第一話 美紗子と幸一
とにかく綺麗な話を書きたいと思って書き始めました。
宜しければ読んでみて下さい。
美紗子は幸一の事が好きだった。
今から半年以上前、小学四年の時、誰もいなくなった教室で告白した事がある。
「やめてよ」
幸一はそう言うと友達の待つ校庭に出て行った。
そして美紗子は次の日からからかわれ、虐められる様になった。
幸一がその事を友達に話したのだ。
幸一は美紗子の事が本当は好きだった。
席も近く、グループも同じなので給食や班研究はいつも一緒だった。
美紗子は肩までかかる髪を両脇で編みこみ、幸一にとっては自分とは違う別世界のお嬢様に見えた。
そんな美紗子に告白され、思わず気持ちとは逆の言葉が出たのだ。
「やめてよ」
と、言ってしまった。
そもそも以前は二人共仲が良く、クラスの数人からは軽く冷やかされたり、黒板に相合傘を書かれたりしていた。幸一はそういう冷やかされるのが嫌だった。美紗子に告白された時〈また冷やかされる〉と、咄嗟に思いあんな言葉が口から出たのかも知れない。
美紗子と別れ、校庭に出た幸一を待っていたのは友達の冷やかしだった。
「美紗子なんだって?」
「幸一と二人っきりになるの待ってたんだろ?」
「チューとかして来たの?」
そんな冷やかしが嫌で、幸一は言った。
「僕、アイツとは何でもないから。何か言われたけど、振ってきた」
言ってしまった。
その日のうちに噂は広まった。
(美紗子が幸一に告って振られた)
(美紗子がしつこくて幸一が振った)
(美紗子ってウザいらしい)
そして次の日から男子が美紗子をからかい、女子が陰口を言うようになった。
幸一はそれ以来美紗子に話しかける事が出来なかった。
一度口から出た言葉を訂正するのは難しい。例え本意でなかったにしても。
五年生の今、幸一と美紗子は別々のクラスになり、美紗子への虐めもなくなった。そして幸一は強く後悔していた。
五月のゴールデンウィーク。
美紗子は買い揃えている少女漫画のコミックを求めて近くの本屋に来ていた。
平積みにしてあるコミックの新刊コーナーから、揃えているコミックを一冊取り、文房具のコーナーを眺めながらレジへ向かう時だった。同い年位の男の子がカラーペンを五本自分の手提げに落とし入れるのが見えた。
万引きだ。
咄嗟に美紗子はそう思った。
顔を見ると知っている顔だった。四年の時同じクラスで、幸一の友達の一人だった、遠野太一君だ。
太一は何食わぬ顔で店を出て行った。
美紗子はレジで支払いを済ませ、太一の跡をつける事にした。
幸一はゴールデンウィークの連休を持て余していた。
親がサービス業で共働きの幸一の家では、兄弟姉妹のいない幸一は休日はいつも一人ぼっちだった。
マンションを出て外に出た。
何する訳でもなく住宅街を散歩して歩く。
晴天でちょっと暑い位の日だ。幸一は少し汗をかき、腕で汗を拭き取ろうとした時、フッと、視線に気付いた。
誰かが自分を見ている。そんな気がして視線の先を眺めた。
少し先の七階建てのマンションの二階の部屋の窓から女の子が幸一を見ていた。
随分と痩せたその女の子は幸一と同い年か、それより下に見えた。
何かもごもご言っている様だった。
幸一は必死に口の動きを真似して何を言っているのか読み取ろうとした。
「た・・・す・・・け・・・・て」
「助けて?」
思わず幸一は声に出した。
つづく
読んで頂き有難うございます!