065
ようやく旺伝とラストラッシュは碩大山の頂上に辿り着いた。今回は虫獲り少年の格好ではなく、普通のラフな格好だったので精神的には落ち着いていた。やはり前回の格好は旺伝にとってナンセンスの域を遥かに通り越しており、屈辱という二文字を背負って頂上まで登っていたようなものだ。なので、それに比べれば今回は幾分とマシである。
「お邪魔しマンモス」
旺伝はシャレたギャグを挟みながら、玄関の扉を開けた。だが、どこにも山父の姿は見当たらない。これはおかしいと旺伝は首を傾げる。
「いないぞ。山父のおっちゃん」
「山の草刈りにでも行っているかもしれませんね」
「こんな朝っぱらかよ」
旺伝は首にぶら下がっているアナログ時計を確認した。時刻はまだ5時40分という朝方も朝方だ。丁度太陽が昇って、お日様を浴びる頃なのに、もう山父は外出しているというのだ。
「山父様は朝の3時に起きて朝食を食べますからね」
「そんなバカな。朝の3時なんて俺はまだ本を読んでるぞ」
旺伝の休日は夜更かしという名の服を着ているぐらい、不健康そのものだった。朝の5時に就寝して、大体起きるのが14時と言ったところか。これでも以前に比べたら大分改善されているというアホみたいな話しなのだが。
「やはり、夜更かしはいけませんね」
「分かってるけどさ、やめられないのよ」
まるでどこかの御菓子のような事を口走ってしまった。ちなみに22世紀でも、そのお菓子は健在している。敢えて名前を出さないが。
「そんな、○っぱ○びせん的な例えを言って誤魔化さないでください」
だがだ。ラストラッシュは平気で言うのだった。
「それよりもさ。山父を探すのが先決じゃないか」
それが旺伝の答えだった。ここで論調を繰り広げるよりも、とっとと山父を捜して、書物の真相を解き明かした方がいいという。
「そうですね。では、この近くを散策しましょうか」
「と言っても、広すぎるから訳が分からんな」
頂上と言っても、広大な面積なのだ。辺り一面が木に覆われていて、まさしく森の中の一軒家と言ったところか。
「洞窟はどうでしょうか?」
「洞窟か。もしかしたら食料を保存しに行ってるかもしれないしな」
「きまりですね。洞窟に行ってみましょう」
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こうして、二人は近くの洞窟にまで歩を進めた。その付近は木が刈り取られていて、容易に進むことが出来る。すると、洞窟の中に人影が見えた。旺伝はよーく目を凝らして見て視ると、それはまぎれもなく山父の姿だった。美味しそうな生肉を洞窟の中に置こうとしている最中だった。
「山父様」
いちはやく、ラストラッシュが声をかける。
「おう。あんたらか!」
すると、山父はご機嫌な様子で笑みを浮かべていた。
「その肉はなんだ?」
気になった旺伝は開口一番に尋ねてみた。
「これはイノシシの肉だ。さっき狩猟してきたのさ」
自慢げな顔で、その大きな目をクリクリと輝かせている。
「へえ。すげえ旨そうな色だな」
綺麗な赤色なのだ。
「実際……これがもの凄く旨いんだぜ。お前さんたち、朝食がまだなら、素敵なイノシシ料理を味わってみたくないか?」
「いえ、結構です。それはまたの機会にお願いします」
ラストラッシュは低調に断った。
「そうかい。ていうか、あんたらここへ何しに来た? もう預言の話しは終わったじゃねえか」
「今回は山父様に見て貰いたい書物を持ってきました」
「ワシに見せたい書物だって? ハハッ! 可愛い姉ちゃんのグラビア雑誌なら大歓迎だぜ!」
やはり山父にも性欲はあるようだ。我々人間と同じように。
「残念ですが、そんな淫らな本は持ち合わせていません」
「なんでい。だったら何の本だよ」
「悪魔について書かれた本です」
ラストラッシュがそう言うと、山父の顔に笑みが無くなった。




