007
こうして、二人は急遽ラストラッシュを連れて花火大会に参加する事となった。と言っても、肝心の花火大会までは時間があるので、三人は屋台を周ってみることにした。
「あー! リンゴ飴!!!」
一個五十円で売られているリンゴ飴を指差して友奈は言った。すると、ラストラッシュは興味津々な顔でリンゴ飴に近づいて行くのだった。
「これが噂のリンゴ飴ですか。インドにはありませんね」
「インド?」
旺伝は聞き返した。
「おや、言ってませんでしたか? 私の両親はインド出身です」
「初耳だな」
聞いた事が無いと言っている。
「へえ、インドにもイケメンさんはいるのですね」
「何を仰る。おだてても何も出ませんよ」
「で、てめえはリンゴ飴食べたいのか?」
リンゴ飴は箱入りで10個並んでいた。3人分のリンゴ飴は十分にある。
「そうですね。せっかくですからいただきましょうか」
ラストラッシュは中腰で座ったまま、笑みを浮かべて此方を見ていた。その顔
いかにも怪し気な雰囲気を醸し出していた。やはり、怪盗を名乗るだけあって悪人ののオーラはそれなりに感じ取れる。
「そうか。じゃ、俺も食うぜ」
「私も食べるう!」
そう言って、友奈は元気よく両手をフリフリと動かしていた。
「そうですか。なら、箱ごと買いましょうか」
ラストラッシュはとんでもない事を口走っていた。リンゴ飴10個入りの箱を買おうと言うのだ。
「ちょいちょい、そんなに食えねえだろ!」
「いいじゃないですか。お金は私が払いますよ。おばちゃん、いくらですか?」
旺伝の意見は無視して、屋台のおばちゃんに話しかけていた。
そして、財布から大量の札束を見せたのだ。
「ひっ!」
おばちゃんはビックリした様子で腰を抜かしていた。
「百万もあれば足りますか?」
そう言って、ひとくくりにまとめられた札束を屋台の上に置き、リンゴ飴の入った箱を持ち上げるラストラッシュだった。
「お、お、お、おかねがいっぱい!」
すると、おばちゃんは体をクルクルと回して気絶した。
「やはり、おばちゃんは面白い生き物ですね」
見ると、ラストラッシュは八重歯を剥き出しにして笑っていた。箱を持ったままその顔を此方に向けて。
「随分と金持ちだな。屋台のおばちゃんに百万円も渡すとか」
「有り難いことに、本職が儲かっていますからね」
「本職?」
ここで、友奈が二人の元に近寄ってきた。友奈はあまりの美貌に通りすがりの外国人に写真撮影を求められて、ラストラッシュの行動は見ていなかった。しかし、大量のリンゴ飴が入った箱を見て、たちまちヨダレを垂らすのだった。
「うわっ、美味しそう」
我慢できなくなったのか、友奈は箱に入ったままのリンゴ飴に口をつけてペロペロと舐め始める。
「箱で買ってみました。これでおかわりは十分足りるでしょう」
「はーい!」
元気よく、返事をする友奈。
「俺は一本でいいぞ。後はてめえらが食え」
旺伝はそう言って、箱から一本のリンゴ飴を取り出した。そして、接吻するかのように優しく唇にリンゴ飴を当てるのだった。
その瞬間、リンゴの濃密に凝縮された旨味と甘味が同時に伝わってきた。普段食べるリンゴとは全く違う味で、そして最高に美味しいのだ。
隣にいるラストラッシュも同じ意見の様だ。奴はリンゴの様に頬を紅くしている。
「これが……リンゴ飴の味ですか」
と、妙に透き通った声で言っていた。
「やっぱり旨いな祭りで食べるリンゴ飴は……。主催者のセンスを感じるぜ」
改めて、そう感じる旺伝だった。




