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隣人  作者: 鈴木
本編
26/262

26 生活音?

 コツコツ


 コツコツコツ


 収穫したばかりの "シルクもどき" の殻をしきりに(つつ)いているのはガルスガルスガルスだ。

 彼らの嘴の力は強力で、その気になれば一撃で硬い殻斗を貫通することが出来る。彼はただ遊んでいるだけなのだ。


 殻斗はあくまでも仮称で、シルクもどきは殻斗に似たものが付いていても殻斗果らしい堅果ではなく、キウイのような柔らかい実を持っている。



 コツコツ コツコツ


 少々音が気になるがいつものことだ、とカナンは放っておく。



 テーブルの上に小山にしたシルクもどきの一つを手に取り、空いている方の手には専用のブラシ。

 これはゲームプレイ時代にクエスト報酬として得たシルクもどき専用の道具で、犬用のスリッカーに似た、毛先がほんの少し鉤になったシルクもどきの毛を傷めずに削ぎ落とす為のブラシである。

 殻斗がない側の端の毛に絡ませるようにブラシを当て、ゆっくりと下へ引き下ろしていくとまるで皮が剥けるように長い毛が削ぎ落ちていく。

 実から離した後は丁寧にブラシから毛を外し、既に色を変え始めたそれは軽く伸ばして脇へ置く。


 コツコツ コツコツ


 シルクもどきはキウイの毛が馬の尻尾のように長くなったような様相をしている。

 実のサイズはキウイより遙かに大きくラグビーボールほどもあり、大抵完熟する前に自重で落下し、潰れて食べられなくなってしまう為、まだ硬い内に収穫する必要がある。

 毛の色は実から切り離す前は真っ白をしており、まだ毛が伸び切る前はケサランパサランが大量に群がっているように見えなくもない。

 実の味は完熟前は苦酸っぱくとても食べられたものではないが、完熟すると多少酸味の残った極甘の桃のような味がして堪らなく美味だ。

 自然完熟は非常に遅く、その分保存が効くが、食べたい時は予めキウイと同じようにリンゴやバナナと共に袋に入れるなどして時間を置く必要がある。その際、キウイと違い追熟は短時間で済み、一日とかからない為熟しすぎないよう気をつけなければならない。

 長期保存するにせよ直ぐ食すにせよ、長い毛は収穫した段階で全て削ぎ落としてしまう。つけたままでも食用としてのデメリットはないが、毛には他に用途がある。

 尤も一個から採れる量は高が知れており、直ぐに作れるものと言えば組み紐か、そのバリエーションであるブレスレットやチョーカーなどの小物くらいだが。


 コツコツ コツコツ


 このシルクもどきの毛は奇妙な特性を持っており、触れている者の意思を感知して様々に色を変える。

 自律で変色することもあれば所持者が好みの色に変更することも出来る。

 ただし後者は明確な色彩のビジョンを脳裏に描けないと目も当てられない極彩色になるので注意が必要だ。

 色が固定することはなくやり直しが利く分そう深刻になることではないが、うっかり病的な(どどめ)色にでもしてしまった時に人に見られると中々に羞恥心を煽られる。



 コツコツ コツコツ



 一つ、二つ、三つ、四つ。順調に毛を削いでいく間もガルスガルスガルスの遊びは飽くことなく続く。



 コツコツ コツコツ



 特に魔法で何かしているわけでもなく、集中すると周囲の音をシャットアウト出来るのか、カナンは一向に気にもせず作業を黙々と続ける。



 コツコツ コツコツ



 調子に乗ったガルスガルスガルスは尚も続ける。音を立てている本人は基本苦にならないもので、傍迷惑には際限がない。


 コツコツ コツコツ


 コツコツ コツコツ


 コツコツ


 コツ





























「ギャァッ!」

「ガッ!!」


 バサバサバサバサバサ


「……………………なにしてるの」


 コツコツという音が消えると同時に聞こえて来た霊獣達の、人で言うところの二種の怒声にカナンは呆れ返った声を漏らした。

 彼女が作業をしている場所のすぐ横のテーブル上では、馬乗りになって掴みかかるグルステルリィラにガルスガルスガルスが必至で抵抗していた。

 狛虎的には余程うるさく我慢ならなかったらしい。音が。




 ぴん、と背を伸ばして犬で言うお座り状態のグルステルリィラと、お尻をぺったりついて座った状態のガルスガルスガルスは互いにふんっ、というようにそっぽを向いた。

 深刻な喧嘩ではなく他愛ないじゃれ合いであるのは分かっており、カナンは手を休め、暫時微笑ましそうに眺めた。




 * * *




 剥ぎ取り作業が終わった後は糸の束を軽く解して蓋なしの箱へ収めていく。

 糸は縒ってもそのままでも加工出来るが、一昼夜置いて一度色を落ちつかせることにカナンはしている。

 何しろ剥いでいる間は色に気を遣って触れてなどおらず、現状の糸は何とも言い難い斑模様になってしまっている。一昼夜も置けば剥ぎ取る前の白に戻るので色々手を加えるのはその後だ。





 全ての作業が終わる頃、グルステルリィラはすっかり丸くなって眠っており、その横でガルスガルスガルスが未だ拗ねた様子で毛づくろいをしていた。


「…………幾つ食べたいの?」


 仕方ないな、と軽く吐息をついてカナンはガルスガルスガルスの顔を覗き込んだ。

 ちらり、と横目にカナンを見た鶏は直ぐには答えず、暫く焦らすように毛づくろいを続けるが、彼女が何も言わずただ待っているのに罪悪感を刺激されたか、立ち上がってひょいひょいっと裸になったシルクもどきへ近付き、三つ程を蹴り転がした。


「わかった」


 請け負ったカナンは鶏の子供っぽい行動を声に出しては笑わず、後でリンゴと一緒にしておこう、と心中にメモする。

 悪戯(?)した子だけを優遇するのは不公平だと、狛虎にも好物を用意するつもりでいるカナンは、ああ、やっぱり甘やかしてる、といつもの台詞で自身を腐した(でもやめる気はない)。





 後日、カナンの呼び寄せた(間違いではない)綿菓子雲に飛び乗りひたすら貪り食うグルステルリィラと、その周囲を勢い余って落ちないかとはらはらしながら長大な蛇体をくねらせて廻る礼龍(らいりゅう)の姿が[ホーム]の晴れ渡った蒼天高くに見られた。



























 * * *



 ガリガリ ガリガリ


「……」


 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ


「…………」


 とうっ、と言ったかどうか。


 ドカァッ!! ずぽっっ!


「……………………」


 何事かといえば、リビングの床に置いた爪研ぎ板で爪を研いでいたグルステルリィラに、後方からガルスガルスガルスが跳び蹴りをかまし、吹っ飛んだ狛虎が前方にあった特大のふわふわもこもこクッションに突っ込んだ音である。


 クッション目がけて仕掛けただけ、良心的(?)なのか。――いや、今回はたまたまで、無いことも珍しくないがそういうことにしておこう。


「…………………………………………あなた達ね」


 キッチンで夕飯の下拵えをしていたカナンがカウンター越しに呆れの目を向ければ、睨み合っていた当人達はふんっとお互いそっぽを向いた。この二体の定番だ。


 状況は、爪を研ぐ音のうるさかったガルスガルスガルスが切れたのだろう。ダブスタ、は言っても仕方がない。まあ、これも彼らなりのコミュニケーション(じゃれあい)の一つだ。狛虎の爪研ぎ自体、以前の意趣返しである。とはいえ、本気度もそれなりに入っており、呆れることは呆れる。




 狛虎に関してはオチがつき、勝手に爪研ぎ板を使ったことがばれて、暫くサリュフェスからじと目で見据えられていた。

 大体、"グルステルリィラ" は爪を研がない。謂わばガルスガルスガルスとどつき合う為に無断使用したわけで、彼らの遣り取りに共感のないサリュフェスにしてみれば、そんなことに使って!といった不本意感が半端ないのだろう。たとえ事前に使用許諾の申請があったとしても、この場合、許可したかどうかは怪しい。


 実力行使に出られないだけまし、なのかは当人(グルステルリィラ)に聞いてみなければ分からない。ただ、じゃれ合うにしても関係ない者を巻き込んではいけない。











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