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こうして何だか腑に落ちない気分で寿司を食べている旺伝だったが、会話を進める事によって心の中に巣食うモヤモヤを消し去ろうとする。
「まさか本当に悪魔文字の翻訳に成功したとはな」
さしもの旺伝も驚きをかくせないようだ。あまりにも事が順調に進んでいるので、内心怖いぐらいである。
「ラファエル先生の知識力には眼福せざる終えませんね」
「その変わり性格は最悪だけどな」
ラファエルは最高の知識を持っているかもしれないが、それと同時に最低の性格の持ち主だ。老人のくせして声もバカみたいに大きいので、いつも怒っているのかと錯覚するぐらいの口調なのだ。そして本当に怒っているのだから救いようがないと旺伝は思っていた。これ以上、彼とは極力関わりになりたくないものである。
「しかし性格以外は完璧ですよ」
「まあな。それがまたムカつく要因だが」
そう。ラファエルは100歳を超える長寿にも関わらずフサフサの毛髪量を誇っている。しかもそれだけではなく顔立ちも整っていて、顔のシワがあっても昔は好青年としてモテモテだったことが容易に分かる。しかも旺伝とトリプルディーすらも度胆を抜くほどの高身長なのだ。恐らく、240センチ以上は確実にあるだろう。
「見た目も完璧、そして魔法は言わずもがな」
「あいつが最強の魔法使いっていうのは腹が立つぜ……コンチクショーが」
そう、ラファエルは誰もが認める最強の魔法使いだ。最強という言葉を簡単に使うのは嫌いな旺伝だが、それでも認めざる終えない。なぜなら彼がこの100年で成し遂げた偉業は数えきれないのだ。
「恐怖大帝と互角に戦えるのはラファエル先生ぐらいでしょうね」
恐怖大帝。人々は彼の事をそう呼ぶ。
「レウス・ヴァルダミンゴか。魔法界にいた時は嫌と言う程、奴の名前を聞いた」
「そうでしょうね。彼を称える宗教が存在するぐらいですから」
そう。恐怖大帝こそが唯一神だと考える宗教が魔法界にある。その宗教がかつて戦争を起こして魔法界を恐怖のどん底に陥れたのは有名な歴史だ。ちなみに戦争を止めた要因としてラファエルと旺伝の父親が強く関わっている。
「あまりの強さに信者が倍増したんだっけか?」
「そうですね。信者を増やす事に成功したで、あの忌々しい戦争を仕掛けました。恐怖大帝のせいで、どれだけの祓魔師が死んだのか……考えたくもありません」
優秀な祓魔師が不足しているのも、それが原因だ。戦争によって数多くの有望な祓魔師が亡くなり、今では実力者と呼ばれる者が少なくなっている。
「そうだな。昔は祓魔師がそこら中で活躍していて魔法界全土の平和を守っていた。それが今ではなんだ。民間の魔法使いに恢飢退治を託すようになっちまって……情けない」
旺伝はサーモンの寿司を頬張りながら愚痴をこぼしていた。
「玖雅さんは体が元に戻ったらどうするおつもりなのですか?」
「どうするって何がだよ」
「御父上の組織に入るかどうかという事です」
「それは考え中だ」
「そうでしょうね。父上が直属の上司になる可能性だってあるのですから」
「親父の直属の部下になるぐらい出世すれば金に困ることはないな」
旺伝はブドウジュースを口に含みながら、そうだと言うのだった。




