087
長らく疑問に感じていた旺伝だったが、ついに彼の疑問が解決する時が来た。ゆっくりと暗い影が近づいてきたと思うと、次の瞬間には二人の目の前に一人の男が現れた。果たして、その男の正体とは。
「なんでい。そんな陰気な顔をして」
そう二人に声をかけてきたのは山父だった。そう、彼が山を下りてきてここまで来てくれたのだ。それはとてもありがたい事だったが、同時に拍子抜けしたかのように、旺伝の口からは溜め息が漏れる。
「なんだ……あんたかよ」
「ハハハハ、なんだとは失礼な奴だな!」
と言いながらも山父は笑い飛ばしている。もしもこれがラファエルだったなら、しつこくネチネチと嫌味を言われる事は確定だ。
「玖雅さんが知っている方だったでしょう?」
「確かにそうだが、もっとこう凄い奴が現れるかと思って期待してたんだが」
「ほう……もっと凄い存在ですか。山父様より凄い存在など、滅多にいないと思いますが」
そう、半ば伝説と化している碩大山の主がこの学園に降り立ったのだ。こんなにも珍しい事は無い。しかし旺伝はこれまでに有名人の類とバンバン顔見知りになった過去を持っているので、勝手にハードルが上がっていたのだ。
「まあいいさ。それより、なんで山父が助っ人なんだよ」
ここで旺伝は疑問を感じたので、トリプルディーに尋ねた。するとトリプルディーの口よりも先に山父の口が開いて言葉が飛び出してきたではないか。このように、聞こうとした者ではなく、それ以外の者から返答がくるのは珍しくない。そして嫌な気分もしないのも事実だ。
「聞いて驚くな。ワシはラファエルの野郎とマブダチなんだぜい!」
「ちょい待てよ。そいつは本当なのか!」
さすがの旺伝もこれには嬉し笑いを浮かべるしかない。確かにラファエルの友達とおというのなら説得の可能性も高まり、希望が見えてきたのだ。
「あたぼうよ。嘘なんてつかねえさ」
そう。嘘では無いと言うのだ。
「なんだよ、俺達にとっては好都合の何物でもないな!」
そう言いながら、旺伝は山父の肩をポンポンと叩き始める。まるで若い新入社員に期待する社長のように。
「そうですね。私も最初ラファエル先生とお知り合いだと聞いて驚きました」
トリプルディーですら驚いたというのだ。
「もう彼とは長い付き合いだ。それこそ百年以上も」
「という事は、奴の空白の時間も知っている?」
旺伝の青いサングラスがキラリと光る。
「そうだな。知っていると言えば知っているな」
「是非とも教えてもらいたい」
するとだ。扉が開いたと思うと、次々と各国の魔法学校校長が出てきた。それこそテレビで見たことがある面々が集結して、とてつもない魔力の圧を放っているのだ。そんな中でも、ひときわ魔力が棘を帯びている存在がいた。それこそがラファエル=ランドクイストそのものであり、彼は最後にお供の黒服と一緒に出てきたのだ。




