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HOC;EASY  作者: うそだよ
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最終話

 

「かずちゃ……うわ、どうしたの? 酷い顔してるよ?」

 有希との待ち合わせ場所である、『立てよ! 日本人!』と、胡散臭い笑顔を浮かべる政治家のポスターが貼ってある電柱の前。

「そうか?」

 開口一番、そんな事をのたまう有希に顔だけ上げて力無く呟く。酷い顔って何だよ、酷い顔って。

「うん。まるで、徹夜でずっとパソコンの画面を見て、何かを悩んでいた様な顔だよ?」

「……たまにお前はスゲーと、そう思う」

 ……正解だよ。あの後、『折角だからうどんも食べよう!』なんて言って俺んちでおかわりまでしたねーちゃんが帰ってから、ずっと徹夜でパソコン見てHOCについて延々と考えていたんだよ。なんだ? 俺の部屋には監視カメラでもついてるのか?

「それじゃずっと起きてたの? 本当に徹夜?」

「……誰のせいだと思ってんだよ」

「へ? 私のせい?」

「……いや、すまん。八つ当たりだ」

 昨日のねーちゃんの言葉が耳に残って、なんて、俺の勝手な都合だしな。なんとなく有希に負けるのが悔しいって、それは別に有希が悪い訳じゃねーし。

「まあプライド高いらしいからな、俺」

 そう言って自嘲気味に笑う俺に、少しだけ目を丸くして有希が俺の顔を下から覗き込む。

「……なんだよ?」

「ん……いつも強気のかずちゃんが」

「なんだよ、いつも強気って」

「今日は珍しく弱気だな~って思ったから」

「……別に弱気じゃねーぞ?」

「そう? それならいいけど……かずちゃん? 本当に大丈夫?」

 心配そうな表情を浮かべる有希の頭をぐりぐりと撫でる。『へふ! セットが乱れるよ~』なんて有希の言葉を聞き流し、俺は無理やりに笑顔を浮かべて見せた。

「大丈夫だ。心配かけたな」

「あうう……セットが――って、え? あ、うん! 徹夜はダメだよ、かずちゃん! お肌に悪いし」

「……そうだな。三十過ぎたら考えるよ」

 お肌の曲がり角なんてどうでも良いんだけどな。男だし。

「そんなに遅くまで何してたの?」

「……勉強だ」

 アレだって立派な社会勉強だよな?

「流石、かずちゃんだね~。私なんて、昨日の『HOC』が気になっちゃって、ずっとインターネット見てたのに」

 ……奇遇だな、俺もだよ。

「でも、そのお陰でHOCが何か分かったよ~」

「……そう――」

 ――何?

「有希!」

「へ、へふ! か、かずちゃ~ん。急に大きな声出さないでよ~。びっくりするじゃない」

「そんな事はどうでもいい! そ、それよりお前……今、何て言った?」

「え? び、びっくりするじゃない?」

「それじゃねえ!」

「えっと……急に大きな声――」

「もっと前!」

「えっと、えっと……HOCが何か分かった?」

「それだ! なんだ、ソレ! マジか!」

 マジかよ!

「う、うん。分かったよ~」

「ほ、ほんと――あ、ああ、分かったって、どうせアレだろう? 昨日みたいにネズミの王国がどうのこうのってヤツだろ?」

 少しだけ震える声でそういう俺。そんな俺に対し、有希はふるふると首を左右に振って見せた。

「ちがうよ~。昨日ね? インターネットで……なんだっけ? 『HOCスレ』? っていうの見てたんだ。そしたらなんかヒントがいっぱい出てきてね?」

 背中に、冷たい汗が走る。

「そ、それで?」

 なんとなく、声が震える。

「『空飛ぶ』とか『殺人』とか出て来てね? こう、それを見て色々考えたら」

「へ、へえ?」


 有希が。


 幼馴染で、いつも俺の後ろに付いて来て、困ったことがあったら直ぐに俺に泣きついて来て、何時だって。

 何時だって、俺が助けて来た、有希が。

「ピンと来たんだ! たぶん、コレで合ってると思うよ!」


 ――俺より先に、『答え』に辿り着いた。


 その厳然たる事実に愕然とし、そして、それがとても、とても居たたまれなくて、恥ずかしくて、辛くて、悲しくて――悔しくて。

「なんだ! HOCってどういう意味だ!」

 冷静さなんか、カケラも残っちゃいなかった。

「へふ! か、かずちゃん! ど、どうしたの急に!」

「いいから早く! なんだ! HOCってなんなんだよ!」

「え、えっと、えっと……うーんっと……ごめん、かずちゃん。巧く説明できないかも」

「……何だと?」

 お前、分かったって言ったじゃねえか! 何で説明できないんだよ!

「え、えっと……どう言ったら良いのかな? 巧く説明できないんだよ~」

「何だよソレ! ソレ、分かったって言えるのかよ!」

「う、うーん……わ、分かったのは分かったと思うんだけど……こう、ね? HOCって言うのが何かは分かるんだよ。でも、『じゃあHOCってなんだよ!』って言われたら、本当に分からないんだよぉ」

「お前が何言ってるかこれっぽちもわかんねー!」

「うぅ……ごめん、私バカだから、本当にどう説明していいのか……」

「んじゃ、バカのお前に分かった事がわかんねー俺は大バカって事だな!」

「そ、そうじゃないよ! そんな事言ってない! かずちゃんは何時だって――」

「うるせぇ!」

 きっと、目は血走っているのだろう。

「もったいぶるなよ!」

 でも――そんな事、関係ない。

「教えろ! いや、頼む! 教えてください! お願いだから! お願いだから、俺にHOCを教えて――」

「そこまでだ、和樹」

 有希の肩を掴む俺の頭を、ゴツンと鈍い衝撃が襲う。慌てて後ろを振り返ると、鞄を手にぶら下げて呆れた顔をした部長の姿がソコにあった。

「……部長」

「しつこい男は嫌われるぞ、和樹。見て見ろ、有希の顔」

 部長の言葉に、視線を有希に移し――息を、呑む。

「……わりぃ」

 怯えた表情を浮かべる有希に、素直に頭を垂れる。睡眠不足と、『俺だけが知らない』という厳然たる事実に、少しだけ……がっつり、取り乱してしまった。

「う、ううん……こっちこそ御免ね、かずちゃん。私が巧く説明出来れば良いんだけど……」

 そう言って、すまなそうな顔をする有希。

「……だからお前はバカなんだよ」

今のは全面的にこっちが悪いんだから、お前が頭なんか下げるな。本当に悪かったよ、有希。

「……全く、お前らは……特に、和樹」

「……はい」

「今回は全面的にお前が悪い」

「……重々、承知しています」

「昨日、散々言っただろう? HOCについては考えるな、と」

「で、でも! 気になるんですよ! 昨日だって、殺人とか、空を飛ぶとか……ヒントばっかり沢山出て来て、一向に答えに辿り着きそうに無いんですよ? 気にならない方がおかしいでしょ!」

「ほう。既にそこまでヒントが出たか。まあ、あのスレの醍醐味と言えば醍醐味だが」

「……そこまでヒントが出たけど答えに辿り着かなくて悪かったですね」

「卑屈になるな、面倒くさい」

「面倒くさいって!」

「お前の様な『教えて、教えて』とネットで声高に叫ぶ面倒臭い奴が居るから、面白がって煽る奴が居るんだ。気にしなければ良い話だろう?」

「で、でも!」

「……まるでパンドラだな」

 呆れた様に肩を竦める部長。そちらをジト目で睨む俺の服の袖をくいっと有希が引っ張った。

「ぱんどら? パンドラって何、かずちゃん?」

「……ギリシア神話に登場する女性だ。開けてはいけない、と言われた箱を開けて、そこから数々の災厄が生まれたっていう……まあ、人類が不幸な目に合う事になった原因を作った、A級戦犯だな」

 最後に希望を解放しても情状酌量の余地は無い。無いが……まあ、今ならパンドラの気持ちがパンドラ以上によく分かる。アレだけ『開けちゃダメ、開けちゃダメ』と言われたら、そら開けたくなる。『押すなよ、絶対押すな!』をフリだと思う芸人と一緒の心境だよ。

「……全く」

 俺の様子を見て、溜息を吐く部長。

「……知った所で面白い話では無いぞ?」

「良いです」

「他の皆は自分で気付いたのに、お前だけ私に教えを請うのか?」

「構いません」

「学年首席が?」

「そっちの頭の良さと、こう言った頭の良さは別の話です」

「ふむ……まあ、こういうクイズ的なノリは、確かに和樹向きでは無かったかも知れないな」

 やれやれ、と、もう一度肩を竦めて。

「これ以上和樹が荒れても困るしな。本当はルール違反だが……仕方ない。いいか? HOCとはな――」


◆◇◆◇◆


「……」

「……」

「……か、かずちゃ~ん? だ、大丈夫?」

「……」

「ぶ、部長! ど、どうしましょう~。かずちゃん、真っ白になってるんですけど!」

「まあ仕方なかろう。なまじ頭の良い和樹の事だ。徹夜してまで頭を悩ませた事が、まさかこんなに『しょうもない』事だったとはな。ショックも受けるさ」

 ……部長と有希が何か言ってるけど……聞こえない。

「ははは……はははははは……」

 ……。

 ………。

 …………はー。

「……そんなしょうも無い事だったんですか?」

「そうだ。だから言っただろう? HOCなんて考えるだけ時間の無駄だって」

「……ホントにそうでしたね」

 びっくりするぐらい。『答え』は分かるけど、か。なるほど、言い得て妙だ。

「……誰が考えたんですか、コレ?」

「さあな。私の姉曰く、『ネット上の風物詩』らしいぞ」

「綾乃ねーちゃんも同じ様な事言ってましたけど」

「綾乃さん、来てたのか。今度は私も呼んでくれ。と、話が逸れた。気がついたらネットでまことしやかに流れていたらしい。私も最初に姉から聞いてスレを見た時は随分考えたが……」

『答え』に辿り着いた時は思わず脱力したよ、と苦笑して見せる部長。

「良く気がつきましたね、部長」

「ヒントが出たんだろう? 『殺人』とか『空飛ぶ』とか」

「ええ。ありましたね」

「あれ、昔もヒントで出した奴が居てな。というか、姉曰くHOCスレでは必ず出るヒントらしいんだが……それでピンと来た」

「……あれで?」

「好きな人間には堪らないからな、アレは」

「……好きなんですか、部長?」

「『謎かけ』も好きだが『コテコテのギャグ』も嫌いでは無い。そういう事だ」

「……なるほど」

 さすが、雑食。

「……お前、今失礼な事考えたろう?」

「か、考えてませんよ!」

 厳しい視線を向けてくる部長から眼を逸らす様に……いや、実際逸らしているんだが、眼を逸らして、空を見上げる。

「……空を飛ぶ、ね」

 なるほど。聞けば確かに納得。日本中に赤字路線を抱える某鉄道会社も、最初は安い値段で提供して、愛好者が辞めれなくなってから値段を不当に釣り上げる、麻薬の売人並に阿漕な商売をする旧専売公社も、『考え方』というか……『言い方』か? まあ、そう言う視点で見れば確かに、ヒントだよな。浦安のネズミの王国だって驚いた事に充分ヒントだよ、こん畜生。

「……やられた、って感じです」

「だろ? ホレ、そんな事よりそろそろ行くぞ? 随分無駄な時間を喰ったから、そろそろ行かないと遅刻する」

「……そうですね」

「と……和樹。HOCについては他言無用だぞ? 調子に乗って、ネットに書き込むなよ?」

「答えを、ですか?」

「答えもだが、無駄に『HOCについては語るな。睨まれるぞ?』とかの煽りもだ」

「……ちょっとだけ、ダメです?」

 多分、これの醍醐味は答えに辿り着いた奴が『ああ、HOCね。それは……おや? こんな時間に誰か来たようだ』みたいな煽りを入れる所に面白さがあると思うんだ。折角答えに辿り着いた以上、俺だってやってみたいし、何より。

「やられっぱなしというのも、いささか腹立たしいモノがあるんですけど」

「駄スレを増やすな、伸ばすな。サーバーが重くなるし、不快だし……何より」

 一息。

「――カンニングした奴が何を偉そうに」

「ぐぅ! ま、まあ……そもそも、他言無用と言われましても……説明できないですよ、コレ」

 HOCって『こう』ですよ~と説明したとしても……『じゃあ、それってなんだよ!』って聞かれたら、もうお終い。答える事なんて、それこそお釈迦さまでも無理だよな。なんせ、HOCって結局のとこ――

「……あ」

 俺の思考を遮る様、有希が声を漏らす。そちらに視線を向け――きょとんとした表情の有希と目があった。なんだよ?

「ねえ、かずちゃん」

「なんだ?」

「かずちゃん、昨日……HOCの事、調べてたの?」

「そうだけど?」

「その……さっき、昨日は徹夜で勉強してたって言って無かった?」

「……」

「……」

「……かずちゃん?」

「……さ、行こうか、有希。遅刻するぞ?」

「へ、へふ! か、かずちゃ~ん! 質問に答えてよ~。ね、勉強はしてなかったの?」

 実はどうしてもHOCが気になって、徹夜で調べていました。勉強してたってのはちょっと見栄を張っただけです、なんて。

「記憶にございません!」

「うわ! 政治家みたいな台詞だよ、かずちゃ~ん」


 恥ずかしくって、言えるかよ!


くぅ~疲(ry


お読み頂き感謝、感謝。お粗末さまでした。

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