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第七話 美紗子と太一 その①

  次の日も美紗子は学校に来なかった。

 太一と幸一は放課後美紗子の家に行って見たが、やはり誰もいない雰囲気だった。

 夕方六時を回る頃

 「いいよ、今日は。お前は帰れよ」

 太一は幸一にそう言うと家に帰らせた。

 太一は一人でもう少し待ってみようと、門柱の後ろに、表を通る人から隠れるようにしゃがんだ。

 

 夜八時を過ぎた位だろうか。

 体育座りで項垂れて目を閉じていた太一は自分の前に人の気配を感じた。

 顔を上げると睨んだ顔で美紗子がそこに立っていた。

 「来て」

 そう言うと美紗子は玄関の方に向かって行く。慌てて立ち上がり太一も跡をついて行く。

 バタン。

 小さな音を立てて二人の入った家のドアが閉まった。

 玄関先の通路の奥に明かりが見える。それ以外は照明を付けず真っ暗だった。人の住んでいない空き家の様に太一は感じた。

 「外で話すと近所に聞こえるから」

 美紗子が言う。

 「ああ」

 太一も慌てて相槌を打つ。

 「それで何の用?約束したわよね?もう二度と関わらないって」

 そう言う美紗子の顔は暗がりではっきり見えないが怒っている様だった。

 「ああ、心配になって」

 太一が言う。

 「嘘!笑いに来た?馬鹿にしに来た?四年で皆に無視されて、今度はこんな事になって、ドンドン落ちてくの見て楽しい?笑える?」

 今度は太一にもハッキリ分った。そう言いながら美紗子が泣いているのが。

 「違うよ、本当に心配したんだ」

 「嘘!嘘!嘘!」

 太一の言葉を遮るように美紗子が連呼する。

 美紗子の大きな声に慌てた太一は美紗子の肩に手を置き自分の方に引き寄せて抱きしめた。

 「嘘じゃないよぉ、俺、お前の事好きだったんだ。万引きの事もちゃんと親に言った。本当にお前の事心配したんだ。嘘じゃないよ」

 太一もまたそう言いながら涙を流していた。

 太一の行動にビックリした美紗子は冷静さを取り戻し、手で太一の胸を撥ねつき、太一の腕の中から離れた。

 「何なの?」

 そう言う美紗子の顔は、泣いて鼻の周りだけ赤いのが、薄明かりの中で肌の白さを一層引き立たせていた。

 「美紗子って、綺麗だよな」

 太一の口からつい漏れる。

 「何なの」

 美紗子は呆れた口調で言った。

 

 美紗子は今日一日一人で家にいた。外から聞こえて来る近所の人の噂話が嫌で、居ない振りをしていた。妹は四十キロ程離れた祖母の家に預かって貰っていた。母親はあれからまだ帰って来ない。父親は十一時頃には帰って来ると美紗子は言った。

 太一は自分の事と幸一の事を話した。

 「太一君が実はちゃんとしてる人だって事は分った。でも、どんなに謝って貰ってもあの時の無視されて、虐められた時は元には戻らないの。四年の後半に楽しい記憶は無い。太一君の事を好きになる事も許せる事もない。ごめんなさい」

 そう言うと美紗子は頭をペコリと下げた。

 「いいよ。そう言うだろうとなんとなく思ってた。ちょっとショックだけど、当たり前だよな。それだけの事したんだから。謝んなくていいよ。俺が悪いんだから」

 言いながら太一は美紗子の方を見ていられなくなり、下のほうを見た。

 「でもね、本当はもうどうでもいいんだ。日曜には私もね、お婆ちゃんの所に行くの。ウチ引っ越すの」

 その言葉に太一はショックだった。

 「ママ居ないでしょ。私や妹の面倒見てくれる人居なくなっちゃったから。今の学校にも行けないでしょ?」

 と、美紗子は言った。

 「なんだよそれ!」

 太一が大きな声を出した。

 「なんだよって、しょうがないじゃない。好きでこうなった訳じゃないよ、学校なんてもうどうせ行けないじゃない。どんな顔して行ける?どんな顔してここにいられる?」

 美紗子が言った。

 「なんだよ。俺お前の事好きだって今言ったのに。お前居なくなっちゃうのかよ。学校なら俺が一緒に行ってやるよ。お前の事無視したり虐めたりする奴いたらぶん殴ってやるよ」

 そう言いながら太一はまた薄っすら涙が出て来た。

 「そういうの四年の時にしてくれれば良かったのに」

 少し照れながら美紗子が言った。

 「上手く行かないね」

 「ああ、上手く行かない」

 泣きながら太一が答えた。

   


   つづく



                    

 

 

 



読んで頂いて有難うございます。

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