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ラファエルの話しが耐える事は無い。なんせ今までに受けた仕打ちがあまりにも酷いので、会話のネタには困らないのだ。しかもお互いが被害者なのだから胸に追う事は多い。
「今のラファエルが衰えたラファエルだと仮定すると黄金期なんて想像も出来ないな」
旺伝はそうだと考えるのだった。
「彼の黄金期は謎めいています。なので彼に纏わる逸話は数多い」
そう言って、唐突に語り始めたではないか。
「例えばどんな逸話だ」
「あまりにも強すぎるからリミッターが課せられているとか」
「そうなのか!」
あまりにも驚いた旺伝は目を丸くする。
「あくまでも噂ですよ。信用に値しません」
そう、噂だと言うのだ。トリプルディーは。
「怖い話だな。あれでリミッターがつけられていたら」
「リミッターを解除すればどうなるのでしょうね」
「さあな。だがこれだけは言える。手が付けられなくなると」
そこまでだと言うのだ。
「あそこまで謎な存在は滅多にありませんよ」
「そうだな。謎めいたお前ですら足元にも及ばない」
トリプルディーにも謎めいた事はある。だが、それはラファエルの比では無い。
「私に謎なんてありませんよ。今、目の前にいる私こそがトリプルディー・ラストラッシュですから」
「それは分かっているが、お前とは一度何処かであった覚えがあるからな」
「ほう。それは不思議な事ですね」
「そんな奇抜な格好をしている人間はそうもいない。絶対に記憶に残る」
「それは考え過ぎですよ。トリプルディー・ラストラッシュは私の他にいませんし、あった事はありません」
「この疑いも、ラファエルには及ばない」
「そうですね」
「奴は疑いそのものだからな」
半信半疑ではまだ足りない存在だと言うのだ。ラファエルは。
「この謎が解決される日は、果たしてくるのでしょうか」
「こうなったら明らかにして見せるさ。奴の過去を」
もはや恨みに近い。今まで受けてきた屈辱を、ラファエルの過去を解き明かす事で清算しようと言うのだ。
「それは名案ですね。私達ばかり不幸な目に遭うのは不公平ですし」
「決まりだな。どれだけ時間がかかろうが奴の真意を確かめなければ気が済まない」
「ですがまずは」
トリプルディーの表情が曇った。まだやらねばならない事が残っているといわんばかりの勢いで。
「分かってるさ。クロウと決着をつけてからだろ」
奴もまた旺伝の中で因縁の相手として、深く刻まれている。
「そのためにはラファエルさんの翻訳を待たなければいけません」
そうなのだ。悪魔文字とラファエルは切っても切れない関係にある。彼に翻訳という役割を担って貰えないといつまで経っても先に進まないのだから。その変は奴のさじ加減でもあるので、いつになったら翻訳するのか甚だ疑問に感じる旺伝だ。
「それで、本当に翻訳してくれるのか?」
何があってもラファエルの疑いが晴れる事は無い。もしも奴が明日から上機嫌に敬語で喋ってきても、それには必ず裏がある。そう自分に言い聞かせるのだ。
「大丈夫ですよ。強力な助っ人を用意していますからな」
トリプルディーは僅かに微笑む。
「ああ……ついさっき、そんな事言ってたな」
「ええ。言いましたとも」
まさに、言ったと言うのだ。
「まさか本当だったとは」
「私の言葉に偽りはありませんよ」
「で、誰が助っ人に来るんだ」
「それはまあ……来てのお楽しみですよ」
次にトリプルディーは本物の笑顔を見せた。常に笑顔を絶やさない彼らしい笑顔である。つい最近はラファエルと対峙する事で極度に緊張していたのか、ほとんど笑顔を見せなかった。しかしここでついに笑顔を披露した。これには旺伝もホッコリとした気持ちになった。
「そうか。それじゃあ楽しみにしておこう」
と、笑顔を返すのだ。
「一応ヒントだけ言っておくと、玖雅さんも良く知っている人物です」
「そうか……しかしそれだと全然絞れないな」
それから旺伝は、会議が終わるまで「うーん」と唸りながら考えにふけるのだった。




