057
約束の時間が迫っていた。旺伝とラストラッシュは昨日と同じように、操縦士にヘリを飛ばしてもらって足若丸魔法学校の屋上に目指していた。クロウとの血戦の時間は着々と近づいてくる。旺伝は逃れられないプレッシャーを払拭するかのように、窓から外の景色を眺めていた。こういう時は自然と口数が少なくなるのでどうしても黙ってしまうので、ラストラッシュが顔を覗かせて話しかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな」
緊張していた。悪魔との真剣勝負をするのだから変身は免れないだろう。生身の体で戦うのは負けを認めるようなものだ。生身と変身状態を比べれば天と地ほどの差がある。特に魔力発生装置である魔法収容力を失っている旺伝にはそうだ。
「この闘いに勝てば貴方の呪いを滅する方法が判明するかもしれません。ですから必ず勝ってくださいね」
「勝つさ。俺は」
「奴を制止させられるのは貴方しかいませんよ。東日本の悪魔は侮れないですからね」
戦闘力がズバ抜けて高いのだ。腕力もさることながら、人間の域を超えた素早さと跳躍力を誇っている。だからこそ旺伝の肩には重荷が背負っていた。
「ちょい待て。そこまで言うのかよ」
「ええ。西日本の運命は貴方に任せますよ」
「はあ……プレッシャーがまた増えた」
「随分と弱気ですね。それでは勝てませんよ」
「そうだな。俺もいっちょ弟みたいに本能を蹂躙させるか」
旺伝の弟はこの町では名の通ったヤンキーだ。その弟と同じように本能を開花させて、闘いに挑もうというのだ。
「その意気ですよ。この際、理性に縛られた考えはキッパリとやめなさい。向こうは野生の悪魔なのですから野生の勝負を仕掛けてみては?」
「なんだよ。野生の勝負って」
「勝つか負けるかの真剣勝負です。本気で闘ってください」
「無論だ。奴には本気を見せないと勝てない」
花火大会で闘った時のクロウは変身すらしていない状態で旺伝の攻撃を華麗に躱していた。もしもあれが変身状態になればとてつもない戦闘力を誇るのだろうと脳内で予測していた。それに。旺伝はその予測したスピードよりも速く動かなければ負けてしまう。
「では、そんな貴方に素敵な物を貸してあげましょう」
ラストラッシュはそういうと、後ろに設置されていた銃のオブジェクトのような物を取り外して、旺伝に渡した。その銃は何の変哲のない銃に見えたが、銃口部分がやたら神々しく光り輝いている。今にも何かが発射されそうな雰囲気を醸し出している。
「なんだこれは?」
片手サイズの銃を回して、全身のフォルムを確認した。旺伝の好きな青色の塗装が施されていて、右手にフィットするのだ。まるで、出会うべくして出会った運命の代物だった。
「我が社が開発したハードシップというハンドガンです。一見何の変哲も無いハンドガンに見えますが。連射速度の高いフルオート式を採用しています。引き金を引いたら最後、弾倉が空に出るまで発射し続けますよ」
所謂、マシンピストルの類らしい。マシンピストルは既存の自動拳銃にフルオートやバースト機能をつけ足した銃の事を言う。
「そいつはありがたいが、相手は生身で弾丸を躱す生き物だぞ」
「心配ご無用です。このハンドガンは破壊性の高い液状プラズマを発射しますので、着弾点に広範囲の爆発効果があります」
「液状プラズマを弾とするハンドガンか!」
旺伝に希望が見えてきた。これならクロウにも有効な手として使えると思ったからだ。
「はい。その威力はお墨付きですよ」
「さすが武器開発も得意とするクライノート社だな」
「液状プラズマを正式にハンドガンに搭載したのは我が社が初です。これで東日本の悪魔を倒したとなれば、それこそ莫大な宣伝効果になりますよ」
やはりラストラッシュは社長だ。宣伝を狙って旺伝にハードシップを渡したようだ。
「さっそく試し撃ちをしたくなった」
「それで思う存分暴れてください」
「ああ。勝機が垣間見えたぞ」
旺伝はそうだと言うのだった。
「ただし反動が強いのでお気を付け下さいね」
マシンピストルの連射性でプラズマが放出されるのだから、きっと桁違いの反動をするのだろう。
「わかった。こいつは奥の手としてしまっておくことにするよ」
そう言って、旺伝はスーツの下にハードシップを隠すのだった。




