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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯3 悪魔の血脈、覚醒
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063


 山父は未来が見える妖怪として、碩大山の頂上で悠々自適に暮らしている。理事長を除けば2番目の古手という半ば学園のマスコットとして有名だ。山ちゃん人形というグッズも学園内に売り出されていて、観光客などが買って帰る。見た目はしょうしょうグロテスクだが、それが女子人気の爆発の引き金となった。女子はグロが苦手という認識はあるがそれは大きな間違いだ。少々のグロならば、嫌いというよりはむしろ好感を持てる。


 その点で言えば、山父は少々のグロなので女子人気が高い。逆に男子から言わせれば「なんであんな奴人気なんだ?」と、たちまちクエスチョンマークを頭上に吹きだす。そもそも人間の好き嫌いは時代と感性によって違うので、人気の秘密というのは無いに等しいのだが。たとえば江戸時代に流行っていた漫画が今の時代で流行ると言われればそうではない。確実に時代違いである。


 妖怪人気は某アニメによる影響で、21世紀から爆発的に伸びて、今では実際に妖怪が人間達と暮らしているという未来にまで発展した。妖怪に嫌悪を示さなくなった人間と自然が減少して住む場所が無くなった妖怪との利害の一致だ。


「まさか、また山父と会う事になるとは。それにこんなにも早く」


 さすがの旺伝も信じられない様子である。


「あの方なら、知っているかもしれません」


「確かに妖怪は物知りだからな」


「本当に長生きしますからね。知識量も群を抜いているのでしょう」


 ラストラッシュはそうだと分析しているようだ。


「でも、こんな真夜中に尋ねるのはナンセンスじゃねえか?」


「そうですね。一旦寝ましょうか」


「そうだな。腹も減ってきたし飯食ってから寝よう」


「いいのですか? 胃の中にご飯がある状態で寝ると起きた時が辛いですよ」


 胃の消化がめまぐるしく、眠りの質が悪くなると言うのだ。


「平気平気、そんな軟な体じゃねえよ」


「それはなんとも羨ましいですね。私は虚弱体質ですから、夜寝る前にご飯を食べるなんて……貴方みたいな勇気ありませんよ」


 ラストラッシュは首を横に振っていた。細い体をしているので、なんとなくそんな気はしたが、どうやら彼は疲れやすい体質らしい。


「食べるのに勇気が必要なのか」


「辛い明日は迎えたくありませんからね。出来ればスッキリ起きたいですよ」


「もう慣れたさ。目覚めの辛さは」


 旺伝はそうだと言うのだった。慣れたのだと。


「まあ、強制はしませんが」


「それで、今の時間食堂は空いているのか?」


「勿論ですとも。24時間営業ですから」


「そのための人材を雇っているのか?」


「ええ。凄腕料理長を正社員として雇っていますよ」


 料理人はなにもみんながみんな自分の店を出している訳では無い。このように大手会社の食堂で働いている料理人もいるのだ。


「ロボットじゃないのか」


 時代は進むにつれて無人化が推奨されている。特にロボット技術が普及した今日では店員がロボットなんて珍しくない。と言ってもそれは金を持っている大企業に限るが。


「ロボットでは、あの繊細な味が出せませんからね」


 そう、料理人だけは重宝している。ロボットはマニュアル過ぎて、味の化学反応が全く見受けられないのだ。そしてあくまでも平凡な美味しさしかないので、あまり人気ではない。


「料理は芸術と同じだからな。無から有を作ることに関しては」


「その苦労は計り知れませんよ」


 何もない状態から、芸術品を作ろうと思ったら骨が折れる。頭の回転も重要であり、尚且つ腕が器用でなければ話にならない。それでいて人間性も試されるので試練の連続だ。そういう意味で、料理人は芸術家と似ている。


「昔、芸術家のオジサンと会話した事がある。その時に、『無から有を作るのは難しいが、有から有を作るのはもっと難しい』って聞いた覚えがある」


「それが料理人なのです」


 ラストラッシュはそうだと言うのだった。




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