089
こうして、ようやく悪魔文字の翻訳に着手してくれたラファエルだ。二人は歓喜の渦に巻き込まれ、我慢の限界だった。と言っても翻訳が成功したという訳で喜んでいるのではない。あのラファエルが口喧嘩に負けて、完膚なきまでに言い負かされた事に歓喜しているのだ。
だからと言って、ここで万歳三唱をして喜ぶわけにはいかないので、二人は我慢しているという訳だ。
「ふむふむ……そうか。この書物は実に興味深い」
ラファエルは一人で納得しながら鼻息を出して頷いていた。これにはトリプルディーと旺伝も黙ってはいられない。
「なんだよ、俺達にも分かるように翻訳してくれって」
「私達は悪魔文字を読めませんので、貴方だけが頼りなのです」
まったくその通りだ。常人の人間ならば到底悪魔文字を理解する事が出来ない。そもそも難解過ぎて習得するのは不可能に近い。ラファエルも翻訳には成功するかもしれないが、きっと悪魔の言葉を口に出すのは出来ないだろう。
「要約すると、悪魔は進化が出来るらしい。其れも三段階に分かれているそうだ」
ラファエルは真面目な顔でそう言うのだ。進化が出来るのだと。
「進化って。まさか」
「其の通りだ。放っておけば悪魔は強くなる一方という事だ」
「これは朗報と言うべきなのでしょうか」
「どうだろうな……難しい線引きだ」
旺伝は悪魔に変身する事が出来る。そして今の旺伝は恐らく進化する段階の状態と仮定できる。なぜならば彼は悪魔固有の武器を持っておらず、空を飛ぶ事も出来ない。
「悪魔など、いつか根絶やしにしてやろうと思ったが、これは中々興味深いぞ。捕まえて研究材料にしてやるのも悪くは無い」
「で、それだけしか書いていないのか?」
旺伝は問いかけた。
「これ以上は読み進められない。恐らく、悪魔文字の中でも更に古来で使われている文字が使われている」
そう言って、ラファエルは書物を投げ渡して来た。旺伝は吃驚した様子で何とか受け取った時には、既にラファエルの姿が遠くに行っていた。一瞬呼び止めようと思ったが、これ以上は無理だと言われれば仕方がないと諦める旺伝だった。
「まさか……悪魔が進化するとは予想外でしたよ」
遠くに見えるラファエルを見つめながら、トリプルディーはそう言っていた。
「俺も全く同感だ」
「三段階という事は、幼虫からサナギになり、やがて成虫と化す蝶のような事でしょうか?」
彼は虫に例えていた。
「恐らく、そういう事だろうな」
「良かったじゃないですか。これで貴方も武器不足から解消されますね」
「何言ってんだ。相手もそれだけ強くなるって事じゃねえか」
「分かりませんよ。あの方は既に羽根が生えていましたから成虫なのかもしれません」
トリプルディーはそうだと言うのだった。




