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なんやかんやありながら、碩大区の最端まで剣を取りに行く事になった旺伝は憂鬱だった。なんせデスクに聳え立つ大量の仕事を残して会社を出るのは始めてなので不安が止まらない。だからと言って、せっかく作ってもらった剣を放置プレイする訳にはいかないので、旺伝は行く事を決意した。しかも途中まではステルスヘリで送ってもらえるというラストラッシュの優しい計らいがあったので、現在彼はヘリの後部座席に揺られて、外の景色を横目で見ていた。流れていくネオンの光があまりにも眩しい。
「想像していたよりも、この日本は変わっていなかった」
「玖雅さんはいつから魔法界にいたのですか?」
魔法界とは所謂異世界の事だ。魔法界に行くためには莫大な費用がかかるので、魔法の素質がある者や金持ちしか行く事は出来ない。そういう意味では、旺伝の家系は金持ちに値する。特に両親は魔法界でも名の知れた実力者なので収入もバカデカい。しかし、この家系は「金は自分で稼ぐもの」という家訓があるので、旺伝は親から小遣いを一度たりとも貰った事は無い。
「幼少の頃だな……この西日本から一度離れたのは」
「何故離れたのでしょう?」
「決まっているさ。俺には親と離れて一人で生きる覚悟は無かったからな……だから親父に無理言って、向こうで暮らす事を決意した」
魔法界は日本よりも危険な地帯が多い。悪魔に支配された東日本と匹敵する絶対血戦区域がいくつも政府によって指定されており、そこではスラム化や犯罪が止まる事を知らないのだ。
「そうなのですか」
「それでも、中学生の弟は一人で生きているがな。この碩大区で」
旺伝は感じていた。弟の精神力は自分よりも格段に上だと。
「私も幼少の頃は一人で生きていました。絶対血戦区域に指定されたスラム街でね」
「お前のような大金持ちがスラム街出身だと?」
驚いた様子で、旺伝は聞き返していた。それも無理はないだろう。なんせ眼前の男は今でこそギラギラとした高層ビルに日本支部を携える大手の社長なのだ。しかし、幼少の頃は犯罪が多数頻発するスラム街で生きていたというのだ。あまりのギャップに旺伝の脳内は揺れ動いている。
「両親を焼き殺して、私は刑務所に入れられました。魔法界の刑務所はなんというか……男の楽園と言いますか、なんといいますか。私のような子供は玩具として扱われるのですよ」
そうなのだ。そういう意味ではアメリカの刑務所に良く似ている。
「ああ、そうなのか」
旺伝は全てを悟った顔をせざる終えない。
「なので私は、同い年の子供を連れて脱獄しました」
「脱獄か」
「ええ。それでスラム街に行きついたのです。確かに危険な場所には変わりませんが、それでも隠れ蓑にはなりますからね。おかげで、彼と会う事にも出来ました」
「彼?」
「ラファエル=ランドクイストですよ」
そう。ここで彼の名前が出てきたのだ。あまりにも予想外だったので、旺伝は驚いた様子で彼の顔を見た。
「あのセンコーが関係しているのか」
「ええ。魔導国宝の彼はそこらの警察より立場は上ですからね……私が魔法学校に入学する条件と引き換えに、今までの罪状を揉み消してもらいました」
「ちょい待てよ。向こうから入学を誘ってきたという事か」
「ええ」
「そのくせに、奴はお前を目の敵にしていたのか」
「私と彼の間には在学中で色々とありましたからね」
ラストラッシュは遠くを見つめながら、そう言っていたのだ。
「そうか。それは敢えて聞かないでおこう」
「ありがとうございます。話の流れから言わないといけないかと思いました」
「過去を全て喋る必要など無い。断片的に分かればそれでいい」
そう。相手の過去を全て知るなどおこがましい事であるというのは旺伝自身もよく分かっていた。なので彼はこれ以上問いただすような真似は控えた。
「しかし、日本は良い場所ですね」
「そうだな。魔法界より断然暮らしやすい」
二人の意見が珍しく一致していた。この日本はとても住みやすい場所なのだと。
「滅多に犯罪は起こりませんし、平和な日常を過ごせます」
「それに、やっぱり和食が美味い」
旺伝はそうだと言うのだった。




