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第四話 瑞穂と幸一

幸一とマンションの女の子の話の続きになります。


 今年のゴールデンウィークは学校も五連休だ。

 幸一は昨日寝たのが遅かったので、起きたのは十時を過ぎていた。両親はとうにいない。テーブルの上に幸一の朝食だけが置いてあった。幸一は朝食を食べ、着替えると、自宅マンションを出た。

 昨日のマンションの子に手紙を渡す為だ。


 幸一がマンションの近くまで来ると、辺りにチラホラと人が出ていて、マンションの下に止められていた二台の車の周りで何か騒ぎが起きていた。

 「子供を連れてかないで!離して!離して!」

 昨日の女の子の母親が叫んでいる。

 「このままじゃお子さんが死んでしまいますよ。だったら何でこんなになるまでこんな事してたんですか?瑞穂ちゃんの為でもあるんです。誰も貴女から取り上げようって事じゃないんです。冷静に、ゆっくり話し合いましょう」

 母親を抑えながら職員風な服装の年配の女性が諭すように言った。

 「うう・・、あの子がいないと生きていけないんです。直ぐに会えますか?」

 泣きじゃくりながら母親が周りを囲む数人の職員風の人達に尋ねる。

 「話し合いましょう」

 先程の年配の女性がやはり諭す様に言った。

 母親はその場にしゃがみ込んだ。

 一段落着いた様だった。

 

 二台ある車のうちの先頭の車には昨日幸一に助けを求めた女の子が乗せられていた。

 幸一は自分の所為だと思った。

 自分が昨日警察に知らせた事で何か大変な事になったんだ。お母さんが泣いてる。あの子とお母さんが引き離されるんだ。僕が警察に言ったからだ。と。

 「やめてー」

 そう言うと幸一は走り出し、女の子を車に乗せている中年男性の背中にしがみついて更に言った。

 「お願いだからやめてよ。お母さん泣いてるじゃないか。僕はその子を助けたいのに、お母さん泣いてるじゃないか」

 男性は女の子を乗せ終えると幸一の方に振り向き言った。

 「何するんだ!邪魔するんじゃない」

 そう言うと男性は女の子の隣に座ろうとした。

 「僕が警察を呼んだから、僕が警察を呼んだから」

 幸一が声にならない声で叫んだ。


 「警察?」

 車の周りにいた若いやはり職員風の女性が幸一の言葉に反応した。

 「君が幸一君?」

 若い女性は幸一の方に近づきながら言った。

 「はい?」

 幸一が何の事か分らないまま返答する。

 「警察から昨日連絡を貰ったの。私たちは児童相談所の者です」

 女性はそう言った。

 確かに昨日幸一は警察で、氏名・住所・保護者名・保護者連絡先を書かされていた。

 「警察から話は聞いてるわ。君が瑞穂ちゃんを見つけたのね」

 「みずほちゃん?」

 幸一は聞き返した。

 「あの子は小川瑞穂ちゃんって言うの。君の凄く痩せていたって証言と、警察の自宅に瑞穂ちゃんの靴が無かったと言う話から、今日緊急保護する事になったの。お母さんからは何か聞いてない?」

 女性職員が言った。

 「朝起きた時はもう居なかったし、何も聞いていません。あの、保護って」

 幸一は尋ねた。

 「あのまま、あのお母さんと一緒にいたら瑞穂ちゃんがきっと死んでしまうって判断したの。だからそうならないように、お母さんも少し休んで心を落ち着けて貰って、その間瑞穂ちゃんも三食食べられる状況で、普通の小学生の心と体の状態に戻していくの。瑞穂ちゃん、本当は学校に通っていれば今は六年生なのよ。でも痩せ細ってそんな風には見えないでしょ?」

 「年下かと思った」

 幸一が言った。

 「相談所でも去年学校から連絡貰って確認はしていたんだけど、君のおかげよ。大変な事になる前に助けてあげられるわ」

 「助けられるの?本当に?あの子も?あの子のお母さんも?」

 女性職員の話に幸一は尋ねた。

 「ええ、きっと良い方向になるわ」

 女性職員は答えた。

 「良かった。それなら良かった」

 幸一は喜びながら言った。

 「あのね、あの子、瑞穂ちゃんに手紙書いて来たんです。渡して下さい」

 幸一はポケットから四つ折りの手紙を出して言った。

 「そう。きっと瑞穂ちゃんも喜ぶわ。今渡してあげるね」

 そう言うと女性職員は幸一から手紙を受け取り、男性職員の乗っている側とは反対の後部ドアを開けて、瑞穂に手紙を渡した。

 そして再び幸一の前に来ると、

 「もう行かなくちゃいけないの」

 と言い、軽く幸一に挨拶をしてまた車の方に戻るとそのまま乗り込んで、瑞穂を乗せたその車は走り出して行った。

 幸一は走り去っていく車を眺めていた。その間にも静かになった母親を乗せた車が五分と経たず出て行った。マンションの前に止まっていた二台の車は両方ともいなくなった。見に来ていた人達も散り散りに何時の間にかいなくなり、最後は幸一が一人で立っていた。


 走り出した車の中で、瑞穂は幸一からの手紙を広げた。


『僕はまだ子供で君を助けてあげられません。でも、僕が見つけたんだから、他の人も君を見つけて、そしたらきっと君を助けられる人も君を見つけるはずだから。だから、ごめんなさい。僕は見つける事しか出来ませんでした』

  

 瑞穂の痩せ細り乾燥した顔の瞳から涙が落ちて、幸一の手紙に滲んだ。

 


  つづく               



 追記

 その日の朝。幸一の母親に児童相談所から連絡が入っていた。

 小川瑞穂の保護についてだ。

 瑞穂の両親は一年半前に離婚しており、父親が家を出てから瑞穂は学校に来なくなった。小学校からも一年前に母親が閉じ込めているらしいと言う連絡を貰ってはいたが、生活保護申請等も出されていないので、生活出来ていると思いチェックは入れていたが様子を見ている段階だった。

 それが昨日、警察から危険な状態ではなかろうかと連絡が入り、今日これから強制的に保護しに行く。

 ついては幸一君が瑞穂の発見者として、今後、精神的に不安定になる様な事もあるかもしれない。その場合はカウンセリング等の相談にも応じますので、何かの時にはご連絡下さいと言う話だった。

 しかし、幸一の母親は寧ろこの連絡については伝えないほうが良いのではないかと思い。

 幸一にこの事は話さなかった。



 


 

 

 

読んで頂き有難うございます!

次回は太一と幸一の話しになります。

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