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悪魔の心臓に剣を貫けば、必ず勝てるという策略が旺伝にはあった。しかし、これが本当に有効な手なのか、ラストラッシュには分からないと言われて少々不安になっていた旺伝だが、後ろ向きに考えていたところで事態は好転しないので有効な手であると信じるしかなかった。
そして、サーモンバブルから一週間が経過した頃、ラストラッシュからお呼びがかかったので旺伝は社長室の扉を三度叩いた。相変わらず着慣れないスーツを着用しているだけあって、服の違和感が凄まじい。
「どうぞ」
と、扉の向こうから聞こえてきたので旺伝は扉を開けた。この科学が発展した世の中でドアノブがついている扉は限りなく珍しいのだ。
「相変わらず旧式の扉だな」
旺伝は社長室に椅子にドカンと座って、大あくびをしていた。昨日はあまり眠れなかったので寝不足気味だ。
「旧式ではなく、レトロと言って下さい。わざわざアンティークショップから取り寄せてきた特中品なのですから」
「へえ。そういうオシャレな事は早く言えよ」
旺伝はオシャレ大好きな男子なのでアンティークは大好物だ。特に家具には力を入れていて、どんなに汚い家に住もうが家具だけは自分の好みで選んでいる。
「その扉は以前、ホワイトハウスに使われていた玄関扉を加工したものです」
「へえ。今は無きホワイトハウスのか……ってことはお値段もかなりかかっただろう」
ホワイトハウスは第三次世界大戦中に破壊された。そもそも、今のアメリカはシカゴが首都なのでホワイトハウスさえ存在しないのだ。
「オシャレに値段は関係ありませんので。出し惜しみはしませんよ」
「そうこなくっちゃな。どうやら、俺とお前は少しだけ気が合うらしい」
旺伝は輝かしい目で、そうだと言うのだった。
「実際の所、格安で手に入れる事が出来ましたがね」
「ほお……いくらぐらいでだ」
さっきから気になって気になって仕方ない旺伝は自然と口から言葉が漏れて、何時の間にか問うていた。
「100万円もいっていませんよ」
「安いな。ホワイトハウスの扉がたったの100万か!」
100万というお金はかなり高い。しかし、100万円で家が買えるとしたらとたんに100万円の価値も下がる。ようするに、お金の価値は物によって決定するのだ。
「ええ。私も大喜びしましたよ」
「それで、どんな手を使ったんだ?」
「アンティークコレクターの友人がいましてね。その彼が経営している店なので安く変えたのですよ。あまりにも高すぎて、長年買い手が現れなかったそうです」
「さすが社長さんだ。随分と顔が広いね」
旺伝は用意されていたお菓子に手を付けながら、そうだと言うのだった。
「いえいえ。そんな事はありませんよ」
「それで……俺は何の用で呼び出されたんだ」
「ああ。失礼いたしました。世間話にうつつを抜かしてすっかり忘れてしました」
どうやら、忘れていたらしい。ラストラッシュにも意外な一面もあるのだと、旺伝は感じていた。
「ちょい待てよ。人をこんな個室に呼び出しておいて用を忘れたはねえだろ」
「真に申し訳ございません。お詫び申し上げます」
そう言いながら、トリプルディーは頭を下げて謝っていた。しかしこれだけあ謝られるとこちらとしても申し訳なくなるので、旺伝は「まあまあ」と言いながら彼を慰めていた。
「もういいよ。それで、俺にどんな要件があるんだ」
相変わらず、どっちが社長でどっちが秘書なのか口頭だけでは区別がつかない。特に二人を知らないものは立場を逆にして見るかもしれない。
「頼んでいた剣が完成いたしました」




