表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

第二話 太一と美紗子

美紗子が万引きを目撃した話の続きです。

 太一は本屋からそれ程離れていない公園に入って行った。

 美紗子も跡をついて入って行く。

 美紗子に気付かない太一は公園のベンチに座り、手提げから筆箱を出し開いた。続いて盗んだカラーペンを出して、筆箱に詰め始めた。

 美紗子は少し恐々と太一に近づいて行った。

 強い日差しが伸ばした美紗子の影が太一のつま先に届いた時、太一は顔を上げ美紗子に気付いた。

 「なーに?」

 太一は少し強張った顔でそう言った。

 美紗子は太一の顔をじっと眺めてから意を決して言った。

 「私、本屋で見た」

 「へー」

 太一は顔色一つ変えないで言った。

 「どうするの?告げ口するの?証拠は?もう本屋から出て離れてるんだけど?」

 出来るだけゆっくり、余裕を見せる様に太一が言う。

 美紗子も負けじと太一の顔を見ながら言い出した。

 「最初は四年の時虐められた腹いせに太一君の親や、本屋さんに言いつけようと思った」

 美紗子の話に太一は眉一つ動かさずに黙って聞いていた。

 「でも、告げ口はやめた。黙っているから私には金輪際関わらないで。それともう万引きはしないって誓って」

 そう美紗子は言った。

 「関わらないってのは良いよ。お互いの為だ。でも、万引きしちゃいけないってのは分らない。何で駄目なの」

 太一が言う。

 美紗子には太一の考えが分らなかった。そして言ってる事が分らない太一に腹が立ってきた。

 「駄目でしょ!人の物を盗んだら!お店の人に迷惑かけてんのよ」

 美紗子は感情的になり少し大きな声で言った。

 太一はビックリしながら言い返した。

 「でも、人から盗んだ感覚ないよ。店の棚から盗っただけ。誰とも会ってないし、店の人だって分らないだろ。盗まれたの」

 「分る分らないじゃないでしょ。それは物だけどお金を払って買う物なのよ。言い換えればお金を盗んだのと同じ事なの」

 あまりにも分らない太一に美紗子はイライラしながら言った。

 「でも実際はお金じゃない。僕が盗ったのは物だ。僕はお金は盗まない。それは犯罪だ」

 太一が冷静に反論して来た。

 「物を盗むのも犯罪なの!色んな人に迷惑をかけてるの。それで困っている人もいる筈なの」

 言いながら、美紗子は太一と話すのがほとほと嫌になって来ていた。

 「もし美紗子の言う通りだとしても、俺の問題だ。美紗子には関係ないだろ」

 太一が言った。

 「関係なくないわ。私見たもの。私は見て、知って、関わった事がそんなのじゃ嫌なの。ちゃんとして貰いたいの」

 美紗子が言い返した。

 「そんな、面倒臭い事」

 「面倒臭くても何でも、ちゃんとして貰いたいの。万引きは良くないの。やめて」

 太一の言葉に美紗子が言った。

 「分ったよ」

 太一が急に立ち上がり、言った。

 「なんとなく分った。良く考えてみる」

 そう言うと太一は美紗子の脇を通り、歩き出して行った。

 「待って、約束だからね」

 去って行く太一に美紗子が声をかける。

 「うん・・・」

 太一は弱々しく答えた。


 太一が家に帰ると母親が待っていた。

 太一の家はお金に厳しい家だった。母親は細かくお金を貯め、家のローンの頭金を貯めた事が少し自慢だった。だから、太一に対してもお金の管理に煩かった。

 今日も帰るなり、小遣い帳と財布の中身を母親が確認した。

 「お金にきっちりしている人間はきっちりした人間になるのよ」

 太一の母親の口癖だ。

 そしてこの母親が太一の悩みの種だった。

 自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がりながら太一は考えた。

 お金は使うと無くなって、直ぐ無くなると母親に叱られるだろう。でも、必要な物もあるし、欲しい物もある。お金を減らさず、欲しい物も手に入れるには万引きするのが楽だ。

 そう思った時、さっきの美紗子の

 「約束だからね」

 と言う声と顔が頭をよぎった。

 太一はそもそも美紗子を嫌いではなかった。寧ろ好きなタイプだった。それが四年の時友達だった幸一と仲が良く、告白したと言う話を聞いて、邪魔したくなっただけなのだ。

 「あいつ、優しいな」

 そう言うと太一は静かに目を閉じた。



  つづく

 


 

 

読んで頂いて有難うございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ