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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯3 悪魔の血脈、覚醒
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077


 ついに来た。ラファエル=ランドクイストという権化の塊と出会う瞬間が。旺伝は憂鬱で眠ることが出来ずに、布団の中で一人寂しくゲームをして不安をまぎらわせていた。すると、いつの間にか外が白くなっているのに気が付き、時計を見ると朝の5時だという事が分かり、まったく寝ていない自分に罪悪感を感じた。それでも成長期の旺伝はどんなに寝不足だろうが食い意地が凄い事なのは言うまでもない。食堂に行き、何かを食べないとという謎の使命感が働くほど、今の旺伝は何かを食べたかった。


 すると、朝の5時だというに食堂には人がいた。普段ならば誰もいない時間帯なのに珍しい事もあるものだと近づいて行くと、そこにいたのはパジャマ姿のラストラッシュではないか。頭には帽子を被って、むにゃむにゃと寝ぼけ眼を擦って料理を待っているようだ。


「ぶっ!」


 あまりにも似合わない格好なので、我慢できずに吹きだしてしまう。そうなれば察知能力の高いトリプルディーは旺伝の存在に気が付いたようで、こちらに顔を向けていた。


「あらまあ、これはこれは随分と早起きですね」


 大あくびをしながら、声をかけてきた。


「そういうお前こそ、今日は仕事が休みの筈だろう?」


「どうも緊張して眠れないのですよ。だから気晴らしに何か食べようと思って」


「奇遇だな。俺もだ」


 旺伝は、ラストラッシュが座している二人席のもう一方の席に座り込んだ。そして店員さんを呼び出して朝の胃に優しい焼き魚定食を注文する。


「朝から焼き魚ですか。素晴らしいセンスですね」


 そう、褒め立てていた。


「そうだな」


 だがイマイチ乗り気になれない。朝起きたばかりでテンションが低いのもあるが、これから迫りくる災害にどう対処するかが重要なので料理どころの騒ぎではない。


「どうか致しましたか?」


「恐らく、今の俺はトリプルディー・ラストラッシュという男と同じことを考えている。これからやってくる恐怖にどう打ち勝つか、それだけで頭がいっぱいだ」


 思わず、頬杖をついてボッーとしてしまう程、現実逃避にも忙しくなる。


「いつから私の心を読めるようになったのですか」


「読んだ訳じゃない。感じたのさ」


 旺伝はそうだと言うのだった。


「成程、感じたのですか」


「ああ、感じたのさ」


 頭が全く回らないので、いつも以上におうむ返しが多い。両者共にだ。


「…………」


「…………」


「ここまでネガティブになったのは久しぶりだ」


「そうですね。口から出るのもマイナスな言葉ばかりですよ」


 寝不足の時は特にそうだ。どうしても、自分だけが不幸な存在で周りの人物が敵に思えてしまう。今の旺伝にはトリプルディーという仲間がいるが、もし彼抜きならば途方に暮れていたところだろう。そういう意味では運命力が良い方向に傾いているかもしれないと、微々たる前向きな言葉が脳裏に浮かぶ。だが、その言葉も一瞬で消し去ってしまう程、ラファエルという竜巻の存在は計り知れない。


「はあ……あのネチネチとした口調を再び聞く事になるとはな」


「想像もしていませんでしたね。あの方とは二度と会わないと決めたのですが、まさかこんな形で会う機会が巡ってこようとは」


「何を言われるか全く分からないのが更に辛い」


「二度と癒えぬ精神的傷を負わされる可能性だってありますからね」


「いくら縁起がいいからって、あの嫌味攻撃に耐えるのは自殺行為だって」


 そこまでだと言うのだ。ラファエルの口調は。


「あの我が儘な爺さんが少しでも柔らかくなっていると良いのですが」


 歳を重ねると、どうしても融通が効かなくなって我が儘な存在になってしまう。ラファエルが生まれた時からあの性格なのかは二人とも知らないが、少なくとも二人がラファエルと出会った時から彼は頑固ジジイとして学校の長として君臨していた。


「望み薄だが、それにかけるしかないよな」


 そして二人は顔を見合わせて、同時に溜め息を吐くのだった。




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