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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯3 悪魔の血脈、覚醒
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 会議が終わった。学歴の無いに等しい旺伝にとって内容はとても難解だったが、かいつまんで聞いていると何となくだが理解は出来た。難しい専門用語を使っているだけで、ようはどうやって商品をお客様に安値で提供できるかという議論のようだ。


 だが、この結論に至るまで旺伝のオンボロコンピューターはフル稼働し続け、結局空腹に繋がった。時刻は夜の22時30分を過ぎた頃。会議は3時間以上もあったという事で、すっかり旺伝はフラフラになって千鳥足になっていた。今なら、さっきの新入社員の気持ちがだいぶ分かると思いながら。


 すると。ポンと肩を叩かれたと思って振り返るとそこにはトリプルディーの姿があった。彼はニコリと微笑んでいる。


「お疲れ様でした。今日の仕事はこれで終了です」


「くそったれ……やっぱり正社員って奴は大嫌いだ」


 拘束されて、自分の好きな時間に食事が出来ない。それだけで旺伝はストレスの限界点を振り切っていた。


「今日は私が奢って差し上げますよ。夕飯をね」


「ほお、珍しいな。どういう風の吹き回しだ」


 さすがに旺伝も疑わざる終えない。なんせこの男は旺伝に借金を背負わせた張本人であり、しかも裏の職業が盗賊という始末だ。


「何も。そういう気分なだけです」


「よーし分かった。それなら御馳走になろう」


 こうして、旺伝とトリプルディーは食堂に向かった。エレベーターで下に降り、そこから少々歩いて食堂に辿り着くと、そこはあまり人がいなかった。無理もないだろう。一般職員は残業が許されず、18時までに仕事を終わらせる必要があるからだ。今の時間帯でここに食事をしているものは、深夜作業をせざる終えない社員、いわゆるライター達だ。


「さて、何を食べましょうかね」


 二人席に座って、メニューをペラペラと見始めた。


「スタミナがつく料理がいいな」


「それなら和牛サーロインは如何でしょうか?」


「それって高いだろうに」


 1500円だ。食事一回で1500円を使うのは旺伝にとっては痛すぎる。だが、目の前に居る男が世界でも有数な金持ちであることがスッカリ頭の中から消えていた。


「私は持ってますよ。お金ならばね」


「ああ、そうだったな。どうも頭が回らなくて忘れてたぜ」


「では、私はざるそばを頂きましょうか。今日も暑いですからね」


 会社の中はクーラーが効いていて快適だが、外は猛暑だ。だからこそ夏は冷たい物を食べるに限るのだ。


「それじゃ、注文するか」


 こうして、二人はそれぞれ和牛サーロインとざるそばをチョイスした後、それぞれの席に戻った。この注文を待つまでの空き時間、二人の間に流れている空気は前回寿司を一緒に食べた時と同じ空気感だ。なんでもいいから話題を振って喋らないといけないという強迫概念に似た何かを感じる。それをトリプルディーも感じているのかは定かではないが。


「それにしても明後日ですか」


「センコーに会う日だな」


「ええ。ここまで憂鬱な気持ちは久しぶりですよ」


 常に余裕な態度のトリプルディーだが、奴の事を考えるだけでテンションが落ち込んでいるようだ。そういう旺伝も同じ気持ちなのだが。


「本当に嫌だな」


「ええ。紛れもなく嫌という一文字が脳内に浮かびますね」


「でも、悪魔文字を解読するには奴の手を借りすしかない。それがたとえ不名誉な結果になろうとも可能性が0じゃない限り行動しなきゃだな」


 天秤に掛けると、どっちが大切なのかは一目瞭然だ。せっかく与えられたチャンスを無駄にする事は出来ないので、会わないという選択肢は論外である。


「そうですよ。行動こそが人を成長させますからね」


「これも成長の過程だと思って乗り切るしかないよな」


 だが、これだけポジティブに物事を考えても二人は溜め息を漏らすばかりだ。特に社長であるトリプルディーは本来なら冷静沈着で真面目な青年なのだが、この日ばかりは違う。まるで、ゴキブリを知らずに踏んでしまったかのような落ち込み具合なのだから。


「かといって、そう簡単には割り切れませんよ」


「そうだな。なんとかなるって思っても、実際になんとかなるって保証はないし」


「何を言われるかたまったものじゃありませんね」


 トリプルディーはそうだと言って、三度溜め息をするのだった。




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