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12.盗賊の襲撃

 昨夜の痴漢騒ぎの翌日、本日も野菜たっぷりの見事な朝食を作るアンでした。アンの家事スキルは凄いです。


「え?スクランブルエッグ!?ウソ。」

「ふわふわしておいしい。バターの香りとミルク・・チーズまで入っているわ。」

「卵なんて腐りやすいものを野営で食べられるなんて!」

 そう、アイリーとスザンナさんは驚いていますが、カレンは普通です。

「お、おい・・これはレタス?」

「こんなものどこから取って来たんだ?」と言う

「自分でも驚いています。時間が止まるんですね。空間魔法って凄いです。」と言うアンです。

「ホテルだ。お貴族様の高級ホテルだ!」

「こ、こんなの食べて良いのか?」

「アンはすごいわね。いつもああなの。」と言うアイリーです。

「ねぇ、メイドとしてウチにきてれない?」と言うスザンナさんです。

「奥さん、それは困ります。」


 貴族の屋敷の食卓のような立派な食事が出現し、あっという間に消えてしまうのでした。まるで、夢の世界にいるようです。ファンタジーですけど。続いてテントがしまわれ、野営の片付けが終わりました。


「さあ、出発だ!」とアランが叫びます。


シルヴェスター商会のキャラバンは、馬に乗るアランを先頭に、2頭立ての荷馬車2荷台と、3頭立ての箱馬車です。荷馬車の御者は、シルヴェスターさんとレオンさんです。そして、箱馬車の御者は、アイリーとカレンで、中にはアン、スザンナ、アリスの3人が乗るのです。


 本日も良い天気です。平穏な旅が続きます。アイリーとカレンとは楽しそうにおしゃべりしつつ馬車を操っています。話題はアンのことでした。

「ははは、それって、本当の話?」

「本当の、ほんと。」

「いくら女ぽいといっても・・」

「本人は男らしいつもりなんだけどね。」

「おいこら!よけいなことをしゃべるな!」

「はは、ごめん。もう、言わないわ。」

「良い天気だわね。このまま何もないと良いけど。」

「そんなこと言うとフラグが立つわよ。」

「はは、馬鹿な。ん?」


その時です。キャラバンが止まりました。


「アラン、どうした?」

「ホーンウルフの群れです。」

「5匹か!いや、もっといるな。すばしっこいから面倒だな。」とレオンの渋顔です。


 その様子を見て、カレンがアンに声をかけます。


「アン、出てきて!」

「どうしたの?」

「ホーンウルフの群れらしいの。」

「カレン、ほいこれ。」


 ガラスの短槍をアンが取り出して渡します。


「え?」と、どこから出したかと驚くアイリーです。

「アイリーさんは、これか?」と銀の矢を渡すアンです。


 アイリーはびっくりして矢筒を確かめます。


「数は減っていない。どこから出したの。空間法なの。」

「・・はは、そんなところだ。」

「これ高いのよ。ほいほいと人に上げるものでは無いわよ。」

「構わないよ。いくらでも作れるから・・」

「え?武器を作れるの!」

「武器だけじゃなくて、何でも作れるだけどな。【魔素生成】とい固有スキルなんだ。」

「これで合点がいったわ。先日、顔合わせの時、銀矢が1本増えていたのよ。あなたが犯人だったのね。」

「純粋なものしかできなくて、使い勝手が悪いけど。人には言うなよ。」

「バカねぇ、自分からばらすなんて。」と笑うカレンです。


 こんな会話をしている内に、アランが駆け出しました。そして、馬から飛び降りるとオオカミ達を切り裂いてゆきます。

「キャウン!」「キャン!」「クギ!」

 あっと間に、3匹を葬り去りました。ドヤ顔をするアランです。

「さすがは、ベテラン冒険者のアランだな。助かったよ。」と言うシルヴェスター・グルーバーさんです。

男の冒険者を雇ったがいがあったと密かに満足するグルーバーさんでした。


「終わったわね。」と言うカレンです。


「出番は無かったわね。」とアイリーです。

「まあ、ホーンウルフぐらいなら・・雑魚だからな。」と言うアンです。

 カレンが短槍を渡すとアンはそれを光の粒に変えて消してしまいました。

「え?消えた!」と驚くアイリーです。

「魔法で作ったものなら自由に消せるんだ。」

「それって・・」

「アン、中に入って、出発するわよ。」


 アンが中に入るとアリスが言いました。

「アン姉ちゃん。なにがあったの。」

「怖いオオカミが出たんだよ。」

「わぁ、本当?こわいわ。」

 そう言ってアリスはアンに抱きついてきました。アンはやさしく頭をなでて言いました。

「大丈夫だよ。アランさんがやっつけたから。」

「頼りになるわねぇ。」とつぶやくスザンナさんです。

「さすが剣の達人のアランさんですねぇ。でも、カレンとアイリーでも遠方から一撃だったと思います。今回は出番がなかったな。」

「そうなの。アン姉ちゃんは?」

「・・うう。僕は後ろから、槍や矢を渡すだけだからなあ。でも、すぐそばまで来たらこのナイフで守ってあげるよ。」

「ありがとう。アン姉ちゃんも頼もしいね。」

 アリスちゃんに慰められるアンでした。

「ところで、アリスちゃん。僕は男なんで、『アン姉ちゃん』というより、『アン兄ちゃん』といってくれるとうれしいな。」

「わかった。アン兄ちゃん!」

「アリスちゃんはかわいいな。」

「えへへ。」

 アリスちゃんは。大人の心を読む賢い子供でした。こうして、アリスちゃんに懐かれたアンは箱馬車に乗って旅を続けるのでした。


 その後は魔物の出現も無く、アンの作る豪勢な食事とのんびりとした旅が続きます。天気もよく穏やかな日より、アンは箱馬車の上にクッションを置き荷物と一緒に寝そべっていました。アンにもたれられて御者台の上のカレンもなんだかうれしそうです。


「まもなく、ヴェスターだな。」というアンです。

「半日も進めば到着よ。夕方には着くかしら。」

「そこで、1泊して約半日で王都だ。」


 王都の近くにヴェスターという町があります。王都のそばにはウアノド川という大きな川が流れています。そのため、王都へ行くにはどうしても船に乗らねばならないので、自然とそこに宿場町でき、1泊するが通例となっていました。そして、そこからは運河を進む船旅になるのです。


まもなく、ヴェスターの町に着く頃、アンがカレンの背中で言いました。

「いやらしい地形だな。」

「何が?」と聞くカレンです。

「街道が岩山の壁に挟まれている。そして、その壁の前には、小藪があって人を隠すのに最適だ。そして、あそこの狭くなったところに通せんぼすると進めなくなる。盗賊がいれば絶好の襲撃場所だ。」


 実際、その通りでした。小藪には弓をもった盗賊達がじっと息を殺して潜んでいたのです。そして、岩陰で二人の男が会話をかわしていました。


「来たぞ。こりゃ、絶好のカモネギだ。」

「ヒョー、女冒険者だぜ。身ぐるみを剥いで、後は・・」

「おお、可愛い子がいるじゃないか。今夜は楽しみだぜ。」

「どれどれ、おお、あの黒いヤツの影にいるヤツか。」

「男装しているけど、ありゃ、上玉だぜ。後から、高く売れるぜ。」

 どうもアンのことを言っているようです。『黒いヤツ』とはカレンことでしょう。きちんとズボンをはいていても女と間違われているアンでした。


「げへへ、命がおしけりゃ。荷物を置いていきな。」

 岩山が迫る街道に突然小汚い男があらわれて、そう言いました。


(おお、キター!盗賊だあ。テンプレな台詞だ。)と小声で喜ぶアンです。

「何人?」と聞くカレンです。

「見えているのは1人だが・・そんな訳ないよな。」と言うアンです。

「探索とか気配察知とかできないの?マップとか。」と言うカレンです。

「できるか!」

「使えないヤツ。」

「ふふ・・まあ、夫婦漫才はさておいて、どうするの。」と言うアイリーです。

「どうする?アン!」

「取りあえず、カレンは短槍であいつをやって!」

 そう言ってアンは、ガラスの盾と短槍を取り出します。

「了解!」

「アイリーは普通の矢で足を!」

「え?わかった。でも、なんで・・」

「まあ、いいから。魔矢を用意するから、こいつで藪に隠れているヤツをあぶり出してくれないか。付与魔法は火魔法がいいいかな。発動は何秒後がいい?」

「ん?なるほど。了解!3秒で!」

「ほい。5本ほどでいいか。」

「助かるわ。まるで、無限増殖する矢筒よね。魔矢は、これで、金貨1枚よ。1月分の生活費なんだから。」

「それより、早く!」

カレンが短槍を盗賊に投げつけると、それは一人の盗賊の肩を貫きました。アイリーが矢を放つともう一人の足に刺さります。

「ギャア!」と叫ぶ盗賊さんです。

 

「これが答えか!やっちまえ!」と足に刺さった矢を抜きつつ叫びました。

 すると、四方の藪の中から矢が飛んできました。


それは的確に冒険者を狙ったものでした。そこは、さすがに冒険者です。アランは剣でそれをたたき落とします。リオンは捻って避けますが、1本を肩に受けました。箱馬車向かったものをカレンは透明な小盾と短槍で総てはじきます。


「その盾いいわね。ガラスだからあいつらには見えないのね。」と感心するアイリーです。

「そうなの。但し、メイスや大剣をぶったたかれると壊れちゃうけどね。」と答えるカレンです。

「それより、いまので矢の出所がわかっただろ!アイリー、やっちゃって。」とアンがいいます。

「了解!」


 アイリーは矢が出てきた茂みに向かって5本の矢を放ちます。それらは、茂みに届くと同時に燃え上がるのでした。これは火魔法で茂みを焼いていると同じです。


「うぁ・・火だ。あちぃ」と叫んで弓士が飛び出してきます。

服が燃えているようです。


「次はどこ?」

「あのあたり!」


 アイリーは続いて次の茂みを狙って矢を放ちます。すると、そこも燃え上がりました。そこからも弓士が飛び出してきます。カレンはそこを狙って短槍を投げ付けます。パニックになっているので避けることなく太ももにガラス槍が突き刺さっていました。


「次は?」

「あっちとこっち!」


 こうなると弓士もヤバイとわかります。矢を放ちながら飛び出してきました。飛び出したら、アイリーの的です。放たれた矢はカレンの小盾に防がれ、燃える矢を腕に受けてうなっていました。


「え?どうなっているんだ。魔弓士か!くそ!こんなばかな。」


 盗賊は、弓士達がやられるのを唖然と眺めるばかりでした。本当は、簡単なはずでした。弓士が藪の中から警護のものを倒し、剣を構えて囲めば後はやり放題のはずでした。しかし、その弓士が真っ先にやられてしまったのです。


さすがに、ベテランのアランです。このスキを逃すはずかありません。驚く盗賊を馬上から切りつけてアランが叫びます。


「みんな、逃げるぞ!」

「おお」

「わお!急げ!」


 御者のエリオットにも矢が放たれましたが、荷馬車が動いたことで外れて荷物にささりました。その矢が飛び出した藪は、アイリーの矢で火だるまになります。こうなるともう矢を放つ弓士はいません。こうして、キャラバンは再び動き始めました。


「しまった!逃げるぞ。馬はどこだ。」と慌てる盗賊達です。


盗賊達は馬に乗って追いかけようとしますが、その馬にカレンのガラスの短槍が突き刺さります。


「うああ、危ねえ。くそ、馬をやられた。」

「ああ、逃げるぞ。」

「だめだ。馬が無くては追いつけねぇ。」


 2台の幌馬車と箱馬車は街道を走ります。岩陰が迫る境地を抜けると、そこは一面の牧草地帯でした。今回のように逃げられても、牧草地を馬で追いかけて回り込めば追いつくはずでした。荷物を摘んだ幌馬車と人を乗せただけの馬とでは速度が違います。


「これじゃ。荷物だけというのも無理だな。」

「ああ、逃げられちまう。」


馬で追いかけると大概のキャラバンは、荷馬車を切り離して逃げていくのです。追いつかれたら命がありませんので、荷馬車を切り離し少しでも軽くして馬で逃げるのが当たり前でした。しかし、馬を失った盗賊ならば別です。街道を優々と走り抜ける幌馬車と箱馬車を、馬を失った盗賊達はただ呆然と見送るしかありませんでした。


「うぁ、ボスになんて言おうか。」と頭を抱える盗賊さんです。

「逃げられちまった。骨折り損だあ。」

「だれだ!女ばかりだから、確実だといったヤツは!」

「魔弓士とはな。まてよ、弓と矢筒をどこから出したんだ。ショートソードしか持ってなかったよな。」

「あの黒い女も短剣しか持ってなかったぜ。かわいい小柄な女に到ってはナイフだけだった。昼メシどきから監視していたから間違いねぇ。」

「そうすると、箱馬車の荷物に隠していやがったのか。迂闊だったな。」


 盗賊達はアン達が持っている武器を見て、遠距離攻撃は無いと判断していたようです。それが幸いしました。こうして、グルーバー商会のキャラバンは、一人のけが人も無く・・もとい、レオンを除いてですが、無事、ヴェスターの町にたどり着いたのでした。



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