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旺伝とトリプルディーは深夜の会社から見える景色を堪能していた。他社を圧倒する程の高層ビルから見える夜景は格別なのだ。しかも月が出ている。
「さて、これからどうしますか」
「決まってるさ。今度こそ奴の息の根を止めてやるんだ」
「しかし、プラズマ系統の武器でも死ななかった相手ですよ」
「心臓を突き刺せば、どんな敵でも倒せるだろ」
旺伝はそうだと言うのだった。弱点は心臓なのだと。
「そうですか……心臓ね」
なぜだか分からないがトリプルディーは首を傾げていた。どんな生物も心臓を突き刺せば一撃で屠る事が出来る。そう考えていた旺伝とは真逆の反応ではないか。これにはさしもの旺伝も納得がいかないようで、さらに言葉を畳み掛ける。
「ちょい待てよ。心臓を貫かれてしなない奴はいないと思うぞ、俺は」
「いえいえ、私が疑問に思っているのはそこではありません。問題は悪魔に心臓があるかどうかという事です」
「悪魔に心臓はないのか?」
「どうでしょうね。実際に戦った事が無いのでなんとも言えません」
「普通はあると思うぞ」
旺伝は悪魔に心臓はあると確信していた。
「そうですね……もしも心臓がなければ頭を狙えばいいでしょう」
「頭か。狙いにくいな」
そうなのだ。古今東西どんな生き物でも頭は弱点である。ところが、この頭という箇所は体全体と比べるとどうしても小さくて狙いを絞れない。だからこそゲームなどでも頭を狙って相手を倒せば、大抵はボーナスが貰える。
「しかし頭を狙うためには何かしらの武器が必要ですね」
「弾丸やプラズマが効かない相手だ。銃には頼れん」
「では……剣という事でよろしいでしょうか?」
「剣か。古典的な武器だが、まあいいだろう。少なくとも銃よりは信用できる」
「と言っても私は剣など持っていませんが」
「誰もお前に頼むとは言っていないさ」
「では、誰に頼むというのです?」
「…………」
旺伝はその美貌から女子にモテモテだった。それ故に他の男達から妬まれ、そして疎まれていた。友達と言える友達はほとんどいないので、彼の交流関係はめちゃくちゃだ。
「いないのですか。それは残念です」
「お前に頼めばきっと金が発生する。これ以上借金を増やすのは精神崩壊に繋がりかねん」
旺伝は会社員という立場が大がつく程嫌いだ。自由が奪われ、時間も無くなるので絶対に会社員にはなりたくないと昔から思っていた。ところが、こうして短期契約ながらも会社員として働いている事には相当の屈辱を感じている。
「そこまで言うのですか」
「そこまで言うんだよ。特にお前は、金に関しては全く信じられない」
「あらあら。私は詐欺師ではありませんよ」
見た目はヤクザの顧問弁護士のようで、どこからどうみても堅気の人間には見えないのだ。
「確かにそうかもしれないが、限りなく詐欺師に近いのは間違いない」
「お金に関して言えば、玖雅さんの言う通り私は少々ケチンボかもしれません。ですが、私は決して詐欺師ではありませんからね。信用して下さい」
トリプルディーの目は決意の炎で満ち溢れていた。
「本当に信用できるんだろうな」
「お任せください。玖雅さんに合う剣を探してさしあげますよ」
「お前の社長ネットワークだけは評価できるからな。その部分は信用が高いぞ」
「ありがとうございます。それでは、期待してお待ちください」
どちらが年上なのか会話だけ聞いている人は混乱してしまうだろう。それぐらいトリプルディー・ラストラッシュという男は物腰柔らかな好青年なのだ。




