンです。

「どこが大丈夫なの!」と言うアイリーです。

「一振りで終わったじゃない。この役立たず。」と言うカレンです。

「痛てぇな。ちょっと待て、うーん、これか!」


 アンは叡智の書を閉じて立ち上がりました。そして、指先から小さなウォーターボールを打ち出したのです。ピシャという音とともにそれははじけます。


「何、あの水鉄砲は? あんたのおしっこみたいなをかけてどうするの!」

「口を押さえて、息を殺して。猛毒のガスが出るから!」

「え?」


 見ると水がかかったところから小さな泡をたてています。それを見て、アンは続けざまに、ォーターボールを打ち出した。


「効いたようだな。魔法による強化と言っても化学には勝てない!はは、化学は偉大だ!もっと、行くぞ。こっちもだ。」


 振り返り際に同じように同じようにウォーターボールを打ち出します。しかし、なかなか効いてはいないようです。ロックゴーレムの動きは止まりません。


「うぁ、飛沫か・・えーと、ダイヤモンドドーム!」


クリスタル(ガラス)もダイヤモンドも同じ【魔素生成】ですが、なにがちがうのでしょか?


「まだ、動くか。えーと、間接を狙って・・」


 そう言って、ウォーターボールを間接の隙間を狙って打ち込みます。今度は効果があったみたいです。動きがおかしくなりました。ぎこちない動きになり、関節部分がうまく動かないようです。それを無理矢理動かそうとして・・壊れました。


「やった!」

「アン、えらい。」

「アン兄ちゃん凄い!」

「さっきまでは、クソミソだったけどな。」

「魔核、魔核、魔核はあるかな。」

「ちょっとまって、触らないで!【魔素崩壊】!」

 そうすると、岩を覆っていた水が消えました。

「どうやったの。」

「フッ酸だよ。すごいだろう。この反応式はSiO2+FH+H2O・・うぐ。」

「すごいな。岩が溶けているわ。」

「接合部分は魔素でその他は普通の岩なのね。」

「強力な酸なのね。」

「それほど強力ではないんだ。でも、電気陰性度の差からケイ素は、酸素よりフッ素・・うぐ。」

「難しいことをいわないで、魔核を取り出すから岩を溶かして!」

「へいへい。」


 ここはギルドの倉庫です。ロックガーデンの討伐品を提出しています。ロックタートルは大きいのでここでイベントリからだすことにしました。

「ほんとに、ロックタートルだ。さすがに、大きいな。」

「すごいなあ。それも、3匹、いや、7匹だあ。おお、甲羅つきが4匹か。」

「しかも、この肉は上質だ。傷んでない。どうしたんだ。」

「それは、秘密です。それから、これも。」

「え?ロックリザードの肉じゃないか。これも上質だ。解体処理は上手にしてあるぞ。」

「それから、これを。」

「ロックゴーレムの魔核じゃないか。」

「倒したのか!それも2匹ともか。すごいじゃないか。おまえらほんとにDランクか!」

「へへ、凄いでしょ。」

 討伐品の点検をしていたギルドの職員が言いました。

「あれ、3匹の甲羅はどうした?それに、ロックリザードの岩皮が少ないぞ。」

「消してしまいました。」

「消したあ?」

「いえ、違います。正確に言うと溶かしたんです。」

「溶かした!?」

「岩を魔法で溶かして、消したんですよ。それを使って、ロックゴーレムも倒しました。」

「岩を溶かす魔法?一体どんな魔法なんだ。」

「ふふ、それはですね。化学の勝利なんですよ。フッ酸の水溶・・うぐ!」

「元素操作の魔法の応用です。アンが錬金術師というのはご存じでしょう。」

「すっかり忘れていたが、そう言えばそうだったな。生活魔法だけじゃなかったんだ。」

「錬金術師で、毒もつくれるんだった。」

「そうですよ。余計なことを言うとこっそり毒をいれられますよ。」

「僕はそんなことをしないぞ!」



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