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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯3 悪魔の血脈、覚醒
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 謎大き人物とコンタクトを取るのは些か不穏な気持ちになるだろうが、これは仕方のないことだ。悪魔文字を翻訳できるのはラファエルしかおらず、この現状を打破するためには彼の協力が必要だった。惜しみない協力が。


 それでトリプルディーは彼のファックス番号を調べるために部下を数名派遣した。行先は勿論、奴が校長を務めている魔法学校である。あそこは半ばラファエルの住家同然であり、自分の家のように寛いでは、威張り散らしている。そういう意味では、とても亭主関白の男だ。


「後は部下の連絡を待つだけですね」


 休憩時間、二人は会話を交わしていた。いくら仕事が忙しい身分だと言っても必ず1時間休憩をとる事にしている。これは会社全体での取り組みであり、休憩せずに仕事をする者は逆に怒られている。労働基準とかそういう問題ではなく、あくまでトリプルディーの個人的な意味合いが含まれている。なぜなら、彼は元々虚弱体質なので最低でも1時間は休憩しないと、社長という激務をこなす事は出来ない。それ故に、部下たちにも『最低1時間は休憩しなさい』と教えているのだ。


 無論、これは第二秘書である玖雅旺伝も例外ではない。つねに社長と仕事を共にしているので、同じタイミングで休憩をとっていた。


 二人が今いるのは出張先のホテルだ。出張と言っても同じ東京都なのだが、なんせ今の第六世代東京都は昔の北海道以上の広さを誇る。なので場所によっては、東京都内を移動するだけでも飛行機はかかせない。だが、二人は同じ碩大区内で出張に出かけていた。もはや碩大区だけで戦前の東京都ぐらいの面積があるのだ。


「疲れましたね」


 開口一番がそれだ。それぐらい疲労困憊なのだろう。


「取引先との挨拶だけで何をへこたれてるんだか」


 旺伝は若さでカバーをしていた。と言っても、トリプルディーもまだ二十歳なので十分若いのだが。


「エレベーターが壊れているなんて予想外ですよ。しかも今日は朝から山登りしていたので、余計に足が痛かったのです」


 ビル50階相当を階段で上がった故の疲労感だった。


「しかし、せっかくの休憩なのにホテルに戻って飯を食うだけか。なんか観光とか行ったりしないのか?」


 それが現時点で旺伝の持っている疑問だった。外には様々な料理店や遊び場が設けられているのに、何故ホテルで缶詰めになって飯を食べなくてはいけないのか。旺伝は甚だ疑問であり、首を傾げるしかない。


 すると、トリプルディーが口を開いて以外な言葉を口にした。それは。


「私は世界トップ企業の社長ですよ。当然世界中の人に顔を知られています。そんな人物が白昼堂々と外には出歩けませんって」


 そう、有名人であるが故の悩みだったのだ。てっきり旺伝は「何か秘密があるのか」と深読みしていたのだが、あっさりと覆されて拍子抜けしてしまう。


「ちょい待てよ。そんな理由だったのか」


「そんな理由とは失礼ですね。貴方も世界中の方に自分の顔を知られていると想像してみなさいよ。私が外に出ただけで皆に迷惑がかかります。それに今はスーツ姿なので間違いなくバレますね。普段の格好なら不思議と問題はありませんが」


 そう、トリプルディーは仕事では常にスーツを着ていて、報道陣に私服姿を晒したことは一度だってない。それ故に世間の目は『トリプルディー・ラストラッシュ=スーツ』という概念が存在している。だからこそ私服姿のトリプルディーは世間から認識されないのかもしれない。


「世界中の人に顔を知られるか……良い意味なら嬉しいが、そうじゃなければ全然嬉しくないな」


 旺伝はそうだと言うのだった。


「有名人が普通になりたいと思う心理はそこにあると思います。もしも自分が不祥事を起こして悪い意味で世界中に顔を知られればエライ目に遭いますからね」


「有名人も大変なんだな」


「そうかもしれませね」



『君が代は』



 するとだ。不意にスマートフォンの着信音が鳴ったと思うと、トリプルディーがスマホをポケットから取り出して電話に出ていた。


「はい。ラストラッシュですが……ええ、はい。あ、そうですか……いやはや困りましたね。本当に困りましたよ。ええ、はい。分かりました。また随時報告があればお願いします……はい、そうですね、ええ。では、さようなら」


 と、トリプルディーはスマホの着信を切ったと思うと神妙な面持ちに変わっていた。さっきまでの笑顔は何処へやらだ。


「どうかしたのか?」


「派遣した部下達からでした。ラファエル先生は自宅に滅多に返らないそうです」


「ちょい待て。それじゃファックスを送っても見てもらえないぞ」


「そうなんですよ。まったく困りました」


 トリプルディーは本気で悩んでいるのだった。



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