064
トリプルディー・ラストラッシュと玖雅旺伝の二人は足若丸魔法学校の敷地内にある碩大山に向かっていた。以前、学校の屋上に侵入した時はステルスヘリを使ったが、今回は正々堂々と校門から入って、頂上を目指す。
それにはある明確な理由が存在していた。旺伝がその理由を完全に把握したのは二度目の登山、所謂、今この瞬間だ。
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「そうか。何故、前回はヘリを使わなかったのか理由が分かったぞ」
「述べてください」
「山父はヘリコプターが苦手なのか」
「そういうことです。彼は科学的な類を嫌っていますからね、もしヘリコプターで頂上に行けば、たちまち撃ち落されますよ」
「どっかのゲームのヘリみたいにか」
「山父様は妖怪ですから魔法を使えます。普段はあまり使っていないそうですが、その魔法収容力は人間の比では無いとか」
魔法収容力とは魔法使いの強さを表す力だ。その値が多ければ多い程、使える魔法の幅が増える。
「さすが妖怪だな。いいセンスだ」
素直に褒め称える旺伝だ。
「ですが、魔法は便利ですからね。あまり山父様は使わないのですよ」
「確かに便利って言葉を嫌ってそうなタイプだな。アレは」
頑固ジジイだと言うのだ。
「便利を覚えればバチが当たるとでも思っているのでしょうか」
「真意はどうであれ、それは間違いだよな」
「確かに世間的には間違いですが、山父様的には正解でしょう。間違いと正解の線引きは案外難しいのですよ。これが正しいという答えは中々見つかりません」
さすが若くして代表取締役な事はると旺伝は感心した。
「へえ。ためになる言葉だな。誰の言葉だ?」
「誰でしょうね」
ラストラッシュはそう言いながら、疲れた表情で歩いていた。かれこれ40分近く山道を歩いているので虚弱体質のラストラッシュには堪えるようだ。かくゆう旺伝自身も足が痛くなってきている。さすがに休憩なしの歩きはキツイ。しかも今は早朝の4時30分頃なので、今日もまともに寝ていないのだ。
「くっそ……俺は体育会系じゃないぞ」
旺伝の家系は代々体育会の肉食男児が生まれるのだが、旺伝だけは違っていた。甘いマスクにモデルのようなスラッとした体形に余分な筋肉はなく、程よく体が鍛えられているだけで、決して体育会系ではない。
「お父さんは体育会系でしょう?」
「あれはどう見ても体育好きだろうな。聞かなくても分かる」
旺伝はそうだと言うのだ。分かるのだと。
「羨ましいですね。私共は部屋にこもってデスクワークがお似合いですよ」
「ちょい待て。俺はそんな仕事を続けるつもりはないぞ。絶対にこの正社員地獄から抜け出して、自由を得るんだ!」
旺伝は働くよりも自由な時間を欲しがるタイプだ。故に、そこまで金には執着していない。世間にはあまりいないタイプである。
「自由ですか。私は仕事をしている時が一番楽しいので、その気持ちは分かりませんね。暇な時なんて何をすればいいのか分かりません」
「だからそんなに身を粉にして働いているのか」
旺伝は憐みしか感じない。一生仕事の人生なんて人間的に終わっているからだ。
「働いている時しか、自分の存在価値を見いだせない愚かなインド人ですよ。私は」
疲れ切っているのか、口から出てくる言葉も自分を卑下する言葉が多くなっていた。人はどうしても疲労感を感じてしまうと、マイナスのオーラが出てしまう。それによって、出てくる言葉も重いのだ。
「誰かの迷惑にならないならいいだろう」
「まあ、そうですね」
「盗賊行為は別だがな」
それは人の迷惑になる。
「ですが、私は国から認められた公式的な盗賊ですからね。国単位を動かすような重要な書類等々も盗むことが出来ます」
「裏の仕事まで……どんだけ仕事好きなんだよ」
社長だけで目まぐるしく忙しいのに、それプラス盗賊の仕事までしているのだから驚きしかない。毎日睡眠時間2時間というのも納得だ。
「所詮、人間は働き蟻ですよ」
大企業の社長となり、大金持ちである筈のラストラッシュですら所詮働き蟻なのだと言う。だったら誰が女王蟻なのか……ここで疑問が湧いた。
「お前が働き蟻だったら、誰が女王蟻なんだよ」
「人間よりも上位の存在でしょう。何とは言いませんが」
「ああ、成程な。そういうことか」
旺伝はその答えで納得するのだった。




