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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯3 悪魔の血脈、覚醒
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 その後、クライノートの会社に戻ってきたラストラッシュと旺伝は社長室で紅茶を飲んでいた。ラストラッシュは巨大な窓の近くに立って外の景色を見ながら、そして旺伝も隣で景色を見ながら紅茶を飲んでいる。


「ここから見える景色は格別ですね」


「そうかな。俺には大自然をぶっ壊した狂人共の住家にしか見えないが」


 旺伝の家系は大自然を好んでいる。それも碩大山の様な偽りの自然ではなく、むしろ旧石器時代の嘘偽りない自然だ。魔法界は文化的にそういう大自然が残されているが、この世界ではその分化は無い。人間が快適に住めるように山や森は切り倒され、二人が今立っている巨大なビルが建設されるのだ。


「玖雅さんは理性よりも本能の意志が強いようですね」


「俺は中間だよ。いわば普通だ」


 そう、理性と本能の中間地点で生きている人間だと言うのだ。旺伝は。


「そうなのですか」


「俺の親父は理性的、弟は本能的、俺はその中間。何かの偶然だろうか」


「人それぞれ考え方は違うというだけですよ」


 そうだ。人それぞれ考え方が違うのは言うまでもない。ある人にとって重要な愛が他の人にとって重要な愛だと考えると、そうじゃないと分かるように。


「お前はどうなんだ。理性と本能、どっちを信じている?」


「今の私は理性が勝っています。が、やはり本能も捨てきれませんね」


「ようするに俺と一緒という事か」


「そういう事になりますね」


 ラストラッシュも中間だと言うのだ。


「それを踏まえて上で、この景色をどう思う?」


 旺伝は真面目な顔で尋ねていた。捻じ曲がってはいない純粋な問いである。


「ここから見える人間は蟻のように小さいですね」


「ああ。顔も見えないし、性別も判別できない」


「ここにいるとそう思えますが、私達があそこにいれば彼らと一緒です。黒い点でしかありません」


 そう、立場によって人は変わるというのだ。


「ああ。お前の言う通りだろうな」


「彼らのほとんどは働いているでしょう。我々のように」


「人は働かないといけない。憲法でそう決まっている」


 決まり事だから働いているという訳ではないが、少なくとも働かないと生きていけないという事実は旺伝は知っている。そして仕事で汗を流して金が生み出される事がどれだけ充実感に満ち溢れているかも。


 そう言う意味で、仕事は麻薬的なのだ。本当は辞めたいと思った事は何度もあるが働いて金が貰えるという行為があまりにも刺激的すぎて辞める事は出来ない。理屈ではないのだ。口では「仕事をやめたい」と言いながらも定年退職するまで会社で働き続ける者は大勢いる。だから仕事は麻薬と一緒である。


「私も働いています」


「だが、お前とあそこにいる連中は天と地ほどの差があるだろう」


 年収的な意味でだ。ラストラッシュは彼らの生涯年収を一か月で稼ぐ事が出来る。いわゆる勝ち組の部類に位置しているからだ。しかしラストラッシュは首を振っている。


「いいえ。彼らと私に違いなどありません」


「何故だ?」


「どんな偉大な事を成し遂げようが、それは一瞬でしかないからです。この一瞬はどんな人間にも平等に訪れます。例えば宝くじを当てたことも息を吸った事も、それは一瞬でしかありませんから」


 だから自分と彼らに大きな違いは無いというのだ。旺伝は確かにそうかもしれないと思った。


「俺達がこうして紅茶を飲んでいるのも一瞬でしかない」


「この一瞬を積み重ねる事は誰にでもできますからね」


「そうだな。お前の言う通りだ」


 旺伝はそう言いながら、紅茶を飲むのだった。




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